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インドにおける並行輸入に関する判例

2015年03月30日

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■概要
インドのデリー高等裁判所での合議審は、並行輸入に係る商標権侵害事件において、インドは「国際消尽」の原則を採用しているとして、商標法は、登録権利者の同意なく物品をインドに輸入する行為、いわゆる並行輸入を禁止していないと判示した。一方、国際商標協会(International Trademark Association:INTA)は、その上告審である最高裁判所に、自らの意見を表明するアミカス・ブリーフ(法廷助言書)を提出し、並行輸入や商標権の消尽に関する考えを明らかにした。
■詳細及び留意点

【詳細】

事実概要

 Samsung Electronics Co. Ltd.(原告)は、インドでの小売を目的として韓国からSAMSUNG商標を付したプリンターを輸入したとされるKapil Wadhwa & others(被告)を相手取り、商標権侵害訴訟および詐称通用訴訟を提起した。さらに原告は、被告がこの並行輸入品の宣伝を目的として、原告ウェブサイトにリンク付けを行っていると主張した。

 

単独判事の判断

 デリー高等裁判所の単独判事は、2012年2月17日、登録権利者の同意なく輸入された物品はすべて、1999年商標法に基づく商標権侵害にあたると判示した(C.S. (OS). No.1155/2011)。これにより被告は、SAMSUNG商標を付したプリンター/カートリッジの輸入、輸出、販売、ならびにウェブサイト上における宣伝活動についてSAMSUNG商標の使用を禁止された。その直後の2012年5月8日、財務省中央物品税・関税局(Central Board of Excise and Customs:CBEC)は、1999年商標法は権利の「国際消尽」の原則を定めており、物品が真正品であり、大きく改変されていない限り、並行輸入は認められる旨の通達を発行した(F. No. 528/21039/08-Cus/ICD)。

 

合議審による判断

 被告は、デリー高等裁判所に合議での再審を申し立てた(FAO (OS) 93/2012)。合議審における争点は、商標法が国内消尽、国際消尽のいずれを定めているかである。合議審は、CBECの通達と同じく、インドは「国際消尽」の原則を採用しているとした。デリー高等裁判所の合議審では、単独判事の判決を破棄し、商標法は登録権利者の同意なく物品をインドに輸入する並行輸入を禁止していないと判示した。

 

 しかし、合議審は、被告による原告ウェブサイトへのリンクを禁止する命令を下した。さらに被告に対し、当該商品は並行輸入品であり、原告による保証およびアフターサービスが一切提供されないことを、明示するよう命じた。原告は最高裁判所に上告した。

 

 最高裁判所での争点は、商標法が国際的消尽を定めているとするデリー高等裁判所の解釈が正しいか否かである。この点について、国際商標協会(International Trademark Association:INTA)は、最高裁判所に自らの意見を表明するアミカス・ブリーフ(法廷助言書)を提出した。<INTAが提出したアミカス・ブリーフ- http://www.inta.org/INTABulletin/Documents/India%20PI%20Case%20FINAL.pdf>

 

INTAによるアミカス・ブリーフの概要

・ある国における商標の使用は、自動的にすべての国で権利を与えるものではなく、国内消尽の原則が適用されるべきである。適用される法原則は、権利の創出についても、権利の消尽についても同じでなければならない。

 

・ある国で安価に商品を購入し、その後、他国で商標権者による販売価格よりも安価に販売することは、「市場調査、商品開発、ブランド育成、アフターサービス、および流通網に投資してきた商標権者とそのフランチャイズ/ライセンシー/子会社に回復不可能な損害をもたらす」。並行輸入品の存在によって研究開発投資へのリターンが損なわれることにより、その投資が縮小することは避けられない。

 

・並行輸入品は適切な品質管理を受けないため、並行輸入は商標権者とそのフランチャイズに損害を与えるだけでなく、当該商標と品質に対する消費者の信頼も損ない、消費者の不満を生じさせる恐れがある。

 

・商品の機能や品質は国や地域によって異なる場合が多い。一つの仕様が各国市場に全て適合するものではなく、納品の遅れにより、その品質低下をもたらす可能性がある。一貫した品質管理の欠如により消費者に潜在的な損害を与える例としては、輸入国ではカスタマーセンターの番号が通じないこと、輸入国の当局による認可がないこと、文化や気候に沿ったレシピ/味/調製の違い、および環境保護基準の違いなどが挙げられる。

 

・並行輸入品は正規輸入品のパッケージと相違していることが多い。これによりパッケージに係る法令違反(製品表示等)をもたらし、消費者を危険にさらす恐れがある。

 

・多くの国は国内消尽を支持している。国内消尽は商標権者と消費者に恩恵をもたらし、各国での投資を促すものである。

 

・経済面からも、地域または国内消尽の原則が支持されている。国際消尽は、発展途上国の低価格政策を損なう恐れがあり、各国の流通業者にとって不公正な取引をもたらす恐れがある。また、並行輸入品は模倣品と同じルートで、あるいは模倣品と共に輸送されることが多く、並行輸入を合法化することにより、模倣品の輸入を奨励することになりかねない。

 

デリー高等裁判所判決の影響と今後の見通し

 商標権者は、インドで拡大する中流層と彼らのブランド志向に対応するため、過去10年間、インドでの大規模な各種投資を行ってきた。したがって、この判決は、ブランドを持つ各社の事業戦略に直接的な影響を与えるだろう。他方、グローバル経済を支持する人々は物品の自由な流通を望んでおり、「国際的消尽論」の適用を求めている。

■本文書の作成者
Ranjan Narula Associates
■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研
■本文書の作成時期

2015.01.05

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