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(中国)商標の周知性が商品の類否判断の要素となると判断された事例
2014年06月20日
■概要
本件は、登録商標に対する異議申立で出された登録維持裁定を不服として不服審判を請求したものの、裁定を維持する審決が出されたため、同審決を取消すために行政訴訟を提起した事案である。商品の類否判断においては、個別事件の状況を考慮し、先行商標の周知性も適当に勘案する必要があるとして、本件引用商標がある程度の周知性を有していること等を総合的に考慮し、本件被申立商標と引用商標の指定商品について、類似商品及び役務の区分表の枠を超えて類似商品に該当すると判断された。■詳細及び留意点
【詳細】
第3329016号商標「金花」(以下、引用商標という。)の商標権者である金花企業(集団)股分有限公司(以下、金花社という。)が、第3570359号商標「金花」(以下、被申立商標という。)に対して異議申立を行ったが、登録維持裁定が出された(商標局異議裁定書2009年4月19日付(2009)商標異字第05392号)。これを不服として商標審判委員会(商标评审委员会)に不服審判を請求したものの、商標審判委員会も被申立商標の登録を許可する審決を下したため(商標審判委員会商標異議復審裁定書2011年3月21日付商評字(2011)第03189号)、金花社が当該審決を不服として、裁判所に対し行政訴訟を提起した。
区分:第5類、指定商品:薬剤(人用のもの)、医療用栄養剤、乳児用食品、医療用生物製剤、医薬用化学製剤等
区分:第5類、指定商品:衛生用殺菌消毒剤、消毒剤
本件における争点は、以下の2点であった。
(i) 被異議申立商標と引用商標のそれぞれの指定商品が類似するか否か
(ii) 被異議申立商標の登録が金花社の先行商号権を侵害するか否か
第一審裁判所(北京市第一中等裁判所)は、まず引用商標の指定商品である「医療用生物製剤、医薬用化学製剤」の範囲が広く、「殺真菌剤、殺菌剤」の上位概念として理解されるべきであり、被申立商標の指定商品である「衛生用殺菌消毒剤、消毒剤」と比較しても、機能、用途、消費者層、販売ルート等において類似する点があるとした。
また、商品の類否判断は、商標の周知性等の要素と結びつけ、全体的に、商品の出所について消費者の混同や誤認を容易に引き起こすか否かという視点から総合的に判断されなければならないところ、金花社が提出した栄誉証書や年度会計監査報告書、薬品の外部包装のコピー、広告契約、薬品供給契約等の証拠から、被申立商標の出願日前に引用商標が使用によりある程度の周知性を有していたことが認められるとし、同様に、金花社の商号「金花」についても、被申立商標の出願日前に宣伝普及活動によって、医薬分野においてある程度周知性を有していたことが認められると判断した。
そして、被申立商標、引用商標、金花社の商号は完全に同一で、いずれも「金花」の文字だけで構成されており、被申立人である出願人は金花社と同じく生物製薬分野の企業であるため、金花社の商号及び引用商標の存在を知っていたはずであり、それと完全に同一の被申立商標を出願する行為は明らかに悪意があると言うことができるとした。そして、これらの要因を総合的に考慮すれば、被申立商標と引用商標は類似商品における類似商標に該当すると同時に、金花社の先行商号権も侵害していると認定すべきであるとの判決を下した((2011)一中知行初字第1973号)。
第一審判決に対し、商標審判委員会は、「類似商品及び役務の区分表」(以下、区分表という。)は、ある程度の客観性、科学性、安定性を有し、商品の類否を判断する際に重要な根拠になるので、簡単にその枠組みを打ち破るべきではなく、裁判所はできる限り区分表に基づき商品の類否判断を行わなければならないこと、第一審判決のいうように商標の周知性は類似商品を判断する参考要素としてはいけないこと、被申立商標と引用商標の指定商品は類似商品に該当せず、商品の出所について関連公衆の混同や誤認を生じさせることがないから、金花社の先行商号権を侵害しないこと等を主張し、北京市高等裁判所に上訴した。
商標審判委員会の主張に対し、第二審裁判所は、商品の類否判断は区分表に基づき行われるべきであるという主張には法的根拠がなく、商品の類否判断の際に区分表を参考にすることはできるが、機械的に区分表に従うのではなく、機能、用途、製造部門、販売ルート及び消費対象等の面において類似しているか否か、関連公衆の混同を容易に生じさせるか否かということを考慮しなければならないとした。そして、本件においては、被申立商標と引用商標の指定商品は区分表によれば異なる類似群に属しているものの、これらの面において類似している点があるから、関連公衆が一般的な注意力しか払わない場合に容易に混同や誤認を生じさせるおそれがあるとして、両者は類似商品に該当すると判断した。
そして、商標法における関連商品の類否判断は、単純に関連商品についての物理属性を客観的に比較することではなく、商標が共存できるか否か、商品の出所に関する混同を回避できるか否かを主に考慮することであるとした。また、通常、先行商標の周知性が高ければ高いほど権利範囲がより広くなり排除できる商品範囲も広がることで、商品の出所に関する混同を効果的に回避することができるはずであり、商品の類否判断においては、個別事件のそれぞれの状況を考慮して先行商標の周知性も適当に勘案する必要があり、関連商品の類否判断が必ずしも絶対的に不変であるということはなく、異なる事件においてはその状況によって異なる結論が出される可能性があるとして、第一審判決が引用商標の周知性等の要素を総合的に考慮して類似商品に該当すると判断したことは妥当であるとの判断を下した。
また、被申立商標と引用商標の指定商品は類似商品に該当し、かつ商号「金花」は一定の周知性を有しているから、このような状況において被申立商標の登録が認められれば、関連公衆は金花社の先行商号と容易に結び付け、商品の出所について誤認しやすいとして、金花社の先行商号権の侵害を認めた(2012年8月31日付(2012)高行終字第961号)。
【留意事項】
中国において、商品の類否判断において商標の周知性を考慮すべきか否かについてはこれまで長らく議論されてきている問題であるが、現在は、区分表の枠組みを超えて類似商品を認定する必要がある場合、引用商標の周知性の有無が判断の重要なポイントになっている。
本件第二審判決が示したように、引用商標の周知性が高ければ高いほど特定の権利者との関係がますます密接になり、関連公衆は同一又は類似の商標を同一の者から由来するものと誤認する可能性がますます高くなる。したがって、自身が提起した事件(異議申立、係争事件、侵害訴訟等)において、区分表に基づき関連商品が類似商品であると判断されなかった場合、権利者としては、区分表の枠組みを打ち破ってより広く強い保護を獲得するために、積極的にその商品の関連性に加え、客観的事実によって引用商標の周知性について立証していく必要がある。
■ソース
・中国商標法・2012年8月31日付(2012)高行終字第961号
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所■協力
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻■本文書の作成時期
2014.01.19