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(中国)機能限定で記載された請求項が明細書に支持されているか否かに関する事例

2013年06月28日

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■概要
国家知識産権局専利覆審委員会(日本の「審判部」に相当。以下「審判部」という)合議体は、当業者は通常の技術常識に基づいて、「活性化したT細胞の増殖を抑制する・・・」という機能を有するモノクローナル抗体が、「移植片対宿主反応及び免疫拒絶反応を治療する」という課題を解決できることを合理的に予期し得るため、請求項1記載の発明は明細書に支持されている、と認定し、拒絶査定を取消した(第39218号審決)。
■詳細及び留意点

【詳細】

本事件は、免疫性疾病治療用医薬組成物に関する発明に関し、審査官が「請求項が保護を求める範囲は明細書に明瞭に記載されていない。」として下した拒絶査定を不服として審判請求した事件である。本事件の争点は、「機能限定で記載した請求項が明細書に支持されているか否か」である。

 

国家知識産権局が策定した審査指南(日本の「審査基準」に相当。以下、「審査基準」という)には、明細書の実施例に、請求項で限定した機能を発揮するいくつかの具体的な実施態様が列挙され、かつ当業者が、先行技術に基づいてこの機能が明細書に記載されていないその他の代替方式でも実現できることを合理的に予期できれば、請求項において機能限定の形で概括することが許容され、明細書に支持されていると認定すべきである、旨規定されている(中国特許審査基準第2部分第2章3.2.1の関連規定参照)。

 

 本願発明は、免疫性疾病治療用医薬組成物に関し、拒絶査定された請求項1に記載の発明は、以下のとおりである。

「AILIMに結合する抗体、或いはその一部を用いて医薬組成物を製造する用途であって、前記医薬組成物は、移植片対宿主反応及び、移植片対宿主反応或いは組織若しくは臓器の移植に伴う免疫拒絶を抑制、治療或いは予防し、

前記抗体或いはその一部は、活性化したT細胞の増殖を抑制し、

或いは、活性化したT細胞によるサイトカインの産生を抑制する活性を有する前記用途。」

 

 審査官は、「請求項1において『AILIMに結合する』及び『活性化したT細胞の増殖を抑制する・・・』は、全て、特定の実施態様(即ちB10.5ハイブリドーマが産生する抗体)を通じて実現される『機能的限定』であるが、本願明細書は、特定の抗マウスAILIMモノクローナル抗体B10.5が『活性化したT細胞の増殖を抑制する・・・』こと、かつ『移植片対宿主反応及び免疫拒絶を治療する』という課題を解決できることを証明しただけに過ぎない。当業者は、『活性化したT細胞の増殖を抑制する・・・』ことさえできれば、本願が示した課題を解決できることを確信できず、また前記特定の実施態様以外に、どのような『AILIMに結合する抗体又はその一部』が『活性化したT細胞の増殖を抑制する・・・』ことができ、かつ本願が示した課題を解決できるかを確定することができない。実施例では、他の抗体の利用も示されているものの、図面等を参酌しても抗体の対応関係が不明瞭であるため、その活性を証明することができない。したがって、請求項1記載の発明は明細書に支持されていない。」として拒絶査定を下した。

 

出願人は、この拒絶査定を不服として審判請求した。審判請求段階で、出願人は請求項1に記載された抗体をモノクローナル抗体に限定し、かつ抗体の一部を『F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、sFv、dsFv或いはdAb』と限定したが、前置審査において審査官は、「請求項1は依然として明細書に支持されていない。」との理由で拒絶査定を維持した。

 

 出願人は、請求項1を更に補正し、dAvを削除し、かつ抗体の一部を『F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、sFv或いはdsFv』と限定した。

 

審判部合議体は、「図面における抗体の対応関係は不明瞭であるが、T細胞によるサイトカインの産生を抑制できる抗AILIMモノクローナル抗体が1つだけでないことは証明されている。実施例は、抗ラット、抗マウス、抗ヒトのAILIMモノクローナル抗体がいずれも活性化したT細胞の増殖を抑制するか、又はT細胞によるサイトカインの産生を抑制できること、即ち、抗AILIMモノクローナル抗体によるT細胞の抑制活性を全体的に証明している。また、明細書において全ての抗AILIMモノクローナル抗体が移植片対宿主反応及び免疫拒絶効果を有することまでは証明していないが、当業者であれば「活性化したT細胞の増殖を抑制する」機能を有するモノクローナル抗体が必ず一定の治療作用を有することを予期できる。さらに、補正後の請求項1で限定したモノクローナル抗体の一部は抗体活性を保留するフラグメントであり、抗体と同一の機能を有することが予期できる。したがって補正後の請求項1記載の発明は明細書に支持されている。」と認定し、拒絶査定を取消した(第39218号審決)。

