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(中国)類否判断の基準となる意匠について
2013年04月05日
■概要
意匠権が付与された意匠の類否判断は、出願時提出の図面又は写真に表示された意匠が基準となる。本件では、新規性がないとして無効決定を受けた権利者が、審決取消訴訟において、本件に係る意匠の実施品の写真を提出し、その写真の意匠と引用公知意匠を比較して非類似を主張したが、このような類否判断手法は法的根拠を欠くと否定され、やはり本件意匠と引用意匠を比較しても類似であると判断し、特許庁審判部の無効決定を支持した事案である。■詳細及び留意点
本件の意匠は、以下の写真が示すように、ペンに関する意匠である。同意匠権を無効とする決定を不服とした審決取消訴訟において、意匠の実施品の写真を提出し、審査指南の規定を根拠に、実施品の意匠と引用意匠とを対比して非類似を主張した。
これに対し、北京中級人民法院は、審査指南にこのような規定は存在せず、専利法及び審査指南の規定から、意匠の権利範囲は出願時に提出された図面又は写真に表示された意匠が基準になるとして、実施品の意匠を基準とした類否判断手法は法的根拠がないとした。その上で、本件登録意匠の写真に表れた意匠と引用意匠とを比較したところで、透明材料を通して見えるペンの芯は設計の慣用手法であり、材料の相違などの類否判断への影響は認められないとして、特許庁審判部(中国語「专利复审委员会」)の無効決定を支持した。
参考1(北京市第一級中級人民法院民事判決(2008)中行初字第439号より抜粋):
本案当中,原告于庭审中提出的外观设计比对应以实物为准,并认为可依据《审查指南》第四部分第五章3.2节规定,但经查《审查指南》并无此规定,而专利法第五十六条规定,外观设计专利权的保护范围以表示在图片或者照片中的该外观设计专利产品为准,《审查指南》第四部分第五章2.2节规定,在确定判断客体的类型时,应当根据外观设计的图片、照片进行确定,因此原告提出的外观设计比对应以实物为准的理由于法无据,本院不予支持。
就本专利照片显示的笔与附件2所示的外观设计对比,本院认为,两者的整体形状基本相同,本专利笔身使用透明材料并未改变笔的整体形状,而从笔身使用的透明材料可视的形状、图案为笔芯,属于该类产品的惯常设计。本专利未要求保护色彩,从笔中部透明材料可视的油墨色彩不属于本专利的保护范围。对于本专利笔身中段和笔头处镀铬及三分之一处用热塑性材料制成的区别,上述材料的使用并未改变笔的形状,对整体视觉效果不具有显著影响。按照整体观察、综合判断的原则,本专利与附件2整体上属于相近似的外观设计,本专利不符合专利法第二十三条的规定。
综上,专利复审委员会作出的第10882号决定证据充分,适用法律正确,程序合法,应予维持。王建平请求撤销该决定的理由不能成立,本院不予支持。
(参考訳)
本件において、原告は、法廷審理において、意匠の比較を実物で行うべきであり、《審査指南》第4部第5章3.2節の規定に依拠できると主張しているが、《審査指南》を調べた結果、このような規定は存在せず、専利法第56条*1では、意匠権の権利範囲は図面又は写真に表示された物品の意匠を基準とすると規定し、《審査指南》第4部第5章2.2節は、客体の類型を確定する際は、図面や写真に表示された意匠に基づいて判断しなければならないと規定しているから、原告の「意匠の対比を実物で行うべき」という主張の理由に法的根拠はなく、当裁判所は支持しない。
本件意匠の写真に表示されたペンと添付書類2に表示された意匠とを対比した結果、二者の全体の形状はほぼ同一であり、本件ペン本体における透明材料の使用は、ペン全体の形状に変更を加えておらず、ペン本体に使用された透明材料から見える形状や模様はペンの芯であり、これはこの類の物品の設計における慣用手法であると、当裁判所は認定する。本件意匠では色彩の保護を求めていないので、ペン中部の透明材料から見えるインキの色彩は本件意匠の権利範囲に属さない。本件意匠のペン本体中段とペン先端部がクロムメッキされたという違い、並びに3分の1が熱可塑性材料でできているという違いについて、全体的な視覚的効果に対する顕著な影響は認められない。全体観察及び総合判断の原則に従い、本件意匠と添付書類2は全体的に類似意匠に該当し、本件意匠は専利法第23条に規定する要件を満たしていない。
以上をまとめれば、特許庁審判部の第10882号決定は証拠が十分であり、法律の適用が正しく、手続きが合法であるから、維持すべきである。原告の同決定取消請求の理由は成立せず、当裁判所は支持しない。
*1:法改正により、現在は第59条となっている。
