ロシアにおける商標制度のまとめ-手続編
1. 出願に必要な書類
商標出願の要件は、民法第1492条および商標出願書類の要件により定められている。
商標出願には、出願人に関する情報、出願する商標、その説明、および、商標登録を目的とする商品およびサービスの国際分類(ニース分類)のクラスに従ってグループ化された、保護を求める商品またはサービスのリストが含まれなければならない。
外国出願人は、ロシア特許庁(ロスパテント、Rospatent)に対して登録された商標弁護士を代理人とする必要がある。出願書類と共に委任状を提出することは必須ではないが、出願の手続中に要求される。委任状は、出願人により発行され、権限を有する者の署名がその者の氏名および職位とともに必要である。公証や認証の必要はない。委任状は、出願後、ロシア特許庁の求めから3月以内に提出する必要がある。
従来の優先権(パリルート等)を主張する場合、最初の(第一国)出願の認証謄本を提出する必要がある。出願内容は、最初の出願のものと一致させる必要がある。最初の出願の認証謄本は、出願をロシア特許庁に提出した日から3月以内に提出する必要がある。
参考情報:
「商標出願書類の要件」(2020.11.23)
https://new.fips.ru/documents/npa-rf/prikazy-minekonomrazvitiya-rf/prikaz-ministerstva-ekonomicheskogo-razvitiya-rf-ot-20-iyulya-2015-g-482.php#II
関連記事:
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17685/
「ロシアにおける法制度・代理人・知的財産権情報等」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13865/
「ロシアにおける指定商品または役務に関わる留意事項」(2016.05.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/11152/
「ロシアにおける優先権主張の手続」(2020.12.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19645/
「ロシアにおける小売役務の保護の現状」(2018.06.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15358/
2. 登録できる商標/登録できない商標
2-1. 登録できる商標の種類
文字列、図形、文字列と図形の要素からなる複合標章、非伝統的標章(立体標章、におい標章、動き標章、位置標章、音標章、色標章、その他標章)は、商標として登録することができる。商標として登録可能な標章のリストは、網羅的ではない。
1-2. 登録できない商標の種類
ある事業者の商品または役務を他の事業者の商品または役務から識別することができないものは、商標として登録することができない。
1-3. 通常以外の商標の登録システム
民法には、団体商標や周知商標の登録についても規定されている。
団体商標とは、組合、事業者団体、事業関係者またはその他の任意事業団体の標章であって、その団体の構成員である者が生産しまたは販売する商品が、品質またはその他の特性において共通の特徴を有することを示すことが意図された標章と定義されている。
(民法第1510条および第1511条)
団体商標の出願には、商標の使用に関する規則を定めた団体商標憲章を添付する必要がある。規則には、商標をその名で登録する権利を有する団体の名称、および商標を使用する権利を有する企業のリスト、商標の登録目的、商品のリストとその共通特性(品質またはその他に関する)の説明、商標の使用条件、商標の使用が管理される原則、規則違反に対する制裁を示さなければならない。商標を使用する権利を有する企業の名称と、商標が登録された商品の共通特性に関する規則からの抜粋は、ロシア特許庁の公式公報に掲載される団体商標の登録公報に記載される。登録権者は、規則の改正についてロシア特許庁に通知しなければならない。
団体商標が共通の質的特性またはその他の共通特性を持たない商品に関して使用されている場合、利害関係者は知的財産権裁判所に団体商標の登録の全部または一部の取消を請求することができる。団体商標は第三者に譲渡または使用許諾することができない。
(民法第1514条第1項第2号)
団体商標および団体商標の登録出願は、それぞれ商標または商標出願に変更することができる。
(民法第1511条第4項)
ロシアでは周知商標が保護される。企業家または法人の要求により、無登録商標、登録商標またはその他の方法で保護されている商標として使用されている標識は、当該個人または法人の商品に関して消費者の関連部門で広く知られるようになった場合、ロシア連邦において周知であるとみなされる。ロシア特許庁によるしかるべき決定により、周知商標は周知商標リストに登録される。
(民法第1508条および第1509条)
関連記事:
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17685/
「ロシアにおける商標の識別力」(2014.04.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/5841/
