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ASEAN特許審査協力(ASPEC)プログラム

(1) ASPECプログラムの概要
 ASEAN特許審査協力(ASEAN Patent Examination Cooperation;以下「ASPEC」という。)プログラムは、ASEAN加盟国の特許庁間で特許調査および審査の結果を共有する制度であり、2009年6月15日に開始された。このプログラムの目的は、出願人がプログラム参加国で迅速に特許を取得することである。参加庁間で特許調査および審査の結果を共有し、特許調査および審査業務における重複した業務を削減することにより、審査に要する時間の短縮および労力を減らすことができる。また、対応出願の調査および審査結果を参照し、質の高い報告書の作成に役立てている。本稿作成時点(2024年7月)における本プログラムの参加国は、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイおよびベトナムの9か国である(特許審査に関するASEAN共通ガイドライン 14.1 Provisions governing or facilitating work-sharing)。
 特許調査および審査の結果を受領した参加国の特許庁は、参考資料として、これらの資料を考慮することができる。ただし、これらの結果を受け入れる義務があるわけではなく、その国の法律に従い、特許を付与するかどうかを決定する(特許審査に関するASEAN共通ガイドライン 14.3 ASPEC Work sharing)。
 本稿では、以下の3つのプログラムについて紹介する。

(i) ASPECプログラム
 2009年6月15日に開始された制度である。上述の参加9か国の特許庁間での特許調査および審査結果を共有し、出願人が本プログラム参加国で迅速に特許を取得することを目的としている。
 2021年6月15日から、タイを除く、本プログラム参加国内の第1特許庁(first Patent Office)で作成された意見書において少なくとも1つの請求項が許可されている場合、参加国内の第2特許庁(second Patent Office)はその意見書を利用することができる。

(ii) PCT-ASPECプログラム
 2019年8月27日に開始され、2025年8月26日まで実施が予定されている制度である。ASEAN国際調査機関(ISA)または予備審査機関(IPEA)が作成したPCT調査および審査報告書を利用し、本プログラム参加9か国において、PCT出願の国内移行段階での審査および許可を迅速に進めることができる。地域全体で年間100件まで受理される(特許審査に関するASEAN共通ガイドライン 14.1 Provisions governing or facilitating work-sharing、Singapore’s Input in Response to Circular C. 9141 (Part 1) https://www.wipo.int/export/sites/www/scp/en/meetings/session_35/comments_received/singapore-1.pdf)。

(iii) ASPEC Acceleration for Industry 4.0 Infrastructure and Manufacturing initiative (ASPEC-AIM)
 2019年8月27日に開始され、2025年8月26日まで実施が予定されている制度である。ASPEC-AIMは、フィンテック、サイバーセキュリティ、ロボティクスなどの第4次産業分野における特許出願に対してASPEC申請が行われた場合、当該特許出願は申請日から約6か月以内にファーストオフィスアクションを受けることができる制度である。地域全体で年間50件まで受理される(ASPEC文書提出ガイドライン 1.6 ASPEC Acceleration for Industry 4.0 Infrastructure and Manufacturing (ASPEC AIM)、Singapore’s Input in Response to Circular C. 9141 (Part 1) https://www.wipo.int/export/sites/www/scp/en/meetings/session_35/comments_received/singapore-1.pdf)。

(2) ASPECプログラム申請の要件
 ASPEC申請書が提出されたASEAN加盟国の特許庁(第2特許庁“second IP Office”)に行われた特許出願が、他のASEAN加盟国の特許庁(第1特許庁“first IP Office”)に行われた特許出願と「対応する特許出願」である必要がある。
 第2特許庁における特許出願は、以下の場合、第1特許庁における特許出願と「対応する特許出願」とされる。すなわち、第1特許庁における特許出願が、パリ条約の優先権により第2特許庁の特許出願とリンクする場合、もしくはその逆の場合、第1特許庁および第2特許庁における両特許出願が、パリ条約もしくは世界貿易機関の他の加盟国に対して同一の優先権を有する場合、または第1特許庁および第2特許庁における両特許出願が同一のPCT出願の国内移行段階である場合に「対応する特許出願」であるとされる(ASPEC文書提出ガイドライン 2.4)。

