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台湾における「通常知識」が発明の属する技術分野に存在するか否かの判断に関する判例

2015年03月31日

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■概要
台湾における特許出願の審査に際して、「通常知識」が発明の属する技術分野に存在するか否かは、具体的証拠により証明できる客観的事実であり、主観的にあるいは恣意的に判断してはならないとする判決が、知的財産裁判所により下された。この判決により、知的財産局が過度に「後知恵」に基づき特許出願を拒絶することが抑制されていくものと思われる。以下に、この判決とその分析を紹介する。
■詳細及び留意点

【詳細】

 本件は「スタック型チップパッケージ構造」についての特許に関する事件である。ある企業が、「スタック型チップパッケージ構造」についての特許を出願したところ、知的財産局の審査で進歩性なしと判断され拒絶査定が下された。出願人はこれを不服とし、経済部訴願審議委員会に対して不服を申し立てるも却下された。その後、知的財産裁判所へ行政訴訟を提起した結果、知的財産局による拒絶査定の処分取り消し、原告勝訴の判決が下された(台湾知的財産裁判所判決100年度行専訴字第71号)。

 

事件の概要

 係争特許は、Bステージ導電バンプ(第二図 参照番号250、以下は番号のみ記載)によるチップの電気的接続という技術方法を用いることによって、半導体をパッケージする時に部品が傷つくという課題を解決するというものである。請求項1の内容は次の通り:

 「基板(210)、第一チップ(220)、多数のワイヤボンディングリード(230)、第二チップ(240)および多数個のBステージ導電バンプを含むスタック型チップパッケージ構造であって、

 前記第一チップは、基板上に設けられ、第一チップの活性表面上には多数個の第一ボンディングパッド(222)を備え、

 第一ボンディングパッドは、前記ワイヤボンディングリードを介し前記基板と電気的に接続されており、

 前記第二チップは、前記第一チップ上に設けられ、第二チップの活性表面上には多数個の第二ボンディングパッド(242)を備え、

 前記第二チップに備えられた第二ボンディングパッドは、B ステージ導電バンプを介し前記第一チップ上の第一ボンディングパッドに電気的に接続され、

 対応するワイヤボンディングリードの一部分が各Bステージ導電バンプにより覆われるスタック型チップパッケージ構造」である。

台湾特許出願番号 94137762 公告番号 I375306 第二図(参照番号250:Bステージ導電バンプ)

台湾特許出願番号 94137762 公告番号 I375306 第二図(参照番号250:Bステージ導電バンプ)

 

 引用文献1、2は請求項1の技術特徴の一部分を開示しているが、「対応するワイヤボンディングリードの一部分が各Bステージ導電バンプにより覆われる」という技術特徴は開示していない。当該技術特徴は「パッケージ時に部品が傷つくという課題を解決する」という目的を達成するための主要な技術特徴である。よって、本件の争点は、発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が引用文献1、2を参酌することで、「対応するワイヤボンディングリードの一部分が各Bステージ導電バンプにより覆われる」という技術特徴を容易に完成することができたかどうか、という点にある。

 

知的財産局の見解

 知的財産局の見解は次の通り。

 

 「引用文献1は、基板、第一チップ、多数個の第一ボンディングパッド、多数のワイヤボンディングリード、多数個の第二ボンディングパッドおよび多数個の導電バンプ等の構成要素を開示し、さらに第一ボンディングパッドはワイヤボンディングリードを介し基板と電気的接続されていること、第二チップの第二ボンディングパッドは導電バンプを介し第一チップのボンディングパットへ電気的接続されていること、等の技術特徴を開示している。

 

 引用文献2は、Bステージ導電バンプによりチップと基板ボンディングパッドを電気的に接続するという技術を開示している。発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者は、引用文献1における導電バンプを引用文献2のBステージ導電バンプに置換することができる。したがって、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者は、引用文献1と引用文献2の技術を組み合わせることで、本発明の請求項1を容易に完成することができるため、本発明の請求項1は進歩性を有しない。」

 

知的財産裁判所の見解

 知的財産裁判所は知的財産局による拒絶査定の処分を取り消し、原告(すなわち出願人)勝訴という判決を下した。その理由は次の通り。

 

 「引用文献1が開示するスタック型チップパッケージ構造における導電バンプの材質は「錫鉛バンプ」または「金バンプ」であり、すなわち固体金属である。仮に導電バンプにより直接リードを覆ってしまうとリードが圧迫され、リード同士が接触しショートを起こしてしまうかリードが断裂してしまう。よって、従来のスタック型チップパッケージでは、導線が傷付きチップの質が悪化するのを避けるため、リードを直接導電バンプで覆うことはせず、別の場所にボーディングパッドを設けていた。

 

