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(韓国)植物関連発明において明細書の記載要件に関する再現性を厳格に適用した事例
2013年06月18日
■概要
大法院は、特許法第42条第3項の容易実施の記載要件に関して、「平均的技術者が当該発明を明細書記載に基づいて出願時の技術水準から特殊な知識を付加しなくてもその発明を正確に理解できると同時に再現できる程度の説明が必要である」と判示した。本件事案の植物関連発明について、本件明細書の記載に関して、「その次の過程である芽接による育種過程が容易に実施できるとしても、本件の出願発明全体は、その技術分野における通常の知識を有する者が容易に再現できる程度まで記載されたといえない」と判断し、原審審決を支持して上告を棄却した事例である。
■詳細及び留意点
【詳細】
(1) 本件出願発明は、「果汁の糖度が13.4~14.5°であり、果形が円形であり、樹勢が直立性であり、果皮が鮮紅色(PANTONE色度指数12-0714に該当)であり、隔年結果性がなくて、平均化数が8~9個であり、花の大きさは中位であり、芽接ぎ又は椄木によって無性繁殖可能な新高由来の梨新品種に属する植物」に関するものである。
本件において大法院は、記載要件に関して、次のように判示している。
特許法第42条第2項は、「特許出願書には、『1.発明の名称、2.図面の簡単な説明、3.発明の詳細な説明、4.特許請求の範囲』を記載した明細書及び必要な図面を添付しなければならない。」と規定し、その第3項は、「第2項第3号の発明の詳細な説明にはその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる程度までその発明の目的、構成、作用及び効果を記載しなければならない。」と規定しているところ、これはその出願に関する発明の属する技術分野における通常程度の技術的理解力を有する者、すなわち平均的技術者が当該発明を明細書記載に基づいて出願時の技術水準から特殊な知識を付加しなくてもその発明を正確に理解できると同時に再現できる程度の説明が必要である。
(2) 本件において大法院は、原審判決理由を検討し、「梨新品種に属する植物の出願発明を実施するためには、必ずこの事件の出願発明と同じ特徴を有する突然変異が起こった梨の木がなければならず、その後その梨の木の枝又は梨の木の芽を用いて芽接により育種することでその目的を達成することができるが、出願発明の明細書にはその始めとなった梨の木と同じ特徴を有する梨の木の枝を突然変異させる過程に関する記載がなく、また自然状態でそのような突然変異が生じる可能性が極めて稀であることは自明であるので、その次の過程である芽接による育種過程が容易に実施できるとしても、出願発明全体は、その技術分野における通常の知識を有する者が容易に再現できる程度まで記載されたと言えなく、結局出願発明はその明細書の記載不備により特許法第42条第3項によって特許を受けることができない」とした原審判決は正当であると判断し、上告を棄却した。
(3) なお、本件において大法院は、「出願発明の明細書にはその技術分野の平均的技術者が出願発明の結果物を再現できるようにその過程が記載されなければならず、植物発明であってもその結果物である植物又は植物素材を寄託することにより明細書の記載を補充又は代替することはできない」と判断しているが、この判断は、下記の【留意事項】に記載するように現時点の実務及び審査基準とは合わない。
参考(大法院判決 1997年7月25日付宣告96후2531【拒絶査定(特)】より抜粋):
1. 특허법 제42조 제2항은 “특허출원서에는 ‘1. 발명의 명칭, 2. 도면의 간단한 설명, 3. 발명의 상세한 설명, 4. 특허청구의 범위’를 기재한 명세서 및 필요한 도면을 첨부하여야 한다.”고 규정하고 있고, 그 제3항은 ” 제2항 제3호의 발명의 상세한 설명에는 그 발명이 속하는 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자가 용이하게 실시할 수 있을 정도로 그 발명의 목적, 구성, 작용 및 효과를 기재하여야 한다.”고 규정하고 있는바, 이는 그 출원에 관한 발명이 속하는 기술분야에서 보통 정도의 기술적 이해력을 가진 자, 즉 평균적 기술자가 당해 발명을 명세서 기재에 기하여 출원시의 기술수준으로 보아 특수한 지식을 부가하지 않고서도 그 발명을 정확하게 이해할 수 있고 동시에 재현할 수 있는 정도의 설명이 필요하다 고 할 것이다(대법원 1996. 1. 26. 선고 94후1459 판결 참조).
2. 원심심결 이유를 기록과 관련 법규에 비추어 살펴보면, 원심이, 배 신품종에 속하는 식물에 관한 이 사건 출원발명을 실시하기 위하여는 반드시 이 사건 출원발명에서와 같은 특징을 가진 돌연변이가 일어난 배나무가 있어야 하고 그 다음 그 배나무 가지 또는 배나무의 눈을 이용하여 아접에 의하여 육종함으로써 그 목적을 달성할 수 있는 것인바, 이 사건 출원발명의 명세서에는 그 출발이 된 배나무와 같은 특징을 가지고 있는 배나무 가지를 돌연변이시키는 과정에 대한 기재가 없고, 또 자연상태에서 그러한 돌연변이가 생길 가능성이 극히 희박하다는 점은 자명하므로, 그 다음의 과정인 아접에 의한 육종과정이 용이하게 실시할 수 있다고 하더라도 이 사건 출원발명 전체는 그 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자가 용이하게 재현할 수 있을 정도로 기재되었다고 할 수 없어 결국 이 사건 출원발명은 그 명세서의 기재불비로 인하여 특허법 제42조 제3항에 의하여 특허받을 수 없다 고 한 조치는 정당하고, 거기에 상고이유로 지적하는 법리오해나 심리미진 등의 위법이 없다.