参考2(北京市高级人民法院民事判決2008年8月7日(2008)高行终字第456号より抜粋)
本院认为,授予专利权的外观设计,应当同申请日以前在国内外出版物上公开发表过或者国内公开使用过的外观设计不相同和不相近似。本案中,王建平主张附件2已于2005年10月12日被终止,不能作为对比文件。但是,判断一份证据能否作为对比文件时,关键在于该证据是否在本专利申请日前公开。只要该证据已经在本专利申请日前公开,则可以作为对比文件。该证据公开后的事实状态并非判断时需要考虑的。附件2为本专利申请日前公开的我国外观设计专利,可以作为在先设计。王建平的上述主张不能成立,应予驳回。
对于外表使用透明材料的产品而言,通过人的视觉能观察到其透明部分以内的形状、图案和色彩,应视为该产品的外观设计的一部分。就本专利附图显示的笔与附件2所示的外观设计对比,两者的整体形状基本相同,本专利笔身使用透明材料并未改变笔的整体形状,而从笔身使用的透明材料可视的形状、图案为笔芯,属于该类产品的惯常设计。对一般消费者的整体视觉效果没有产生显著影响。本专利未要求保护色彩,从笔中部透明材料可视的油墨色彩不属于本专利的保护范围。对于本专利笔身中段和笔头处镀铬及三分之一处用热塑性材料制成的区别,上述材料的使用并未改变笔的形状,对整体视觉效果不具有显著影响。按照整体观察、综合判断的原则,本专利与附件2整体上属于相近似的外观设计,本专利不符合专利法第二十三条的规定。王建平关于本专利与在先设计不相同也不相近似的上诉主张不能成立,本院不予支持。
(参考訳)
専利権が付与された意匠は、出願日前に国内外の出版物で公開発表または公開使用された意匠と同一でも類似でもあってはならない。本案において、王建平が添付書類2は2005年10月12日で満了しているから、引用文献として適格ではないと主張している。しかし、一つの証拠を引用文献として採用できるか否かを判断する際、重要なのは本意匠の出願日以前に公開されたか否かである。この証拠が本意匠出願日前に公開されていれば、引用文献として採用できる。同証拠公開後の事実関係は、判断時に考慮する必要はない。添付書類2は本件意匠出願前に公開された我が国の登録意匠であり、先行意匠と見なすことができる。王建平の上記主張は成立せず、却下するのが相当である。
外部表面に透明な材料を使用した物品について、人の視覚で観察できる透明部内部の形状、模様及び色彩は意匠の一部である。本件意匠図面が明示するペンと添付書類2で示される意匠を対比すると、二者の全体形状は基本的に同一であり、本意匠のペン本体における透明材料の使用は、ペンの全体形状を変更していない。ペン本体で使用する透明材料から視認できる形状や模様はペンの芯であり、このような物品の設計における慣用手法である。これらは、一般消費者の全体的な視覚効果に顕著な影響を及ぼすものではない。本意匠は色彩の保護を求めていないため、ペン中部の透明材料から視認できる黒色インクの色彩は、本意匠の権利範囲に属していない。本意匠のペン本体中段及びペン先端部のクロムメッキ並びに全体の3分の1で用いられている熱可塑性プラスチック材料によって形成される相違について、上述の材料の使用はペンの形状を変更しておらず、全体の視覚効果に対して顕著な影響を与えるものではない。全体観察や総合判断の原則により、本意匠と添付書類2は全体として類似する意匠であり、本意匠は専利法第23条の規定に違反する。本意匠と先行意匠は同一でも類似でもないとする王建平の上訴主張は成立せず、当裁判所は支持しない。
【留意事項】
出願意匠と引用意匠とを比較して非類似と主張することが困難である場合であっても、本件のように登録意匠の実施品の写真を提出し、出願時の図面等に存在しない形状や模様が現れている実施品の意匠に基づいて非類似を主張したところで、審査対象は出願時の写真や図面で特定された意匠であるから、受け入れられる可能性は低い。
本件裁判では確立している類否判断手法に従い、まず両意匠の複数の相違点を認定し、視覚効果への影響が弱いと理由付けをして類似するとしていることから、本件出願人は、確立している類否判断手法に沿った論理展開による非類似の主張も行う必要があったのではないか。
なお、本件は北京市高級法院に上訴されたが、高級法院は中級法院と同様の判断手法で両意匠の類似を認め、中級法院の判決を支持している。
■ソース
・北京市第一級中級人民法院民事判決(2008)中行初字第439号・北京市高级人民法院民事判決2008年8月7日(2008)高行终字第456号
・中国専利法
■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 根本雅成■協力
北京林達劉知識産権代理事務所■本文書の作成時期
2013.01.11