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(韓国)数値限定発明の進歩性に関する判断基準を判示した事例

2013年05月07日

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■概要
大法院は、数値限定発明の場合に、進歩性の認められる他の構成要素が付加されていてその発明における数値限定が補充的な事項に過ぎない場合でなければ、限定された数値範囲の内外で異質的又は顕著な効果の差が生じない限り、単純な数値限定に過ぎないため、その進歩性は否定されると判示した。出願発明が公知の発明と課題が共通であり、数値限定の有無だけが相違する場合には、その数値の採用による顕著な効果などが記載されていなければ、特別な事情がない限り、限定された数値範囲の内外で顕著な効果の差が生じるとは判断し難いと判示した。

比較対象発明が継代培養回数を37回とするのに対して、本件発明は70回以上に限定しているが、顕著な効果の差が無いとして、原審判決を支持した事例である。
■詳細及び留意点

 (1) この事件の第3項に係る発明は、変形されて実質的に無毒性である形態の豚生殖・呼吸障害症候群(PRRS)の生ウイルス及びこれと混合される薬学的に常用可能なキャリアを含有するワクチン組成物において(以下、「構成要素1」という)、 上記の変形されて実質的に無毒性であるウイルスは、PRRSにかかりやすい豚や他の動物に投与させる場合、PRRS疾病の臨床的徴候を誘発させないが、病原体の形態のPRRSに対して動物を免疫化させる免疫反応を誘導することができるように(以下、「構成要素2」という)、サルの腎臓細胞のMA-104の培養物に70回以上通過させたATCC-VR2332ウイルス(以下、「構成要素3」という)からなっているワクチン組成物で構成されている。上記の構成要素1及び2は、比較対象発明である「豚にSIRS(swine infertility and respiratory syndrome)疾病を誘発させるATCC-VR2332を用いて製造された変形生SIRSウイルスATCC-VR2332のワクチン」の構成に対応し、SIRS疾病は、この事件の出願発明のPRRS疾病と同一の意味であり、これに対する免疫反応を誘導するワクチンを製造する構成が同一であるため、両発明の上記の構成は実質的に同一である。ただ、比較対象発明は継代培養の回数が37回であるのに対し、この事件の第3項に係る発明は継代培養の回数が70回以上である点だけが異なる。したがって、本件事案では、数値限定発明における進歩性について争われ、本件の大法院判決では、これに関する法理及び基準が判示されている。

 

 (2) 発明を特定するための事項を数値範囲によって数量的に表現した発明を通称、数値限定発明という。この数値限定発明において、公知発明の構成要素の範囲を数値として限定して表現する方式には、第一に、公知発明の延長線上にあり数値限定の有無だけが相違する場合(いわゆる臨界的意義、即ち、同一種類の効果における顕著な作用効果の差が求められる場合)、第二に、公知発明と数値範囲が重ならず、課題が相違し、有利な効果が異質的な場合(顕著な作用効果の差は求められないが、異質的な効果は求められる場合)、第三に、公知発明に進歩性が認められる新しい構成要素を付加し、公知発明に示されている構成要素に対する数値限定が補充的である場合(異質的又は顕著な作用効果の差が求められない場合)などがある。数値限定発明の進歩性に対して大法院では、数値限定された発明の場合、それがその技術の分野における通常の知識を有する者が適宜選択し実施することができる程度の単純な数値限定であり、その限定された数値範囲の内外で異質的又は顕著な効果の差が生じない限り、進歩性に欠けるものとされている。なお、これまでの大法院の判決等は、数値限定発明において進歩性が認められるためには、数値限定による効果について明細書に記載すべきであると述べている。

 

 (3) 本件の大法院判決は、「ある出願発明が、その出願の前に公知された発明の構成要素の範囲を数値として限定して表現した場合には、その出願発明に、進歩性の認められる他の構成要素が付加されていてその出願発明における数値限定が補充的な事項に過ぎない場合でなければ、その限定された数値範囲の内外で異質的又は顕著な効果の差が生じない限り、その出願発明は、その技術の分野における通常の知識を有する者が通常的かつ繰り返される実験を通じて適宜選択することができる程度の単純な数値限定に過ぎないため、その進歩性は否定され、また、その出願発明が公知発明と共通の課題を扱っていて数値限定の有無だけが相違する場合には、その出願発明の明細書に、限定された数値の採用による顕著な効果などが記載されていなければ、特別な事情がない限り、そのように限定された数値範囲の内外で顕著な効果の差が生じるとは判断し難い」として、従来の一般論について総合的に整理した前提のもとで当該数値限定発明の進歩性を判断した。

