国別・地域別情報

ホーム 国別・地域別情報 アジア 審判・訴訟実務 | 審決例・判例 特許・実用新案 (韓国)選択発明の特許要件及び効果の立証に関して判示した事例

アジア / 審判・訴訟実務 | 審決例・判例


(韓国)選択発明の特許要件及び効果の立証に関して判示した事例

2013年05月02日

  • アジア
  • 審判・訴訟実務
  • 審決例・判例
  • 特許・実用新案

このコンテンツを印刷する

■概要
(2021年4月13日訂正:
本記事のソースにおいて「大法院判決2003年4月25日付宣告2001후2740」のURLを記載しておりましたが、リンク切れとなっていたため、URLを修正いたしました。 )

大法院は、選択発明の特許要件として、第一に、先行発明が選択発明を構成する下位概念を具体的に開示していないこと(新規性要件)、第二に、質的に異なる効果を奏しているか、質的な差がなくても量的に顕著な差があること(進歩性要件)があり、選択発明の詳細な説明には、上記の効果を奏することを明確に記載すれば充分であり、もしその効果が疑わしい場合は、具体的な比較実験資料を提出するなどの方法によりその効果を具体的に主張•立証すれば足りると判示した。

出願発明に含まれた化合物のうち、一部化合物の効果のみを記載している一部の対比実験資料のみをもって、出願発明全体の効果を認めた原審判決を破棄した事例である。
■詳細及び留意点

(1) 本件は、選択発明の新規性、進歩性が争われている事例である。

本件の大法院判決は、「先行又は公知発明に構成要件が上位概念として記載されていて前記上位概念に含まれる下位概念のみを構成要件のうちの全部又は一部とする所謂選択発明は、第一に、先行発明が選択発明を構成する下位概念を具体的に開示しておらず、第二に、選択発明に含まれる下位概念の全てが先行発明の有する効果と質的に異なる効果を奏しているか、質的な差がなくても量的に顕著な差がある場合に限って、特許を受けることができる」という基準を提示した。

さらに、選択発明に記載された効果に関しては、「選択発明の詳細な説明には、先行発明に比べて上記のような効果を奏していることを明確に記載すれば充分であり、その効果の顕著性を具体的に確認できる比較実験資料まで記載する必要はなく、もしその効果が疑わしい場合は、出願日以後に出願人が具体的な比較実験資料を提出するなどの方法によりその効果を具体的に主張·立証すれば足りる」として、効果立証の範囲及び内容の基準についても同時に提示した。

 

(2) 本件事案では、選択発明の効果を立証するため追加の立証試験資料の提出が可能であるか否かが争われ、本件大法院判決は、「(明細書に記載の)効果が疑わしい場合は具体的な比較実験資料を提出するなどの方法によりその効果を具体的に立証することができる」と述べて、「原審(特許法院判決)が・・・当該事件の出願発明の出願人が効果を立証するため提出した甲第6号証をその効果の顕著性を判断するための証拠として採択し審理·判断したことは正当である」と判示した。

 

(3) しかし、効果の立証範囲に関して、原審特許法院判決と本件大法院判決は、その判断を異にする。

当該事件の第1項発明は、(3R,4S)-3-[4-(4-フルオロフェニル)-4-ハイドロキシ-ピペリジン-1-イル]-クロマン-4,7-ジオール化合物、その光学異性体及びその薬学的に許容される塩に関するもので、その範囲内にラセミ(3R,4S)-3-[4-(4-フルオロフェニル)-4-ハイドロキシ-ピペリジン-1-イル]-クロマン-4,7-ジオール化合物{下記の化学式(Ⅱ)}、(+)(3R,4S)-3-[4-(4-フルオロフェニル)-4-ハイドロキシ-ピペリジン-1-イル]-クロマン-4,7-ジオール化合物{下記の化学式(Ⅲ)}、(-)(3S,4R)-3-[4-(4-フルオロフェニル)-4-ハイドロキシ-ピペリジン-1-イル]-クロマン-4,7-ジオール化合物{下記の化学式(Ⅳ)}とその薬学的に許容される塩を全て含むものであった。

化学式(Ⅱ)

化学式(Ⅱ)

