アジア / 出願実務 | 審決例・判例
韓国において医薬品名商標を登録する際に考慮すべき点(大法院判例紹介)
2015年02月03日
■概要
韓国の薬事法令により、医薬品名に関してはハングルまたは英文名のハングル音訳が要求される。韓国においては、医薬品名は英文とハングルをそれぞれ別々に出願して登録を受けることが実務上勧められていたが、英文とハングルとを結合した商標で登録を受けても、英文とハングルで別々に登録を受けても、権利範囲に有意な差はないことが大法院(日本の最高裁判所に相当)にて2013年9月に判示された。■詳細及び留意点
【詳細】 韓国の薬事法令により、医薬品の承認申請については、保健福祉部(日本の厚生省に相当)から医薬品名のハングルまたは英文名のハングル音訳が要求される。したがって、韓国では、医薬品名は必ずハングルで商標登録を受けることが望ましい。 上記の点から、実務上これまでは必ず英文とハングルをそれぞれ別々に出願して登録を受けることを勧めていた。その理由は、英文とハングルが結合された商標で登録を受けた場合、英文とハングルが結合された形態で使用している時に限り不使用による取消しを免れることができる、との韓国裁判所での判例を考慮したためであった。 しかし、大法院(日本の最高裁判所に相当)は2013年9月、大合議判決で前記の立場に基づく既存の判例を変更した。以下に該当部分を示す。 「英文字とこれを単に音訳したハングルとが結合された登録商標において、その英文単語自体の意味から認識される観念のほかにその結合により新たな観念が生じず、英文字部分又はハングル音訳部分のいずれかが省略されたまま使用されるとしても、一般需要者や取引者に通常、登録商標それ自体と同一に呼称されるものとみられる限り、その登録商標のうち英文字部分又はハングル音訳部分のみで構成された商標を使用することは、取引通念上登録商標と同一にみることができる形態の商標を使用することに該当し、これを巡って登録商標取消事由である登録商標を使用していないものとみることはできない。」[大法院2013年9月26日言渡2012フ2463]。
したがって、英文とハングルをそれぞれ別々に出願して登録を受ける必要はない 。しかし、英文のハングル音訳方式が一つだけでなく複数ある場合等では、広い類似範囲で商標の保護を受けるために、英文とハングルをそれぞれ別々に出願して登録を受けることが有利である。上記判例は、英文とハングルとが結合された商標の場合はそのハングル部分によって英文の発音が決定されるとみているため、英文の類似範囲はハングル部分によって限定される。一方、英文のハングル音訳方式が複数ある場合は、ハングルとは別に英文で登録を受ければ、複数の音訳可能性によってより広い保護を受けることができる。 例えば、「EZETOR」という英文商標があると仮定する。「EZETOR」は、「エゼトル[e-ge-to-ru]」、「エゼタ[e-ge-ter]」、「イジトル[i-gi-to-ru]」、「イジタ[i-gi-ter]」等のようなハングル音訳が可能であるが、「EZETOR」と上記いずれか一つのハングル音訳とを結合して登録を受けた場合、「EZETOR」の類似範囲は当該ハングル音訳一つに限定されてしまう。一方、上記判例において「CONTINENTAL」はハングル音訳方式が一つしかないため、この場合、英文とハングルとを結合した商標で登録を受けても、英文とハングルで別々に登録を受けても、権利範囲に有意な差はない。 したがって、英文とハングルとを結合して出願すべきか別々に出願すべきかについては、コストパフォーマンスを考慮した上での判断が必要である。
■本文書の作成者
CENTRAL INTELLECTUAL PROPERTY & LAW■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2014.07.31