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韓国における特許権侵害の判例
2025年03月13日
■概要
「韓国の知的財産権侵害判例・事例集」(2024年3月、日本貿易振興機構)(以下、「本判例集」という。)の特許法の章では、韓国における特許権侵害についての大法院判決5件、特許法院判決12件を紹介している。■詳細及び留意点
「韓国の知的財産権侵害判例・事例集」(2024年3月、日本貿易振興機構)
本判例集中、特許法の章では、計17件の韓国における特許権侵害についての判例を紹介している。以下、目次に沿って簡単にその内容を紹介するが、各判例の事件番号等の書誌事項および事件の概要は、それぞれ、本判例集の各該当ページの最初に記載されており、続いて、事実関係、判決内容、専門家からのアドバイスも掲載されている。詳細は上記リンクより本文を参照されたい。
(目次)
特許法 p.1
1. 確認対象発明のプロドラッグエステル化合物が物質特許の権利範囲に属するとした大法院判決 p.1
(経口用糖尿病治療剤として使用されるダパグリフロジン化合物をカバーする物質発明の均等論適用範囲の判断についての大法院の判決を紹介している。均等論の積極的要件である「変更の容易性」および、均等侵害の消極的要件である「意識的除外」に該当するかが争点となった判例である。)
2. 物の発明の請求項と対比する確認対象発明の説明書に記載されたその物の製造方法は、確認対象発明の理解を促進するに追加した敷衍に過ぎない p.6
(物の発明と対比する確認対象発明の説明書に物の構成とともにその物の製造方法も記載した場合の判断方法を示した大法院判決を紹介している。製造方法に記載があるにしても、物の構造や性質に影響を及ぼすとは言えないと判断された判例である。)
3. 各構成成分及びその含量で限定されたモルタル組成物発明の進歩性が否定されると判断された特許法院判決 p.10
(コンクリート補修モルタルに関する発明の進歩性判断についての特許法院の判決を紹介している。組成物の各構成成分およびその含量に特徴がある発明について進歩性判断を示した判例である。)
4. 先行発明に対して構成の格別な相違点なしに用途や設置位置の違いだけでは、進歩性を認めることができないとした事例 p.15
(機械装置や機構に係る物の発明の進歩性の判断についての特許法院の判決を紹介している。用途や設置位置に関する事項が特許請求の範囲に構成上の特徴として認められない場合には、進歩性が認められないと判断した判例である。)
5. COVID-19遺伝子ワクチン用DNA断片に関する発明の進歩性が先行発明の結合により否定された事例 p.18
(COVID-19遺伝子ワクチン用DNA断片に関する発明の進歩性の判断についての特許法院の判決を紹介している。タンパク質のアミノ酸置換体に関する発明の具体的な進歩性判断を示した判例である。)
6. 訂正審判の結果が出るまで差戻無効審判の手続中止をする要請が認められなかったことが違法ではないとした事例 p.24
(特許審判院の手続の違法性についての特許法院の判決を紹介している。)
7. 単純な数値限定発明として進歩性が否定されると判断された大法院判決 p.27
(ポリエチレングリコールとアスコルベート成分を構成要素とする腸洗浄組成物に関する発明の進歩性の判断についての大法院の判決を紹介している。特許発明を単純な数値限定発明であるとして、原審の判決は違法ではないと判断した判例である。)
8. 先行発明の明細書に記載された従来技術の構成を参酌して発明の進歩性を否定した事例 p.31
(山の傾斜面の崩壊の予防および緑化工事に使用されるコンクリートブロックに関する発明の進歩性の判断についての特許法院の判決を紹介している。特許発明と主先行発明との相違点に該当する構成が主先行発明の明細書に従来技術として言及されている場合における進歩性判断の方法について判示した判例である。)
9. 使用者の勤務規定に基づいて、職務発明が完成した時点に特許を受ける権利が使用者に当然承継されないと判断された事例 p.34
(職務発明において特許を受ける権利が発明完成の時点で使用者に当然承継されるかについての特許法院の判決を紹介している。韓国での職務発明の権利関係に関する法理の解釈を示した判例である。)
10. 出願発明の組成物の特性値による数値限定発明において、その特性値の臨界的意義がないこと等を理由として進歩性を否定しなかった事例 p.39
(容器栓(Cap)に用いられる「ポリマー組成物」に関する発明の進歩性判断についての特許法院の判決を紹介している。数値限定発明において、原告が当該発明の「構成の困難性」、「効果の顕著性」を立証し、進歩性が否定されなかった判例である。)
11. 特許発明の粒径の範囲から逸脱した確認対象発明が、均等範囲において特許発明の権利範囲に属さないと判断された事例 p.43
(化合物の結晶多形の粒子に関する発明の均等論の適用判断についての特許法院の判決を紹介している。特許発明の数値範囲を逸脱した確認対象発明は特許発明と課題の解決原理が異なるため均等範囲において特許発明の権利範囲に属さないと判断した判例である。)
12. 請求項に記載の「~によって」という文言を、明細書の記載を参酌して「~によってのみ」と解釈して進歩性を認めた事例 p.48
(曲面表示領域を含む携帯電話の表示装置の保護フィルムに関する発明の進歩性判断についての特許法院の判決を紹介している。発明の進歩性判断において請求項に記載された文言の解釈が問題となった判例である。)
13. 「低融点ポリオレフィン」等の成分及び溶融点等の物性で特定された特許発明に対して容易実施要件及びサポート要件を満たすとした特許法院判決 p.52
(熱反応接着強化フィルム付着型アスファルト繊維補強材に関する発明の容易実施要件の違反および進歩性の判断についての特許法院の判決を紹介している。高分子関連の発明において頻繁に使用されるポリオレフィン、コポリマーという用語について記載要件の判断がなされている判例である。)
14. 出願過程での具体的な構造への補正により侵害品が権利範囲から意識的に除外されたという主張を排斥して均等侵害を認定した事例 p.57
(真っ直ぐな根植物の栽培に使用される板状部材に関する発明の均等侵害の判断についての特許法院の判決を紹介している。補正をして特許された発明に対し、補正された構造と相違する構造に変更した確認対象発明が均等侵害の消極的要件である「意識的除外」に該当するかが争点となった判例である。)
15. 補正下着に関する特許発明において容易実施要件及び進歩性が認められた特許法院判決 p.63
(女性用補正下着に関する発明の容易実施要件および進歩性の判断についての特許法院の判決を紹介している。明細書に生地の素材、特性、配置等全てを記載していなくても特許発明を容易に実施することができるとされ、また、特許発明の構成に進歩性が認められた判例である。)
16. パラメータ発明における工程変数の測定方法が明細書に記載されていないため、実施要件違反と判断された事例 p.69
(多結晶シリコンの製造方法における工程変数間の相関関係を限定したパラメータ発明の実施要件の判断についての大法院の判決を紹介している。反応中の各工程変数の測定方法が明細書に記載されていないため実施可能要件違反と判断された判例である。)
17. 積極的権利範囲確認審判において、確認対象発明の説明書及び図面を総合的に考慮して、確認対象発明が特定されているものと判断した大法院判決 p.73
(「広告提供システム及びその方法」に対する積極的権利範囲確認審判の審決についての大法院の判決を紹介している。日本にはない「権利範囲確認審判」の制度の理解に役立つ判例である。)
■ソース
「韓国の知的財産権侵害判例・事例集」(2024年3月、日本貿易振興機構)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/kr/ip/pdf/han_2023.pdf
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.12.03