3. 출원발명의 명세서에는 그 기술분야의 평균적 기술자가 출원발명의 결과물을 재현할 수 있도록 그 과정이 기재되어 있어야 하는 것이고, 식물발명이라 하여 그 결과물인 식물 또는 식물소재를 기탁함으로써 명세서의 기재를 보충하거나 그것에 대체할 수도 없는 것이다. 상고이유의 주장은 이유 없다.
(日本語訳「1. 特許法第42条第2項は、「特許出願書には、『1.発明の名称、2.図面の簡単な説明、3.発明の詳細な説明、4.特許請求の範囲』を記載した明細書及び必要な図面を添付しなければならない。」と規定し、その第3項は、「第2項第3号の発明の詳細な説明にはその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる程度までその発明の目的、構成、作用及び効果を記載しなければならない。」と規定しているところ、これは、その出願に関する発明の属する技術分野における通常程度の技術的理解力を有する者、すなわち平均的技術者が当該発明を明細書記載に基づいて出願時の技術水準から特殊な知識を付加しなくてもその発明を正確に理解できると同時に再現できるまでの説明が必要であるといえる(大法院判決1996年1月26日付宣告94후1459参照)。
2. 原審審決理由を記録及び関連法規に照らして検討すると、原審において、梨新品種に属する植物の出願発明を実施するためには、必ずこの事件の出願発明と同じ特徴を有する突然変異が起こった梨の木がなければならず、その後その梨の木の枝又は梨の木の芽を用いて芽接により育種することでその目的を達成することができるが、この事件の出願発明の明細書にはその始めとなった梨の木と同じ特徴を有する梨の木の枝を突然変異させる過程に関する記載がなく、また自然状態でそのような突然変異が生じる可能性が極めて稀であることは自明であるので、その次の過程である芽接による育種過程が容易に実施できるとしても、この事件の出願発明全体はその技術分野における通常の知識を有する者が容易に再現できる程度まで記載されたと言えなく、結局この事件の出願発明はその明細書の記載不備により特許法第42条第3項によって特許を受けることができない、とした措置は正当であり、更に上告理由として指摘する法理誤解や審理未尽などの違法はない。
3. 出願発明の明細書にはその技術分野の平均的技術者が出願発明の結果物を再現できるようにその過程が記載されなければならず、植物発明であってもその結果物である植物又は植物素材を寄託することにより明細書の記載を補充又は代替することはできない。上告理由の主張は理由がない。」)
【留意事項】
この判決は、植物発明に関して特許法第42条第2項で規定している当業者の容易実施に関する明細書の記載要件を明確にした点でその意味がある。植物発明において容易実施は、その発明を正確に理解することができることと同時に再現できる程度の説明を要求していて、再現の意味は当業者が同一の育種素材を用いて同一の育種過程を繰返しすると確実に同一の変種植物を再現させることができるという意味で、このような反復再現性を有するためには必ず、最初段階として本件出願発明と同じ特徴を有する突然変異が起こった変種植物を得ることができなければならず、その後の段階としてその変異を固定・選抜し後代まで伝達する過程の全てが可能でなければならないことを意味する。
本件事案においては、植物に関する本件出願発明を実施するためには、必ず本件出願発明と同じ特徴を有する突然変異が起こった梨の木がなければならないが、梨の木を突然変異させる過程の記載があったとしても、自然状態でその突然変異が生じる可能性が極めて稀であるため、その後の過程である芽接による育種過程が容易に実施できるとしても、本件出願発明全体は、その技術分野における通常の知識を有する者が容易に再現できる程度まで記載されたとは言えず、反復再現性を支えるためには突然変異が起こった梨の木の寄託が必須的であるが、本件事案において大法院は、植物の寄託による反復再現性を認めなかった。また、本件出願発明の出願時には、植物の寄託に関連する特許庁の審査基準がなく、植物発明の反復再現性に関する記載要件を満たす方案が不明確であった。
そして、特許庁は、2006年に種子寄託制度を反映した「植物関連発明の審査基準」を設けて施行することにより、詳細な説明で発明の反復再現ができるように記載することが困難な植物関連発明の場合にも、微生物寄託制度のように種子を寄託することで発明の再現性を備えることができるようにした。すなわち、2006年に導入された植物関連発明の審査基準では、植物関連発明において反復再現性の要件を補完できる一つの手段として対象発明の両親植物又は植物体の種子などを公認寄託機関に寄託する種子寄託制度関連規定及び種子寄託の要件を詳細に明示した。
■ソース
・大法院判決 1997年7月25日付宣告96후2531http://glaw.scourt.go.kr/jbsonw/jsp/jbsonc/jbsonc08.jsp?docID=35129A9B8BBD40EAE0438C01398240EA&courtValue=대법원&caseNum=96후2531
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘■協力
特許法人AIP一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2013.01.08