国別・地域別情報

アジア / 審判・訴訟実務 | 審決例・判例


台湾産地証明標章の関連判決

2013年10月15日

  • アジア
  • 審判・訴訟実務
  • 審決例・判例
  • 商標

このコンテンツを印刷する

■概要
商標法及び関連実務では、産地証明標章の出願において、既に識別性を有していることが要件となるわけではない。但し、長期にわたり産地証明標章権者がその標章の普及に努めていたり、第三者及び同意を得た使用者が標示してきたことによって、高い識別性を有していた場合は、当該産地証明標章の排他的効力はより強くなる。
■詳細及び留意点

【詳細】

(1)「産地証明標章(中国語「產地證明標章」)」の定義

(i)旧商標法(2003年5月28日公布・施行)における定義

 旧商標法では、産地証明商標は、「他人の著名商標又は標章と同一又は類似し、公衆に混同を生じさせ、又は当該著名商標又は標章の識別性或いは信用を損なうおそれがある商標。但し、その著名商標又は標章の所有者の同意を得て登録出願したときは、この限りでない」と定義されていた(旧商標法第23条第1項第12号)。また、「1.標章をもって他人の商品又は役務の特徴、品質、精密度、産地又はその他の事項を証明するために、その標章を独占しようとするものは、証明標章の登録出願をしなければならない。2.証明標章の登録出願人は、他人の商品又は役務を証明する能力を有する法人、団体又は官庁機関に限られる。3.前項の出願人は、証明必要をしようとある商品又は役務にかかる業務に従事する者であるときは、その登録出願をすることができない。」と規定されていた(旧商標法第72条)。

 

(ii)現行商標法(2012年7月1日施行)における定義

(a)現行商標法では、「1.証明標章は、証明標章権者が、他人の商品若しくは役務の特定の品質、 精度、原料、製造方法、原産地又はその他の事項を証明し、証明を受けていない商品若しくは役務と各々区別する標識を指す。2.前項の原産地を証明するとき、当該地理区域の商品若しくは役務は、特定の品質、名声又はその他の特性を有していなければならず、証明商標の出願人は当該地理名称を含んでいるか、又は当該地理区域の標識で原産地団体商標を出願すると示すに足らなければならない。」と定められている(現行商標法第80条第1、2項)。この法改正の理由は、「産地を証明するために使用するとき、当該地理地区の他人の商品又は役務は特定の品質、評判又はその他の特性を有していなければならない。つまり、産地証明標章は産地名によって構成されるものの、商標主務機関は産地名によって構成されていれば、その登録を許可しなければいけないというわけではなく、当該産地名に指定商品又は役務の有する特定の品質、評判又はその他の特性があるか否かを考慮する必要がある」ためとされている(商標法修正草案條文對照表)。

 

(b)また、「産地証明標章」は識別性を有するか否かが要件ではなく、ディスクレームする必要もない。現行商標法では、「原産地証明標章の原産地名は、第29条第1項第1号及び第3項の規定を適用しない」と定められている(現行商標法第84条第1項)。この法改正の理由は、「証明標章は産地名によって構成され、現行条文第23条第1項第2号の規定に違反しているか否かについては、疑義が残るところである。これを明確にするため、第1項には産地証明標章は改正条文第29条第1項第1号の規定を適用しないと規定されている。また、産地証明標章が保護したいものは産地名称であることから、ディスクレームの必要もない。従って、これも改正条文第29条第3項の規定を適用しない旨が明文規定されている。」とされている(商標法修正草案條文對照表)。このため、産地証明標章は識別性を有するか否かは要件とならず、ディスクレームする必要もない。

 

(3)産地証明標章の使用証拠の認定について

 産地証明標章の使用証拠の認定に関し、知的財産裁判所は智慧財産法院2010年4月28日付民国99年度行商訴字第183号行政判決(「DARJEELING」)において、「証明標章は単一の営業主体の出所を示すために使用するものではなく、標示条件に符合する多数の者が同一の証明標章を関連商品又は役務に使用するものである。産地証明標章権者自身は証明標章を関連商品又は役務に使用してはならないが、証明標章の著名性における証拠の認定においては、産地証明標章権者自身による該証明標章の宣伝活動推進の他、関連商品の展示会への出展、説明会の開催又は報道、雑誌等メディアを通じて、該証明標章の認証方法等を紹介、報道すること、さらに第三者及び同意を得た使用者が当該証明標章を各自の商品(役務)及び関連広告等に標示していること等、関連消費者が当該証明標章の関連証拠資料であると認識できるものであれば、いずれも使用証拠に属する」と述べている。

 

(4)産地証明標章の排他的効力及び合理的使用の抗弁

(i)智慧財産法院2010年4月28日付民国99年度行商訴字第183号行政判決(「DARJEELING」))において、知的財産裁判(所は旧商標法第23条第1項第12号の商標希釈化の規定を直接適用し、商標又は産地証明標章の排他的効力を個別に処理していない他、産地証明標章の識別性が強くなるほど、排他的効力も強くなると述べた。

 「異議根拠『DARJEELING』標章の外国語『DARJEELING』は、インドの著名な茶葉の産地名であり、一般によく見かける外国語ではない。また、現在の登録資料には、商標図案として登録の許可を受けた者は、双方の商標のみであるとされている。さらに第三者が商標として使用する状況はなく、原告がその後登録・保護し、長期にわたって広く販売及び広告を行い、茶葉等商品が『ダージリン』という特定の地域から来たものであることを証明するために使用しており、特定の品質、評判を有していることを消費者がよく知っていることは上記の通りであることから、高い識別性を有すると言える。従って、異議根拠著名標章の識別性が高ければ高いほど、他を排除する程度も高くなるため、侵害を受けた場合、より容易にその識別性が認定される。また、異議根拠著名標章の識別性が高い識別性を有しているため、商標の希釈化に対する保護客体となり得る