 一方、係争特許はBステージ導電バンプによるチップの電気的接続という技術方法を用いることによって、パッケージ時に部品が傷つくという課題を解決するというものである。引用文献1は「異方性導電フィルム」という技術方法によりリードが「高温酸化」するという問題を、引用文献2は「Bステージ高分子導電バンプ」という技術方法によりリードの「半田ボール(導電体粒子)レイアウト」という問題を解決する。

 

 係争特許と引用文献において、解決しようとする課題と目的は異なる。発明の属する技術の分野における当業者が、引用文献1と引用文献2により開示された技術内容を参照した後、Bステージ導電バンプによるチップの電気的接続という技術方法を用いることによってパッケージ時に部品が傷つくという上記課題を解決しようとした場合、両引用文献を組み合わせる教示および動機が欠如している。

 

 専利法第22条第4項の「それが属する技術分野の通常知識を有する者が出願前の従来技術に基づいて容易に完成できる場合、依然として特許を受けることができない」という規定における「通常知識」とは、発明の属する技術の分野において既知の一般知識を指し、従来の情報または普遍的に使用される情報および教科書もしくは辞典等に記載された情報、または経験法則から理解される事項を含む。

 

 一方、発明の属する技術分野における特殊知識は、発明の属する技術分野の通常知識を有する者が普遍的に有している知識ではなく、特許が進歩性を有するか否かの判断基準に援用してはならない。「通常知識」が発明の属する技術分野に存在するか否かは、具体的な証拠により証明できる客観事実であり、発明の属する技術分野の「当業者」は根拠のない主観的判断の基準ではない。

 

 一般的な知識情報が記載された教科書、辞典等を提出し通常知識の存在を証明する、または具体的証拠を提出し、特定の経験法則の存在を証明しなければならない。当事者は特定の通常知識を有するか否かという事実について争いがある場合、特定の通常知識の存在を主張する者がその立証責任を負う。特定の通常知識の存在を主張する者が発明の属する分野の技術者であるということのみを理由として、特定の通常知識を有するか否かを主観的あるいは恣意的に判断してはならない。

 

 係争特許請求項1が限定する「対応するワイヤボンディングリードの一部分が各Bステージ導電バンプにより覆われる」という技術特徴は、「パッケージ時に部品が傷つくという課題を解決する」という目的を達成するための主要な技術特徴であり、引用文献1または引用文献2で開示されていない。そして知的財産局は、当該技術特徴は発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易に完成できると単に見解を示すにとどまり、当該技術特徴は発明の属する分野における通常知識であるということを証明する具体的証拠も提出していない。にもかかわらず、知的財産局は、係争特許請求項1が進歩性を有しないと認定した。これは、客観的事実の証明をせずに主観的にあるいは恣意的な判断に基づくものであり、適切な判断ではない。」

 

本件に関する分析

 進歩性の判断は特許有効性の認定においてもっとも重要である。本判決は、知的財産局の進歩性判断が過度に主観的になりすぎていると指摘し、知的財産局の「特定の通常知識の存在」に対する立証責任を求めた。そして無効審判を提起する場合において、無効審判請求人も同様の立証責任を負うことになることを示している。

 

 また、進歩性判断における別のポイントは「従来技術を組み合わせる教示および動機が明らかであり容易に完成させることができるか否か」という点であるが、本件において知的財産局の見解は裁判所判決により訂正された。

 

 知的財産局作成の台湾専利審査基準では「従来技術を組み合わせる教示および動機が明らかであり容易に完成させることができるか否か」という点について、原則的に(1)技術分野の関連性、(2)解決しようとする課題の関連性、(3)機能または作用上の関連性、(4)関連先行技術の教示または提案、の4事項を総合的に考慮しなければならず、1事項を満たさないからといって従来技術を組み合わせる教示及び動機に欠けると判断してはならない、と明確に規定されている。

 

 知的財産局内部の実務検討会において、発明が解決しようとする課題および目的は従来技術を組合せる難易度についての判断のみに用いられ、従来技術と係争特許両者の解決しようとする課題と目的が異なっていても、進歩性判断において従来技術を組み合わせることはあり得る、と示されていた。

 

 しかし、本判決では、もし従来技術と係争特許両者の解決しようとする課題と目的が異なるのであれば、従来技術を組み合わせる教示および動機を欠くと判断しなければならないと示し、裁判所の判断基準と知的財産局の判断基準とには差があることが明確になった。過去、知的財産局による引用技術の組合せを容易とする判断が、過度になされているとたびたび批判されていたが、本判決が下された後、知的財産局が過度に「後知恵」に基づき特許出願を拒絶することがないよう、知的財産局に対し判断基準の見直しをせまる結果となった。

■ソース
・台湾専利法
・台湾専利審査基準
■本文書の作成者
維新国際専利法律事務所 黄 瑞賢
■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研
■本文書の作成時期
2014.12.30
■関連キーワード
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