国別・地域別情報

ホーム 国別・地域別情報 アジア 審決例・判例 特許・実用新案 (中国)無効実用新案権の職務発明報酬の扱いについて

アジア / 審決例・判例


(中国)無効実用新案権の職務発明報酬の扱いについて

2013年07月05日

  • アジア
  • 審決例・判例
  • 特許・実用新案

このコンテンツを印刷する

■概要
本案は、職務発明報酬を巡って職務発明者の翁立克(伊維公司の元従業員、第一審原告・上訴人)が上柴公司(第一審被告・被上訴人)と伊維公司(上柴公司の子会社、第一審被告・上訴人)を訴えたものである。翁立克の職務発明は上柴公司の名義で実用新案出願がなされ、実用新案権が付与されたが、上柴公司と伊維公司の間で同実用新案権の譲渡が無償でなされ、その移転登録も行われた。その後、伊維公司は電装公司に実施許諾を行い、ライセンス料を受けとったが、電装公司が請求した無効審判により、同実用新案権は無効になった。
専利法第16条は「発明創造が実施された後はその普及・応用の範囲及び獲得した経済効果に応じて発明者又は考案者に合理的な報酬を与える」と規定し、専利法実施細則第78条は「専利権が付与された機関が、その他の機関または個人にその専利の実施を許諾した場合、取得した使用許諾料の10%を下回らない金額を報酬として発明者または考案者に与えなければならない」と規定することから、伊維公司が受けとった使用料の何%を翁立克に支払うべきかなどについて、争点となった。
■詳細及び留意点

【詳細】

 上海高級人民法院は、外部機関の技術鑑定評価における技術貢献率を妥当とし、伊維公司が受領した使用料のうち30%を職務発明の報酬として翁立克へ支払うべきとした第一審判決を支持し、翁立克の50%かそれ以上とする要求について、第一審は既に30%まで引き上げて翁立克に配慮する一方、翁立克は根拠を示していないとして、退けた。

 また、上柴公司に対する連帯責任について、「第一審法院は、上柴公司が伊維公司と一緒に連帯責任を負うべきではないとの事実や理由を既に十分論述し、翁立克は未だ新しい事実や理由を提出していない」として、翁立克の連帯責任の主張を退けた。

 さらに、無効消滅後も本来の有効期間満了日までを報酬の算定期間に含めることを求める翁立克の主張について、「専利法及び実施細則の規定によれば、発明者又は設計者の報酬としての専利使用料の配分は、実施した特許が既に実現した利益に対する配分であって、期待利益に対する分配を含まない」とし、「上訴人は『報酬を計算する期間』を係争実用新案権の満了する2011年4月まで延長することを要求するが、期待利益の分配の実行を求めるものである」として、上海高級人民法院は退けた。

 

参考(上海市高級人民法院民事判決2008年4月18日付(2008)滬高民三(知)終字第23号より抜粋):

 一审法院委托上海市科技咨询服务中心对涉案技术问题进行鉴定,程序合法,鉴定专家在充分听取各方当事人的意见、全面查阅了各方当事人提供的与鉴定相关的材料,并结合鉴定专家的专业知识与经验,所得出的鉴定结论应予以采信。翁立克称《技术鉴定报告书》与《补充鉴定报告书》不具可靠性和合理性,并无充分的事实与法律依据,本院不予支持。根据专利法实施细则的规定,伊维公司的义务是从许可实施涉案专利收取的使用费纳税后提取不低于10%作为报酬支付给翁立克,一审法院已经将专利使用费提取比例调高到30%,已经给涉案专利设计人翁立克充分的照顾,现翁立克要求将提取比例提高到50%,甚至更高,没有法律依据,本院不予支持。上诉人翁立克的第一条上诉理由不能成立。

