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中国における実用新案権侵害に基づく巨額の損害賠償の支払いが認められた事例-シュナイダー事件判決

2024年01月04日

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■概要
本件は、中国において、実用新案権に基づき、侵害行為の停止、損害賠償の支払い等が求められた事案である。本件では、被告が提出した無効審判請求の抗弁や公知技術の抗弁等は何れも認められず、一審法院は原告の請求を認めた。これを不服として被告は上訴したが、最終的に、巨額の補償金を支払う旨の和解が成立した。
■詳細及び留意点

1.事案の概要
 1999年3月11日に遮断器の実用新案権を取得していた正泰集団股份有限公司(以下「正泰集団」という)は、シュナイダー電気低圧(天津)有限公司(以下「シュナイダー天津社」という)が生産・販売している型番C65Nの遮断器が、自社の実用新案権を侵害したとして、2006年8月2日に浙江省温州市中級人民法院に訴訟を提起し、シュナイダー天津社などに対して、直ちに侵害行為を停止、侵害製品を廃棄し、かつ損害賠償金3億3480万元を支払うことを命じるよう請求した。

 これに対し、シュナイダー天津社は、法院に管轄権異議を申し立て、また、正泰集団の実用新案登録に対し無効審判請求することによって訴訟の停止を求めると共に公知技術の抗弁も行ったものの、いずれも法院に認められなかった。2006年8月28日に中国知識産権局審判部(中国語「专利复审委员会」)に申立てられた上記無効審判において、正泰集団は、クレーム1とクレーム2を組み合わせて一つのクレーム(独立クレーム)にするというクレームの訂正を行い、中国知識産権局審判部は2007年4月25日に訂正後の実用新案権を有効とする審決を下した(その後、シュナイダー天津社は審決取消訴訟を提起したが、最終的に北京市高等人民法院は、その実用新案の有効性を維持する判決を言い渡した)。

 一審法院は、侵害製品の構成が、係争実用新案の権利範囲に属し、侵害に該当すると判断するとともに、シュナイダー天津社の提供したデータに基づき、2004年8月2日から2006年7月31日までの間に侵害製品を販売することにより得た営業利益が3億5590万元であることを確認し、2007年9月26日にシュナイダー天津社に対して、直ちに侵害行為を停止し、正泰集団に損害賠償金3億3480万元を支払う旨を命じる判決を言い渡した。

 シュナイダー天津社は、これを不服として上訴した。浙江省高級人民法院は、二審を経て、数回の調停を行い、かつ、2009年4月15日に公に開廷審理を行った。シュナイダー天津社及びその親会社であるフランスシュナイダー社と正泰集団は、和解に達した。そして、本事件において、シュナイダー天津社は、正泰集団と法廷で和解合意書を締結し、シュナイダー天津社が調停書の発効日から15日以内に正泰集団に補償金1億5750万元を支払い、仮にシュナイダー天津社が指定期間内に指定金額を支払わない場合、正泰集団は一審判決の執行を請求する権利を有することを認めた。2009年4月24日、シュナイダー天津社は、調停書における全ての事項を履行した。

2.留意事項
 本事件は、最高人民法院が公布した2009年中国裁判所知的財産司法保護10大事件の1つであり、海外からも比較的大きな反響を呼んだ。本件において、正泰集団は特許権ではなく実用新案権に基づき訴訟を提起し、第一審において損害賠償請求が認められ、最終的には和解という形で解決されており、この事件の結果は、「実用新案は小発明にすぎず、技術程度も低いため無効になりやすく、大きな価値を有しない。」というイメージを覆した。

 上記の訴訟過程からすれば、シュナイダー天津社は、正当な対抗手段を可能な限り利用して抗弁したものの、最終的には巨額の損害賠償を命じられている。このことから、中国においては、実用新案も特許と同様に権利者の有力な武器となり得るものであり、その権利行使は、重要な意義を有するといえるので、積極的な権利取得を知財戦略の一つとして検討することが望ましいといえる。

■ソース
・浙江省高級人民法院民事調停書2009年4月15日付(2007)浙民三終字第276号
 (民事調停書は非公開となったため、現在、閲覧可能なリンクはありません。)
・2009年中国裁判所知的財産司法保護10大事件
https://www.chinacourt.org/article/detail/2010/04/id/405288.shtml (なお、本ウェブサイトに何度かアクセスすると、その後、しばらくの間、アクセスが制限されることがある点に留意されたい。)
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2023.10.11

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