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香港における商標制度のまとめ-実体編

1. 商標制度の特徴

1-1. 商標の出願
 商標とは、ある事業者の商品またはサービスを他の事業者のものと区別することができ、かつ視覚的に表現可能な任意の標識と定義される。
(商標条例(第559章)第3条)

 出願は、使用意思に基づいて行うことができる。
 香港はICGS(商品サービス国際分類:ニース分類)を遵守しており、マルチクラス(多区分)出願が可能である。
 下記「2. 登録可能な商標」も参照されたい。

1-1-1. シリーズマーク(シリーズ商標)
 最大4つの商標をシリーズで出願することが可能である。商標は、その重要な特徴部分について互いに類似していなければならず、商標の同一性に実質的に影響を与えない識別力のない要素においてのみ異なっている必要がある。シリーズ商標の登録は、例えば、漫画のキャラクターやマスコットを異なるポーズや表現で演出する場合に特に有効である。ただし、単色の商標とそれに対応する色の商標をシリーズとして登録することは推奨されない。

 色彩が商標の重要な特徴である場合、シリーズ商標として出願せず、単独で出願することが望ましい。その理由は、単色の商標とそれに対応する着色された商標がシリーズで登録された場合には、単色の商標と着色された商標の唯一の違いは色ということとなり、色は商標の同一性に実質的に影響を与えない識別力のない要素とみなされてしまうからである。つまり、モノクロの商標と着色された商標のシリーズ商標は、シリーズで示された特定の色を保護するものではない。
(商標条例(第559章)第51条、商標規則(第559A章)第97条)

1-1-2. 条約による優先権の主張
 パリ条約加盟国またはWTO加盟国・地域において商標登録出願を行った出願人は、香港で同一の商品またはサービスの一部または全部について、同一の商標を登録する目的で、6月間の優先権を享受することができる。この6月の期間は、最先の出願日から起算される。

 また、(i)優先権基礎出願に基づく商品および/またはサービスの一部について優先権を部分主張する、(ii)香港出願について、その出願に基づく商品またはサービスの一部範囲で部分主張する、(iii)異なる商品やサービスに関する複数の優先権出願から個別の優先権を主張することもできる。
(商標条例(第559章)第41条、商標規則(第559A章)第9条)

1-1-3. 使用の証拠について
 フィリピンや米国などの一部の法域とは異なり、登録を完了するために実際の使用に関する証拠を提出する必要はない。しかしながら、出願が商品およびサービスの幅広いリストをカバーしている場合、登録機関は、商品およびサービスの長いリストについて出願商標を使用する真の意思の証拠の提示を求めることができる。使用意思が要求されるだけであるため、証拠は出願前の使用、香港での使用に限定されず、出願商標の使用にも限定されない。

 また、使用の証拠は、(i)出願商標が幅広い使用を通じて識別力や二次的意味を獲得したことを証明する絶対的拒絶理由、(ii)出願人が出願商標を誠実に同時使用したことを証明する相対的拒絶理由に対処する上でも有用である。この証拠は出願前かつ香港に関するものでなければならない。
(商標条例(第559章)第11条および第13条、商標規則(第559A章)第7条、香港知的財産局「分類に関する実務マニュアル(Classification)、Application for a whole class heading in many classes or for a wide range of goods or services in many classes」)

1-2. 審査・レビュー
1-2-1. 不備の確認(方式審査)
 審査は2段階に分かれている。実体審査の前に、まず登録官が所定の事前チェックを行う。特に、以下の情報は出願時に明記されなければならず、これら記載がない場合は出願日が繰り下げとなる。
a. 所定の出願書類
b. 出願人の氏名または名称および住所
c. 商標登録を求める商品または役務の説明書、および
d. 商標の表示
 登録官は、商品またはサービスの記述が曖昧すぎるなど、出願に対するその他の不備を指摘することもある。上記の必須情報以外の指令は、出願日に影響しない。すべての不備の解消後、出願が受理され、実体審査に進むこととなる。
(商標条例(第559章)第38条および第39条、商標規則(第559A章)第11条)

1-2-2. 実体審査
 実体審査において、登録官が指摘する一般的な拒絶理由は、絶対的拒絶理由と相対的拒絶理由の2つである。詳細は、後述の「3. 商標を登録するための要件」を参照されたい。
(商標条例(第559章)第11条および第12条)

1-3. 登録異議申立
 香港では、商標出願に対する付与前異議申立手続が設けられている。商標登録が認められると、香港知的財産権ジャーナル(http://www.ipd.gov.hk/eng/ip_journal.htm)に公告される。異議申立期間は、公告日から起算して3月である。この期間は、異議申立人が十分な理由を提供し、登録官の承認を得た場合は、1回だけ2月間延長することができる。提案された異議申立人が出願人に申立前通知を送付しているか、当事者が交渉中であれば、ほとんどの場合、登録機関はこの一回限りの期間延長要求を認める可能性が高い。

