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(韓国)パラメータで限定した構成を含む発明に関する明細書の記載要件、及び出願後に提出された実験データの適用に関して判示した事例

2013年09月20日

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■概要
本件発明の「高純度組成物」は、安定性をストレステストのパラメータにより限定した発明である。特許法院は、当該ストレステストを含む構成について、ストレステストの条件や方法が発明の詳細な説明に通常の技術者が容易に実施できる程度に記載されていないと判示し、また、ストレステスト以外の部分は、機能、効果などの記載がないので、通常の技術者が明細書の記載に基づいて特殊な知識を加えずに正確に理解し再現することができないと判示し、記載不備であるとした原審審決を支持した事例である。また、出願後に提出された実験データにより発明の目的、構成、効果を主張することは、本件事案に適用されないとも判示した。
■詳細及び留意点

【詳細】

(1) この事件の第8項に係る発明(2007年5月3日付で補正)は、「チボロン(Tibolone)の結晶を水の存在下で24時間以上を熟成させて得られるものであり(構成1)、また、チボロン及び含量0.5%未満のOM38を含む高純度組成物であり(構成2)、上記の高純度組成物を45℃で1ヶ月間ストレステストを行った後、OM38含量の増加量が0.4%未満になる(構成3)高純度組成物」に係るものである。これは、組成物の成分の含量及び物性を数値で限定した数値限定発明であり、また、組成物の安定性をストレステストのパラメータにより限定して示したパラメータ発明に該当する。

 原審の特許審判院は、この事件の出願発明の明細書において、第8項に係る発明の構成1ないし3の全てを満足する実施例が存在しないから、特許法第42条第4項第1号の要件を満たしていない、また、構成3に対応する明細書の本文の記載が存在しないから、特許法第42条第3項の要件を満たしていない、と審決した。

 

(2) 本件事案について、特許法院は、旧特許法第42条第3項に関して、「通常の技術者が、当該発明を明細書の記載に基づいて、出願時の技術水準に比べ特殊な知識を加えずに正確に理解し、かつ再現することができる程度まで記載するように求める」という法理を提示した。そして、本件明細書の記載について、「この事件の第8項に係る発明の構成のうち、構成1及び2に対しては、明細書の発明の詳細な説明に明確に記載されている」が、「構成3に対しては、【発明の構成】に何らの記載もなく、ただ、発明の詳細な説明の【発明の効果】に、実施例1として…、実施例2及び3として…という記載があるだけである」と認定した。

 

(3) 特許法院は、上記の法理と明細書の記載に照らして検討し、構成3の「ストレステスト」部分については、「発明の詳細な説明には、『45℃(1ヶ月間継続)で行なわれるストレステスト』又は『45℃(1週間継続)で行われるストレステスト』と記載されているだけで、温度と時間以外の条件、例えば、湿度、チボロンの量、酸の存在有無などについてはいかなる記載もなく、通常の技術者が、そのような記載がなくても出願当時の技術常識に基づいてストレス条件として明示されていない他の条件などを自ら設定し、ストレステストを実行することができるということを認める他の事情も見当たらない。したがって、この事件の第8項に係る発明は、その構成要素のうち『ストレステスト』の条件や方法に対し、発明の詳細な説明に、通常の技術者が容易に実施することができる程記載されていないから、旧特許法第42条第3項に違反する記載不備の事項があると判断される。」と判示した。

 さらに、構成3の他の部分については、「構成3は、『構成1及び2を満足する高純度組成物に対し、45℃で1ヶ月間ストレステストを行うと、チボロン含量に対するOM38含量の増加量が0.4%未満になる』ことに係るものであるが、発明の詳細な説明には、構成3の達成可能性の有無や機能及び効果などについて何らの記載もないため、特別な事情のない限り、通常の技術者が構成3を、明細書の記載に基づいて、出願時の技術水準に比べ特殊な知識を加えずに正確に理解し、かつ再現することができるとは考え難い。したがって、この事件の出願発明の発明の詳細な説明は、この事件の第8項に係る発明の構成3に関する具体的な記載が存在しないから、旧特許法第42条第3項に違反する記載不備の事項があると判断される。」と判示した。