 根据财政部、国家税务总局《关于企业所得税若干优惠政策的通知》(财税[1994]001)的规定,企业事业单位进行技术转让,以及在技术转让过程中发生的与技术转让有关的技术咨询、技术服务、技术培训的所得,年净收入在30万元以下的,暂免征收所得税。但其前提条件是要经税务机关审核。根据财政部、国家税务总局《关于贯彻落实<中共中央国务院关于加强技术创新,发展高科技,实现产业化的决定>有关税收问题的通知》(财税字[1999]273号)的规定,对单位和个人(包括外商投资企业、外商投资设立的研究开发中心、外国企业和外籍个人)从事技术转让、技术开发业务和与之相关的技术咨询、技术服务业务取得的收入,免征营业税。但免税必须经过审批程序:纳税人从事技术转让、开发业务申请免征营业税时,须持技术转让、开发的书面合同,到纳税人所在地省级科技主管部门进行认定,再持有关的书面合同和科技主管部门审核意见证明报当地省级主管税务机关审核。翁立克并未提供其所称免税事项所涉及的审核方面的证据;况且,即使如翁立克所主张,伊维公司享受了相应的税收优惠,考虑到一审法院已经将专利使用费提取比例调高到30%,翁立克以是否纳税以及免税的情况未查清为由,要求增加其专利使用费提取数额的主张,本院亦不予支持。

 一审法院已经充分地论述上柴公司不应当与伊维公司承担连带责任的事实与理由,翁立克并未提出新的事实与理由,上诉人翁立克要求上柴公司应当与伊维公司承担连带责任的主张,本院不予支持。

 按照专利法及其实施细则的规定,作为发明人或者设计人报酬的专利使用费分成,是对实施相应专利已经实现利益的分成,并不包括对期待利益的分成。上诉人要求“计算报酬时间段”应延伸至涉案专利的届满期限2011年4月,以求对预期利益进行分成,没有法律依据,本院不予支持。

 一审判决伊维公司支付翁立克的专利使用费分成,是涉案专利被宣告无效之前的专利使用费分成,该些专利使用费是伊维公司已经实现的涉案专利许可使用费,本案也不存在专利权人伊维公司的恶意给被许可人电装公司造成损失的情形,根据专利法的规定,伊维公司并无义务返还被许可人电装公司在涉案专利权被宣告无效之前已经收取的专利使用费。上诉人伊维公司关于涉案专利权已经无效,伊维公司不应支付相关报酬的上诉理由不能成立。

 一审判决根据本案的具体情况,适当调整专利使用费分成比例,并酌情确定鉴定费分配比例,并未滥用自由裁量权,上诉人伊维公司相应的上诉理由,本院不予支持。

(参考訳)

 第一審法院は上海市科学技術コンサルティングサービスセンターに関連技術問題の鑑定を行うように依頼し、その手続きは合法であり、鑑定専門家は十分に当事者の意見を聴取し、当事者が提供した鑑定に関する資料を全て調査し、さらに専門家の専門知識や経験に基づいているから、得られた鑑定の結論は信用できる。《翁立克は技術鑑定報告書》及び《補充鑑定報告書》が信頼性も合理性もないと述べているが、事実にも法律にも基づいておらず、当裁判所は支持しない。専利法実施細則の規定によれば、伊維公司の義務は係争中の実用新案権の実施許可として徴収した使用料支払金額の10%を下回らない額を翁立克に支払う報酬として徴収することであるが、第一審法院はすでに実用新案使用料の受取率を30%まで引き上げ、既に係争中の実用新案発明者である翁立克に配慮しており、翁立克による受取率を50%まで引き上げ、更に高くする要求には法的根拠がなく、当裁判所は支持しない。上訴人翁立克の第一条の上訴理由は成立しない。