 3月の異議申立期間または2月の延長期間中に異議申立がなされなかった場合、異議申立手続が取り下げられた場合または異議申立が退けられた場合には、出願の正式登録が認められる。
 異議申立が開始され、出願人が所定の期間または延長された期間内に答弁書を提出しない場合、出願は放棄されたものとみなされる。
 通常、勝訴当事者は、合理的な弁護士費用を敗訴当事者に支払わせることができる。
(商標条例(第559章)第43条および第44条、第47条、商標規則(第559A章)第15条、第16条、第29条および30条)

関連記事:
「香港における商標の権利取得手続」(2021.09.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/20877/
「香港における商標出願制度概要」(2019.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17526/
「香港の知財関連の法令等へのアクセス方法」(2019.04.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/16910/
「香港の商標関連の法律、規則等」(2019.03.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16717/
「香港における商標異議申立制度」(2017.06.13)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13794/
「香港における『商標の使用』と使用証拠」(2016.05.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11222/
「香港における指定商品もしくは指定役務に関わる留意事項」(2016.05.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11154/

2. 登録できる商標

 登録できる商標は、以下のとおりである。

  • ある事業者の商品またはサービスを他の事業者のものと区別することができ、かつ視覚的に表現可能な任意の標識。
  • 言葉(個人名を含む)、表示、デザイン、文章(letters)、文字(characters)、数字、図形要素、色彩、音、匂い、商品またはその包装の形状、およびこれら標章の組み合わせ。
  • 団体商標、証明標章、防護標章を登録することができる。
    (商標条例(第559章)第3条、第60条から第62条まで、商標規則(第559A章)第99条から第101条まで)

関連記事:
「香港における商号の保護」(2021.07.01)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/20356/
「香港における商標出願制度概要」(2019.07.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17526/
「香港の知財関連の法令等へのアクセス方法」(2019.04.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/16910/
「香港の商標関連の法律、規則等」(2019.03.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16717/
「香港における英語あるいは中国語(公用語)以外の言語を含む商標出願」(2015.03.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8339/

3. 商標を登録するための要件

3-1. 絶対的拒絶理由
 拒絶理由には絶対的拒絶理由と相対的拒絶理由があり、絶対的拒絶理由は以下のとおりである。

  • 標識は、第3条(1)でいう商標の要件を満たす必要がある。
  • 標識は、絶対的拒絶理由に基づく以下の要件に反してはならない。
    a. 識別力を有さない商標。
    b. 商品または役務の種類、品質、数量、用途、価値、原産地、商品の生産もしくは役務の提供時期またはその他の特徴を表示するために、商取引または業務に資する標識のみからなる商標。
    c. 現在の言語または誠実かつ確立された取引慣行において通例となっている標識のみからなる商標。
    d. 以下のもののみからなる標識。
    ・商品それ自体の特質に由来する形状、
    ・技術的効果を得るために必要な商品の形状、または
    ・商品に実質的な価値を与える形状。
    e. 一般に認められた道徳規範に反する、または公衆を欺く可能性のある商標。
    f. 香港で法律の下、または法律により使用が禁止されている商標、または悪意を持って商標の登録出願が行われた商標。

3-2. 相対的拒絶理由
 相対的拒絶理由は以下のとおりである。

  • 標識は、相対的拒絶理由に基づく以下の要件に反してはならない。
    a. 申請者の商標が先の商標と同一であり、登録申請の対象となる商品またはサービスが、先の商標が保護されているものと同一であること。
    b. 申請者の商標が先の商標と同一であり、登録申請の対象となる商品またはサービスが、先の商標が保護されているものと類似しており、これらの商品またはサービスに関する商標の使用が公衆に混同を引き起こす可能性がある場合。
    c. 申請者の商標が先の商標と類似しており、登録申請の対象となる商品またはサービスが先の商標が保護されているものと同一または類似しており、それらの商品またはサービスに関連する商標の使用が公衆に混同を引き起こす可能性がある場合。
    d. 申請者の商標がパリ条約で保護されている先の周知商標と同一または類似しており、正当な理由なく後の商標を使用することは、先の周知商標の識別性や評判を不当に利用する、または害する可能性がある。
    (商標条例(第559章)第11条および第12条)

関連記事:
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4. 商標権の存続期間

 商標権の存続期間は以下のとおりである。

  • 商標登録は、商標の出願日である登録日から起算して10年間有効である(条約による優先権主張の有無に関わらない。)。すなわち、出願年月日の年に10年を加え、そこから1日を差し引くことを実質的に意味する。
  • 登録されると、出願日は登録日と名前が付け替えられ、出願が認められた日を実際の登録日と呼び、この日から不使用取消となるか否かを判断するための3年の期間が計算される。
  • その後、商標はさらに10年間ごとに更新できる。
    (商標条例(第559章)第48条から第50条および第52条)

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オーストラリア商標制度概要

【詳細】

 オーストラリアにおける商標の登録は、1995年商標法(連邦法)(「商標法」)および商標規則に準拠している。その他の関連法として、2010年競争・消費者法があり、とりわけ当該法の附則2のオーストラリア消費者法において、取引者は誤認や欺瞞を招く行為に関与してはならず、他の取引者の後援または承認を受けて提供および販売促進される役務の不実または虚偽表示を行ってはならないと規定されている。また、コモンローの国であるため、商標の所有者は、コモンロー上の詐称通用を根拠として訴訟を起こすことができる。

