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台湾における無効審判の行政争訟の段階における訂正について判示された事例

2013年10月04日

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■概要
台湾専利法では、無効審判の行政争訟の段階(行政不服(訴願)手続き、行政訴訟手続き)において特許権者が特許明細書の訂正を行うことが可能であるかについては、明確に規定されていない。このため、従来の判決・実務では解釈にばらつきがあったが、最近の判決において、無効審決が下されずに特許権取り消しの拘束力が生じなかった場合でも、行政争訟の段階で訂正の申立が可能とされている。本判決の判断は、2011年改正専利法の審査基準の理念に合致する。

■詳細及び留意点

【詳細】

(1)事実経過

 上訴人(以下、「A」とする。)は、2004年2月18日、経済部台湾特許庁(以下、「台湾特許庁」とする)に特許登録出願をし、特許第I240169号を取得した。これに対し、訴訟参加者(以下、「B」とする。)が無効審判を請求したが、台湾特許庁が2008年3月31日、特許維持審決を下した。Bがこれを不服として行政不服(中国語「訴願」)を提起し、被行政不服(訴願)提起人である経済部は2009年2月23日、「原処分取消し、原処分機関により別途適法により処分」する決定を下した。

 Aがこれを不服として知的財産裁判所に行政訴訟を提起したところ、知的財産裁判所が、経済部の行政不服(訴願)決定を取消した(知的財産裁判所98年度行專訴字第41號判決)。Bはこれを不服として上訴し、最高行政裁判所は再び本案を原審裁判所に差し戻した(100年度判字第249号判決)。その後、原審裁判所はAの訴えを棄却したが、Aはなおも不服であったため更に上訴を提起した。

 なお、上記の行政不服(訴願)から行政訴訟までの行政争訟の段階においても、その他の無効審判案が係属しており、Aは2010年1月25日に無効審判案件において訂正(中国語「更正」)を申立て、2011年8月29日、台湾特許庁から訂正を認める処分が下された。訂正効力は遡及して発効する。

 

(2)本案の争点

 本案の争点は、行政不服(訴願)から行政訴訟までの行政争訟の段階において特許権者が特許明細書の訂正を行うことが可能であるかという点である。

 行政裁判所の実務慣行では、行政争訟の段階において特許明細書を訂正することはできないとされていた。これは、台湾特許庁の一回目の専門判断権に考慮することに加え、特許権者が何度も訂正を申請・主張し、訴訟の遅延を招くことを防止することを主な目的とするものである。最高行政裁判所92年度判字第431号、93年度判字第501号、96年度判字第1414号、96年度判字第958号、96年度判字第429号、99年判字1270号等判決にも、同様の趣旨が記されている。

 

(3)裁判所の見解

 本判決が下された背景には、多数の無効審判案件が係属している場合、無効審判申立人は同一の特許について何度も無制限に無効審判案件を申立てることができるため、権利者に訂正の機会を与えなければ有効な防御手段を失ってしまうことになる。従って、本判決では、特許権者は後に請求した無効審判において、特許請求の範囲に対して、訂正を請求することができると示された。先に請求し、まだ確定していない案件の影響は受けない。当該訂正手続きは許可公告によって効力が発効する。このため、訂正後の特許請求範囲を前無効審判案件の審理範囲として進めなければならない(2011年改正専利法(2013年1月1日施行)第68条第3項及び旧専利法第64条第4項)。

 

【留意事項】

(1)2011年改正専利法施行(2013年1月1日)前は、無効審判における審定は無効審決と維持審決の2種のみであったが、改正専利法では、すべての請求項に対する他、特定の請求項に対しても無効審判の申立ができるようになった。そのため、1)請求項のすべてを無効とする、2)一部を無効とする、3)すべての請求項を無効としない、という三種の審決が下されるようになった。

 

(2)本判決では、多数の無効審判請求が継続しており、前者の無効審判請求がすでに行政訴訟手続きに入った場合において、後者の無効審判請求に対する訂正が許可された。一方で、改正審査基準では、無効審決が下された場合、当該処分は実質的に拘束力を生じるとされており、行政訴訟手続きで原処分が取り消されるまで、訂正の申立は受理されない。また、一部の請求項が取消決定された場合については、特許権者が提起した訂正の申立は、原処分で無効審決されなかった請求項に対してのみ行うことができるとされている(審査基準第1篇第20章2)。

■ソース
・台湾専利法
・最高行政裁判所判決2012年11月29日付民国101年度判字第1008号
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=101%2c%e5%88%a4%2c1008%2c20121129%2c1&v_court=TPA+%e6%9c%80%e9%ab%98%e8%a1%8c%e6%94%bf%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=A&jyear=101&jcase=%e5%88%a4&jno=1008&jdate=1011129&jcheck=1 ・専利審査基準第一篇方式審查及び専利権管理第20章訂正(2012年12月28日版)
http://www.tipo.gov.tw/ch/MultiMedia_FileDownload.ashx?guid=5e61eb18-edfd-4aaf-8dd8-a272e174d850.pdf
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所
■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦
■本文書の作成時期

2013.01.25

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