国別・地域別情報

ホーム 国別・地域別情報 アジア 審判・訴訟実務 | 審決例・判例 特許・実用新案 (中国)引用文献に開示された技術と技術常識との組合せによる進歩性判断に関する事例(その2)

アジア / 審判・訴訟実務 | 審決例・判例


(中国)引用文献に開示された技術と技術常識との組合せによる進歩性判断に関する事例(その2)

2013年04月23日

  • アジア
  • 審判・訴訟実務
  • 審決例・判例
  • 特許・実用新案

このコンテンツを印刷する

■概要
本件において、中国専利覆審委員会(日本の「審判部」に相当。以下、「審判部」という)合議体は、本願発明と引用文献記載の発明との相違点は、技術常識に基づいて当業者が容易に想到しえたものである、として本願発明の進歩性を否定し、拒絶査定を維持した。
■詳細及び留意点

 中国国家知識産権局(以下、「中国特許庁」という)が策定した審査指南(日本の「審査基準」に相当。以下、「審査基準」という)には、請求項に記載された発明と引用文献記載の発明との技術的相違点について、当該請求項記載の発明が解決しようとする技術的課題が、当該引用文献と本技術分野の技術常識との組合せによって容易に解決することができ、且つ組合せ後に予測不能な技術的効果が一切なければ、当該請求項は当該引用文献に対し進歩性を有しない旨規定されている(中国特許審査基準第2部分第4章3.2.1.1の関連規定を参照)。

 

 本願発明は水素含有ハロタンの合成方法に関する。審査官は、引用文献2(日本国特開平10-101593号公報)には、触媒を使用せずに1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパンから1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを製造する方法が開示されており、請求項1~11は進歩性を有さないとして拒絶査定した。

 

 出願人は、審判請求時に請求項1を以下のとおり補正した(下線部は従属請求項から追加された技術的特徴を示す)。

『液相に少なくとも1つの水素含有ハロタンの塩素含有前駆体または塩素フッ素含有前駆体とフッ化水素とを液体媒体で反応させることを含み、前記前駆体におけるF/Cl原子比が1より低く、且つ当該媒体においてフッ素含有有機化合物又はフッ素塩素含有有機化合物の重量含有量を50%以上、及びそのF/Cl原子比の平均が少なくとも1.2であることを常に保持することで得られる前記フッ素含有有機化合物は所望する水素含有ハロタンであり、

 且つ前記フッ素塩素含有有機化合物は所望する水素含有ハロタンの中間体、又は前記前駆体による反応の副産物及び/又は不純物を含む所望する水素含有ハロタンの中間体であって、

 その反応は、触媒が存在しない状況下で、水素含有ハロタンの塩素含有前駆体から始まり、且つ前記水素含有ハロタンは1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、前記前駆体は1,1,1,3,3-ペンタクロロブタンであるC1-C6水素含有ハロタンの合成方法。』

 

 出願人は、当業者が触媒を使用しないで、1,1,3,3-ペンタクロロプロパンから1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを製造できることが予期できないことであることを証明するため、証拠1として日本国特開平11-180908号公報を提出した。

 

 請求項1に記載の発明と引用文献2の実施例1に開示された発明との相違点は、以下の2点である。

 (1)引用文献2は、請求項1の「当該媒体においてフッ素含有有機化合物又はフッ素塩素含有有機化合物の重量含有量を50%以上に、そのF/Cl原子比の平均が少なくとも1.2であることを常に保持する」との技術的特徴を開示していない。

 (2)本願発明が、1,1,1,3,3-ペンタクロロブタンから1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンを製造するものであるのに対し、引用文献2記載の発明は、1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパンから1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを製造するものである。本願発明が解決する技術的課題は、1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパンから1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを合成する状況下で、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンを合成する代替方法を探ることである。

 

 審判部合議体は以下のように認定した。

 相違点(1)について

 本技術分野において、水素含有ハロタンとフッ化水素とが共沸混合物を形成するのは公知であり、当業者は共沸混合物を形成する物質の比率を変えることで、共沸混合物の形成を防止することを容易に想到することができ、通常の技術的手段を組合せにより、水素含有ハロタンの製造方法において反応体系のフッ素(塩素)含有有機化合物の比率及びF/Cl原子比への制御を容易に実現できる。

 相違点(2)について

 当業者は、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンを製造するために、1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパンに替えて1,1,1,3,3-ペンタクロロブタンを用いること、及び当該相違点によってもたらされる効果を容易に予期しうる。

 

 また審判部合議体は、出願人が主張した触媒を利用しないことによる技術的効果は、当業者が容易に想到できるものであること、また、証拠1と引用文献2が開示する主なパラメータは完全に異なるため、出願人が提出した証拠1は当業者が触媒を使用しないで1,1,3,3-ペンタクロロプロパンから1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを製造できることを予期できないことを証明する証拠として採用できないとした。