 
 

(ii)智慧財産法院2011年11月25日付民国100年度民商訴字第16号民事判決(「池上米」)では、被告は、原告が係争標章を出願・登録する前に、「池上米行」、「池上米糧食行」、「池上米東竹碾米廠」等の名称で商号登記をし、営業項目は米穀小売及び卸売り等業務で、「池上米説明書」にて著作権登記をしていた。当該判決では産地証明標章の排他的効力と合理的使用の抗弁に関するポイントを以下のように詳述している。

 

(a)「合理的使用」の判断基準

 「本裁判所は被告の使用する『池上米』の文字は善意の同意使用に該当しないと考える。善意であるか否かは、行為者が不正競争の主観的意思を有しているか否かに関係する。被告商品の包装には『池上米』と標示され、その標示場所は包装の上方中央部の目立つ箇所である。また、『池上米』という字体は明らかに被告の商号、米の産地よりも大きく、関連消費者に原告が販売する米が係争証明標章の品質と同様であると誤認させるために、係争証明標章にただ乗りして『池上米』を使用しようとする主観的意思が被告にあったことがみてとれる。被告は商品の包装の目立つ箇所に『池上米』の文字を標示し、係争標章にただ乗りする不正競争目的があったことは既に前述の通りである。よって、被告の『池上米』の使用は善意の先使用と認められない。」

 

(b)商号名称、著作権と産地証明標章との関係

 「産地証明標章権の取得には先願主義と登録主義が採用されており、著作権及び商号名称権の取得要件とは異なり、それぞれ異なる権利である。このため、既に著作権及び商号名称権を取得していたとしても、商標権者に対抗することはできない。被告は商号名称と池上米の説明書の著作権登記に『池上米』を使用し、その期日はいずれも係争商標出願日2002年12月1日及び登録日2003年12月1日より早く、係争標章の効力は遡及できない。被告は、原告が10年以上使用している商号名称を商標として出願することを思いもつかなかったが、原告は事後に取得した係争標章をもって、被告が先に取得した商号名称又は著作権登記等権利の使用を禁止してはならない。このため、被告は原告の『池上米』と同一又は近似の文字を商標名称の一部として使用してはならず、また、台東県政府、花連県政府、行政院農業委員会、経済部に対して商号名称を『池上米』を含まないものに登記変更しなければならない云々という原告の主張には理由がない。原告は被告が『池上米』をその商号名称に使用することを禁止できないが、その他被告が『池上米』と同一又は近似の文字を商品、商品包装、看板、ウェブページ、広告、看板又はその他の表徴に使用してはならないとする請求は認められる。」

 

(c)識別性と合理的使用の関連について

 「標章の識別性の高低と合理的使用は反比例の関係にあり、標章の識別性が高いほど、合理的使用が成立する余地は少なくなる。反対に、標章の識別性が低いほど、合理的使用が成立する余地は大きくなる。」

 

(iii)現行商標法(2012年7月1日施行)では、「原産地証明標章権者は、他人が商業取引慣習に合致する誠実で信用ある方法によりその商品又は役務の原産地を表示することを禁止することができない」と規定している(現行商標法第84条第2項)。これは、2011年の改正により、「単純な地理名称は登録によって産地証明標章権を取得することができるが、商品又は役務の産地を説明する自由使用権益として、第三者が商業取引慣習に合致する誠実で信用ある方法によりその商品又は役務の原産地を表示することを禁止することができないことを第2項に明文規定」されたものである(商標法修正草案條文對照表)。

 

【留意事項】

 台湾は商標登録主義を採用しており、商標又は標章の実際の使用が前提とはならない。また、産地証明標章には多くの地理名称が含まれる等の特殊性を考慮して、商標法及び関連実務では、産地証明標章は識別性を有していることが要件にならないことが明確に示されている。しかしながら、長期にわたり産地証明標章権者がその標章の普及に努めていたり、第三者及び同意を得た使用者が標示することによって高い識別性を有していれば、当該産地証明標章の排他的効力はより強くなる。これにより、第三者は合理的使用を主張することが困難になることに留意すべきである。

■ソース
・台湾商標法
・商標法修正草案條文對照表
http://www.tipo.gov.tw/ch/MultiMedia_FileDownload.ashx?guid=98351220-812c-4eb8-bd44-e4eb1e798b31 ・智慧財産法院判決2010年4月28日付民国99年度行商訴字第183号行政判決(「DARJEELING」)
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=99%2c%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4%2c183%2c20110428%2c2&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=A&jyear=99&jcase=%e8%a1%8c%e5%95%86%e8%a8%b4&jno=183&jdate=1000428&jcheck=2 ・智慧財産法院判決2011年11月25日付民国100年度民商訴字第16号民事判決(「池上米」)
http://jirs.judicial.gov.tw/FJUD/PrintFJUD03_0.aspx?jrecno=100%2c%e6%b0%91%e5%95%86%e8%a8%b4%2c16%2c20111125%2c1&v_court=IPC+%e6%99%ba%e6%85%a7%e8%b2%a1%e7%94%a2%e6%b3%95%e9%99%a2&v_sys=V&jyear=100&jcase=%e6%b0%91%e5%95%86%e8%a8%b4&jno=16&jdate=1001125&jcheck=1
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所
■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦
■本文書の作成時期

2013.1.22

■関連キーワード