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ベトナムにおけるインターネット上の著作権侵害

【詳細】

インターネットのユーザー数増加により、ベトナムにおいてもインターネット上の侵害問題が増加している。著作権および著作隣接権の侵害が特に拡大しており、違反行為はほぼすべての著作権対象物、特に音楽や映画、ソフトウェア、書籍について問題となっている。ストリーミングまたはダウンロードを行うウェブサイト、P2Pプラットフォーム、オンラインストレージまたはソーシャルネットワーキングサイト等を用いて、無許可のコンテンツを取得する無数の方法が提供されているためである。

 

ベトナムにおけるオンライン上の著作権侵害および著作隣接権侵害に関する概要を以下に示し、可能な救済策を考察する。

 

(1)ベトナムにおけるインターネット上での著作権侵害

ベトナムにおいては、旧来の著作権保護制度に基づいて著作権侵害を行ったインターネットユーザーの一次的な責任を追及できるのに対して、インターネットサービスプロバイダー等の二次責任を追及する制度が未だ確立しておらず、制度の確立が急務となっている。

 

(i)インターネットユーザーの一次責任

インターネット上の著作権侵害の多くが、著作権所有者の同意なく無許可のコンテンツを直接アップロード、共有、ダウンロードする等、インターネットユーザーによって行われている。

 

ベトナム知的財産法(以下、「知財法」とする。)第28条は、「著作物を、著作権所有者の許可なしに、写真複製し、制作し、流布させ、公表し、展示し、または放送ネットワークもしくはデジタル装置により公衆に通信すること」が著作権侵害にあたると定めている。

 

ベトナムでは、著作権および著作隣接権を侵害するインターネットユーザーを取り締まる専門機関は設立されていない。したがって、行政、民事および刑事訴訟を通じて救済を受けることとなる。特にインターネットユーザーの所在を突き止めることが難しいため、これまでにベトナムでオンライン著作権侵害もしくは著作隣接権侵害を根拠として個人を相手取った訴訟が提起されたことはない。

 

(ii)インターネットサービスプロバイダー等中間機関の責任

(a)一次責任

著作権および著作隣接権を侵害する個別のインターネットユーザーを特定することは困難なため、著作権所有者は、一次侵害者としてウェブサイト運営者を訴える場合が多い。

 

インターネットユーザーに適用される法律規定は、オンラインで入手可能な無許可コンテンツの提供元となる個人および組織にも同様に適用される。

 

具体的な規制は、共同通達第07/2012/TTLT-BTTTT-BVHTTDL号(インターネットおよび通信ネットワークにおける著作権および著作隣接権の保護に関する中間サービス業者の責任を規定する2012年6月19日付の情報通信省(Ministry of Information and Communications : MoIC)と文化スポーツ観光省(Ministry of Culture, Sports and Tourism : MoCST)の共同通達)(以下、「2012年7月共同通達」という)であり、インターネットサービスプロバイダー等の中間機関が著作権および著作隣接権の侵害を理由とする一次責任を問われる場合を以下のように規定している。

 

・著作権所有者の許可なしに、コンテンツを利用できるオリジナルソースになりすますこと

・著作権所有者の許可なしに、任意の方法でデジタル情報を格納するコンテンツを修正またはコピーすること

・著作権および著作隣接権を保護するために著作権所有者が使用する有効な技術的対策を故意に迂回すること

・著作権および著作隣接権を侵害して生産されたデジタル情報を二次頒布ソースとして機能すること

 

これに加え2012年7月共同通達は、中間機関も管轄当局から要請された場合には、著作権および著作隣接権を侵害するデジタル情報を含むコンテンツを削除する義務を負っており、この義務を怠った場合、無許可コンテンツをオンラインで提供するオリジナルソースとみなされる、と規定している。

 

(b)二次責任

ベトナムでは、2012年7月共同通達を通じ、インターネットサービスプロバイダーおよびその他の中間機関の二次責任に係る法制度の策定の検討が開始されている。この規制は、インターネットサービスプロバイダーおよびその他の中間機関が「著作権および著作隣接権の侵害行為を防止するために、インターネットと通信ネットワークの中で提供されるか、保管されるか、送信される情報の検査、監督、処理のシステムを設置する」権利を有すると規定している。またインターネットサービスプロバイダーおよびその他の中間機関は「著作権および著作隣接権についての法律の条項に反するサービスを提供することを一方的に拒絶する」権利も与えられる。ただし、これは義務ではなく、つまり中間機関は、自らがサービスを提供する個人または組織によって引き起こされる侵害については責任を負わないため、管轄機関から通知を受けた状況で自主的に対応することを期待されているということである。