 

参考(中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2012年1月12日付第39218号より抜粋):

如果说明书实施例中例举了几种具体实施方式可以完成权利要求中限定的功能、并且所属技术领域的技术人员可以根据现有技术合理预期此功能还可以采用说明书中未提到的其他替代方式来完成、则允许权利要求中采用功能性限定的方式加以概括、这样的权利要求可以得到说明书的支持。

 

本申请所制备的抗大鼠、抗小鼠、抗人的AILIM单克隆抗体都具有抑制活化的T细胞增殖或抑制T细胞产生的细胞因子的活性。关于抗体部分、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv(抗体可变区片段)、sFv、dsFv(二硫键稳定的Fv)均为保留了抗体活性的片段、本领域技术人员可以合理预期这些片段可以和单克隆抗体一样与AILIM结合并进一步发挥治疗功能。基于上述内容、所属领域技术人员完全可以概括出与AILIM结合的单克隆抗体或其一部分可以具有抑制T细胞增殖或产生细胞因子、进而阻止、治疗或预防移植物抗宿主反应及其相伴的免疫排斥、从而解决本发明的技术问题。

 

合议组认为:(1)・・・移植物抗宿主反应以及与移植物抗宿主反应或者组织或器官的移植相伴的免疫排斥・・・均是由供体/宿主细胞的活化、即T细胞增殖或T细胞产生细胞因子而引起・・・故具有“抑制活化的T细胞增殖・・・”的功能必然对移植物抗宿主反应和免疫排斥有一定的治疗作用・・・可以合理预期与AILIM结合的单克隆抗体具有“抑制活化的T细胞增殖・・・”的功能。(2)・・・本领域技术人员可通过常规的杂交瘤技术、无需付出创造性劳动就可以获知哪些单抗可以与AILIM结合并具有所述抑制和治疗活性。(3)・・・上述实验结果从整体上证明了抗AILIM单克隆抗体所具有的对T细胞的抑制活性。

 

(日本語訳「明細書の実施例に、請求項で限定した機能を実現できるいくつかの具体的な実施方式が列挙され、かつ当業者が先行技術に基づいてこの機能が明細書に記載されていない他の代替方式で実現できることを合理的に予期できれば、請求項において機能的限定の形で概括することが許容され、このような請求項は明細書に支持される。

 

 本願で製造した抗ラット、抗マウス、抗ヒトのAILIMモノクローナル抗体はいずれも活性化したT細胞の増殖を抑制するか、或いはT細胞によるサイトカインの産生を抑制する活性を有する。抗体部分について、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv(抗体可変部フラグメント)、sFv、dsFv(ジスルフィド結合が安定したFv)は全て抗体活性を保留したフラグメントであり、当業者はこれらのフラグメントがモノクローナル抗体と同様に、AILIMと結合し、かつ治療機能を更に発揮できることを合理的に予期できる。前記内容に基づいて、当業者は、AILIMに結合するモノクローナル抗体或いはその一部は、活性化したT細胞の増殖を抑制するか、或いはサイトカインの産生を抑制することができ、更に移植片対宿主反応及びそれに伴う免疫拒絶を抑制、治療或いは予防し、本願の課題を解決することを、完全に概括することができる。

 

 合議体は、(1)・・・移植片対宿主反応及び、移植片対宿主反応或いは組織或いは臓器の移植に伴う免疫拒絶・・・はドナー/宿主細胞の活性化、即ち、T細胞の増殖或いはT細胞によるサイトカインの産生によって引き起こされるので・・・、“活性化したT細胞の増殖を抑制する・・・”機能は必然的に移植片対宿主反応及び免疫拒絶に対して一定の治療作用を有し・・・AILIMに結合するモノクローナル抗体が“活性化したT細胞の増殖を抑制する・・・”機能を有することは合理的に予期でき、(2)・・・当業者は通常のハイブリドーマ技術で、創造的な労力を要せずに、どのようなモノクローナル抗体がAILIMに結合し、かつ前記抑制及び治療活性を有するかを理解でき、(3)・・・前記実験結果は、抗AILIMモノクローナル抗体が有するT細胞に対する抑制活性を全体的に証明していると、認定する。」)

 

【留意事項】

 本件は、審査拒絶の段階から2回の補正を行って減縮し、最終的に登録された事件であるが、審判部合議体の認定を見る限り、減縮しなくとも登録査定された可能性も否定できない。早期権利化と権利範囲確保との両立の難しさを示す事案である。ちなみに本願の出願人は日本企業である。

■ソース
・中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2012年1月12日付第39218号
http://www.sipo-reexam.gov.cn ・中国特許出願第200610100648.1号(公告番号CN101028519B)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.17

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