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(中国)企業名称と他人の先行登録商標が衝突した事件に関する最高人民法院判決-王将餃子事件
2013年06月06日
■概要
本件は、「王将餃子(大連)餐飲有限公司」の企業名称とサービスマークが原告の先行登録商標専用権「王将」を侵害することを理由に民事訴訟が提起された案件であり、最高人民法院により、大連王将餃子がその屋号を目立って使用する行為は原告の登録商標専用権を侵害するとの判決が下され、「王将」を目立って使用する等、原告の登録商標専用権を侵害する行為を停止し、企業名称を規範的に使用すること、及び経済的損失として25万元(約300万円)の賠償が命ぜられた。■詳細及び留意点
【詳細】
本件は、「王将餃子(大連)餐飲有限公司」の企業名称とサービスマークが原告の先行登録商標専用権「王将」を侵害することを理由に民事訴訟が提起された案件である。
2003年12月7日、原告・李恵廷は国際分類第43類の「カフェテリアにおける飲食物の提供、軽食堂における飲食物の提供」等の役務において商標「王将」を登録取得した。
(参考:判決書関連部分)2002年5月29日,李惠廷向国家工商行政管理总局商标局(简称商标局)申请注册“王将”商标,商标局于2002年7月31日受理,并于2003年12月向李惠廷核发了第3192768号商标注册证,……,核定服务项目为第43类,即住所(旅馆、供膳寄宿处);养老院;咖啡馆;自助餐厅;饭店;日间托儿所;旅馆预订;快餐馆;鸡尾酒会服务;会议室出租。
2005年1月6日、日本王将株式会社(以下、「日本王将」という。)は大連餃子「王将餐飲有限公司」を投資設立し、2005年11月18日、その会社名を「王将餃子(大連)餐飲有限公司」(以下、「大連王将餃子」という。)に変更し、営業許可書を取得し、経営範囲は飲食とした。
(参考:判決書関連部分)2005年1月6日,日本王将株式会社投资成立的大连饺子的王将餐饮有限公司获得外商投资企业批准证书,……。2005年11月18日,大连饺子的王将餐饮有限公司经核准变更名称为现名称王将饺子(大连)餐饮有限公司,并领取了营业执照,经营范围为餐饮,……。
2006年9月19日、大連王将餃子と日本王将は原告・李恵廷の商標「王将」に対して無効請求(中国語「争议申请」)を行い、原告・李恵廷は日本王将の先行商標及び屋号を明らかに知った上で抜け駆け登録したと主張したが、中国商標審判部(中国語「商标评审委员会」)は、請求人はその主張を証明できないとし、2008年4月23日に原告の商標「王将」を維持する裁定を下した。その後、大連王将餃子と日本王将は、法定期限内に行政訴訟を提起しなかった。
(参考:判決書関連部分)2006年9月19日,大连王将公司和日本王将株式会社向国家工商行政管理总局商标评审委员会(简称商标评审委员会)提出撤销李惠廷“王将”注册商标的申请,其理由是日本王将株式会社在先成立、享有盛名,李惠廷明知而抢注了日本王将株式会社的商标和字号。商标评审委员会以大连王将公司和日本王将株式会社不能证明其在李惠廷“王将”商标注册之前,先在中国注册了“王将”商号,并在中国公众中具有一定的知名度,也不能证明其在中国境内在先使用“王将”商标为由,认为李惠廷注册“王将”商标的行为不构成不正当手段注册商标,并于2008年4月23日作出了维持李惠廷第3192768号“王将”商标的争议裁定书。大连王将公司和日本王将株式会社对该裁定书未在法定期限内提起行政诉讼。
2007年3月22日、原告・李恵廷は大連市中級人民法院に提訴し、大連王将餃子が「王将」商標専用権を侵害する行為を停止するよう命じる請求を提出した。一審では、大連王将餃子が屋号「王将」を含む企業名称を登録し、「王将」文字のサービスマークを使用する行為は原告・李恵廷の商標権侵害になるとし、原告・李恵廷の登録商標の指定役務項目範囲内で「王将」を含む企業名称の使用を停止し、関わるサービスマークの使用を停止し、経済的損失として25万元(約300万円)賠償すべきとの判決を下した。大連王将餃子はこれを不服とし、遼寧省高級人民法院に上訴を提起したが、二審裁判所は上訴を棄却し、一審判決を維持した。
