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台湾の商標権侵害における刑事責任の主観的要件
2013年08月30日
■概要
商標法第95条及び第97条の規定は、主観による確定的故意が主観構成要件となり、消極認容の間接的故意を排除する旨の刑事責任について定めている。実際に認定する際には、案件に係わる証拠物の数量及び係争商標商品の品質や価格が妥当かどうか等、行為者の実際の取引状況、一般社会通念を参酌して決められる。■詳細及び留意点
【詳細】
(1)商標法(2012年7月1日施行)の刑事責任に関する規範は以下のとおりである。
(i)第95条
商標権者又は団体商標権者の同意を得ぬまま、販売を目的として、次に掲げる状況の一に該当するときは、3年以下の有期懲役、拘留、又は20万台湾ドル以下の罰金に処し又は併科する。
1.同一の商品又は役務に登録商標又は団体商標と同一の商標を使用するとき。
2.類似の商品又は役務に登録商標又は団体商標と同一の商標を使用し、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるとき。
3.同一又は類似の商品又は役務に登録商標又は団体商標と近似の商標を使用し、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるとき。なお、「近似」とは、二つの商標が消費者に与える印象(例えば、外観、観念若しくは読み方において似ているところがあり、関連消費者が購買時に二つの商品/役務が同一の出所若しくは二者間に関連性があると誤認するおそれがあることを指す。
(ii)第97条
他人がなした前二条に該当する商品であることを明らかに知りながら販売し、又は販売を意図して所持、陳列、輸出又は輸入したときは、1年以下の有期懲役、拘留、又は5万台湾ドル以下の罰金に処し又は併科する。
電子媒体又はインターネットを介した方法で行ったときも同様とする。
(2)裁判所による刑事責任に関する主観的要件の判断
智慧財産法院2011年12月15日付民国100年度刑智上易字第113号刑事判決(中古の格子バッグをインターネットで販売)において、知的財産裁判所は以下のとおり判断している。本判決は、刑事責任における主観的要件である故意につき、具体的且つ明確な説明をしている点で注目される。
(i)主観的構成要件には、故意の不法意思が必要である。
商標法第97条(旧商標法第82条)の模造商標商品の販売における罰則には、行為者が主観上、故意による不法な意図を有し、客観的には他人の登録商標と同一又は近似した図案を同一の商品に使用したものであるという要件を満たして始めて該当する。
主観的構成要件は、行為者が確定的故意により明らかに知っていたことが前提となり、行為者が明らかに知っていたわけではないときは、当該罪を適用することはできない。「明らかに知っていた」とは、刑法第13条第1項の確定的故意を指し、行為者が犯罪を構成する事実を明らかに知っており、またそれを生じさせる意思があったことをいう。もし、行為者が犯罪を構成する事実に対して主観的に予測していただけで、消極的に放任又は犯罪事実の発生を容認(消極認容)していた場合は、刑法第13条第2項の間接的故意に該当し、本罪の罰則の対象とはならない。
(ii)非伝統的商標の権利侵害の刑事責任は、案件全ての事情を考察し、総合的に判断しなければならない。
英国企業バーバリー社(商標権者)は、様々な線や色を織り合わせた図案を布等係争商標関連商品に使用していた。一般社会の通念上、布商品に普通に使用されている模様は、元来商標の出所を示す商標識別力はないが、英国企業バーバリー社は、長期にわたり異なる色が垂直に交わる模様をそのバッグや衣服等商品に使用し、広く、長期間販売したため、相当程度の商標識別機能が備わっており、且つ、台湾でも登録されているので、当然保護されるべきである。但し、文字又は特殊な図案の組み合わせによるものではない非伝統的商標について、行為者の商標権侵害行為の成立を判断するときは、一般社会通念、取引状況及び同業界における実際の使用状況等事情をそれぞれ参酌して総合的に判断しなければならず、類似の模様、立体形状又は色彩等事項があればすぐに商標権侵害に該当すると認められるわけではない。
(iii)主観要件認定時の参酌要素
(a)行為者が係争商標を積極的に使用したか否か
被告は本件で押収した「BURBERRY」と表示された手提げバッグを使用、または係争商標商品又は模造係争商標商品として販売していなかった。
(b)関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるか否か
・案件に係わる証拠物の数量、行為者は常犯か否か
被告は、ネットオークションで不要な物品・刊行物を販売しており、自宅で不要な物を整理していた際に既に使用しなくなった本件手提げバッグをインターネットでわずか60台湾ドルで販売したものであって、バッグはひとつしか販売していないと主張していた。
・案件に係わる証拠物の品質及び係争(非伝統的)商標以外の会社名、商標標識の有無
原審の開廷における検査で、本件に係わる手提げバッグのひとつがプラスチック製の女性用手提げバッグであり、バッグ本体にはバーバリー社の登録図案に類似した格子図案があるものの、その外側にも内側にもバーバリー社の会社名又はその他会社名の標示はなく、取手は合成皮革製で破損もあることが明らかになった。関連消費者の係争商標商品に対する認知度と通常の注意力によって知ることが出来るかについては、当該手提げバッグの材質は粗雑で仕立ても粗く、何の会社名、商標も付されていないので、条理からみて、当該バッグを英国企業バーバリー社が確立したバーバリーブランドの高級な商品であると誤認することはなく、関連消費者は商品の出所に対して混同していない。
・案件に係わる証拠物及び係争商標商品の価格は妥当か
調査によると、英国企業バーバリー社が生産したシリーズ商品であれば、その価格は16,000台湾ドルに上ると考えられるが、台湾の取引市場の制度を参酌した場合、関連消費者は60台湾ドルという不適当な価格でバーバリーブランドの正規商品を購入できると誤認することはない。仮に質の悪いバーバリー手提げバッグの模造品であっても、このような廉価で取得することができないのは明らかである。従って、客観的にみて、本件に係わる手提げバッグと英国企業バーバリー社が生産したシリーズ商品の両者には重大且つ明確な差異があるため、被告が本件において不要になった物品をネットオークションで販売し、僅かな金額に換えていた行為について、主観上、他人の商標を侵害する意思がない等の主張は信用することができ、商標権関連商品の販売罪を適用することはできない。
【留意事項】
商標法第95条及び第97条に定められている刑事責任は、人民の人身自由及び財産権等権益に影響するため、構成要件が民事責任と同一であるだけでなく、とりわけ主観構成要件の基準が厳格で、「確定的故意」があって初めて認められる点に留意すべきである。また、実際の認定時においては、案件に係わる証拠物の数量及び係争商標商品の品質や価格が妥当か等、行為者の実際の取引状況、一般社会通念を参酌して総合的に判断される。
■ソース
・智慧財産法院2011年12月15日付民国100年度刑智上易字第113号刑事判決http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=100%2c%e5%88%91%e6%99%ba%e4%b8%8a%e6%98%93%2c113%2c20111215%2c1&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=M&jyear=100&jcase=%e5%88%91%e6%99%ba%e4%b8%8a%e6%98%93&jno=113&jdate=1001215&jcheck=1 ・台湾商標法
・台湾刑法
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦特許庁総務部企画調査課 山中隆幸
■本文書の作成時期
2013.1.23