アジア / 審決例・判例
(中国)類似商品区分を超えて商品の類似性を判断した事例‐京セラ商標事件
2013年06月25日
■概要
本案は、同じ漢字で構成された異なる指定商品区分の商標について異議申立を行ったところ、申立が却下されたため、これを不服として中国商標審判部に不服審判を請求し、「類似商品及び役務の区分表」の区分を越えて、商品が類似するとする異議申立が認められた事案である。■詳細及び留意点
【詳細】
本件は、1994年に中国でPHS(Personal Handy-phone System)及びその付属品、電子写真複写機等の商品において第862585号「京瓷(京セラ)」商標(以下、「引例商標」という。)を出願、登録している京セラ株式会社(以下、「請求人」という。)が、第4064109号「京瓷」商標(指定商品:複写機用トナー。以下、「異議申立された商標」という。)について、「他人の同一の商品又は類似の商品について既に登録され又は方式審査を受けた商標と同一又は類似する」(商標法第28条)ことを理由に異議申立を行なったが、申立が却下された(中国商標局異議裁定2010年商標第10835号)ため、これを不服として、2010年07月06日に中国商標審判部(中国語「商标评审委员会」)に対し、不服審判を請求した案件である。
異議申立却下の裁定を不服とした請求人は2010年7月6日に、中国商標審判部に対して不服審判を請求した。不服審判において、請求人は、請求人がグローバルに電子部品、半導体部品、通信機器、消費製品等を提供しており、中国で製造及び販売の拠点を20ヶ所以上設け、中国では数多くのメディアが、京セラの中国における投資について報道していること、また、異議申立された商標が出願される以前に、請求人は多数のメディアを通じてPHSとその付属品、及び電子写真複写機商品において「京瓷」及び「KYOCERA」商標の広範な宣伝を行なっており、「京瓷」と「KYOCERA」商標は市場で高い名声を得、広く関連する公衆に知られていることを主張した。また、請求人は、異議申立された商標の指定商品(第2類)と引例商標の指定商品(第9類)は商品区分を異にするが、機能、用途において密接に関連し、部品と完成品の関係に属する上、両者は販売ルートや消費対象が重複しており、類似商品に属するとして、異議申立された商標と引例商標は、商標法第28条に規定された、「類似商品において同一又は類似する商標」の使用に該当し、異議申立された商標は登録を許可されるべきではない、と主張した。
これに対し、中国商標審判部は、異議申立された商標は引例商標と同じ漢字「京瓷」で構成されており、異議申立された商標の指定商品である複写機用トナーは、引例商標が登録査定された指定商品である電子写真複写機に必須の付随する消耗品であり、両者は消費対象、使用場所等において同一又は類似する判断した。そして、請求人が提出した証拠によって、異議申立された商標が登録出願されるより以前に、請求人は定期刊行物、広告、展示会などを通じて「京瓷」の複写機に対し大量の宣伝を行なっており、引例商標は電子写真複写機の商品において一定の知名度を有していることは立証されており、この状況にて、異議申立された商標が複写機トナー等の商品に使用された場合、異議申立された商標「京瓷」を有する商品は請求人の商品である、又は請求人京セラと関係があると、消費者は誤解し、商品を誤認したり誤って購入する恐れがあるとして、異議申立された商標と引例商標は商標法第28条が規定する「類似商品についての同一商標」に該当することから、中国商標審判部は異議申立された商標は登録を許可されないものとするとの裁定を下した。
【留意事項】
商標法第28条に基づく異議申立の成立条件は、(i)商標の構成が同一又は類似していること、(ii)商品の構成が類似していることである。本件にいては、いずれの商標も同じ漢字「京瓷」で構成されていたため、(i)は問題とはならず、異議申立された商標の指定商品である複写機用トナーが引例商標の使用商品である電子写真複写機と類似商品であるか否かという点が争点となった。
商標審判部は、通常、「類似商品及び役務の区分表(中国語「类似商品和服务区分表」。以下、「区分表」という)」を参酌して商品の類否判断を行うので、本件も、この通常の判断手法に従い、区分表に照らして類否判断をしていれば、異議申立された商標の指定商品である複写機用トナーは、引例商標の使用商品である電子写真複写機と類似しないと判断されたものと考えられる。
しかし、本件では、請求人が引例商標の知名度と、異議申立された商標の混同誤認を生じるおそれについて立証したことで、商標審判部は「類似商品及び役務の区分表」を超えて、引用商標と異議申立された商標の類似性を認め、商標法第28条を適用して、異議申立された商標の登録を認めないとの判断を下した。
商品の類否判断の際に、商品の知名度や出所混同が生じるおそれについて主張することが理論的でないように感じられるかもしれない。実際、上述したように、通常は、区分表に照らして判断し、区分表を超えて類似を認めることは極めて稀である。しかし、中国においては著名商標(馳名商標)の認定は容易ではなく、一定程度の知名度はあるが、著名にまでは至っていない商標に対する保護が十分ではないことから、近年、商標審理事件においては、いくつかの事件において、(i)引例商標が一定程度の知名度を有していること、(ii)異議申立された商標の商品と引例商標の商品に関連性があること(商品の類似性)、(iii)異議申立された商標と引例商標と高い近似性があり、異議申立された商標が登録され使用されると公衆に誤認を生じる恐れがある(商標の類似性)場合に、「区分表」の区分を越えて商品の類似性を認めるという手法により、第28条を適用し、引用商標の保護を図っている。
したがって、「区分表」の区分を越えている場合であっても、(i)~(iii)を立証できれば、類似する他人の商標(冒認商標等)を取り消すことができる可能性があるので、主張立証してみる価値はある。
■ソース
・中国商標審判部商標異議復審裁定書2012年7月30日付商評字(2012)第32335号・中国商標法
■本文書の作成者
中科専利商標代理有限責任公司■協力
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻■本文書の作成時期
2013.01.31