アジア / 審決例・判例
(中国)職務発明の該当性について
2013年07月12日
■概要
本件は、元従業員が退職後1年以内に特許出願した発明について、元雇用主の企業が本件発明は退職前に完成させた職務発明であるとして争った事案である。元雇用主側は元従業員の出張に関する書類を提出したが、元従業員の具体的な職責を有する職務を特定できないとして、職務発明とする元雇用主側の主張を退けた。■詳細及び留意点
【詳細】
高級人民法院は、日昭公司(第一審原告・上訴人)と岑杰英(第一審被告・被上訴人)の間に労使関係があったことを認めた上で、岑杰英が日昭公司に勤務時の具体的な職務について、「職務発明における職務行為の解釈について過度に広げることはできず、関連技術等の創造や改良など研究開発に関係する職務又は職責を有する従業員であり、このような従業員が完成した関連発明創造は職責を履行して発明を完成したといえる」とし、「仮に日昭公司の岑杰英が在職中に機械設備の設置に職責を有していたとの主張について成立可能であったとしても、通常の機械設備を設置する人の職責と、専門家として負う研究開発設計の技術人員の職責は同一ではなく、発明創造の完成は機械設備を設置する人員の職責の範囲に属さず、その職務行為にも属さない」として、「日昭公司は未だ、岑杰英が在職中の本職務が関連技術の研究開発であったことについて何ら証拠を提出できていないから、ZL200320118153.3の特許は、岑杰英が日昭公司に在職中に負っていた職務行為に関連する職務発明には該当しない」と判断した。
参考(广東省高級人民法院民事判決2006年7月31日付(2006)粤高法民三終字第74号より抜粋):
首先,关于本案专利是否与岑杰英在日昭公司原承担的本职工作有关的问题。岑杰英于2003年4月18日应聘到日昭公司工作,于2003年7月离职,以上事实有日昭公司所提供的岑杰英2003年4-7月份的工资单为证,双方也均予承认,故可确认岑杰英与日昭公司在2003年4月-7月期间存在劳动关系。至于岑杰英在日昭公司的具体工作职务,日昭公司称公司并未具体为岑杰英安排职务,岑杰英实际主要负责技术安装工作,并以岑杰英一张借款理由为“出差电站安装”的借支单为证;而岑杰英则称其在日昭公司主要从事烧烟除尘工作。本院认为,对于职务发明中“本职工作”的理解,不能过于广泛,只有职工负有与创造、改进有关技术等研发工作有关的职务或职责的情况下,该职工所作出的有关发明创造才有可能属于履行其职责、完成其本职工作。在本案中,姑且不论日昭公司仅有一张借款理由为“出差电站安装”的借支单只能证明岑杰英曾经因出差电站安装而借款的事实,而不足以证明岑杰英的本职工作就是负责技术安装;即使日昭公司关于岑杰英在单位中负责技术安装工作的主张可以成立,作为一名普通技术安装人员的职责与作为一名专门负责研发、设计的技术人员的职责也是不一样的,完成一项发明创造并不属于普通技术安装人员的职责范围、不属于其本职工作。故在日昭公司未能提供任何关于岑杰英在本单位的本职工作就是研发有关技术的证据的情况下,本院认为,本案ZL 200320118153.3号专利并不属于与岑杰英在日昭公司原承担的本职工作有关的职务发明。
其次,关于本案所涉专利是否属于与岑杰英在执行本单位分配的专门任务有关的发明创造。日昭公司主张岑杰英是在执行江苏徐市、无锡安装电站的工作中掌握了日昭公司拥有的ZL03226611.1号专利技术,而该在先专利全面覆盖了本案专利的全部技术特征。本院认为,从日昭公司所提交的证据来看,其未能提交任何有关日昭公司组织研发或改进本案专利技术的立项计划、会议材料、进展报告等证据,其在一审时提交的证据仅仅是岑杰英出差电站安装时的借支单。而该借支单仅能反映岑杰英因出差安装电站而借款的事实,不能反映岑杰英出差安装电站的具体任务如何、与本案专利有何种关系。日昭公司于二审时补充提交了照片和6份报销单据。然而,该两证据一直留存于日昭公司内部,日昭公司本应在举证期限内向法院提供,其未有合理理由超过举证期限方予提交,不属于新的证据;而且,从该两证据的内容来看,照片不能反映其所拍摄的是何时何地的电站,也不能反映该电站所涉技术的内容;费用报销单据也仅是反映由岑杰英经手报销工程用料、差旅费等事实,不能证明日昭公司分配给岑杰英出差江苏徐市、无锡安装电站的具体任务涉及的就是与本案专利有关的工作。