ベトナムにおけるインターネット上の著作権侵害
インターネットのユーザー数増加により、ベトナムにおいてもインターネット上の侵害問題が増加している。著作権および著作隣接権の侵害が特に拡大しており、違反行為はほぼすべての著作権対象物、特に音楽や映画、ソフトウェア、書籍について問題となっている。ストリーミングまたはダウンロードを行うウェブサイト、P2Pプラットフォーム、オンラインストレージまたはソーシャルネットワーキングサイト等を用いて、無許可のコンテンツを取得する無数の方法が提供されているためである。
ベトナムにおけるオンライン上の著作権侵害および著作隣接権侵害に関する概要を以下に示し、可能な救済策を考察する。
1.ベトナムにおけるインターネット上での著作権侵害
(1) インターネットユーザーの一次責任
インターネット上の著作権侵害の多くが、著作権所有者の同意なく無許可のコンテンツを直接アップロード、共有、ダウンロードする等、インターネットユーザーによって行われている。
2022年に改正された知財法では、著作権を財産権の一態様として「有線、無線、電子情報ネットワーク又はなんらかのその他の技術的な手段により公衆に著作物を放送し、伝達すること。公衆が実演の場所及び時間を決めることができる方式で著作物を提供することを含む。」と定義し、これを侵害することを著作権の侵害行為として規定した(知財法第20条第1項dd項、第28条第2項)。また、実演者の権利(知財法第29条)、録音・録画製作者の権利(第30条)においてインターネットによる頒布に関連した権利を定義し、これらを侵害することを著作隣接権の侵害行為として規定している(知財法第35条)。
ベトナムでは、著作権および著作隣接権を侵害するインターネットユーザーを取り締まる専門機関は設立されていない。したがって、行政、民事および刑事訴訟を通じて救済を受けることとなる。特にインターネットユーザーの所在を突き止めることが難しいため、これまでにベトナムでオンライン著作権侵害もしくは著作隣接権侵害を根拠として個人を相手取った訴訟が提起されたことはない。
(2) インターネットサービスプロバイダー等中間機関の責任
(a) 一次責任
著作権および著作隣接権を侵害する個別のインターネットユーザーを特定することは困難なため、著作権所有者は、一次侵害者としてウェブサイト運営者を訴える場合が多い。
インターネットユーザーに適用される法律規定は、オンラインで入手可能な無許可コンテンツの提供元となる個人および組織にも同様に適用される。
具体的な規制は、共同通達第07/2012/TTLT-BTTTT-BVHTTDL号(インターネットおよび通信ネットワークにおける著作権および著作隣接権の保護に関する中間サービス業者の責任を規定する2012年6月19日付の情報通信省(Ministry of Information and Communications : MoIC)と文化スポーツ観光省(Ministry of Culture, Sports and Tourism : MoCST)の共同通達)(以下、「2012年7月共同通達」という)であり、インターネットサービスプロバイダー等の中間機関が著作権および著作隣接権の侵害を理由とする一次責任を問われる場合を2012年7月共同通達第5条第5項で以下のように規定している。
・著作権所有者の許可なしに、コンテンツを利用できるオリジナルソースになりすますこと
・著作権所有者の許可なしに、任意の方法でデジタル情報を格納するコンテンツを修正またはコピーすること
・著作権および著作隣接権を保護するために著作権所有者が使用する有効な技術的対策を故意に迂回すること
・著作権および著作隣接権を侵害して生産されたデジタル情報を二次頒布ソースとして機能すること
これに加え2012年7月共同通達は、中間機関も管轄当局から要請された場合には、著作権および著作隣接権を侵害するデジタル情報を含むコンテンツを削除する義務を負っており、この義務を怠った場合、無許可コンテンツをオンラインで提供するオリジナルソースとみなされる、と規定している。
(b) 二次責任