 

 審判部合議体は、以上の理由をもって、補正後の請求項1~8に記載の発明は進歩性を有しないと認定し、拒絶査定を維持した。

 

参考(中国特許庁審判部査定不服審決2012年8月15日付第45163号より抜粋):

 

  对于一项权利要求与一篇对比文件的区别技术特征,在确认该权利要求的技术方案实际解决的技术问题后,如果本领域技术人员可以在该对比文件的基础上结合本领域的公知常识很容易引入所述区别技术特征以解决上述技术问题,并且结合后并没有产生任何预料不到的技术效果,那么该权利要求相对于该对比文件不具备创造性。

 

  合议组认为,在制备含氢氟烷的方法中控制反应体系中的含氟(氯)有机化合物的比例和F/Cl原子比是本领域技术人员结合其掌握的常规技术手段容易实现的・・・。结合本领域的公知常识,为了制备1,1,1,3,3-五氟丁烷而使用1,1,1,3,3-五氯丁烷替代1,1,1,3,3-五氯丙烷,以及“能够取出液相反应介质,以及如有需要,进行随后的一步或几步简单的蒸馏步骤”的技术效果也是本领域技术人员容易想到的。

 

  请求人所主张的不使用催化剂所达到的技术效果仅仅是使得在液相进行时能够取出液相反应介质进行后续蒸馏,・・・;而请求人在意见陈述书中指出的不使用催化剂所带来的无腐蚀、节省成本、提高效率等其它技术效果显而易见的,同样也是本领域技术人员容易想到的。JP11-180908的对比实施例2・・・与如上所述的对比文件2实施例1公开的供料方式、反应原料比、反应温度、反应压力、反应时间等主要工艺参数完全不同,因此,本领域技术人员不会因考虑到JP11-180908的对比实施例2不能制得任何1,1,1,3,3-五氟丙烷,而预期到…在没有催化剂存在下,不能由1,1,1,3,3-五氯丁烷制备1,1,1,3,3-五氟丁烷。对于请求人的陈述意见,合议组不予支持。

 

(日本語訳「ある請求項に記載された発明と引用文献記載の発明との技術的相違点について、当該請求項記載の発明が解決しようとする技術的課題が、当該引用文献と本技術分野の技術常識との組合せによって容易に解決することができ、且つ組合せ後に予測不能な技術的効果が一切なければ、当該請求項は当該引用文献に対し進歩性を有しない。

 

 合議体は以下のとおり認定する;水素含有ハロタンの製造方法において、反応体系のフッ素(塩素)含有有機化合物の比例及びF/Cl原子比の制御は、当業者が通常の技術的手段との組合せで容易に実現できることであり・・・・ 本技術分野の技術常識とを組合せて、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンを製造するために、1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパンの代わりに1,1,1,3,3-ペンタクロロブタンを用いること、及び『液相反応媒体を取り出し、必要があれば、続きの1つまたは複数の簡単な蒸留工程を行う』ことは、その技術的効果も含めて、当業者が容易に想到できる。

 

 請求人が主張する触媒を使用しないことにより得られる技術的効果は、単に液相で行う時に液相反応媒体を取り出し、続いて蒸留を行うことであり、・・・・これに対して、出願人が意見書で主張した、触媒を使用しないことによる非腐食、コスト節約、効率向上などのその他技術的効果は自明であり、同様に当業者が容易に想到できるものである。日本国特開平11-180908の対比実施例2は・・・・ 前述した引用文献2の実施例1に開示された原料供給方式、反応原料比、反応温度、反応圧力、反応時間など主なパラメータが完全に異なっており、当業者は、日本国特開平11-180908の対比実施例2がいかなる1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンも製造できないことを考慮し、・・・・ 触媒がない場合、1,1,1,3,3-ペンタクロロブタンから1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンを製造できないことを予期できない。したがって審判部合議体は請求人の主張について支持しない。」)

 

【留意事項】

 本件において、進歩性否定の判断根拠は、当該技術分野における「技術常識」がどこまで明白かどうかである。出願人が主張する引用文献2記載の発明との相違点や、技術常識でないとする主張について、合議体は一刀両断に完全否定しているが、少なくともその根拠となる文献は示されるべきであり、当該技術分野の通常の創作能力を有する者から見て、理解できない短絡的な判断であるとの印象は拭いきれない。そもそも本願発明の進歩性否定は、引用文献1との引用文献2との組合せであり、引用文献2との差異を「技術常識」で片付けることには問題があると考える。ちなみに本願の出願人はベルギー企業である。

■ソース
中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2012年8月15日付第45163号
http://www.sipo-reexam.gov.cn/reexam_out/searchdoc/decidedetail.jsp?jdh=FS45163&lx=FS 中国特許出願第200510065130.4号(公開番号CN1680232A)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2012.12.18

■関連キーワード