「ロシアにおける商標制度」(2013.09.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/3758/
3. 出願の言語
出願の言語はロシア語でなければならない。
(民法第1492条第6項)
関連記事:
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
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4. グレースピリオド
商標について、特許法でいうようなグレースピリオドはない。
ただし、商標に関連して、優先権と商標の出願期限について議論することは可能である。まず、商標の優先権は、パリ条約の加盟国における最初の商標登録出願の最初の出願日から6月以内にロシア特許庁に出願した場合に認められる。
(民法第1495条第1項)
次に、パリ条約の加盟国のいずれか1つの領域内で開催された公式または公的に認められた国際的な展示会においてその商標が展示された日を基準とする商標の優先権が、その日から6月以内にロシア特許庁に商標出願をすることにより認められる。
(民法第1495条第2項)
関連記事:
「ロシアにおける優先権主張の手続」(2020.12.24)
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5. 審査
5-1. 実体審査
ロシアにおける実質的な審査は、申請された名称が登録可能要件に適合しているかどうかを確認するために行われる。商標出願は、絶対的もしくは相対的な理由のいずれかまたは絶対的もしくは相対的な理由の両方によって拒絶される可能性がある。
絶対的理由とは、出願された標章の実質に関わるもので、基本的には、識別力の欠如、誤認のリスクや混同の可能性、国家の表象や標識との類似または同一による混同、国際機関や政府間組織の名称のフルネームもしくは略称または表象の複製、ロシアや世界の文化遺産の最も価値が高いものの正式名称や画像の複製などが含まれる。
相対的な拒絶理由としては、以下のものがある。
・類似の商品、サービスに関して第三者が所有する先行商標(ロシアで登録または出願されたもの)との同一または混同する類似。
・ロシアにおける周知商標との同一または混同する類似。
・ロシアで保護されている第三者の工業デザイン、原産地呼称、会社名、商業表示との同一または混同する類似であって、混同する範囲のもの。
また、第三者が所有する著作物、名前、ペンネーム(またはその派生物)、写真、著名人の複製画像、第三者が所有する工業デザインはもちろん、保護された他人の差別化手段(および紛らわしい類似標識)についても、これを商標の要素として含む場合は保護されない。
出願の審査結果を決定する前に、審査結果の通知が出願人に送付され、通知に記載の理由に対する出願人の意見の提出が求められる。出願人への当該通知の発送後6月以内に提出された出願人の意見は、審査結果を決定する際に考慮される。
実質的な審査の後、審査官の決定が行われるが、その形式は、完全な登録決定、申請された商品区分の一部の登録決定(結果として、残りの部分の商品については拒絶)、申請された商品区分すべてに及ぶ拒絶査定となる。
(民法第1231.1条、第1473条および第1483条)
5-2. 早期審査(優先審査)
早期審査には、出願が45区分をカバーしていなくとも、これらすべての商標のサーチを揃える必要がある。ロシア特許庁の調査報告書(請求後2週間以内)を受領したら、早期審査請求書とともにロシア特許庁に提出しなければならない。請求書の提出後、数日間で審査結果が得られる。追加料金を支払わなければならない。
審査の早期化にはリスクがあり、第三者が条約により先行する優先権を伴う出願をした場合には、審査結果および登録査定が将来ロシア特許庁によって修正される可能性があり(民法第1499条第4項)、また先行する権利者は、公開日から5年以内に登録異議の申立てをすることができる(民法第1512条第2項第2号)。したがって、早期審査は、できるだけ早く登録を取得する必要がある場合にのみ推奨される。
5-3. 商標の類否判断の概要
審査により判明した出願商標と他の商標との類似性の評価は、商標登録のための提出書類の出願および審査に関する規則(ロシア連邦経済開発省、2015年7月20日命令第482号)の第42項から第45項に記載の基準に基づいて行われる。
それらの類似性の基準は、音声的、図形的、意味的である。
5-3-1. 音声的類似性
音声的類似性は、比較する称呼における近接音または同一音の存在、比較する称呼を構成する音の近接性、近接音および音の組み合わせの互いに対する位置、二重調音の存在およびその位置、比較する称呼の音節数、比較する称呼の二重調音の組み合わせの位置、母音の組み合わせの近接、子音の組み合わせの近接、比較称呼の併記部分の特徴、一方の称呼が他方に入るか否か、比較称呼におけるアクセントなどの基準に基づいて判定することができる。
5-3-2. 図形的類似性
図形的類似性は、一般的な視覚的印象、印刷の種類、文字の特性(大文字または小文字または大文字)、互いに対する文字の位置、比較された指定が表現されるアルファベット、色または色の組み合わせからみた比較された指定の図形的実行などの基準に基づいて決定される。
