アジア / 審判・訴訟実務 | 審決例・判例
(韓国)基本配列と相同性を有する遺伝子又はタンパク質配列の発明の記載要件に関する事例
2013年10月01日
■概要
特許法院は、遺伝子工学の関連発明において、特許法第42条第4項第1号の記載要件に関して、「ある程度の相同性を有する場合、同一の機能を保有することに関する具体的な根拠を発明の詳細な説明に提示すれば、請求項に、特定された配列と『~%の相同性を有する配列』との表現を使い特許請求の範囲を拡張しても・・・この記載は発明の詳細な説明により裏付けられている」と判示した。本件は、出願発明が基本配列と90~99.9%の相同性を有する場合、同一の機能を保有することに関する具体的な根拠が発明の詳細な説明に提示されていないので、発明の詳細な説明により裏付けられていないと判断し、原審審決を支持した事例である。
■詳細及び留意点
【詳細】
(1) 本件において、特許法院は、判断基準として、以下のとおり判示している。
「特許法第42条第4項第1号によると、請求項は、発明の詳細な説明により裏付けられるべきである。これは、特許出願書に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載されていない事項を請求項に記載し、出願人が公開していない発明に対しても特許権が付与されるとの不当な結果を防ぐための趣旨である。請求項が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かについては、特許出願当時の技術水準を基準とし、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「通常の技術者」という)の立場から、特許請求の範囲に記載された事項と対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かによって判断されるべきである(大法院判決2006年10月13日付宣告2004후776、大法院判決2007年3月15日付宣告2006후3588 などを参照)。」
「一方、遺伝子の本質はDNAであり、その塩基配列の特性により個々の遺伝子が規定されるので、遺伝子工学の関連発明において遺伝子は、原則的に遺伝暗号である塩基配列により特定されなければならない(大法院判決1992年5月8日付宣告91후1656を参照)。但し、新たな有用性を持つDNA配列を発見した際においては、その変異体のDNA配列が上記の特定された配列とある程度の相同性を有する場合、同一の機能を保有することに関する具体的な根拠を発明の詳細な説明に提示すれば、 請求項に、特定された配列と『~%の相同性を有する配列』との表現を使い特許請求の範囲を拡張しても、その請求項の記載が不明確であるとはいえないので、この記載は発明の詳細な説明により裏付けられているとみなすことができる。」
(2) 本件事案は、上記の判断基準に沿って具体的に判断した結果、出願発明は、8種のタンパク質又は遺伝子類似体のうち、TFP2、TFP4及びTFP1-4タンパク質又は遺伝子類似体が基本配列と90~99.9%の相同性を有する場合、「TFP2、TFP4タンパク質類似体及び遺伝子類似体が、その基本配列のタンパク質及び遺伝子であるTFP2、TFP4タンパク質及び遺伝子と、同一の機能を保有するということに関する具体的な根拠が発明の詳細な説明に提示されていないので、この事件の出願発明の特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明により裏付けられていると認められないから、特許法第42条第4項第1号の規定に違反し、特許を受けることができない」と判示し、原審審決が適法であるとして、原告の請求を棄却した。
参考(特許法院判決2010年5月14日付宣告2009허4261【拒絶決定(特)】より抜粋):
2. 이 사건 출원발명이 특허법 제42조 제4항 제1호의 규정에 위반한 것인지 여부
나. 판단
(1) 판단기준
・・・・・
(2) 구체적 판단
・・・・・
살피건대, 일반적으로 개별 단백질은 아미노산 서열에 의하여 결정되는 고유의 입체구조를 가지고 있고 그 입체구조에 의하여 특정한 기능을 갖게 되므로, 아미노산 서열이 하나만 달라져도 그 아미노산이 단백질 입체구조 중 기능부위에 해당하면 단백질의 기능에 영향을 주게 된다. 따라서 일차원적인 서열정보만으로 단백질의 기능을 예측할 수 없고, 공지된 단백질의 아미노산 서열에 대하여 상동성을 가지는 단백질이라 하더라도 단백질의 상이한 입체구조로 인하여 전혀 다른 생체 내 활성을 보일 수 있으며 유사한 서열 상동성을 가진 유전자군이 서로 다른 기능을 가질 수도 있으므로, TFP2, TFP4 단백질 유사체 및 유전자 유사체가 서열의 상동성이 높다는 것만으로 기본서열의 단백질 및 유전자와 동일한 기능을 갖는 것으로 볼 수 없다. 그렇다면, TFP2, TFP4 단백질 유사체 및 유전자 유사체에 대하여 단순히 서열번호3, 7과 90~99.99%의 상동성을 갖는다고 청구항에 기재하는 것만으로는 부족하고, 유사체들의 서열이 기본 서열과 위와 같은 정도의 상동성을 가지고 있으면 기본 서열의 단백질과 동일한 기능을 갖게 된다는 점에 대한 구체적 근거가 발명의 상세한 설명에 제시되어야 한다. 그런데, 앞서 본 바와 같이 TFP2, TFP4 단백질 유사체 및 유전자 유사체에 대하여 발명의 상세한 설명에 구체적 실시예가 제시되어 있지 않고, 달리 이 사건 출원발명의 명세서 중 발명의 상세한 설명에 위 단백질 유사체들이 기본 서열의 단백질과 동일한 기능을 보유한다는 구체적 근거도 기재되어 있지 않다.
