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インドにおける知的財産関連の注目判例

2015年03月31日

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■概要
インドにおける最近の知的財産関連の注目判例4件を紹介する。

(1)数多くの模倣品業者が集中する特定の市場に対する摘発事件において「ジョン・ドウ」(身元不明)の手法が適用された事例
(2)複数の法律に基づき1件の特許を攻撃することができない(一特許一訴訟)旨を最高裁が確認した事例
(3)意匠権侵害と詐称通用(パッシングオフ)に関して原告意匠と被告意匠の類似性に関して争われた事例
(4)特許法第3条(d)の「既知の効能の増大」ついて争われた事例
■詳細及び留意点

【詳細】

(1)サンディスク社、模倣品撲滅のために「身元不明の男ら」を提訴

 Sandisk Corporation(サンディスク社)は、デリーの日曜市の路上で模倣品を販売していた取引業者らに対し、商標権侵害および著作権侵害、パッシングオフ(詐称通用)の訴え、さらに売掛金引渡(rendition of accounts of profits)、損害賠償を求める訴訟を提訴した。サンディスクは、これらの業者の身元特定は不可能であるとして、「身元不明の男ら」を「ジョン・ドウ(John Does)」として当事者に掲げ、裁判所の命令を求めた。

 

 サンディスク社は、文字商標である「Sandisk」および「SanDisk」のロゴ、ならびに同社独特の包装について商標登録を請求した。長期にわたるマーケティング努力の結果、サンディスク社の商標はインド国内外で莫大なのれん(goodwill)および名声を得ている。

 

 サンディスク社は、身元不明者らが当初、同社が使用するものと同一の包装に「Sandisk」の社名および「SanDisk」ロゴを付した模倣製品の販売を行っていたと主張した。パッシングオフに基づく差止命令が発せられると、それらの身元不明者らはやり方を変え、ダリヤガンジの日曜市で仮設店舗を用意して模倣製品を販売した。サンディスク社は、ダリヤガンジの路上に露店が設営され、サンディスクのものと同一の包装で偽物のサンディスク社製microSDメモリーカードが販売されていたと主張した。販売業者らは商品を売っては差止命令を回避するために姿をくらます事業者で、身元の特定は不可能であった。サンディスク社は、「ジョン・ドウ」の慣習(提訴先の身元を特定しないで行う提訴)による裁判所の固有の権利による差し止めを求めた。

 

 「ジョン・ドウ」として名前も明らかにされず開示もされない被告らは、サンディスク社の商標およびロゴを付した模倣製品の製造、販売、販売申込み、宣伝広告および取り扱いを禁止され、さらにサンディスク社が使用するものと同一の製品包装、表装(get-up)、色彩設計、レイアウトおよび全体的な視覚的印象を利用することを禁止された。裁判所はさらに、3名の委員を選任してダリヤガンジの市場その他の場所にある当該被告らの仮設店舗を訪問させ、製品包装の有無を問わずサンディスク社の文字商標およびロゴマークを付した偽物のメモリーカードを押収させた。さらに、当該模倣製品を所持していた販売業者の詳細を記載したリストを作成させた。

 

 この判決は、数多くの模倣品業者が特定の市場に集中する本件に「ジョン・ドウ」の慣習を適用した判事の実務的なアプローチが際立っている。

 

(2)一特許一訴訟、かつ、重複審理の禁止

 Dr. Aloys Wobben and another Vs. Yogesh Mehra and others事件(2013年民事控訴第6718号)において、侵害訴訟で異議申立人または被告が特許に対する異議または無効申立のために制定法のいくつもの規定を利用することに関して最高裁判所が下した判決は、高く評価されてきた。最高裁判所は、何人も、法のいくつもの規定を利用して1つの特許を攻撃し続けることはできないとして、次の(i)~(iii)の重複審理の禁止に関するルールを示した。

 

(i)侵害訴訟の前に被告が特許法第64条(1)に基づきインド知的財産審判部(Intellectual Property Appellate Board : IPAB)に対し無効申立を行った場合、被告は、反対請求を行うことができない。

(ii)侵害訴訟において、被告が特許無効の反対請求を行う場合、被告はその後、特許法第64条(1)に基づきIPABに無効申立を行うことはできない。

(iii)特許法第25条(2)に基づき利害関係人が付与後異議申立を行った場合、この利害関係人は、特許法第64条(1)に基づきIPABに無効申立を行うこと、または侵害訴訟において被告として反対請求を行うことを禁止される。

 

(3)類似意匠による意匠権侵害

 Whirlpool India Ltd. v Videocon Industries Ltd.事件(2012年申立書第2269号)において、Whirlpool India Ltd.(ワールプール)は、意匠権侵害、パッシングオフ等に基づきVideocon Industries Ltd.(ビデオコン)を提訴した。

 

 ワールプールは、同社の洗濯機の形状・形態に係る意匠を登録した。ワールプールが登録した意匠は、片側が四角形状、反対側が丸形状をしており、特有の審美的特徴を有していた。ビデオコンは、ワールプールが登録したものと同一または類似の意匠、形状および形態を有する洗濯機の製造・販売を開始した。ビデオコンの洗濯機はワールプールの意匠に酷似しており、ビデオコンが登録意匠を侵害したことは明白であった。ワールプールは、意匠権侵害およびパッシングオフの訴訟を提起した。

 