5-3-3. 意味的類似性
出願された商標と商標審査により判明した商標との意味的類似性は、比較された名称の観念の類似性(比較された名称の異なる言語での意味の類似性)、論理的に強調され独立した意味を有する比較された名称の要素の一つの類似性、比較された名称の観念を逆にしたものなどのいくつかの基準に基づいて判断される。
ロシア特許庁の審査官は、これらの観点と基準を組み合わせて、またはそれぞれを別々に検討する。
関連記事:
「ロシアの商標関連の法律、規則、審査基準等」(2019.04.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16891/
「ロシアにおける商標制度および原産地(地理的)表示の保護」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13862/
「ロシアの知財関連の審査基準へのアクセス方法」(2019.08.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17642/
「ロシアにおける商標出願の拒絶理由通知に対する対応策」(2020.04.16)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18451/
「ロシアにおける物品デザインの商標的保護」(2018.08.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15640/
「ロシアにおける商標の重要判例」(2018.09.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15851/
6. 出願から登録までのフローチャート
6-1. 商標出願の出願から登録までのフローチャート

6-2. フローチャートの簡単な説明
出願人が商標登録出願を行い(出願)、不受理の理由がなければ出願は受理され、ロシア特許庁から出願人に対し出願日および出願番号を記載した通知書が送付される。
出願受理後、出願に関する情報は、ロシア特許庁のウェブサイトの公報に掲載される。
https://new.fips.ru/publication-web/bulletins/UsrTM?lang=en
手数料の支払が確認される。
受理された出願に基づき、提出書類の審査(方式審査)および出願指定の審査(絶対的・相対的根拠による実質審査)が行われる。
方式審査または実体審査において、ロシア特許庁は申請者に対し、出願の審査に必要な追加情報または書類の提出を求めることができる。
方式審査の過程で、必要な情報および書類の入手可能性と、それらが定められた要件に適合しているかどうかが確認される。
方式審査の結果、次のいずれかの決定がなされる。(1) 申請を受理してさらに検討する(受理通知)、(2) 拒絶理由を明示して申請を受理しない(受理拒否)、(3) ロシア特許庁が要求した情報または書類を申請者が提出しない場合、申請を取り下げと認定する。
絶対的拒絶理由と相対的拒絶理由の審査は、方式審査の結果、さらに検討することが認められた出願について行われる。実体審査の過程で、商標の先後願が決定され、出願された商標が登録要件に適合しているかどうかが確認される。
実体審査の結果を決定する前に、出願された名称が登録要件に適合していない旨の意見を含む第三者の情報提供を受領した場合、これらの意見は審査中に考慮される。
商標登録の拒絶または商品リストに含まれる商品の一部についての商標登録の決定を行う前に、出願人に対し出願された指定の要件への適合に関する審査結果の通知(拒絶理由通知)が送付され、通知に示された理由に関して意見を述べるよう求められる。出願人の見解は、通知後6月以内に提出された場合、請求された指定の審査結を決定する際に考慮される。
審査の結果、商標の国家登録の決定(登録査定)またはその国家登録における拒絶の決定(全拒絶査定)が行われる。出願された指定が、商品リストに含まれる商品の一部についてのみ要件を満たすことが立証された場合、その商品の一部についての商標の国家登録に関する決定(部分登録査定)が行われる。
「ロシアにおける商標制度の運用実態」(2016.01.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10246/
[登録前の不服申立手続]
7. 拒絶査定不服審判
商標出願に関するロシア特許庁の査定に対して、出願人は対応する査定の日から4月以内に審判を請求することができる。
この期限は延長することができないが、出願人が期限内に審判請求できなかったことをについて正当な理由を説明できる場合、かつ、手数料が支払われた場合は、請求期限を延長できる。復活は、請求の期限を過ぎた日から6月以内である。
審判請求は、出願されたすべての商品・サービスに関わる拒絶査定(全部拒絶査定)に対しても、商品・サービスの一部に関わる拒絶査定(一部登録査定)に対しても、ロシア特許庁に提出することができる。さらに、出願人が、商標の特定要素の放棄を条件として請求された名称が登録されることを審判請求した場合に、審判が行われることがある。