(参考訳)
2.この事件の出願発明が特許法第42条第4項第1号の規定に違反しているのか否かについて
ロ.判断
(1)判断の基準
・・・・・
(2)具体的な判断
・・・・・
一般的に個別タンパク質は、アミノ酸配列により決定される固有の立体構造を有し、その立体構造により特定の機能を保有するようになるため、アミノ酸配列が一ヶ所だけ変わっても、そのアミノ酸がタンパク質の立体構造のうち、機能部位に該当するのであれば、タンパク質の機能に影響を与えることになる。したがって、一次元的な配列の情報だけではタンパク質の機能を予測することができなく、公知されたタンパク質のアミノ酸配列と相同性を有するタンパク質の場合でも、各々異なる質の立体構造により、全く異なる生体内活性を示すことがあり、類似の配列相同性を有する遺伝子群が、互いに異なる機能を保有する可能性もあるので、TFP2、TFP4タンパク質類似体及び遺伝子類似体が、その配列の相同性が高いとのことだけで、基本配列のタンパク質及び遺伝子と同一の機能を保有するとは言い切れない。したがって、TFP2、TFP4タンパク質類似体及び遺伝子類似体について、単に配列番号3及び7と90~99.99%の相同性を有する、と請求項に記載するだけでは足りず、類似体等の配列が基本配列と上述した程度の相同性を有すれば、基本配列のタンパク質と同一の機能を保有するようになるということに関する具体的な根拠を、発明の詳細な説明に提示しなければならない。しかし、上述のとおり、本発明では、明細書の発明の詳細な説明にTFP2、TFP4タンパク質類似体及び遺伝子類似体に関する具体的な実施例が提示されておらず、他に、この事件の出願発明の明細書の発明の詳細な説明に、上記のタンパク質類似体等が基本配列のタンパク質と同一の機能を保有するということに関する具体的な根拠も記載されていないのである。」)
【留意事項】
この判決は、特定タンパク質又は遺伝子の基本配列が変更された変異体を、その権利として請求する発明においては、その変異体(類似体)のDNA配列が基本配列とある程度の相同性を有する場合、同一の機能を保有することに関する具体的な根拠を、発明の詳細な説明に提示しなければならないことを再確認したことにその意味がある。
これに係る草創期の判例として、大法院判決1998年10月2日付宣告97후1337では、「この事件の出願発明は、単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex Virus)の効果を調節するための、オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)又はオリゴヌクレオチド類似体及びその調節方法に係るものであり、その特許請求の範囲の第1項には、単純ヘルペスウイルス1型のUL5、UL8、UL13、UL29、UL30、UL39、UL40、UL42が、UL52のオープンリーディングフレーム(open reading frame)のうち、その一つに相応するヘルペスウイルス遺伝子から由来したRNA又はDNAと特異的交雑を行い、オリゴヌクレオチドは、上記の特異的交雑に相当な効果を与える程度の同一性及び数を持つヌクレオチド単位からなっていることを特徴とする、ヘルペスウイルスの効果を調節するためのオリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド類似体、と化合物が記載されているが、これは、オリゴヌクレオチドについて、化学的性質を示す包括的な概念の機能的な表現のみを使って定義したのであり、実施例などの発明の詳細な説明を参酌しても、上記の特許請求の範囲に記載のヌクレオチドが特定されていないので、結局、構成が全体として不明確になり、発明の詳細な説明により裏付けられていない広い権利範囲を請求することとなるから、この事件の出願発明は、その特許請求の範囲の記載が特許法第42条第4項に違反し、特許を受けることができない」と説示し、オリゴヌクレオチド類似体を権利として請求する場合、その詳細な説明に具体的な根拠が記載されていなければ、権利範囲が詳細な説明の記載より広くなるため、結局、詳細な説明により裏付けられていないと見做されると判断した。
その後、特許法院判決2002年5月30日付宣告2001허1006においても、「DNA配列の一ヶ所だけが変わることで、異なる機能のタンパク質が生成される可能性もあるということを特徴とする遺伝子の関連発明において、遺伝子は塩基配列により特定されるべきであり、特定された基準配列と~%の相同性を有する塩基配列という漠然とした表現を請求項に用いることは、原則的に許されないものの、新たな有用性を持つDNA配列を発見した際において、その変異体のDNA配列が上記の特定された配列とある程度の相同性を有する場合、同一の機能を保有することに関する具体的な根拠を発明の詳細な説明に提示すれば、 請求項に、特定された配列と『~%の相同性を有する配列』との表現を使い特許請求の範囲を拡張しても、その請求項の記載が不明確であるとはいえない」と判示すると共に、「植物に細胞質雄性不稔性を付与するDNA配列と、これらの配列と90%以上の相同性を有する配列、又は、これらの配列を含有する再組換え植物のミトコンドリアゲノムを特許請求する出願発明の詳細な説明には、基本配列と同一の機能を有しながら塩基配列の相同性の数値範囲に入る様々な変異体の例示などにより、相同性の数値を90%以上に限定した根拠が提示されなければ、出願発明の特許請求の範囲が明確にならないが、その根拠が示されていないだけでなく、更に、90%以上の相同性という記載も見当たらないから、特許請求の範囲の記載は不明確であり、特許を受けることができない」と判示した。
したがって、今後、特定されたタンパク質又は遺伝子の基本配列の一部を変更した変異体の発明においては、発明の詳細な説明に、ある程度の相同性を有する場合、同一の機能を有するのかに関する具体的な根拠を必ず記載しなければならない。
■ソース
・特許法院判決2010年5月14日付宣告2009허4261http://patent.scourt.go.kr/dcboard/DcNewsListAction.work?gubun=44
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘■協力
特許法人AIP一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2013.01.22