アジア / 出願実務 | 審決例・判例
タイにおける外国語表記を含む商標出願の識別性判断
2015年02月16日
■概要
タイにおける外国語表記を含む商標出願の審査においては、辞書等を用いて当該表記の意味を特定する審査実務がとられているため、その判断、特に識別性に関する判断には疑義を抱かざるを得ない場合も少なくない。この点に関する現行の実務上の慣行について、事例を交えながら考察している。■詳細及び留意点
【詳細】 (1)現行の実務上慣行 外国語表記を含む商標出願の審査において、辞書を用いて当該表記の意味を特定する現行の審査実務をみると、疑義を抱かざるを得ない判断がなされていることが少なくない。その顕著な例の一つとして、「DAKINE」商標出願(出願第670974号、指定区分は第25類―被服、服飾小物、履物他)が挙げられる。当該商標出願は、ハワイの混成語で「the best(最高)」を意味するという理由で拒絶されているが、「DAKINE」はタイにおいて一般的に周知の語彙でもなく、また、当該表記が指定商品の特性や品質に直接的につながるものでもないことから、不可解で説得力のない判断であると思われる。 審査官は概して、商標出願に過大な創造性を求める傾向があり、辞書から得られた意味と指定商品や指定役務の相関性を指摘し、識別性欠如として出願を拒絶する傾向が強いように思われる。 上記とは別の例として、「COOLAIR」のタイ語表記による商標出願(出願第490446号、指定区分は第30類―加工した植物性食品、調味料他、指定商品は菓子、チューインガム)が挙げられる。この例において、審査官は、当該表記は消費者に対して、指定された商品を口にした場合に得られる清涼感や新鮮な感覚を想起させるものであるとして、指定商品との相関性を指摘し、記述的表記であるとして拒絶している。 しかしこの決定は上告され、最高裁判所判決(最高裁判所判決2008年第11044/2551号)において審査官の判断を覆し、当該商標出願の記述性を否定した上で、商標出願が指定商品に比して記述的であると判断する場合には、両者間に非常に密接かつ直接的な相関性があり、消費者が直ちにその相関性を認識するような状況でなければならないとの見解を示した。 造語による文字商標出願に関して、審査官は個別の構成要素に分解してこれを審査し、何れかの構成要素が指定商品の特性や品質との相関性を持つと考え得る意味を含む場合には、当該出願は識別性欠如により拒絶される傾向がある。これは、「商標は常に総体として検討されるべき」という、最高裁判決(2件の行政訴訟判決:2005年第8777/2548号―「INTEL NETBURST」商標、及び2006年第84/2549号―「INTEL XSCALE」商標)に基づく基本原理に反するものと捉えられる。 (2)状況克服に向けての対応 文字商標の識別性に関する要件を審査する上で、審査官はその商標の包含する意味が、タイ国内の公衆にどの程度認識されているものであるかを十分に考慮する必要がある。そして、一般的な公衆が指定商品や指定役務の特性や品質を想起するに十分な意味を包含すると判断されない場合、かかる商標は記述的でなく、識別性を有するものと考慮されるべきである。しかしながら審査官の判断は、必ずしも前記の考慮がなされていないケースがあるため、拒絶理由通知を受けた出願人は、意見書等で上記識別性に関する最高裁判決を根拠として反論することを推奨する。 また、審査においては、上述の最高裁判決第11044/2551号にて判示されている「商標、とりわけ文字商標の識別性を検討する際には、『類推』に依拠すべきでない」との国際標準に適合した見解を念頭に置く必要がある。審査実務を国際標準に適合させていくことは、今後タイがマドリッド協定に加盟していく際に重要であると思われる。
■本文書の作成者
Rouse & Co. International (Thailand) Ltd.■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2014.12.23