審判の審理において、出願人は、商標出願に対する拒絶理由を解消できるものならば、出願を分割したり、補正したりすることができる。
関連記事:
「ロシアにおける商標制度および原産地(地理的)表示の保護」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13862/
8. 付与前の異議申立
法律では、付与前の異議申立手続きは規定されていない。しかし、商標出願の公開後(合理的に可能な限り早く)、何人もロシア特許庁に商標の登録可能性に関する意見を提出することができる。これは出願の審査で考慮されるが、提出者に手続上の権利はない。
9. 前記7.の判断に対する不服申立
審判請求を審理して出されたロシア特許庁の審決に対し、3月以内に知的財産権裁判所に出訴することができる。
仮にロシア特許庁の審決が覆された場合、知的財産権裁判所はロシア特許庁に審判請求の再審理または単に商標登録するよう義務付けることになる。
関連記事:
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17685/
[登録後の争いに関する手続]
10. 登録後の異議申立
存在しない。
11. 商標を無効にする制度
利害関係人は商標の登録に対する無効審判を請求することができる。請求理由が他人の商標または原産地表示との類似性に基づく場合は、商標登録に関する公告の日から5年以内に提訴しなければならない。その他の理由、例えば、周知商標との類似、絶対的拒絶理由(識別力の欠如、記述性、欺瞞性もしくは誤認の可能性等)または真の所有者の許可を得ずに代理人の名義で商標を違法登録した場合は、商標登録の存続期間中に無効審判を請求できる。
無効が認められると、商標登録は取消され、初めから登録がなかったものとされる。
無効審判の請求は、係争中の商標が登録された時点における法律の規定違反を根拠としなければならない。適用可能な複数の理由に基づいて、同時に無効審判を請求することもできる。
無効審判におけるロシア特許庁の審決については、3月以内に知的財産権裁判所に出訴可能である。
もしロシア特許庁の審決が覆された場合、知的財産権裁判所はロシア特許庁に対して、事案に応じて登録の回復または取消および/または無効審判の再審理を義務付ける。
(民法第1512条)
関連記事:
「ロシアにおける第三者による商標の不正登録に対する対応策」(2014.05.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/5939/
12. 商標の不使用取消制度
登録後3年間連続した不使用を理由として、商品区分の全部または一部の商標の保護を終了させることができる。ただし、請求の直前まで使用されていないことが条件となる。
(民法第1486条)
不使用取消訴訟は、知的財産権裁判所に提訴する。
商標権者は、その商標が適切に使用されていたことについて立証責任を負う。
商標は、商標権者またはそのライセンシーによって、商標登録されている商品および/またはその商品の包装に使用されていれば、適切に使用されていたとみなされる。また、「所有者の管理下にある」他の個人または団体によって使用されていた場合も、商標が使用されていたとみなされる。加えて、若干の変更が加えられた商標の使用も、商標の適正な使用とみなされる。
不使用が所有者の管理できない理由(不可抗力)により生じた事実に関する証拠が商標権者から提出された場合は、取消訴訟の審理における判断において考慮することができる。
(民法第1486条)
不使用に基づく取消訴訟を提起する当事者は、当該訴訟における利害関係を示さなければならない。現行の実務によれば、取消の利益は、申立対象の商標が他の係属中の商標の登録の障壁になっているという事実だけでは立証できない。不使用を理由に先行商標を取り消す出願人の利益を確認する追加書類(他の管轄地で登録されている事実や、ロシアでの商標の使用意思など)を知的財産権裁判所に提出する必要がある。
関連記事:
「ロシアにおける「商標の使用」と使用証拠」(2016.05.01)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11150/
「ロシアにおける商標の重要判例」(2018.09.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15851/
13. その他の制度
13-1. 国際登録
ロシア連邦における商標の保護は、マドリッドシステムに基づく国際商標出願によって得ることができる。
13-2. ユーラシア経済連合における商標保護の地域システム
2021年4月26日、ユーラシア経済連合(EAEU)の商標、サービスマークおよび原産地呼称に関する条約(関連情報参照)が発効した。
同条約では、特に以下のことが規定されている。
・EAEU商標という概念の導入。
・EAEU商標をEAEU加盟国の特許商標庁に1回出願し、その後EAEU加盟国すべてで同時に法的保護を受けることができること。
・出願人は1つの官庁としかやり取りをしない-ワンストップ原則。
・ユーラシア経済委員会の公式ウェブサイトに掲載されるEAEU商標の統一登録簿の維持。
関連記事:
「ロシアにおけるマドリッド協定議定書の基礎商標の同一性の認証と商品・役務に関する審査の在り方」(2017.05.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13673/
「ロシアの知的財産関連機関・サイト」(2020.06.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/link/18773/
「ロシアにおける法制度・代理人・知的財産権情報等」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13865/
「ロシア特許庁の組織と審査体制」(2018.04.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/14814/
「ロシアにおける商標制度の運用実態」(2016.01.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10246/
関連情報:
ユーラシア経済連合の商標、サービスマーク、および商品の原産地の表示に関する合意(Договор о товарных знаках, знаках обслуживания и наименованиях мест происхождения товаров Евразийского экономического союза)
https://docs.eaeunion.org/docs/en-us/01426627/itia_03022020
上記リンクが開けない場合、下記リンクに同じものが掲載されている。
http://www.eurasiancommission.org/ru/act/finpol/dobd/intelsobs/Documents/%D0%94%D0%9E%D0%93%D0%9E%D0%92%D0%9E%D0%A0%20%D0%BE%20%D1%82%D0%BE%D0%B2%D0%B0%D1%80%D0%BD%D1%8B%D1%85%20%D0%B7%D0%BD%D0%B0%D0%BA%D0%B0%D1%85%20%D0%95%D0%90%D0%AD%D0%A1.pdf
ロシアにおける商標制度のまとめ-実体編
1. 商標制度の特徴
ロシアにおける商標の法的保護は、民法第76章(第1473条~第1541条)およびロシア連邦が関係する後述の多国間国際協定によって規定されている。
ロシアにおける商標の保護(排他的権利)は、ロシア特許庁(ロスパテント、Rospatent)への商標登録によって得られる(民法第1479条)。
商標に関する民法の規定は、サービスマーク、すなわち、法人または個人事業主が行う仕事または提供するサービスを識別するために役立つ標章にも適用される(民法第1477条)。
ロシアは、以下の多国間国際協定に加盟している。
・工業所有権の保護に関するパリ条約
・標章の国際登録に関するマドリッド協定
・標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書
・標章の登録のための商品およびサービスの国際分類に関するニース協定
・オリンピック・シンボルの保護に関するナイロビ条約
・商標法条約
・商標法に関するシンガポール条約
・WTO TRIPS協定
商標権は、商標国家登録の日から発生し、ロシア特許庁が発行する登録証によって証明される(民法第1504条)。ロシア特許庁は、出願人が紙による証明書の発行を要求しない限り、電子証明書を発行する(2021年1月17日より発効:2020年7月20日付連邦法第217-FZ号)。
未登録の商標は、パリ条約第6条の2、および民法第1508条および第1509条に基づき周知商標として認識されない限り、権利は存在しない。
ロシアの商標登録制度には、以下のような特徴がある。
・多区分出願が許容される。
・国際商品・サービス分類(ニース分類)を用いて出願しなければならない。
・分類を指定しても、その分類に含まれるすべての商品またはサービスを自動的にカバーするわけではない。
・6月以内の最先の外国出願に基づく優先権主張が許容される。
・使用によって獲得された識別力が考慮される。
・出願商標も登録商標も分割することができる。
・商標の実際の使用または使用の意思についての登録要件は存在しない。
・ロシア連邦外に居住する出願人は、ロシア特許庁に正式に登録されたロシアの商標弁護士を代理人に任命しなければならない。
・商標登録は出願日から10年間有効であり、10年間ずつ何度でも更新することができる。
法人または事業活動を行う自然人(すなわち個人事業主)は、何人も商標出願を行うことができる(民法第1478条)。また、ロシア連邦における商標の保護は、マドリッドシステムに従った国際商標出願によって得ることもできる(民法第1479条)。
登録された商標の所有者は、その商標を使用する排他的権利を有する。また、その使用が混同のおそれがある場合には、同意なく取引の過程で、同一または類似の商標を第三者が使用するのを防ぐことができる(民法第1484条)。さらに、周知商標の所有者は、その使用がその商品またはサービスと周知商標の所有者との関係を示すことになり、その使用により周知商標の所有者の利益が害される可能性がある場合には、同意なく他の商品について同一または混同を生ずるほど類似した商標を第三者が使用するのを防ぐことができる(民法第1508条第2項、第3項)。ただし、商標権者またはその同意を得た者によりロシア国内市場またはユーラシア経済連合域内に流通されられた商品については、第三者による登録商標の使用を防ぐことはできない(民法第1487条、ユーラシア経済連合条約付属書26「知的財産権の保護と執行に関する議定書」第16項)。
