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(中国)権利範囲特定の際の使用状態参考図の取扱いについて
2013年05月02日
■概要
日本でも意匠出願の際に使用状態を示す参考図を願書に添付することがあるが、登録意匠の権利範囲は正面図や背面図等からなる六面図に基づいて特定される。一方、中国では、特許庁審判部は、使用状態を示す参考図を意匠の物品の特定のために利用しており、この点について争点となった。■詳細及び留意点
北京高級人民法院は、専利法第56条第2項*1と専利法実施細則第27条第3項*2の規定に基づき「意匠権は、権利者が提出した図面や写真で明示された意匠製品を以て保護対象を明示し、権利範囲を特定する」とし、審査指南については「専利法や専利法実施細則の規定に基づき、意匠の図面や写真の具体的な機能について詳細に規定する」とした。そして、「専利法や専利法実施細則には、『使用状態参考図』は通常、対象意匠の分野、使用方法、使用場所又は用途を理解し、製品の種類を判断するための図面や写真として使用できない旨の明確な規定はない。一方、審査指南に記載される使用状態参考図の機能に関する上述の規定によれば、意匠の製品の権利範囲を特定し、保護対象を明示する機能も含まれている。」と認定した。その上で、特許庁審判部(中国語「专利复审委员会」)が本意匠の使用状態参考図を本意匠の該当する種類を判断するための図面として使用したことは不当とはいえないと判断された。
*1:現行法では第59条第2項に変更されている。
*2:2010年改正により、現行法では第27条第2項に変更されている。
参考(北京市高級人民法院民事判決2008年5月6日付(2008)高行初字第9号より抜粋):
本院认为,专利复审委员会应依据专利法、专利法实施细则及《审查指南》等法律、法规、部门规章规范其具体行政行为。《审查指南》是国家知识产权局根据专利法、专利法实施细则制定的专利复审委员会等在进行具体行政行为时必须遵循的行为规则,是对专利法、专利法实施细则相关规定的具体细化。专利复审委员会在无效宣告请求审查程序中必须按照《审查指南》的相关规定实施具体行政行为。人民法院在审理行政案件时,参照部门规章。授予专利权的外观设计,应当同申请日以前在国内外出版物上公开发表过的外观设计不相同且不相近似。
专利法第五十六条第二款规定,外观设计专利权的保护范围以表示在图片或者照片中的该外观设计专利产品为准。专利法实施细则第二十七条第三款规定,申请人应当就每件外观设计产品所需要保护的内容提交有关视图或者照片,清楚地显示请求保护的对象。因此,外观设计专利以专利权人提交的图片或者照片中显示的外观设计产品显示保护对象和确定保护范围。《审查指南》是根据专利法、专利法实施细则的规定对外观设计图片或照片的具体作用进行细化的规定,即:作为变化状态的被比设计,应当以其使用状态图所示的外观设计作为与在先设计进行比较的对象,产品的相同或者相近似取决于产品各种使用状态的外观设计的相同或者相近似。“使用状态参考图”通常用于理解被比设计的所属领域、使用方法、使用场所或者用途,以便于确定产品类别。
专利法、专利法实施细则并未明确规定不能将“使用状态参考图”通常用于理解被比设计的所属领域、使用方法、使用场所或者用途,以便于确定产品类别的图片或照片使用,而《审查指南》中对“使用状态参考图”的作用所作上述规定,也包含了确定该外观设计产品保护范围和显示保护对象的作用。因此,《审查指南》中对“使用状态参考图”的上述规定,尚不能认定为违反了专利法、专利法实施细则的相关规定。
本案中,专利复审委员会将本专利“使用状态参考图”作为确定本专利所属类别的图片使用,并未违反《审查指南》的相关规定,其行为并无不妥。
将本专利与在先设计进行比较,两者相近似部分是两者均为扁长方体带床腿的床,床体显示的八个角均为圆角,床面可折叠处形成一“ ”形折线。二者的区别部分是:本专利床体和床腿之间没有在先设计的层状支架结构;本专利床腿为两条形架状,在先设计床腿为四圆柱状;本专利“ ”折线的拐角为直角,折线长边与床的长边平行,在先设计“ ”折线的拐角为圆角,折线长边与床的短边平行。
一般消费者对于本专利在先设计在使用状态下所关注的部位是床面以上部分,而位于床面以下部分的床腿及小于床面的层状支架不容易被一般消费者所关注,故本专利与在先设计在床腿与层状支架部分的区别对于整体视觉效果不会产生显著影响。由于本专利与在先设计“ ”折线的整体形状一致,其拐角形状以及在床面上的方向不同对于本专利和在先设计的使用状态,对一般消费者的视觉效果所产生的影响是细微的,不会对床体的整体视觉效果产生显著影响。因此,本专利与在先设计相近似。
(参考訳)