化学式(Ⅲ)、化学式(Ⅳ)

化学式(Ⅲ)、化学式(Ⅳ)

原審の特許法院判決の当時、提出された甲第6号証の立証実験資料は、(+)異性体である化学式(Ⅲ)に関するものだけであり、当該事件の第1項に含まれる他の化合物群である化学式(Ⅱ)のラセミ体はもちろん、(-)異性体である化学式(Ⅳ)に対しては全く提示されていなかった。しかし、特許法院の判決は、甲第6号証の立証実験資料によると化学式(Ⅲ)の化合物が引用発明に具体的に開示された化合物に比べて経口活性が10倍優れているという事実により、上記の実験資料だけで当該事件の第1項発明全体の効果の顕著性を認めた。

これに対し、本件の大法院判決は、「当該事件の第1項発明は、ラセミ(3S,4R)-3-[4-(4-フルオロフェニル)-4-ハイドロキシ-ピペリジン-1-イル]-クロマン-4,7-ジオール化合物{下記の化学式(Ⅱ)}、(+)(3R,4S)-3-[4-(4-フルオロフェニル)-4-ハイドロキシ-ピペリジン-1-イル]-クロマン-4,7-ジオール化合物{下記の化学式(Ⅲ)}、(-)(3S,4R)-3-[4-(4-フルオロフェニル)-4-ハイドロキシ-ピペリジン-1-イル]-クロマン-4,7-ジオール化合物{下記の化学式(Ⅳ)}とその薬学的に許容される塩を全て含むもので、特許請求範囲第2項は化学式(Ⅱ)化合物、特許請求範囲第3項は化学式(Ⅲ)化合物、特許請求範囲第4項は化学式(Ⅳ)化合物を、特許請求範囲第17項は化学式(I)化合物のタルタレートエタノレート水化物を、その特許請求の範囲として各々記載しているので、少なくとも前記化学式(Ⅱ)、(Ⅲ)、(Ⅳ)の化合物全てが引用発明に比べて顕著な効果がなければ、当該事件の出願発明全体が特許を受けることはできない」旨を判示した。

そして、「甲第6号証は、当該事件の出願発明の全体ではなく化学式(Ⅲ)化合物だけを引用発明のうちこれと類似構造の化合物と比較実験した資料であり、当該事件の出願発明は、詳細な説明に『当該事件の出願発明で望ましい化合物は(±)シス{ラセミ体である化学式(Ⅱ)化合物を指す}及び(+)シス異性体{化学式(Ⅲ)の化合物を指す}で、特に望ましい化合物は(+)(3R,4S)-3-[4-(4-フルオロフェニル)-4-ハイドロキシ-ピペリジン-1-イル]-クロマン-4,7-ジオールタルタレートエタノレート水化物』であると記載することで、当該事件の出願発明に含まれた化合物のうち化学式(Ⅲ)化合物の光学異性体である化学式(Ⅳ)化合物を望ましい化合物から除外していて、実際薬理作用の面から見て光学異性体においては、ある一方の光学異性体の活性が優秀であっても他方の光学異性体の活性まで同時に優秀であるといえなく、むしろ、ある一方の光学異性体の活性が優秀である場合、他方の光学異性体は効果が低下するか副作用を起こすこともあり、当該事件の出願発明の化合物のうち化学式(Ⅳ)の効果が他の化合物に比べて低いこともあり得ることが明らかであるため、化学式(Ⅲ)化合物の効果に関する対比実験資料の甲第6号証をもって化学式(Ⅳ)化合物の効果まで追認するのは困難であるにもかかわらず、原審が当該事件の出願発明の明細書で効果が優れていると記載した化合物(Ⅲ)に対する対比実験資料だけをもって当該事件の出願発明全体の効果を認めたことは、当該事件の出願発明の内容を適切に把握できなかったか、選択発明の効果判断に関する法理の誤解により判決に影響を及ぼす違法を犯したといえなくもない」と判断し、原審判決を破棄して、原審法院に差し戻した。

 

参考(大法院判決2003年4月25日付宣告2001후2740【拒絶査定(特)】より抜粋):

 