 本件判決は、「この事件の出願発明の明細書には、ATCC-VR2332ウイルスをサルの腎臓細胞のMA-104の培養物で継代培養する回数を70回以上に限定することによる顕著な効果を認める何らの記載がなく、又、この事件の出願発明の特許請求の範囲の第10項などでは、その継代培養の回数を70回以上ではなく50回以上に限定しているため、この事件の第3項に係る発明において限定した継代培養の回数の70回以上が、その限定された数値範囲の内外で顕著な効果の差が生じるとは考え難い。したがって、同一趣旨に判断された原審は正当であり」として、この事件の第3項に係る発明の継代培養の回数は、製薬業界における一般的な継代培養の回数の範囲内であるため、この事件の第3項に係る発明は比較対象発明によりその進歩性が否定されるとの原審判決の判断を支持し、上告を棄却した。

 

参考(大法院判決2007年11月16日付宣告2007후1299 【拒絶査定(特)】より抜粋):

 

 어떠한 출원발명이 그 출원 전에 공지된 발명이 가지는 구성요소의 범위를 수치로서 한정하여 표현한 경우에는 그 출원발명에 진보성을 인정할 수 있는 다른 구성요소가 부가되어 있어서 그 출원발명에서의 수치한정이 보충적인 사항에 불과한 것이 아닌 이상, 그 한정된 수치범위 내외에서 이질적이거나 현저한 효과의 차이가 생기지 않는다면 그 출원발명은 그 기술분야에서 통상의 지식을 가진 사람이 통상적이고 반복적인 실험을 통하여 적절히 선택할 수 있는 정도의 단순한 수치한정에 불과하여 진보성이 부정된다고 할 것이고(대법원 1993. 2. 12. 선고 92다40563 판결, 대법원 2005. 4. 15. 선고 2004후448 판결 등 참조), 그 출원발명이 공지된 발명과 과제가 공통되고 수치한정의 유무에서만 차이가 있는 경우에는 그 출원발명의 명세서에 한정된 수치를 채용함에 따른 현저한 효과 등이 기재되어 있지 않다면 특별한 사정이 없는 한 그와 같이 한정한 수치범위 내외에서 현저한 효과의 차이가 생긴다고 보기 어렵다(대법원 1994. 5. 13. 선고 93후657 판결, 대법원 2005. 4. 15. 선고 2004후448 판결 등 참조).

 

 위 법리와 기록에 비추어 살펴보면, 명칭을 불가사의한 돼지의 질병과 관련된 바이러스 물질로 하는 이 사건 출원발명(출원번호 10-1997-708184호)의 특허청구범위 제3항(이하 ‘이 사건 제3항 발명’이라 한다)과 원심 판시의 비교대상발명은 ATCC-VR2332 바이러스를 원숭이 신장세포인 MA-104 배양물에서 계대배양하여 이를 약독화시킨 ATCC-VR2332 바이러스로 PRRS 바이러스 백신을 만든 점에서 같고, 다만 비교대상발명은 계대배양 횟수가 37회인 반면에, 이 사건 제3항 발명은 계대배양 횟수가 70회 이상인 점에서 차이가 있으나, 이 사건 출원발명의 명세서에는 ATCC-VR2332 바이러스를 원숭이 신장세포인 MA-104 배양물에서 계대배양하는 횟수를 70회 이상으로 한정함에 따른 현저한 효과를 인정할 만한 아무런 기재가 없을 뿐만 아니라, 이 사건 출원발명의 특허청구범위 제10항 등에서는 그 계대배양 횟수를 70회 이상이 아닌 50회 이상으로 한정하고 있어서, 이 사건 제3항 발명에서 한정한 계대배양 횟수 70회 이상이 그 한정한 수치범위 내외에서 현저한 효과의 차이가 생긴다고 보기 어렵다. 따라서 같은 취지로 판단한 원심은 정당하고, 거기에 상고이유에서 주장하는 바와 같은 출원발명의 진보성 판단에 관한 법리오해 및 심리미진 등의 위법이 없다.

