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(中国)特許庁審判部と審決取消訴訟との関係について
2013年08月23日
■概要
中国において特許庁審判部に無効審判を請求し、その決定に不服がある場合、中級人民法院に出訴し、さらに中級人民法院の判決に不服がある場合は高級人民法院に不服を申し立てることができる。特許庁審判部の決定を取消す判決が確定すれば、再び特許庁審判部で審理が行われるが、再び出された特許庁審判部の決定に不服がある場合は、中級人民法院に不服を申立て、中級人民法院の判決に不服がある場合は、さらに高級人民法院に不服を申立てることができる。本案は、特許庁審判部が維持決定→中級人民法院に取消訴訟を提起・取消判決→高級人民法院に上訴・一審判決を支持する判決→取消判決確定→特許庁審判部に差戻し→特許庁審判部が維持決定→中級人民法院に取消訴訟を提起・維持決定を支持する判決→高級人民法院に上訴(本案)、という事案である。■詳細及び留意点
【詳細】
本案意匠は子供用の玩具自転車の意匠である。無効審判が特許庁審判部(中国語「专利复审委员会」)に請求されたものの、無効ではないとする権利を維持する決定が出されたことから北京中級人民法院に提訴されたところ、同決定を取り消す判決が出された。特許庁審判部は高級人民法院に提訴したが、原審判決が維持され、取消しが確定したため、再度特許庁審判部が審査したところ、権利維持の決定が出され、再度北京中級人民法院に不服申立てがなされたが、同決定を維持する判決が出されたことから再び北京高級人民法院に上訴されたのが本案である。
本案では、意匠が出願前に公開されていたか否かが争われた。無効審判の請求人は、複数の証拠を提出したが、何れの証拠も、意匠が出願前に公開されていたことを単独で示すことができていなかったことから、複数の証拠を一連の証拠群として無効理由を立証することを試みた。しかし、「付属文書1と付属文書2-4の間の関連性が唯一で確実であることを必ず証明しなければならない」こと、「付属文書1が具体的に示した客観的な事実は、逆に相反する情報を与えているから、同一の製品番号が、異なる意匠の玩具製品に対応する可能性があり、付属文書1と付属文書2-4との関連性は不確実である」ことを理由に、本件意匠が既に出願日前に使用公開又は出版公開されていたことを証明できていないとして、有効と判断した第一審判決と特許庁審判部の決定が支持された。
参考(北京市高級人民法院民事判決2008年5月23日付(2008)中行初字第119号より抜粋):
本院认为,专利法第二十三条规定,授予专利权的外观设计,应当同申请日以前在国内外出版物上公开发表过或者国内公开使用过的外观设计不相同和不相近似,并不得与他人在先取得的合法权利相冲突。
本案争议的焦点在于附件1与附件2-4、附件7、8是否能形成证据链证明本专利已在申请日之前公开。
专利复审委员会在第10159号决定中认为在附件2、3没有清楚完整地公开已有外观设计的情况下,不能对本专利的“电动玩具自行车”与附件2、3公开的“窗盒电动音乐自行车8808”外观设计进行整体观察、综合判断,从而不能得出二者是否相同或者相近似的结论。对此,陈小满未提出异议。而根据已生效的第245号判决认定仅凭附件1本身所载信息不能证明本专利在申请日前已经出版公开。在上述认定的基础上,陈小满欲证明附件1和附件2-4形成了一个证据链,就必须证明附件1与附件2-4之间的关联性具有唯一性、确定性。陈小满认为同一个公司的同一个货号的产品其外观一定相同,但其提交的《玩具总汇》即附件1一书所体现的客观事实却给出了相反的信息,即同一货号下有可能对应不同外观设计的玩具产品,因此,附件1与附件2-4之间的关联性是不确定的,不能认定《玩具总汇》第1505页中公开的货号为MK0314271的玩具自行车与附件2、3图片所示名称为“窗盒电动音乐自行车8808”的玩具自行车是具有同一外观设计的产品。一审法院关于《玩具总汇》中就有一个货号对应同一系列玩具产品的情形,可以佐证同一个货号对应的产品并非一定完全相同的认定并无不当。对于附件7、8,已经生效的第245号判决已经认定该两份证据本身未能体现其上所示产品的公开日期,结合附件1仍不能证明本专利外观设计已经在申请日之前被使用公开或出版公开。
综上所述,陈小满的上诉理由缺乏事实和法律依据,均不能成立,其上诉请求本院不予支持。原审判决认定事实清楚,适用法律正确。