ベトナムでは、2012年7月共同通達を通じ、インターネットサービスプロバイダーおよびその他の中間機関の二次責任に係る法制度の策定の検討が開始された。この規制は、インターネットサービスプロバイダーおよびその他の中間機関が「著作権および著作隣接権の侵害行為を防止するために、インターネットと通信ネットワークの中で提供されるか、保管されるか、送信される情報の検査、監督、処理のシステムを設置する」権利を有すると規定している。またインターネットサービスプロバイダーおよびその他の中間機関は「著作権および著作隣接権についての法律の条項に反するサービスを提供することを一方的に拒絶する」権利も与えられる。ただし、これは義務ではなく、つまり中間機関は、自らがサービスを提供する個人または組織によって引き起こされる侵害については責任を負わないため、管轄機関から通知を受けた状況で自主的に対応することを期待されているということである。
この点において、2022年に改正された知財法では、インターネットサービスプロバイダー等の通信事業者が著作権侵害責任を負う場合が明確に規定された(知財法第28条第8項、第35条第11項、第198b条第3項)。
通信事業者を「電気通信ネットワーク及びインターネットに電子情報を掲載し、公衆がそのネットワークで電子情報を利用することができるように、設備およびデータ通信回線を提供する者」と定義し(知財法第198b条第1項)、通信事業者が自らのサービス提供および利用に関して、電気通信ネットワークおよびインターネット上で著作権、著作隣接権を侵害する行為について責任を免除される場合を規定し(知財法第198b条第3項))、この責任免除の条件を満たしていないか、またはその一部のみを満たしている場合を侵害行為として規定した(知財法第28条第8項、第35条第11項)。改正後の知財法第198b条第3項の規定では、著作権、著作隣接権を侵害する行為について責任を免除される場合について、以下のとおり定めている。
3. 通信事業者は、次に掲げる場合において、自らのサービス提供及び利用に関して、電気通信ネットワーク及びインターネット上で著作権、隣接権を侵害する行為について責任を免除されるものとする。 a) 電子情報の通信のみを実施し、又は一定の電子情報にアクセスするルートのみを提供する場合。 b) 情報通信中にキャッシュサーバーで情報を蓄積するにあたり、情報通信の中継及び通信の効果を向上させる目的で自動的かつ暫定的に保存する場合。また、次に掲げる条件も適用されるものとする。 i. 技術的な理由で必要とされる場合のみに情報を変更すること。 ii. 電子情報の伝達及び利用に関する法令を遵守すること。 iii. 当該業界における周知の方式での電子情報の更新に関する法令を遵守すること。 iv. 一定の電子情報の利用に関するデータを収集するために、周知かつ一般的に用いられる技術を適法に利用することは妨げられない。 v. 一定の電子情報がその送信元で削除されたこと、又は送信元から当該情報にアクセスするルートが削除されたことを認識する場合に、当該の電子情報へのアクセス権を無効にすること。 c) サービス利用者の請求によってその者の電子情報を保存する場合、その情報が著作権又は隣接権を侵害することを知らず、知って以降、遅滞なくその情報を削除したこと、又はアクセス権を無効にした場合。 d) 政府が定める他の場合。 |
2.著作権侵害および著作隣接権侵害に対する救済策
注意が必要なのは、ベトナムの消費者をターゲットとしたインターネット上の侵害だけがベトナム法の適用対象になるということである。したがって、インターネット上の侵害に対する強制処分は、侵害ウェブサイトがベトナムの消費者をターゲットとしているか否かによって決まる。具体的には、ウェブサイトがベトナム語で書かれている等、ベトナムの消費者に向けて侵害コンテンツが提供されている等の場合である。
著作権者、ライセンシーまたは著作権管理機関は知財法第198条、第199条に従い、以下のようなインターネット上の侵害に対する法的措置をとることができる。
・侵害の中止、公の謝罪および損害賠償を求める書面の通知を侵害者に送付する
・行政処分
・民事訴訟