 

(3)著作権侵害および著作隣接権侵害に対する救済策

注意が必要なのは、ベトナムの消費者をターゲットとしたインターネット上の侵害だけがベトナム法の適用対象になるということである。したがって、インターネット上の侵害に対する強制処分は、侵害ウェブサイトがベトナムの消費者をターゲットとしているか否かによって決まる。具体的には、ウェブサイトがベトナム語で書かれている等、ベトナムの消費者に向けて侵害コンテンツが提供されている等の場合である。

 

著作権者、ライセンシーまたは著作権管理機関は知財法に従い、以下のようなインターネット上の侵害に対する法的措置をとることができる。

 

・侵害の中止、公の謝罪および損害賠償を求める書面の通知を侵害者に送付する

・行政処分

・民事訴訟

・刑事訴訟

 

現在でも行政手続が、迅速な処分のための最も一般的な方法である。MoCST傘下のベトナム著作権局は、国全体を通じて著作権および著作隣接権の管理と保護を管轄する主要行政機関である。2013年10月16日付政令第131/2013/ND-CP 号(著作権および著作隣接権分野における行政制裁措置の基準となる2013年10月16日付政令第131/2013/ND-CP号、2013年12月15日に発効)において、著作権および著作隣接権の侵害に対する行政の制裁措置が規定されているが、この政令によれば、侵害の深刻さに応じてインターネットユーザーに対して警告または最高5億ベトナム・ドン(約25,000米国ドル)の罰金が科され、著作権侵害者は、最終的にインターネットから無許可の著作権コンテンツをすべて削除しなければならない。

 

インターネット上の侵害に対する強制執行処分にはまだ課題が残っている。主な課題は以下の通りである。

(i)インターネット上の侵害を取り扱う有効な手続きの欠如

(ii)証拠と実際の損害を提示する著作権所有者側の負担の重さ

(iii)執行当局が伝統的に消極的なため、インターネット上の侵害事件についての経験不足

(iv)侵害ウェブサイトの巧妙化

 

我々の経験から、自分の身元を隠す個人によって運営されるウェブサイト、またはユーザーに登録やログインを求めることなく侵害コンテンツへのアクセスを提供するウェブサイトの存在が明らかになっている。そのために、ベトナム著作権局はますます処分を行うことに消極的になっている。

 

これまでに行政当局が取り扱った事件は、ほんの数件に過ぎない。2013年に「phim47.com」、「v1vn.com」および「pub.vn」の3つのベトナム映画ストリーミングウェブサイトが、MoCSTから侵害コンテンツをすべて撤去することを強制され、警告決定を受けた(詳細はhttp://tuoitrenews.vn/lifestyle/11587/vn-reprimands-websites-violating-us-film-copyrightを参照)。MoCSTの傘下に設立された、それ以外には、登録されたベトナムの歌手および作詞作曲家を代表する協会団体であるベトナムレコード産業協会(Recording Industry Association of Vietnam : RIAV)による苦情申立も何件かなされている。

 

情報技術分野においては、著作権者は、刑事訴訟を求めてハイテク警察(High-Tech Police)に苦情を申し立てることができる。ハイテク警察はその侵害が社会に深刻な影響を及ぼす恐れがある場合にのみ事件の処理を受理するとされているが、ハイテク警察は、ソフトウェアの海賊行為が疑われる会社等に対しての強制捜索を定期的に実施している。

 

(4)まとめ

ベトナムの知的財産保護については、以前より改善されてきたが、法律が不十分であるというよりも法律の実施が徹底されていないために、まだ多くの課題が残っている。

 

執行当局による処分が難しいため、著作権者は、ウェブサイト運営者に対して侵害コンテンツ撤去の自発的協力を要請する通知を送付するなど、自衛策を取ることが推奨される。

 

ベトナムでは、インターネットサービスプロバイダーへの二次責任に門戸が開かれたが、一層の対策の強化と徹底した指導が待ち望まれている。