 中国財務省、国家税務総局による《企業所得税に関する若干の優遇政策通知》(財税[1994]001)の規定では、企業や公共機関が技術移転を行い、及び技術移転の過程において生じる技術移転に関係するコンサルティング、技術サービス、技術指導による所得は、年間純利益が30万元以下である場合、暫く所得税の徴収は免除される。ただし、その前提条件として、税務機関の審査批准を得るべきである。財務省、国家税務総局による《「技術革新の強化、ハイテク技術の発展、産業化実現に関する中共中央国務院の決定」の徹底的な執行に係る税収問題に関する通知》(財税字[1999]273号)の規定では、機関及び個人(外商投資企業、外商投資企業が設立した研究開発センター、外国企業及び外国籍個人を含む)に対し、技術移転、技術開発業務及び関連する技術コンサルティング、技術サービスに従事して得た収入には営業税を免除するとする。しかし、免税は承認審査手続きを経なければならない。技術移転や開発に従事する納税者が営業税の免税申請を行うときは、技術移転及び開発の契約書の認定を行う納税者所在の地方自治体の科学技術主管部門に持参し、次に、関連する契約書及び科学技術部門主管部門の審査意見証明報告の審査を行う当地の自治体の主管税務機関に持参する。翁立克は申立の免税事項に関係する審査の証拠を未だ提出していない。また、たとえ翁立克が主張するように、伊維公司が相当の税収優遇を享受していたとしても、第一審法院が既に実用新案使用料の受取率を30%まで高めていることを考慮すれば、翁立克の納税又は免税の状況であるかが未だ明らかになっていないから、その実用新案使用料受取率増加を求めるとの主張を、当裁判所は支持できない。

 第一審法院は、上柴公司が伊維公司との連帯責任を負うべきではないとの事実や理由を既に十分論述し、翁立克は未だ新しい事実や理由を提出していないから、上訴人翁立克の上柴公司と伊維公司は連帯責任を負うとの主張を、当裁判所は支持しない。

 専利法及び実施細則の規定によれば、発明者又は設計者の報酬としての専利使用料の配分は、実施した専利が既に実現した利益に対する配分であって、期待利益に対する分配を含まない。上訴人は「報酬を計算する期間」を係争実用新案の満了する2011年4月まで延長することを要求するが、期待利益の分配の実行を求めるものであり、法律に基づいておらず、当裁判所は支持しない。

 第一審判決における伊維公司が翁立克に支払うべき実用新案使用料の配分は係争実用新案無効宣告がされる前の使用料の分配であり、この使用料は伊維公司が既に実現した係争実用新案使用許可費用で、本案でも実用新案権者の伊維公司の悪意によりライセンシーの電装公司が損失を被るという状況は存在しておらず、専利法の規定によれば、伊維公司はライセンシーの電装公司に、係争実用新案権が無効審判が請求される前に既に受けとっていた実用新案使用料を返還する義務はない。上訴人伊維公司は係争実用新案権が既に無効であることに関し、伊維公司は関連する報酬を支払うべきではないとの上訴理由は成立しない。

 第一審判決は本案の具体的状況に基づき、実用新案使用料受取率を適切に調整し、鑑定の費用配分比率を斟酌して確定し、自由裁量権を乱用していないから、上訴人伊維公司の上訴理由を、当裁判所は支持しない。

 

【留意事項】

 職務発明者は、職務発明の譲渡の対価やライセンス収入の一部を報酬として受けとることが法律上認められている。本案では、外部機関が本件実用新案の技術貢献率を鑑定し、それを斟酌しながら職務発明報酬の割合の水準を導く構図となっている。

 このような鑑定評価の割合の妥当性についての判断は難しく、上海高級人民法院も「その手続きは合法であり、鑑定専門家は十分に当事者の意見を聴取し、当事者が提供した鑑定に関する資料を全て調査し、さらに専門家の専門知識や経験に基づいているから」信用できるとしており、鑑定評価の手続に不備があるか否かという観点で鑑定の妥当性を判断しており、内容そのものについて評価しているようには見えない。職務発明の報酬については、事前に報酬規程を整備しておくことが最善の策であろう。

 なお、専利権が無効になる前に受領した使用料は原則返還しなくて良いため(専利法第47条)、その使用料に基づく職務発明報酬の支払義務も免れない点に注意を要する。

■ソース
・上海市高級人民法院民事判決2008年4月18日付(2008)滬高民三(知)終字第23号
・中国専利法
・中国専利法実施細則
■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 根本雅成
■協力
北京林達劉知識産権代理事務所
■本文書の作成時期

2012.09.03

■関連キーワード