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マレーシアの意匠における機能性および視認性
2017年06月29日
■概要
マレーシアにおいては意匠の実体審査は行われないため、方式審査を通過すると、意匠出願は登録される。しかし、登録意匠の形状および構造の特徴が機能的なものである場合、訴訟の過程で取り消しになる可能性がある。今回、控訴裁判所によって意匠登録が取り消された判例を挙げ、意匠の定義における機能性に関する不登録事由について説明する。また、視認できない意匠に関する登録可能性について説明する。■詳細及び留意点
1.機能性
1-1.意匠の定義と機能性に関する不登録事由
1996年マレーシア工業意匠法(以下「IDA」)における保護適格性を満たすためには、意匠は、IDA第3条(1)に定める定義に該当していなければならない。この定義は、意匠として登録が認められる要件と登録が認められない事由を規定している。
IDA第3条(1)によると「意匠」は次のように定義されている:「意匠とは、工業的方法または手段により物品に適用される形状、輪郭、模様または装飾の特徴であって、完成した物品において視覚に訴え、視覚によって判断されるものをいう。ただし、次のものを含まない。
(a)構造についての方法もしくは原理
(b)物品の形状もしくは輪郭の特徴であって、
(i)当該物品が果たすべき機能によってのみ決定づけられるもの、または
(ii)意匠の創作者が、当該物品がその不可分の一部を構成することを意図している他の物品の外観に依存するもの
以上を考慮した上で、対象の意匠が機能性に関する不登録事由によって保護の対象外であるか否かを判断する際に、意匠の特徴が、視覚に訴えるものであるだけでなく、物品が果たすべき機能によってのみ決定づけられるものではないことも要件となる。
一般に、意匠出願がマレーシア知的財産公社(以下「MyIPO」)に提出された場合、方式要件に関する審査のみが行われる。つまり、意匠の実体審査は行われない。よって、全ての方式要件が満たされていれば意匠出願が登録される可能性が高い。しかし、侵害訴訟の過程で、対象の登録意匠の形状および構造の特徴が機能的なものであるためIDAに基づく意匠の定義を満たしていないとの理由により、その訴訟の被告が登録意匠の取り消しを求める可能性がある。
F & N Dairies (Malaysia) Sdn Bhd v Tropicana Products Inc [2013] 1 LNS 380の訴訟では、上述したような事態が発生した。この訴訟の被告は、原告が主張する新規な特徴(原告の製品のボトルに施された「ねじれた」特徴で、「トロピカーナ・ツイスター」と呼ばれる)は、全面的に機能的な特徴から構成されていると主張したのである。
この訴訟の控訴審において控訴裁判所は、「機能によってのみ決定づけられる」という文言を含むIDAに基づく意匠の定義において、登録要件および不登録事由が意図するものについて特に熟考しなければならなかった。
1-2.不登録事由
1-2-1.「機能によってのみ決定づけられる」の解釈
不登録事由に関して、F & N Dairies(前掲)の控訴審は、Amp Incorporated v Utilux Proprietary Limited [1972] RPC 103の事件におけるイギリス貴族院の判決を援用し、「機能によってのみ決定づけられる」という文言は、意匠の特徴がその果たすべき「機能に由来する、または機能により起因されるもしくは促進される」という意味であると解釈すべきであるとの事実認定を示した。
「トロピカーナ・ツイスター」製品はホット充填工程と呼ばれる充填工程が必要な常温のジュースの製品であることをこの訴訟の原告は認めている。そのような状況下では充填工程で生じる弊害を軽減する必要があるために意匠創作者は様々な面で制約を受ける、つまり、意匠創作者は、登録意匠の形状および構造に関する全ての特徴を、前述の弊害を打ち消すために費やす必要があり、もしそうしなければ、ボトルは所期の機能を果たすことができずにホット充填工程の影響で破損してしまう、という主張が提起された。
登録意匠の創作者は当該ボトルの特徴を考案する際にホット充填工程を常に念頭に置いていたと認めており、登録意匠の全ての特徴はホット充填工程の弊害を軽減するために必要であると原告も認めている、と控訴裁判所は指摘し、事実上全ての特徴は当該意匠が果たすべき機能によってのみ決定づけられていると認定した。
1-2-2.デザインの自由度に関する主張
原告は、登録意匠に似たようなデザインの代替形状のボトルを製造することが可能であったという論拠に基づいて、登録意匠の形状および構造の特徴は当該意匠が果たすべき機能によってのみ決定づけられているという主張に対して反論した。