至于日昭公司主张岑杰英是从公司所分配的安装电站的实际工作任务中获取了日昭公司拥有的ZL03226611.1号专利技术,并在参考该专利技术方完成本案ZL 200320118153.3号专利发明成果的问题,本院认为,第一,本案日昭公司无论在一审还是二审均明确本案是专利权权属纠纷,而非专利侵权纠纷,日昭公司并明确选择其主张本案专利是“执行本单位任务所完成的发明创造”类型的职务发明,而非“主要利用本单位物质技术条件所完成的发明创造”,故本案ZL 200320118153.3号专利是否全面覆盖了在先ZL03226611.1号专利的特征与本案无关,也并非本案的审理范围。第二,即使日昭公司分配给岑杰英出差安装电站的工作涉及ZL03226611.1号专利技术,也不等同于日昭公司专门分配给岑杰英创造zL200320118153.3号专利技术的任务。况且,由于ZL03226611.1号专利技术作为专利已经公开,该专利的内容并不需要通过日昭公司才能接触到。故日昭公司以其分配给岑杰英的电站安装工作能接触到ZL03226611.1号专利技术内容为由进而主张日昭公司享有ZL200320118153.3号专利技术,缺乏事实依据和法律依据。此外,ZL03226611.1号专利证书上明确表明该专利的专利权人是罗志昭,在未有任何证据证明专利权人罗志昭将该专利转让或授权日昭公司使用的情况下,日昭公司主张自己拥有ZL03226611.1号专利,并进而主张自己对本案ZL200320118153.3号专利的权利,不能成立,本院不予采纳。
(参考訳)
第一に、本件特許が岑杰英の日昭公司における職務行為であるか否かという問題について。岑杰英が2003年4月18日に日昭公司の業務に従事し、2003年7月に離職したとの事実は、日昭公司が提出した岑杰英の2003年4月―7月分の給料明細に証拠として存在し、双方共に承認しているから、岑杰英と日昭公司は2003年4月-7月の期間労使関係にあったと認めることができる。岑杰英の日昭公司に勤務時の具体的な職務について、日昭公司は岑杰英に具体的な職務を割り振っておらず、岑杰英が実際に機械設備の設置に職責を主に負っていると主張し、岑杰英の借金の理由が「発電所設置の出張」であるとする前借り証一通をもって証拠とする一方、岑杰英は日昭公司在職中に排煙塵除去業務に主に従事していたと主張している。職務発明における職務行為の解釈について過度に広げることはできず、関連技術等の創造や改良など研究開発に関係する職務又は職責を有する従業員であり、このような従業員が完成した関連発明創造は職責を履行して発明を完成したといえる。本案において、日昭公司が所有する借金理由が「発電所設置の出張」とする前借り証は、かつて岑杰英が発電所設置の出張により前借りした事実を証明するものであり、岑杰英の本職務が機械設備の設置について職責を負っていることを証明するには足りない。仮に日昭公司の岑杰英が在職中に機械設備の設置に職責を有していたとの主張について成立可能でも、通常の機械設備を設置する人の職責と、専門家として負う研究開発設計の技術者の職責は同一ではなく、発明創造の完成は通常の機械設備を設置する人の職責の範囲に属さず、その職務行為にも属さない。日昭公司は未だ、岑杰英が在職中の本職務が関連技術の研究開発であったことについて何ら証拠を提出できていないから、ZL200320118153.3の特許は、岑杰英が日昭公司に在職中に負っていた職務行為に関連する職務発明には該当しない。