(3)手続
 ASPECプログラムを申請するためには、第2特許庁に対してASPEC申請書を提出する必要がある。なお、ASPEC申請書は、第1特許庁に対して提出することは要求されない(ASPEC文書提出ガイドライン 3.1)。

(a) ASPECプログラム
 ASPEC申請書には、次の2つの書類を添付しなければならない。1つ目の書類は、第1特許庁に対する出願についての見解書または審査レポートの写し(以下「最小限資料」という。)である。2つ目の書類は、添付された最小限資料で言及されている特許請求の範囲のコピーであって、第1特許庁によって特許許可の判断がなされた少なくとも1つの請求項を含む特許請求の範囲の写しである。出願人は、第1特許庁の見解書が複数ある場合、見解書を複数添付することができる。また、請求項の対応表を任意で添付することができる(ASPEC文書提出ガイドライン 3.1、3.2、3.3)。
 ASPEC申請書に見解書を添付する際、出願人は、監視機関(PT_acceleration@ipos.gov.sg)および「ASPEC文書提出ガイドライン 4.1」のリストに記載されている担当者に対して、(i)第1特許庁における出願番号、(ii)第2特許庁および第2特許庁における出願番号、(iii)ASPECプログラムの申請日、(iv)見解書、(v)出願人の情報をEメールで送信しなければならない(ASPEC文書提出ガイドライン 3.4、3.5)。
 
(b) PCT-ASPECプログラム
 ASPECプログラム申請書には、PCT-ASPECプログラムの申請である旨を明記し、次の2つの書類を添付しなければならない。1つ目の書類は、第1特許庁からのASEAN国際調査機関 (ISA)または、予備審査機関(IPEA)が作成した見解書、予備審査報告書の写しである。2つ目の書類は、特許許可の判断がなされた少なくとも1つの請求項を含む特許請求の範囲の写しである(ASPEC文書提出ガイドライン 3.6)。
 PCT-ASPECを申請する際、監視機関(PT_acceleration@ipos.gov.sg)および「ASPEC文書提出ガイドライン 4.1」のリストに挙げられている担当者に対して、(i)PCT出願番号、(ii)第2特許庁および第2特許庁における出願番号、(iii)PCT-ASPECプログラムの申請日、(iv)出願人の情報をEメールで送信しなければならない(ASPEC文書提出ガイドライン 3.7)。

(c) ASPEC-AIM
 ASPEC-AIMを申請するためには、第1特許庁において所定の国際特許分類が示されている必要がある(ASPEC文書提出ガイドライン 2.3)。
 ASPEC申請書には、当該申請がASPEC-AIMのための申請であることを明記する必要がある。ASPEC-AIMを申請する際、監視機関(PT_acceleration@ipos.gov.sg)および「ASPEC文書提出ガイドライン 4.1」のリストに記載されている担当者に対して(i)第1特許庁における出願番号、(ii)第2特許庁および第2特許庁における出願番号、(iii)ASPEC-AIMの申請日、(iv)見解書または審査報告書、(v)出願人の情報をEメールで送信しなければならない(ASPEC文書提出ガイドライン 3.4)。

 ASPEC申請にかかる上記書類の言語は、英語で作成する必要がある。このため、英語以外の言語で記載された最小限資料は、英語の翻訳文とともに添付しなければならない(ASPEC文書提出ガイドライン 3 Procedures for requesting ASPEC, ASPEC AIM & PCTASPEC)。ASPEC申請の手数料は、無料である(特許審査に関するASEAN共通ガイドライン 14.1 Provisions governing or facilitating work sharing)。