控訴裁判所は原告が提起するデザインの自由度に関する主張を退け、Amp Inc(前掲)の判決に示された「デザインの自由度に関する主張が正しいとすれば、制定法上の不登録事由は実際的な効果を持たなくなる」という所見に同意している。控訴裁判所は更に、形状および構造に関して別の特徴を備えた他の物品も同じ機能を果たすという主張は、肯定も否定もできないものであると述べている。また、他の形状でも同じ機能を果たし得るという事実は、登録意匠が機能によってのみ決定づけられているという事実を変えるものではない。形状に関する別の特徴が存在するとしても、どの特徴も当該物品が果たすべき機能によってのみ決定づけられているならば、それら別の特徴もまた、意匠の保護適格性がないとして排除される。
1-3.登録要件
1-3-1.視覚効果
意匠の定義における登録要件に関して、控訴裁判所は、視覚効果を判断する際には、証人の選択が適切であったか否かを完成した物品の観点から検討すべきという見解を示している。ただし、前述の訴訟の事実関係について、原告が視覚効果を立証する妥当な証拠を提出していないため、原告の登録意匠は意匠の定義における登録要件を満たしていないと結論するしかないとの判断を控訴裁判所は示した。
1-3-2.不登録事由に関する控訴裁判所の認定
特定の意匠が意匠の定義における登録要件を満たしているが、不登録事由も同時に満たす可能性がある場合、当該意匠を登録適格とすべきか否か、という問題に関して、控訴裁判所は、意匠の登録要件と不登録事由は別々にではなく一緒に考慮されなければならないとの判断を示している。全ての特徴が機能によってのみ決定づけられている場合には、仮説上は視覚効果を有する意匠であっても登録の対象外であると判示したInterlego AG v Tyco International Ltd [1988] RPC343の判例を援用して、「トロピカーナ・ツイスター」の意匠の形状および構造は、当該意匠が果たすべき機能によってのみ決定づけられるような経緯で創作者により考案されたものであるため、当該意匠は保護適格性がないという主張は成り立つと控訴裁判所は認定し、当該意匠の登録を取り消すよう命じた。
2.視認性
マレーシアの法律には、意匠が登録可能となるためには視覚的であるべきか否かという問題について定めた規定は存在せず、MyIPOが審査の過程でこの問題に関する懸念を提起したこともない。しかし、イギリスの判例法「1949年イギリス意匠登録法(UKRDA)」とIDAの類似性を考えれば、登録可能性に関する要件も前述のイギリス法と同様であろうという見方には非常に説得力がある。Ferro and CSpA’s Application [1978] RPC 473(完成された製品が分解された後で初めて視認可能となる意匠も登録可能であると認定した判例)、KK Suwa Seikosha’s Application [1982] RPC 166(内蔵ライトの点灯時にのみ視認可能なデジタル腕時計の表示パネル上の模様は登録可能であると認定した判例)等の判例で扱われたような問題がマレーシア国内で発生した場合には、これらの判例が踏襲される可能性が高い。
■ソース
・1996年マレーシア工業意匠法・F & N Dairies (Malaysia) Sdn Bhd v Tropicana Products Inc [2013] 1 LNS 380
・“What Maketh a Bottle ? – F & N Dairies v Tropicana Inc and other appeals”
初出:Skrine Legal Insights(2014年2月号)著者:Hemalatha Parasa Ramulu
Hemalatha Parasa Ramulu著の論文“What Maketh a Bottle ? – F & N Dairies v Tropicana Inc and other appeals”は、Bloomberg BNA刊「World Intellectual Property Reports 2014」に再録されている。
・Amp Incorporated v Utilux Proprietary Limited [1972] RPC 103
・Interlego AG v Tyco International Ltd [1988] RPC343
・Ferrero and CSpA’s Application [1978] RPC 473
・KK Suwa Seikosha’s Application [1982] RPC 166
■本文書の作成者
Skrine(マレーシア特許事務所)■協力
日本技術貿易株式会社■本文書の作成時期
2017.02.10