特許庁審判部は専利法、専利法実施細則及び《審査指南》等の法律、法規、部門の規則規範に基づいて、具体的な行政行為を適正に行う。《審査指南》は、中国特許庁(中国語「国家知识产权局」)が専利法、専利法実施細則に基づいて制定した、特許庁審判部等が具体的に行政行為を実施する際に必ず遵守しなければならない行政行為規則であり、専利法及び専利法実施細則の関係規定を具体的に詳細にしたものである。特許庁審判部は無効審判請求の審理過程において、必ず《審査指南》の関係規定に従って具体的な行政行為を実施しなければならない。人民法院は、行政案件審理中に部門規則を参酌する。意匠権を付与する意匠は、出願日以前に国内外出版物で公開公表済みの意匠と同一でも類似でもないものでなければならない。
専利法第56条第2項は、意匠権の権利範囲は図面や写真に表示された意匠の物品を基準とすると規定する。専利法実施細則第27条第3項は、出願人は各意匠製品の保護を求める内容について関連する図面や写真を提出し、保護を求める対象を明瞭に示さなければならない。したがって、意匠権は、権利者が提出した図面や写真に示された意匠製品を以て保護対象を明示し、権利範囲を特定する。《審査指南》は専利法や専利法実施細則の規定に基づき、意匠の図面や写真の具体的な機能について詳細に規定する。対象意匠が変形状態である場合、その使用状態図が示す意匠を比較対象とし、製品の同一又は類似は、製品の各種使用状態の意匠の同一性や類似性によって決まる。「使用状態参考図」は通常、対象意匠の該当する分野、使用方法、使用場所又は用途を理解し、製品の種類を判断するために用いられる。
専利法や専利法実施細則には、通常「使用状態参考図」は対象意匠の分野、使用方法、使用場所又は用途を理解し、製品の種類を判断するための図面や写真として使用できない旨の明確な規定はない。一方、《審査指南》に記載される使用状態参考図の機能に関する上述の規定によれば、意匠の製品の権利範囲を特定し、保護対象を明示する機能も含まれている。このため、《審査指南》の使用状態参考図に関する上述の規定は、専利法や専利法実施細則の関連規定に違反したとはいうことはできない。
本案では、特許庁審判部は、本意匠の使用状態参考図を本意匠の該当する種類を特定するための図面として使用しているが、《審査指南》の関連規定に違反しているとはいえず、その行為は不当とはいえない。
本件意匠と引用意匠を比較すると、両者の一致点は、両者が共に平たい長方形の脚を持つベッドである点、ベッド本体の8つの角がすべて丸い点、ベッド面の折畳部が“」”の形状になっている点にある。両者の相違点は、本意匠のベッド本体とベッドの支えの間に引用意匠のような層状のフレーム構造がない点、本意匠のベッドの支えは2本の棚のような形状で、引用意匠のベッドの脚は4つの円柱形状である点、本意匠の“」”状折目の曲がり角は直角で、折目の長辺とベッドの長辺は平行であるのに対して、引用意匠の折目の曲がり角は丸い角で、折目の長辺とベッドの短辺が平行である点にある。
本意匠の一般消費者は、引用意匠の使用状態で関心のある部分はベッド面とその上の部分であり、ベッド面の下にあるベッドの脚やベッドより小さい層状のフレームは消費者の注意を引くのは難しいため、本意匠と引用意匠との、ベッドの脚と層状のフレーム部分における違いは、全体の視覚効果に対して大きな影響をもつとは思えない。本意匠と引用意匠の“」”状折目全体の形状が同じであるので、その曲がり角の形状とベッド面における方向の違いは、本意匠と引用意匠の使用状態や一般消費者の視覚効果への影響は小さく、ベッド全体の視覚効果に大きな影響が生じるとは考えられない。よって、本意匠は引用意匠に類似する。

登録意匠
【留意事項】
日本では登録要件の審査を経て権利が付与されるため、図面に不備があったとしても要旨変更にならない範囲で補正することで対応可能であるが、中国では登録要件の審査はなされず、図面に不備があったとしても補正の機会を得ることなく、そのまま登録されてしまう場合がある。
中国では、無効審判手続段階で意匠の物品を認定する際に使用状態参考図も考慮されるようであり、出願手続中の補正の機会が少なく、権利化後の訂正もできない制度であることから、図面の不備については最大限の注意を払う必要がある。そこで、使用状態参考図と他の図面の間で矛盾が生じないようにすることに留意し、使用状態参考図の提出の必要性について、常に検討するのも一つの方法と思われる。
■ソース
・北京市高級人民法院民事判決2008年5月6日付(2008)高行終字第9号http://bjgy.chinacourt.org/public/paperview.php?id=27135 ・中国専利法
・中国専利法実施細則
■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 根本雅成■協力
北京林達劉知識産権代理事務所■本文書の作成時期
2012.12.28