 ビデオコンは、ワールプールの意匠はオリジナルのものではなく、50年以上にわたり市場に存在していると主張し、次のように述べた。ビデオコンの製品はワールプールが登録した意匠とは類似していない。ワールプールは、寸法および形状についてのみ意匠を登録し、他の点については言及しなかった。ビデオコンに対しいかなるパッシングオフの訴えも存在しない。ビデオコンはさらに、自社の意匠が現在登録出願中であり、よって、差し止めの対象となるいかなる論拠も証明されないと主張した。

 

 事実審裁判所は、ビデオコンの洗濯機はワールプールの登録意匠に類似しているとして、ビデオコンに対し原告の登録意匠に類似する洗濯機の取り扱いを禁止する差止命令を下した。ビデオコンは、この命令を不服としてムンバイ高等裁判所に控訴した。

 

 小法廷(Division Bench)は、ワールプールが登録した意匠は特有の舟形の外観を有しており、かつ、ビデオコンが販売する洗濯機にもこの形状が見られると判示し、次のように述べた。一定の装飾を施したり、ノブの位置を変更したり、色彩設計を追加したりしただけで、ビデオコンは原告の製品との違いを生じさせるほどの変更は行っていない。見た目のみで判断するテストにより、両製品が類似していることは明確に証明され、侵害の論拠は明らかである。

 

 裁判所はさらに、パッシングオフの訴訟係属のために、本人が積極的に虚偽表示を行っている必要はなく、ライバル社の洗濯機が類似しているのだから、パッシングオフの論拠は明らかであるとした。

 

(4)ギリアド社ソバルディ、不特許事由を定める特許法第3条(d)における、既知物質の新たな形態である医薬品における既知の効果の増大を示せず拒絶査定

 インド特許法第3条(d)において近年問題となっているのは、「既知の物質の新規な形態(form)」と定義されることで、化学物質の特許性が認められるかどうかの一つの要因である、「効能の増大(enlargement of known efficacy)」の扱いである。

 

インド特許法第3条(d) 発明でないもの

次に掲げるものは、本法の趣旨に該当する発明とはしない。

(d)既知の物質について新規な形態の単なる発見であって当該物質の既知の効能の増大にならないもの、または既知の物質の新規性もしくは新規用途の単なる発見、既知の方法、機械、もしくは装置の単なる用途の単なる発見。ただし、かかる既知の方法が新規な製品を作り出すことになるか、または少なくとも1つの新規な反応物を使用する場合は、この限りでない。

 

(説明)条文の適用上、既知物質の塩、エステル、エーテル、多形体、代謝物質、高純度、粒径、異性体、異性体混合物、錯体、組成物、及び他の誘導体は、効能に関する特性が、実質的に異ならない限り、同一物質とみなす。

 

 本件においてインド特許庁は、2015年1月13日付の最新の判断において、ソバルディとして販売されるC型肝炎治療薬の大型新薬ソホスブビルの重要な代謝産物を対象とするギリアド社の特許出願「修飾されたフッ化ヌクレオシド類似体」を拒絶した。

 

 本出願は2005年12月になされた。同出願の審査請求は2006年5月に提出され、2009年4月6日に審査報告書が発行された。出願人は2010年3月18日に回答書を提出した。特許庁はこの回答が不十分であるとして、4年後に第2回目の拒絶理由通知を発行し、2014年7月24日付の拒絶査定前に審査管理官(コントローラー)による審問(ヒアリング)を提案した。なお、審査管理官は、審査官(イグザミナー)の作成した審査報告書と出願人の審査報告書の対する回答とを基に、案件に対する決定を下す行政官である。

 

 審査管理官は、クレームされた発明は「既知の物質」の「誘導体」であるとして、出願人に対し、特許法第3条(d)に基づく拡大した効能を証明するよう求めた。出願人はこれを証明することができず、出願は拒絶された。

 

 上記審問前の審査の過程で審査官は、クレームされた化合物はすでに開示されている「クレームされた化合物の糖残基のフルオリン配向を変更した、構造的および機能的に類似する化合物」の誘導体であるとした。「たとえその化合物が新規性および進歩性を有している可能性があるとしても、特許法第3条(d)項の観点から、その新規性および進歩性を有する物質は効能に関して特性上の重大な差異を有していなければならない。」

 

 これに対し、出願人は、クレームされた化合物は既知の物質の新しい形態ではなく、特許法第3条(d)項の範囲に該当しないことを強調した。出願人はさらに、引用例と本発明の化合物の活性および低毒性に関する比較を行い、HCVに対する内因活性および細胞毒性の両方を含む本発明の生物学的特徴に関して提示されたデータが、構造的に最も近い化合物に対し、よりすぐれた、かつ、予期しなかった活性を示していると強調した。

 

 審査管理官は、出願人による議論に同意せず、次の所見を述べた。

(i)最も近い先行技術は、現在クレームされている化合物に構造的に近く、よって、同じ化合物である。さらに、「類似する化合物」と現在クレームされている化合物は、HCV感染およびフラビウイルス感染の治療において同じ用途を有している。

(ii)クレームされている化合物は、分子構造がわずかに異なるということで新規性を満たしているかもしれないが、この化合物が治療効果に関しては示しておらず、第3条(d)項に該当しない。

(iii)出願人は、効能に関する物性上の重要な差異を示すためには、治験等により治療効果に関するデータを示さなければならなかった。

 

 ギリアド社は、拒絶に対し審判請求する予定である。審判においては、「既知の効能の増大」の現行解釈について改めてテストが実施され、インド特許法第3条(d)のTRIPS協定準拠について、より厳しい議論が行われるだろう。

■本文書の作成者
Rouse & Co. International (India) Ltd Ranjan Narula
■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研
■本文書の作成時期
2015.02.10
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