・刑事訴訟
現在でも、行政手続が迅速な処分のための最も一般的な方法である。MoCST傘下のベトナム著作権局は、国全体を通じて著作権および著作隣接権の管理と保護を管轄する主要行政機関である。2013年10月16日付政令第131/2013/ND-CP号(著作権および著作隣接権分野における行政制裁措置の基準となる2013年10月16日付政令第131/2013/ND-CP号、2013年12月15日に発効)において、著作権および著作隣接権の侵害に対する行政の制裁措置が規定されているが、この政令によれば、侵害の深刻さに応じてインターネットユーザーに対して警告または最高5億ベトナム・ドン(約25,000米国ドル)の罰金が科され、著作権侵害者は、最終的にインターネットから無許可の著作権コンテンツをすべて削除しなければならない。
インターネット上の侵害に対する強制執行処分にはまだ課題が残っている。主な課題は以下の通りである。
(i) インターネット上の侵害を取り扱う有効な手続の欠如
(ii) 証拠と実際の損害を提示する著作権所有者側の負担の重さ
(iii) 執行当局が伝統的に消極的なことによる、インターネット上の侵害事件についての経験不足
(iv)侵害ウェブサイトの巧妙化
我々の経験から、自分の身元を隠す個人によって運営されるウェブサイト、またはユーザーに登録やログインを求めることなく侵害コンテンツへのアクセスを提供するウェブサイトの存在が明らかになっている。そのために、ベトナム著作権局はますます処分を行うことに消極的になっている。
これまでに行政当局が取り扱った事件は、ほんの数件に過ぎない。2013年に「phim47.com」、「v1vn.com」および「pub.vn」の3つのベトナム映画ストリーミングウェブサイトが、MoCSTから侵害コンテンツをすべて撤去することを強制され、警告決定を受けた(Tuoitre News「ベトナムで蔓延する映画の著作権侵害」)。それ以外には、MoCSTの傘下に設立された、登録されたベトナムの歌手および作詞作曲家を代表する協会団体であるベトナムレコード産業協会(Recording Industry Association of Vietnam : RIAV)による苦情申立も何件かなされている。
他の事例として、ベトナムにホストコンピューターを有する、Phimmoiに関する事件がある。Phimmoiはベトナム語のストリーミングWebサイトで、米国の権利所有者が所有する多くのタイトルを含む、何千もの無許諾の映画やテレビシリーズを提供しているとされている。2019年8月に、権利所有者はサイトの運営者に対してベトナムの当局に刑事告訴を行い、当局はこのサイトの活動に対する公式調査を開始した。しかし、2020年6月、当局は、理由は不明であるが調査を中断した。権利所有者によると、ドメインphimmoi.netはその後当局によって閉鎖されたが、その取引のほとんどはphimmoizz.netに移行し、これは同じオペレーターによって運営されていると考えられている。新しいドメインは、ベトナムで最も人気のあるWebサイトの1つとなっている(米国通商代表部「模倣品と海賊版による悪意的市場に関する2020年レビュー」)。
情報技術分野においては、著作権者は、刑事訴訟を求めてハイテク警察(High-Tech Police)に苦情を申立てることができる。ハイテク警察はその侵害が社会に深刻な影響を及ぼす恐れがある場合にのみ事件の処理を受理するとされているが、ハイテク警察は、ソフトウェアの海賊行為が疑われる会社等に対しての強制捜索を定期的に実施している。
3.まとめ
ベトナムの知的財産保護については、以前より改善されてきたが、法整備が不十分であるというよりも法律の実施が徹底されていないために、まだ多くの課題が残っている。執行当局による処分が難しいため、著作権者は、ウェブサイト運営者に対して侵害コンテンツ撤去の自発的協力を要請する通知を送付するなど、自衛策を取ることが推奨される。
2022年の知財法の改正によって、インターネットサービスプロバイダーへの二次責任が明確にされたが、一層の対策の強化と徹底した指導が待ち望まれている。