次に、本件特許が、岑杰英に割り振られた専門任務に関連する発明創造に該当するかについて。日昭公司は、岑杰英が江蘇省徐市、无錫において発電所を設置する作業中に日昭公司に関するZL03226611.1特許技術を把握し、同先行特許は本件特許の全ての技術的特徴を含んでいると主張している。日昭公司が提出した証拠から分かることは、日昭公司の研究開発組織や本件特許技術の改良の事業計画、会議資料、進捗報告書などの証拠を何ら提出できておらず、第一審で提出した証拠は岑杰英の発電所設置出張の前借り証だけである。この前借り証は単に岑杰英が発電所設置の出張により前借りした事実を示すものであり、岑杰英の発電所設置出張の具体的な任務がどのようなものなのか、本件特許がどのような関係にあるのかを示すことはできていない。日昭公司は第二審において写真と6部の領収書を補充提出した。しかし、2つの証拠は日昭公司社内に長い間存在し、日昭公司は挙証期限内に本証拠を当裁判所に提出すべきであるが、挙証期限を超過して提出する合理的理由は存在しないから、新規な証拠として認めない。これら2つの証拠からは、写真からはいつどこで発電所を撮影したのか分からず、発電所に関する技術内容についても分からない。費用精算書も岑杰英の手を経て工事材料や出張諸経費等が精算された事実を示すだけであり、日昭公司が岑杰英に江蘇省徐市、无錫への出張における発電所設置の具体的な任務と本件特許との関連を証明することもできない。岑杰英に割り振った発電所の設置の実際の勤務中に、日昭公司が所有するZL03226611.1号特許技術を取得したうえ、同特許技術を参考にして本件ZL200320118153.3号特許発明を完成させたという日昭公司の主張について、当裁判所は第一に、第一審及び第二審にかかわらず、いずれにおいても本件は権利帰属紛争であり、権利侵害紛争ではないと日昭公司は明確にしており、日昭公司はまた、本件特許は任務遂行により完成した発明創造という類型の職務発明であり、主に職場の物資技術条件を利用して完成した発明創造ではないという主張を明確に選択しており、本件ZL200320118153.3号特許が先行ZL03226611.1号特許技術を全て含んでいるか否かは本件とは無関係であり、本件の審理範囲でもない。第二に、仮に日昭公司が岑杰英に割り当てた発電所設置の出張の任務がZL03226611.1の特許技術に関係するとしても、日昭公司が岑杰英にZL200320118153.3号特許技術を生み出す任務を割り当てたと扱うことはできない。ZL03226611.1号特許は既に公開されており、同特許の内容について、日昭公司を通じて接する必要はない。よって、日昭公司が岑杰英に割り当てた発電所設置業務によってZL03226611.1号特許技術内容に接することができたことを理由に、その上さらに、日昭公司がZL200320118153.3号特許技術を保有すると主張することは、事実にも法律にも基づいていない。この他、ZL03226611.1号特許証書において特許権者は罗志昭であると明記しており、特許権者である罗志昭が同特許権を日昭公司に譲渡し、又は実施許諾したと証明する証拠を何ら保有していない状況では、日昭公司がZL03226611.1号特許を保有し、その上さらに、ZL200320118153.3号特許権に対して自己の権利を主張することは不可能であり、当裁判所は認めない。
【留意事項】
本件では、雇用主側は出張関連の書類のみを提出し、証拠の拡大解釈を行って職務発明であるとの主張を行った。これに対し、裁判所は「職務発明における職務行為の解釈について過度に広げることはでき」ないとして証拠を厳密に検討し、元従業員が完成させた発明は、研究開発に関係する職務又は職責を有する従業員が完成した発明でもなく、従業員に割り振られた専門任務に関連する発明でもないとした。
仮に、職務発明であるものが、証拠不十分で職務発明と認定されなかった場合、技術流出した上に、他者に独占権まで設定されてしまうことになる。このような事態を回避するためには、従業員の職務範囲を明確に規定し、研究開発の経過を記録する発明ノートを用意するなど、職務発明の裁判に備えた対応を行う必要がある。
■ソース
・广東省高級人民法院民事判決2006年7月31日付(2006)粤高法民三終字第74号・中国専利法
■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 根本雅成■協力
北京林達劉知識産権代理事務所■本文書の作成時期
2012.09.13