2. 대법원의 판단

가. 선행 또는 공지의 발명에 구성요건이 상위개념으로 기재되어 있고 위 상위개념에 포함되는 하위개념만을 구성요건 중의 전부 또는 일부로 하는 이른바 선택발명은, 첫째, 선행발명이 선택발명을 구성하는 하위개념을 구체적으로 개시하지 않고 있으면서, 둘째, 선택발명에 포함되는 하위개념들 모두가 선행발명이 갖는 효과와 질적으로 다른 효과를 갖고 있거나, 질적인 차이가 없더라도 양적으로 현저한 차이가 있는 경우에 한하여 특허를 받을 수 있고, 이 때 선택발명의 상세한 설명에는 선행발명에 비하여 위와 같은 효과가 있음을 명확히 기재하면 충분하고, 그 효과의 현저함을 구체적으로 확인할 수 있는 비교실험자료까지 기재하여야 하는 것은 아니며, 만일 그 효과가 의심스러울 때에는 출원일 이후에 출원인이 구체적인 비교실험자료를 제출하는 등의 방법에 의하여 그 효과를 구체적으로 주장•입증하면 된다.

 

(日本語訳「2.大法院の判断

イ.先行又は公知の発明において構成要件に上位概念として記載されていて前記上位概念に含まれる下位概念のみを構成要件のうちの全部又は一部とする所謂選択発明は、第一に、先行発明が選択発明を構成する下位概念を具体的に開示しておらず、第二に、選択発明に含まれる下位概念の全てが先行発明の有する効果と質的に異なる効果を奏しているか、質的な差がなくても量的に顕著な差がある場合に限って、特許を受けることができ、この際、選択発明の詳細な説明には、先行発明に比べて上記のような効果があることを明確に記載すれば充分であり、その効果の顕著性を具体的に確認できる比較実験資料まで記載する必要はなく、もしその効果が疑わしい場合は、出願日以後に出願人が具体的な比較実験資料を提出するなどの方法によりその効果を具体的に主張·立証すれば足りる。」)

 

【留意事項】

(1) 選択発明において効果の顕著性が実務的によく争われており、その際、出願人などは追加の効果立証実験を提出することがほとんどである。このような効果は、必ず明細書にある程度具体性を持って記載されなければならない。明細書に全く提示されていないか、あるいは推論できない効果に関しては、追加の効果立証実験が排斥されるため、最初の明細書の作成時にこの点に留意しなければならない。

さらに、追加の効果立証実験の具体性に関してもよく争点となっている。まず、対比対象となる従来技術の選定が問題となるが、選択発明が化合物発明である場合は、選択発明の化合物と最も構造的に類似な先行発明の具体的化合物が比較対象に選定するように実務的に取り扱われている。また、立証範囲についても問題となる可能性があり、もし選択発明がそのカテゴリー内に多数の実施態様を含んでいる場合には、これらの個々の実施態様の全てについて、先行発明の具体的化合物と比べた効果の顕著性が立証されるか、少なくとも追認されなければならないと考えられることに特に注意を要する。これを立証するためには、通常は、先行発明の中で具体的に開示されたもののうち最も優秀な実施態様の効果と、選択発明に属する様態のうち最も効果の低いものとを比較して、その顕著性を示す方法がよく用いられる。

 

(2) 本件の大法院判決において出願人が提示した甲第6号証の場合、選択発明の化合物と最も構造的に類似した先行発明の具体化合物が比較対象として選定されたが、選択発明の当該化合物の選定において、その明細書の中で最も優秀な効果を奏しているものを対象としたため、全体としての効果顕著性が認められなかった事例である。もし、その明細書の中で最も効果の低い場合のものを基準として効果の顕著性を立証していたら、前記の出願発明は選択発明としての効果の顕著性が認められる可能性もあったと考えられる。

■ソース
大法院判決2003年4月25日付宣告2001후2740
https://glaw.scourt.go.kr/wsjo/panre/sjo100.do?contId=2059537&q=2001%ED%9B%842740&nq=&w=yegu§ion=yegu_tot&subw=&subsection=&subId=&csq=&groups=&category=&outmax=1
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘
■協力
特許法人AIP
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.08

■関連キーワード