商標権者は、譲渡契約またはライセンス契約によって、商標に対する排他的権利を譲渡することができる。譲渡は、商品またはその製造者に関して消費者を誤認させる可能性がある場合には、許可されない(民法第1488条および第1489条)。商標権者との契約によらない排他的権利の譲渡は、一般承継(相続、法人の再編)および権利者の財産に対する徴税執行を含む法廷事由に該当する場合に認められる(民法第1241条)。ライセンスの場合、ライセンシーは、ライセンサーの品質要求に対して、製造・販売する商品の品質適合性を保証しなければならない。ライセンサーは、この規定の遵守について管理権を行使する権利を有する。ライセンシーとライセンサーは、商品の製造業者として連帯責任を負う(民法第1489条)。商標権の譲渡およびライセンス供与は、ロシア特許庁への正式な登録が必要である。正式な登録の要件に従わない場合、譲渡またはライセンスは無効となる(民法第1490条)。
商標権侵害は、侵害の性質と重大性により、行政、民事、刑事責任を生じさせる可能性がる(民法第1515条)。
関連記事:
「ロシアの商標関連の法律、規則、審査基準等」(2019.04.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16891/
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17685/
「ロシアにおける商標制度」(2013.09.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/3758/
「ロシアの知的財産関連機関・サイト」(2020.06.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/link/18773/
「ロシアにおいて有効な指定商品・役務名の調べ方」(2019.08.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/17638/
「ロシアにおける指定商品または役務に関わる留意事項」(2016.05.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/11152/
「ロシアにおける優先権主張の手続」(2020.12.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19645/
「ロシアを指定した商標国際登録出願手続について」(2013.09.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/4198/
「ロシアにおける技術移転とライセンス」(2017.07.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/license/13920/
「ロシアにおける商標ライセンスの付与方法」(2018.12.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/license/16304/
「ロシアにおける商標のコンセント制度」(2017.02.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13207/
「ロシアにおける法制度・代理人・知的財産権情報等」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13865/
関連情報:
「連邦法第217-FZ号に署名」(2020年7月20日付)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/07/71f0e2c764099811.html
参考資料:
「ユーラシア経済連合条約(TREATY ON THE EURASIAN ECONOMIC UNION)」(2015.01.01発効)
https://www.wto.org/english/thewto_e/acc_e/kaz_e/wtacckaz85_leg_1.pdf
2. 登録できる商標
ロシアの法律では、以下の種類の商標が認められる(民法第1482条第1項)。
・文字または文字の組み合わせ
・イメージ
・立体標章
・その他の標章
・これらの組み合わせ
商標は、出願人の希望により、任意の色または色の組合せで登録することができる(民法第1482条第2項)。法律では、商標として法的に保護される対象のリストは限定されていない。音やアニメーションのマーク、ホログラム、位置のマークも登録できる。においの商標については、関連する法律や十分な実務が存在しない。対象が登録可能か否かの主たる基準は、商品またはサービスを識別する識別性およびその機能である。
商標は、以下の任意の標章である。
・法人や個人事業主の商品やサービスを表すことができる標章
・識別力がある(場合によっては識別力を獲得することができる)標章