(参考訳)
当裁判所の判断は以下のとおりである。専利法第23条において、意匠権が付与される意匠は出願日前に国内外の出版物上で公開発表または国内で公開使用された意匠と同一でも類似でもなく、かつ、他人が先に取得した適法な権利と抵触しないことが規定されている。
本案の争点は、付属文書1と付属文書2-4、付属文書7、8で、本件意匠が出願前に既に公開されたと証明する一連の証拠群を形成し得るか否かである。
特許庁審判部は第10159号決定において、付属文書2,3には、公知意匠が明確かつ完全に開示されていない状況下では、本件意匠の「電動式おもちゃ自転車」と付属文書2,3に開示される「窓付きパッケージの電動型音楽自転車8808」の意匠について、全体観察や総合判断を実施することが不可能であるので、両者が同一又は類似するか否かの結論を出すことは不可能である。この点について、陳小満は異議を提出していない。既に確定した第245号判決によれば、付属文書1に記載されている情報だけでは、本件意匠が出願日前に既に出版公開されていたことは証明できないと認定されている。上述の認定に基づいて、付属文書1と付属文書2-4が一連の証拠群を形成したことを証明しようとするなら、陳小満は付属文書1と付属文書2-4との関連性が唯一で確実であることを必ず証明しなければならない。陳小満は、同一会社の同一の製品番号に係る製品の外観は常に同一としているが、その提出に係る《玩具集合》すなわち付属文書1が具体的に示した客観的な事実は、逆に相反する情報を与えているから、同一の製品番号が、異なる意匠の玩具製品に対応する可能性があり、付属文書1と付属文書2-4との関係は不確実である。よって、《玩具集合》の1505頁に開示されている製品番号がMK0314271の玩具自転車と、付属文書2,3の写真が示す「窓付きパッケージの電動型音楽自転車8808」の玩具自転車とが同一の意匠を有する製品であるとは認定できない。《玩具集合》において一つの製品番号が同一シリーズの製品に対応する状況が存在することにより、同一の製品番号に対応する製品が常に完全に同一というわけではないことが証明されるという第一審の認定は、不当ではない。付属文書7,8について、既に確定した第245号判決では、これら2件の証拠には製品の公開時期が具体的に示されていないので、付属文書1と組み合わせても、依然として本件意匠が既に出願日前に使用公開又は出版公開されていたことを証明できないと認定されている。
以上をまとめれば、陳小満の上訴理由は事実及び法律の根拠を欠いており、何れも成立せず、その上訴請求を当裁判所は支持しない。原審判決は事実を明確に認定し、法律を適切に適用している。
【留意事項】
本件では、特許庁審判部による決定が2回、人民法院判決が4回も出されて決着した。中国でも資金が続く限り、徹底的に争える仕組みになっている。特許庁審判部や裁判所に提出する証拠は無効理由に直結するものを用意したいところだが、それが難しい場合は、本件のように複数の証拠を組み合わせ、無効理由になる事実を浮かび上がらせる方法も認められる。しかし、本案では、提出した証拠によって主張内容に疑義が生じたため、失敗に終わっている。有利な判断を得るには、主張内容と提出する証拠の間及び提出した証拠間で整合性がなければならず、提出する証拠の選択ミスは、絶対に避けなければならない。
ところで、本件では、特許庁審判部の維持決定を取り消す判決が確定したにもかかわらず、特許庁審判部は再び維持決定を行っている。日本であれば、無効審判での維持審決が審決取消訴訟で取り消されれば、「審理対象の事実関係で無効にすべきであり、維持すべきとした審決は間違っている」というのが裁判所の判断であり、行政事件訴訟法第33条により、再開された無効審判では裁判所の判断に抵触する判断ができない結果、無効審決が出されることになる。この点の相違にも留意する必要がある。
■ソース
・北京市高級人民法院民事判決2008年5月23日付(2008)高行終字第119号http://bjgy.chinacourt.org/public/paperview.php?id=27191 ・中国専利法
■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 根本雅成■協力
北京林達劉知識産権代理事務所■本文書の作成時期
2013.01.07