 

 商標の所有者は、オーストラリアにおいて最初に商標を使用する者または最初に商標出願する者のうち、いずれか早い方である。

 オーストラリアにおいて、商標の所有者でまたは事業体は、商標出願することができる。出願人は法的主体でなければならないため、屋号、パートナーシップまたは法人格のない信託の名義で出願することはできない。

 ペーパーによる商標出願には追加料金が課せられるため、電子的手段によりオーストラリア知的財産局に直接商標出願するのが一般的である。電子的手段による出願は、ほぼ即時にオーストラリア知的財産局のデータベースに公開され、一般閲覧が可能である。

 出願前に商標が使用されていなければならないという要件はない。一般的に出願行為が、当該商標の使用または使用意図を示しているとみなされる。

 外国の出願人が国内出願を提出するためには、オーストラリア国内に送達宛先を有していなければならない。

 オーストラリアは、マドリッドプロトコルの加盟国である。それゆえ外国の事業体または個人は、オーストラリアを指定国として国際出願することができる。国内出願と国際出願は、ほぼ同じ商標制度である。

 

 商標法は、オーストラリアにおいて商標として登録可能な標識の種類について広義の定義を示しており、下記または下記のあらゆる組合せが含まれる。

・あらゆる文字、言葉、名称、署名、数字、図案、ブランド、表題、ラベル、チケット、包装の外観、形状、色彩、音または匂い

 さらに商標法は、シリーズ商標、団体商標および証明商標の登録についても規定している。

 

 審査は通常、出願日から4‐5ヵ月以内に行われる。ただし、優先権主張を伴う出願の審査は、自動的に迅速に処理され、出願日から4週間以内に行われる。通常の出願でも審査を迅速化することはできるが、早期審査を正当化する理由がなければならず、出願人またはその代理人により早期審査を請求する宣言書を提出しなければならない。早期審査を請求する一般的な理由として、次のものが挙げられる。

(1)当該商標が第三者により侵害されている、もしくはそのおそれがある場合

(2)当該出願人が当該商標を付した商品の使用、広告もしくは製造に投資してきたため、投資のリスクを最小限に抑えるために、可能な限り早期の登録を要する場合

 

 オーストラリア商標出願(およびオーストラリアを指定国とする国際出願)は、絶対的および相対的拒絶理由に基づいて審査される。

 審査段階で拒絶理由通知が送達された場合、出願人は拒絶理由通知の日付から15ヵ月以内に、自己の出願が認可される状態にしなければならない。審査官は、提出されたあらゆる応答を考慮する期間として4週間を必要とするため、実務上、出願人は拒絶理由通知から14ヵ月以内に応答する必要がある。

 出願が認可される状態にするための期限は、延長料を支払えば6ヵ月まで延長することができる。3ヵ月を超える期限延長申請は、公告されなければならないため、実際には一度に3ヵ月を超えない範囲で延長が申請される。拒絶理由通知から21ヵ月を超える期限延長は、料金の納付に加え、出願が認可される状態にするための措置を要約した宣言書を提出することにより可能となる。延長理由は曖昧であってもよく、実際問題として費用はかかるが、合計で数年の延長を得ることが可能である。

 一定の状況下では、この認可期限を延長することもできる。その出願が係属中の先願もしくは満了した登録を引用され、または引用商標に対して不使用取消請求が提起されている場合には、延長が認められる。そのような場合、出願の審査は、かかる引用された先願、満了した登録または不使用取消請求について決定が下されるまで中断される。

 また、引例による拒絶理由を克服するために、出願人が善意の同時使用もしくは継続的な先使用の証拠を準備していること、または引用商標の所有者と同意書交渉を行っていることを根拠に、認可期限を6ヵ月にわたり延長することもできる。

 拒絶理由を克服できない場合、国内出願(「親出願」)の出願人は分割出願が可能である。分割出願は親出願と同じ出願日を与えられるが、指定商品を限定しなければならない。拒絶理由が一部の指定商品または役務のみに関係している場合、拒絶理由の対象となっていない指定商品または役務を分割出願に振り分けることにより、登録可能な状態にすることができる。別の選択肢として、出願人は1つの指定商品を除くすべての指定商品または役務に関する分割出願を提出することにより、拒絶理由に対処する時間を稼ぐことができる。1つの指定商品のみをカバーする親出願は、後に失効させる。分割出願は親出願と同じ拒絶理由通知に直面するが、出願人はその拒絶理由に対処する期間として、拒絶理由通知からさらに15ヵ月間の認可期限を与えられることになる。

 拒絶理由が克服されると、出願の登録が許可され、異議申立のために公告される。第三者は、異議申立期間として、登録許可日から2か月間を与えられる。

 異議申立が提出されなかった場合、または異議申立の防御に成功した場合、その出願は登録料の納付をもって登録される。