(参考:判決書関連部分)辽宁省大连市中级人民法院于2008年4月18日作出(2007)大民知初字第20号民事判决,判令:一、大连王将公司于判决生效后十五日内在李惠廷“王将”商标注册证核定服务项目的范围内停止使用含有“王将”字样的企业名称;二、大连王将公司于判决生效后立即停止使用“王将”和“王将”字样的服务标识;三、大连王将公司于判决生效后十五日内赔偿李惠廷经济损失人民币25万元;四、……。大连王将公司不服一审判决,向辽宁省高级人民法院提起上诉。辽宁省高级人民法院二审查明的事实与一审查明的事实一致。辽宁省高级人民法院于2009年4月8日作出(2009)辽民三终字第49号民事判决:驳回上诉,维持原判。
2009年7月10日、大連王将餃子は最高人民法院に再審を請求した(*)。最高人民法院は大連王将餃子がその企業名称を登録使用すること自体は違法ではないと認めた。また、原審判決において事実の認定は基本的に明らかであるものの、法律の適用に誤りがあるので、二審判決を取消す判決を下した。しかしながら、大連王将餃子がその屋号を目立って使用する行為は原告の商標権専用権侵害になるとし、この点に基づき、大連王将餃子にその企業名称を規範的に使用すべきと判決を改めた。経済的損失25万元(約300万円)の判決は維持された。
(参考:判決書関連部分)大连王将公司申请再审,……,大连王将公司请求撤销原审判决,并依法作出判决。原审判决认定事实基本清楚,但适用法律存在错误之处,大连王将公司的再审申请部分理由成立,本院予以支持。……,判决如下:……。二、维持辽宁省大连市中级人民法院(2007)大民知初字第20号民事判决第三、四、五项,即王将饺子(大连)餐饮有限公司于判决生效后十五日内赔偿李惠廷经济损失人民币25万元;……。
三、撤销辽宁省大连市中级人民法院(2007)大民知初字第20号民事判决第一、二项,即王将饺子(大连)餐饮有限公司于判决生效后十五日内在李惠廷“王将”商标注册证核定服务项目的范围内停止使用含有“王将”字样的企业名称;大连王将公司于判决生效后立即停止使用“王将”和“王将”字样的服务标识。四、王将饺子(大连)餐饮有限公司于判决生效后立即规范使用其企业名称,停止突出使用“王将”和“王将”等侵犯李惠廷注册商标专用权的行为。
(*) 中国は現在二審制を採用しており、一つの訴訟に対し、二等級人民法院を経て終審となるが、一定の要件を満たせば、二審の終審後、当事者は再審を請求できる。
【留意事項】
企業名称権と商標権は性質の異なる権利であり、両者は、登録手続きも保護に関する法的根拠も異なる。企業名称を登録しても、当該企業名称をマークとして商標活動において目立って使用できるわけではなく、本件のように、企業名称を同一又は類似商品において目立って使用する行為は他人の登録商標専用権を侵害する行為となるという認定は、三審ともに一致しており、注意を要する(なお、例えば、カタログの最終頁等における企業名・住所・電話番号等の記載は、商標としての使用には当たらないと考えられる)。
ただし、商標侵害になったからといって必ずしも当該企業名称の使用が禁止されたり取り消されたりされるわけではなく(最高人民法院はこの点で判決を改めた)、ケース毎に具体的に判断すべきである。中国市場に進出し、企業名称を商標として使用する計画がある場合、その企業名称は先行登録商標権や先行企業名称と衝突するおそれがないかどうかを事前に調査を行うことが望ましい。
■ソース
・中国商標法・遼寧省高級人民法院民事判決書2009年4月8日付(2009)遼民三終字第49号
・中華人民共和国最高人民法院民事判決2010年6月24日付(2010)民提字第15号
http://ipr.court.gov.cn/zgrmfy/sbq/201210/t20121009_150108.html ・最高人民法院「最高人民法院知的財産権案件年度報告(2011)」
http://www.court.gov.cn/gaofaSearch/search/search.jsp?textfield=%E6%9C%80%E9%AB%98%E4%BA%BA%E6%B0%91%E6%B3%95%E9%99%A2%E7%9F%A5%E8%AF%86%E4%BA%A7%E6%9D%83%E6%A1%88%E4%BB%B6%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E6%8A%A5%E5%91%8A&button=%E6%90%9C%E7%B4%A2
■本文書の作成者
中原信達知識産権代理有限責任公司 副総経理 商標部部長 安翔■協力
北京林達劉知識産権代理事務所一般財団法人比較法研究センター
■本文書の作成時期
2013.02.04