 

(4) 原告は、明細書の他の記載(構成1の熟成過程を経ていないチボロン錠剤の、25℃及び相対湿度60%における貯蔵安定性の評価結果:実施例5及び表2、並びに、構成1の熟成過程を経たチボロン錠剤の、25℃及び相対湿度60%における貯蔵安定性:実施例6及び表3)から、構成1の熟成過程を経た場合が熟成過程を経ていない場合より、OM38含量の増加率がより低いことを確認することができるので、「構成1の熟成過程を経た高純度組成物に対し、45℃で1ヶ月間ストレステストを行って生成されるOM38含量の増加量は、構成1の構成過程を経ずに生成された従来技術のチボロンに比べ、45℃で1ヶ月間ストレステストを行って生成されるOM38含量の増加量、すなわち、0.4%より少ない」ことが分かる、と主張した。

 しかし、特許法院は、(a)実施例5に、構成1の熟成過程を経ていないチボロンを活性化合物として用い錠剤を製造したという明確な記載が存在せず、(b)実施例5の結果を、構成1の熟成過程を経ていないチボロンを活性化合物として用い錠剤を製造したとみなしても、実施例5の表2及び実施例6の表3は、水分の含量の表示有無で差異が生じ、(c)実施例5及び6は、45℃ではなく25℃で、組成物ではなく錠剤を対象とした実験であり、高温においてチボロンはOM38より一層変化され、錠剤には組成物の外にラクトースや芋澱粉などが含まれているため水分の含量が少ない可能性があり、これにより、貯蔵安定性において組成物と差異が生じることもある、という理由をもって、原告が主張する「構成1の熟成過程を経た高純度組成物に対し、45℃で1ヶ月間ストレステストを行って生成されるOM38含量の増加量は、構成1の構成過程を経ずに生成された従来技術のチボロンに比べ、45℃で1ヶ月間ストレステストを行って生成されるOM38含量の増加量、すなわち、0.4%より少ない」ということについて、明確にされているとは認められない、と判示した。

 さらに、原告は、実施例1の初期のOM38含量が0.6%であるのに対し、実施例2及び3では、初期のOM38含量が各々0.1%以下(実施例2)及び0.2%(実施例3)となっていて、また、表3の結果から、初期のOM38含量が少ない場合OM38の貯蔵増加量が少ないことが分かるので、当業者が、実施例2及び3の組成物を45℃で1ヶ月間ストレステストを行う際に、OM38含量の増加量が、これより高い初期の含量を持つ実施例1の組成物のOM38含量の増加量(0.4%)よりは少ないということが分かると主張したが、特許法院は、上記(c)の理由をもって原告の主張を排斥した。

 

(5) また、原告は、構成1の熟成過程を経て製造した高純度組成物は構成2及び構成3を満足するということを記載した参考資料を提出し、これを考慮すれば、容易に実施できる程度に記載されているとみなせると主張した。

 しかし、特許法院は、「出願日以後に提出された実験データにより、発明の目的や構成及び効果を主張、又、立証することができるのは、いわゆる選択発明において、該発明が先行発明に比べて質的に異なる効果を有することや、もし質的に差異が無くても量的に顕著な差異を有することについて、明細書に明確に記載されているため記載不備の事項はないが、その発明の効果が先行発明の効果に比べて顕著であるか否かが疑わしい場合などにおいて、例外として認められることである(大法院判決2003年4月25日付宣告2001후2740を参照)。この事件のように、明細書に一つの発明の構成のうち、一部の構成に関わる記載がないことで記載不備となった発明にまでも適用される事項ではないので、原告の上記の主張は、更に検討する必要もなく、受け入れられない。」と判示した。

 

(6) 結論として、旧特許法第42条第3項の要件を満たしていないとした原審審決の判断を支持し、原告の請求を棄却した。

 

参考(特許法院判決 2010年2月5日付宣告2008허12678【拒絶決定(特)】より抜粋 ):

 