・商品やサービスの説明でない標章
・欺瞞的でない標章
・絶対的な理由で保護から除外されていない(例えば、公共政策や道徳の原則に反していない、またはロシア連邦の国際条約により保護から除外された標章でない)標章
・他の当事者の先の排他的権利に抵触しない標章
関連記事:
「ロシアにおける商標出願制度概要」(2019.09.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17685/
「ロシアにおける物品デザインの商標的保護」(2018.08.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15640/
「ロシアにおける小売役務の保護の現状」(2018.06.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15358/
3. 商標を登録するための要件
法律には、商標出願を拒絶するさまざまな理由が規定されている(民法第1483条)。
標章は、識別力がない場合や、取引上一般的に使用されている要素のみからなる場合は、商標として登録できない。ただし、このような要素であっても、商標の主要部でない限り、非保護要素として商標に含めることができる。また、標章の使用によって獲得された識別力を考慮することがでる(民法第1483条第1項)。
国際条約に基づき、標章は、国章、国旗、その他の国家のシンボルおよび標章、国際政府間組織の略称または正式名称、それらの紋章、旗、その他のシンボルおよび標章、公式認証、品質証明、印章、賞、およびそれらと紛らわしいその他の記章または標章を表す要素のみからなる場合には商標として登録できない。これらの要素も、関係当局の同意があれば、商標の非保護要素として組み入れることができる(民法第1483条第2項)。
商品またはその製造者に関して虚偽または消費者を誤認させる、あるいは公共の利益、人道の原則、道徳に反する要素を含む標章は、登録が認められない(民法第1483条第3項)。
WTO加盟国の一つにおいて、ワインまたは蒸留酒がその領域を原産とし、特定の品質、評価、または主にその原産によって決定される他の特性を有することを識別する標章として保護されている要素を表すまたは含む標章は、登録が認められない(民法第1483条第5項)。
ロシア連邦で保護されている他の者の先行商標と同一または混同する標章、または類似の商品に関して登録申請されている標章は、商標として登録できない。類似の商品およびサービスに関して、前述の商標と紛らわしいほど類似した標章の登録は、先の商標の所有者の同意がある場合にのみ許可される(民法第1483条第6項)。
標章は、先の他人の著作権、先の個人的権利、先の工業デザイン、商号、コンプライアンスマークの権利に類似する場合は、商標として登録できない(民法1483条第8項および第9項)。
関連記事:
「ロシアの知財関連の審査基準へのアクセス方法」(2019.08.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17642/
「ロシアにおける商標出願の拒絶理由通知に対する対応策」(2020.04.16)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18451/
「ロシアにおける商標制度および原産地(地理的)表示の保護」(2017.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/13862/
4. 商標権の存続期間
商標の排他的権利は、特許庁への出願日から10年間有効である。商標の排他的権利の存続期間は、商標の存続期間の最後の年に提出された権利者の求めに応じて10年間、毎回延長することができる。
商標の存続期間が満了した場合でも、権利者は6月の「猶予」期間を有し、「罰金」および更新料を支払うことにより商標を復活させることができる。
商標の更新は無制限に可能である(民法第1491条)。
以下の場合、商標の保護は終了する(民法1514条第1項)。
・団体商標について、共通の品質またはその他の一般的特性を有しない商品への商標の使用により、知的財産権裁判所が終了を命じた場合
・登録後継続して3年間商標が使用されておらず、利害関係者の申立てにより知的財産権裁判所が終了を命じた場合
・権利者が清算(法人の場合)または事業活動の終了(自然人の場合)により事業を終了する場合
・権利者が商標の独占権を放棄した場合
・商標が特定の商品の示すものとして一般的に使用される表示となり、利害関係者の申立てに基づきロシア特許庁が終了を命じた場合
参考資料:
・工業所有権の保護に関するパリ条約
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/paris/patent/index.html
・標章の国際登録に関するマドリッド協定
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/madrid/ma/index.html
・標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/madrid/mp/index.html
