中南米 / 統計
ブラジルにおける工業意匠の登録手続に関する統計
2018年05月31日
■概要
2016年から過去15年間のブラジルにおける工業意匠(以下「意匠」という。)に関する統計を説明する。■詳細及び留意点
1.出願件数
図1 ブラジル意匠登録出願の件数推移
図1にブラジル意匠登録出願の件数推移を示す。ブラジルにおける意匠の出願件数は、減少している。2013年以降のブラジル経済の年平均成長率(CAGR)は-5.6%である。2013年は2000年以降で最多の出願件数となり、その後、減少傾向が示されている。これは、現在のブラジルの経済的および政治的な不安定性や、以下に示す未処理案件の問題などの影響と考えられる。
2.実体審査の請求件数
図2 実体審査請求の件数推移
図2にブラジル意匠登録出願に対する実体審査請求の件数推移を示す。特許の場合とは異なり、ブラジルでは意匠権の登録にあたり、実体審査は行われない。ブラジル産業財産庁(INPI)は出願の方式審査を行い、産業財産法第100条に定める登録制限(道徳および善良の風俗に反する意匠;意匠が使用される対象物の必然的な形状、通常もしくは一般的な形状;技術的または機能的な特徴によって本質的に形状が決定される対象物)に該当するか否かを確認する。これらの要件が満たされている場合、その出願は公開され、同時に意匠権が登録される。
意匠権者は、登録存続期間中に実体審査を請求することができる。実体審査の請求がされると、INPIは登録対象の新規性と独創性についての審査を行う。
図2に示されるとおり、審査請求の数が少ない。ブラジルにおいて意匠権を行使する際には、登録意匠の実体審査がなされ、登録性が確認されていることが実務上望ましいが、実際の意匠権の行使の事例は、意匠登録出願数のうち、わずかである。なお、2014年以前の意匠権に対する実体審査の請求件数は公表されておらず、実体審査の請求数が公表されているのは上記の2015年以降に限られる。
3.登録件数
図3 ブラジル意匠登録の件数推移
図3にブラジル意匠登録の件数推移を示す。図1の出願件数の推移において、2005年以降2013年まで増加傾向にあるのに対して、登録件数は、この期間、出願件数相応に増加しているとはいえない。これは、INPIが提出されたすべての意匠登録出願の登録処理をすることができなかったことを示しており、特に2013年が顕著である。この登録遅れは、庁係属出願数の増加を意味するが、2016年になって、登録遅れの問題を緩和するためこれまでより多くの意匠登録がなされたことを示している。
4.未処理出願
図4 意匠登録出願の庁係属年数
図4に意匠登録出願の庁係属年数を示す。上の各年に登録された意匠権が意匠登録出願から登録までINPIに係属していた年数を示す。この係属年数は、2005年以降増加し、2015年には2.08年までになったものの、上述のとおり、2016年に多くの意匠登録がなされたため、係属年数も減少した。
5.拒絶および審判請求
意匠登録出願の審査過程で、産業財産法第100条の登録制限に基づく拒絶理由通知、または方式要件の不備に関する通知に対して、出願人が応答しない、または、出願人の応答が不十分であると認められた場合、INPIはこれを理由に出願を拒絶することができる。出願の拒絶に対して、出願人はこれを不服とする審判請求を行うことができる。
図5 1990年以降に行われた審判請求の2016年時点の結果(請求合計1221件)
青: 認容
オレンジ:拒絶
グレー:係属中
図6 1990年以降に行われた審判請求のうち2016年時点で係属中の事件を除いた審判請求の結果
青:認容
オレンジ:拒絶
1990年以降、3701件の出願が拒絶されているが、出願人が不服審判を請求した件はそのうちの33%であった。その審判請求が行われた件について、図5に審判請求の状態を、図6に審決の出た件についての内訳を示す。図5に示されるとおり、76%の不服審判が未決定の状態で、審決の出された件は、24%についてであり、さらに、その内訳を見てみると、図6に示されるとおり、出願人の不服が認められた件は全体の審決の24%に過ぎない。
6.審判請求の係属年数
図7 不服審判の係属年数の推移
図7は、不服審判の係属年数の推移であり、係属年数とは、出願の拒絶が公開されてから審決が下されるまでの期間の決定年別の平均を表す。不服審判の係属年数も、2015年が最も長く、2015年に決定が行われた不服審判の係属年数の平均は4.43年であった。
■ソース
ブラジル産業財産庁(INPI)の公表情報に基づき集計■本文書の作成者
Daniel Legal & IP Strategy■協力
日本技術貿易株式会社■本文書の作成時期
2018.01.19