 

 (日本語訳「ある出願発明が、その出願の前に公知された発明の構成要素の範囲を数値として限定して表現した場合には、その出願発明に、進歩性の認められる他の構成要素が付加されていてその出願発明における数値限定が補充的な事項に過ぎないのでなければ、その限定された数値範囲の内外で異質的又は顕著な効果の差が生じない限り、その出願発明は、その技術の分野における通常の知識を有する者が通常的かつ繰り返される実験を通じて適宜選択することのできる程度の単純な数値限定に過ぎないため、その進歩性は否定され(大法院判決1993年2月12日付宣告94다40563、大法院判決2005年4月15日付宣告2004후448などを参照)、また、その出願発明が公知発明と共通の課題を扱っていて数値限定の有無だけが相違する場合には、その出願発明の明細書に、限定された数値の採用による顕著な効果などが記載されていなければ、特別な事情がない限り、そのように限定された数値範囲の内外で顕著な効果の差が生じるとは判断し難い(大法院判決1994年5月13日付宣告93후657、大法院判決2005年4月15日付宣告2004후448などを参照 )。

 

 上記の法理及び記録に照らしてみると、名称を「不可思議な豚の疾病に係わるウイルス物質」とするこの事件の出願発明(出願番号10-1997-708184号)の特許請求の範囲の第3項(以下、「この事件の第3項に係る発明」という)と原審判示の比較対象発明は、ATCC-VR2332ウイルスをサルの腎臓細胞のMA-104の培養物で継代培養し、これを弱毒化させたATCC-VR2332ウイルスをもってPRRSウイルスのワクチンを製作した点において同一であるが、ただ、比較対象発明は継代培養の回数を37回にしたのに対し、この事件の第3項に係る発明は継代培養の回数を70回以上にした点で相違し、この事件の出願発明の明細書には、ATCC-VR2332ウイルスをサルの腎臓細胞のMA-104の培養物で継代培養する回数を70回以上に限定することによる顕著な効果を認める何らの記載がなく、又、この事件の出願発明の特許請求の範囲の第10項などでは、その継代培養の回数を70回以上ではなく50回以上に限定しているため、この事件の第3項に係る発明において限定した継代培養の回数の70回以上が、その限定された数値範囲の内外で顕著な効果の差が生じるとは考え難い。したがって、同一趣旨に判断された原審は正当であり、そこに上告理由として主張する出願発明の進歩性判断に対する法理誤解及び審理未尽などの違法はない。」)

 

【留意事項】

 この事件の出願発明は、比較対象発明と比べて、継代培養の回数だけが相違し、他の構成は全て同一である発明であるため、上述の数値限定発明の分類の第一にあたる典型的な場合である。本件の大法院判決は、このような場合において進歩性が否定されないためにはその明細書に臨界的意義の認められる顕著な効果を記載すべきであることを、一般論としては初めて明らかにした大法院判例であるという点で意義があり、その法理は、上述の数値限定発明の分類の第二の場合にも適用されるであろう。

 

 本件の大法院判決で判示された、数値限定発明の明細書に記載するように求められる、限定された数値範囲の内外における顕著な効果や異質的な効果の差は、単に、顕著な効果や異質的な効果の差があるという記載だけでは足りず、実験データなどのように公知発明との関係において顕著な効果や異質的な効果の差があることが明白になる程度の記載でなければ、数値限定の効果が明確に記載されているとは認められないという韓国特許における実務的な立場からのものである。

 

 数値限定発明において、その数値の前後における臨界的効果の差については、容易に立証できない場合が多いと考えられるため、臨界的効果を主張しながら数値限定発明の進歩性が認められることはとても難しい。

 

 したがって、数値限定の臨界的効果よりは、従来の発明に比べて異質的な効果を捜し出し、これを明細書に多数記載した上で、実験的に立証した方が、数値限定発明の特許性が認められやすいであろう。

■ソース
大法院判決2007年11月16日付宣告2007후1299
http://glaw.scourt.go.kr/jbsonw/jbsonc08r01.do?docID=48EF4E460CCF51D8E043AC100C6451D8&courtName=대법원&caseNum=2007후1299&pageid=#
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘
■協力
特許法人AIP
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.08

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