1. 이 사건 출원발명이 구 특허법 제42조 제3항의 요건을 충족하지 못하는지 여부

가. 법리

구 특허법 제42조 제3항은 발명의 상세한 설명에는 통상의 기술자가 용이하게 실시할 수 있을 정도로 그 발명의 목적․구성 및 효과를 기재하여야 한다고 규정하고 있는바, 그 뜻은 특허출원된 발명의 내용을 제3자가 명세서만으로 쉽게 알 수 있도록 공개하여 특허권으로 보호받고자 하는 기술적 내용과 범위를 명확하게 하기 위한 것이므로 통상의 기술자가 당해 발명을 명세서 기재에 의하여 출원시의 기술수준으로 보아 특수한 지식을 부가하지 않고서도 정확하게 이해할 수 있고 동시에 재현할 수 있는 정도를 말하는 것이다(대법원 2005. 11.25. 선고 2004후3362 판결, 2006. 11. 24. 선고 2003후2089 판결 등 참조).

 

 

(日本語訳「1. この事件の出願発明が旧特許法第42条第3項の要件を満たしているかどうかについて

イ. 法理

旧特許法第42条第3項では、発明の詳細な説明には、通常の技術者が容易に実施することができる程、その発明の目的や構成及び効果を記載すべきであると定められている。これは、特許出願された発明について第3者が明細書だけを参考にしその内容を容易に把握することができるように発明を公開し、特許権による保護を求める技術的な内容と範囲を明確にするための規定であり、通常の技術者が、当該発明を明細書の記載に基づいて、出願時の技術水準に比べ特殊な知識を加えずに正確に理解し、かつ再現することができる程度まで記載するように求めるのである(大法院判決2005年11月25日付宣告2004후3362、大法院判決2006年11月24日付宣告2003후2089などを参照)。」)

 

【留意事項】

(1) 本件の第8項に係る出願発明の構成3は、審査段階において、新規性の拒絶理由を解消するための拒絶査定不服審判の請求段階で導入されたものである。当該補正は、要旨変更の理由で補正却下されたが、特許審判院では、要旨変更ではないという理由で補正却下の決定を取消す審決を行った。要旨変更ではないという判断は、構成3が、出願当時に提出された明細書又は図面に記載された事項の範囲内であるということに基づいており、そうすると、構成3は、出願当時に提出された明細書又は図面に、当業者が明確に把握できる程度に記載されていたとみなすことができる。構成3と直接対応される明細書の記載が存在しない本件事案において、上記のような構成3の追加は、明細書の記載不備として取り扱うよりも、出願当時に提出された明細書又は図面に記載された事項の範囲を逸脱するので要旨変更として判断した方が、より合理的であると考えられる。

 

(2) パラメータ限定発明において、パラメータの測定条件だけでは、 発明の目的を達成することができない事情がある場合、発明の目的を達成するための他の測定条件の記載がなければ、明細書の記載不備とみなされる恐れがあるので、発明の目的達成に係るパラメータの測定条件は、明細書上に詳細に記載する必要がある。

 また、新規性や進歩性の拒絶理由に対応するため、請求項を補正する場合、請求項に新規追加された構成を含む発明がその実施例に記載されていなければならない。上記の実施例が記載されていない場合、進歩性の拒絶理由を解消することはできるが、明細書の記載不備が問題として指摘される可能性に留意しなければならない。

 

(3) 本件の特許法院判決は、「選択発明において、該発明が先行発明に比べて質的に異なる効果を有することや、もし質的に差異が無くても量的に顕著な差異を有することについて、明細書に明確に記載されている…が、その発明の効果が先行発明の効果と比べて顕著であるか否かが疑わしい場合」などの例外的な場合を除いて、出願当初の明細書に記載しなかった効果を出願後に提出された実験データを基にして立証することは受け入れられない旨を判示している。よって、パラメータ、若しくは数値で限定された構成を有する場合は、当該限定により発現される技術的な効果を出願当初の明細書に明確に記載する必要がある。

■ソース
・特許法院判決2010年2月5日付宣告2008허12678
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘
■協力
特許法人AIP
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.22

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