・標章の登録のための商品およびサービスの国際分類に関するニース協定
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/nice_agreement.pdf
・オリンピック・シンボルの保護に関するナイロビ条約
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/nairobi-olympic_symbol.pdf
・商標法条約
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/tlt-shouhyou94.pdf
・商標法に関するシンガポール条約
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000070125.pdf
・WTO TRIPS協定
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/trips/index.html
ロシアにおける商標および著作権侵害行為に関する国境措置と税関
「模倣対策マニュアル ロシア編」(2016年3月、日本貿易振興機構)第2章第6節
(目次)
第2章 知的財産権の行使
第6節 商標及び著作権侵害行為に関するロシアによる国境措置と税関 P.135
(1) ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア及びキルギスのユーラシア経済連合における知的財産権のための国境措置の概要 P.135
(a) 国境措置の一般的状況 P.135
(b) ロシアにおける国境措置の特徴 P.135
(c) 並行輸入品 P.136
(d) 実例 P.137
(2) ロシア税関の組織 P.137
(3) 税関の知的財産権保護の職務 P.139
(4) ロシア税関規則の条項 P.139
(5) 行政違反法の条項 P.139
(6) 知的財産権侵害商品の押収に必要な書類 P.139
(7) 税関における登録制度 P.142
(8) 税関における保証書及び/又は担保証書 P.143
(9) 権利者への情報開示 P.144
(10) 倉庫保管費用などの負担 P.144
(11) 税関との連絡及び情報提供 P.144
(12) 税関の押収の関連機関及び専門機関 P.145
(13) 近隣諸国からの模倣品阻止方法 P.145
(14) 税関における模倣品押収通告の実例 P.146
(15) 税関押収の抑止効果 P.147
参考資料
関税同盟関税基本法 P.170
税関規則 P.175
行政違反法 P.183
ロシアにおける著作権制度
「模倣対策マニュアル ロシア編」(2016年3月、日本貿易振興機構)第1章第5節
(目次)
第1章 ロシアにおける知的財産権の取得
第5節 著作権 P.63
(1) 著作権制度の概要 P.63
(2) 著作権局 P.64
(3) 著作権及び著作物の定義と意義 P.64
(4) 著作物の著作者と所有権 P.65
(a) 人格権 P.65
(b) 著作権を構成する権利の種類 P.65
(c) 著作権の期間(有効期間) P.66
(d) 著作権の譲渡と使用許諾 P.66
(e) 著作権の登録 P.67
(5) ユーラシア経済連合の著作権集中管理制度 P.67
参考資料
関税同盟関税基本法 P.170
税関規則 P.175
行政違反法 P.183
刑法 P.191
ロシアにおける商標制度および原産地(地理的)表示の保護
「模倣対策マニュアル ロシア編」(2016年3月、日本貿易振興機構)第1章第3節、第4節
(目次)
第1章 ロシアにおける知的財産権の取得
第3節 商標 P.46
(1) 商標制度の概要 P.46
(a) 管轄官庁及び担当官 P.46
(b) 最近5年間の統計データ P.46
(c) ロシア商標制度の特徴 P.48
(2) 出願人適格 P.49
(3) 登録要件 P.49
(a) 商標の定義及び登録可能な対象 P.49
(b) 商標の先願主義及び先使用 P.49
(c) 出願拒絶理由、相対的拒絶理由(1483条) P.50
(d) 絶対的拒絶理由等、登録できない対象 P.50
(4) 商標出願手続及び審判部 P.51
(a) 出願の方式審査 P.53
(b) 実体審査 P.53
(c) 登録に要する期間 P.53
(d) 出願手数料 P.53
(e) 出願の公開又は公告 P.54
(f) 登録前又は後の出願に対する不服申立て P.54
(g) 商標の審判 P.54
1) 出願に対する拒絶査定についての審判 P.54
2) 商標登録の取消し又は無効についての審判 P.55
3) 審決に対する不服申立てを扱う裁判所とその手続 P.55
(5) 商標権 P.55
(a) 商標権の基本的内容及び範囲 P.55
(b) 商標登録の存続期間、権利証書の発行及び期間の更新/延長 P.56
(c) 先使用者の権利をはじめとする登録商標に対する制限 P.56
(d) 登録商標の譲渡及び使用許諾 P.56
(e) 商標権と商号権の抵触 P.57
(6) 商標及び商品/役務の類似性に関する基準 P.57
(7) 商標の「使用」の定義 P.58
(8) 周知の商標 P.59
(9) ユーラシア経済連合の商標登録出願統一窓口 P.60
第4節 原産地表示(又は地理的表示) P.62