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ブラジルにおける審査係属中の商標出願の保護範囲
2015年03月25日
■概要
ブラジルでは、産業財産法第130条(III)に基づき、審査係属中の商標出願に対しても一定の保護が認められており、商標の識別力や使用実態によりその保護範囲は異なるものの、仮差止または終局的差止請求や損害賠償請求が可能である。実際に、審査係属中の商標出願に基づくこれら請求を認めた判例も多く存在する。審査係属中の商標に関しても、その希釈化や無断使用を防ぐために、第三者による商標の使用についてモニタリングするとともに、TMマーク等を使用して商標の所有権を主張することを推奨する。■詳細及び留意点
【詳細】
現行法である1996年ブラジル産業財産法が制定された時点では、ブラジル産業財産庁(Instituto Nacional da Propriedade Industrial : INPI)における商標の審査期間は約4年であり、それを考慮して、産業財産法第130条(III)が導入された。このことにより、出願されたものの、審査遅延により実体審査の最終結果が出ていない(すなわち審査係属中の)商標出願に対しても、一定の保護が与えられることとなった。
産業財産法第130条(III)は、以下の通り規定している。
第130条 標章についての登録所有者または出願人は、次に掲げる事項についての権利も保有する。
(III)標章の本質的な信頼性または名声を守ること
規定自体は極めて短く曖昧であるが、基本的には商標出願された標章の第三者による使用に対して第130条(III)のみに基づき裁判所への提訴することが可能であり、その保護範囲は、「希釈化」および「無断使用」の行為に及ぶと考えられる。
第130条(III)に基づく保護範囲は、該当する(指定商品または役務の)区分において保護を求める標章の識別力が強ければ強いほど、その権利範囲は広がると考えられる。一方、出願区分において、出願対象の標章と類似する登録がある場合は、その標章の識別力は弱まり、第130条(III)に基づく保護範囲は狭くなると考えられる。また、出願対象の標章が既に商標として、ブラジルにおいて使用されている場合、第130条(III)に基づく救済が認められやすくなると考えられる。
第130条(III)に関連して、ブラジル司法最高裁判所(Superior Tribunal de Justiça : STJ)は、第三者による商標の悪意の無断使用に関して、審査係属中の出願であってもその使用差止を認めるべきであるとしており、近年でもSTJはこの考えを踏襲し、INPIによる審査遅延により出願人が損害を被ることは妥当ではないとして、第130条(III)に基づいて審査係属中の商標出願を保護することができると判断している。なお、保護を求める商標の知名度が高い場合には、審査係属中における救済がさらに認められやすくなる傾向にある。
第130条(III)に基づく訴訟では、差止請求および損害賠償請求を含め、ブラジル民事訴訟法に基づく様々な請求が可能である。さらに、仮差止請求も可能である。提訴から判決までには時間を要するので、仮差止請求が可能であることは有益である。
具体例を紹介すると、2014年、サンパウロ高等裁判所は、柔軟剤組成物に関する「Baby Soft」商標の出願人に対して、第三者による「Best Soft」標章の使用を差し止める仮処分命令を認め、その後、終局的差止命令および損害賠償を認めている(サンパウロ高等裁判書判決第2161579-35.2014.8.26.0000号)。また、2013年、司法最高裁判所は、塗料に関する「TEXTURATO」商標の出願人に対して、第三者による「TEXTURA」標章の使用差止を認めている。(司法最高裁判所判決AgRg no REsp 1388817号)
■ソース
・ブラジル産業財産法・司法最高裁判所判決 第REsp 1032104/RS号
・司法最高裁判所判決 第REsp 698855/RJ号
・司法最高裁判所判決 第AgRg no REsp 1388817号
・サンパウロ高等裁判所判決 第2161579-35.2014.8.26.0000号
■本文書の作成者
カラペト・ホベルト(ブラジル弁護士/日本技術貿易株式会社 IP総研 客員研究員)■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2015.02.14