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インドにおける特許の実施報告制度(2024年特許規則改正)

2025年04月15日

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■概要
特許権者および実施権者は、インドにおける特許発明の商業的実施状況を記載した報告書(国内実施報告書)を定期的に提出することが義務付けられている。提出された国内実施報告書は公開される。実施状況の報告を怠った場合や、実施状況の虚偽報告を行った場合、罰金が科される。なお、2024年のインド特許規則の改正(2024年3月15日施行)により、実施報告書の提出頻度が「1会計年度ごとに1回」から「3会計年度ごとに1回」に変更された。
■詳細及び留意点

1. 特許発明の実施に適用される一般原則
 インド特許法第83条は、特許発明の実施に適用される一般原則について規定している。とりわけ、第83条(a)項において、特許は、発明を奨励し、インドで特許発明が確実に実施されることを保証するために付与されるものであることが規定されている。

第83条 特許発明の実施に適用される一般原則
本法の他の規定を害することなく、この章によって付与された権限を行使するに当たっては、次の一般原則を参酌しなければならない。
(a) 特許は、発明を奨励するため、および当該発明がインドにおいて商業規模で、かつ、不当な遅延なしに適切に実行可能な極限まで実施されることを保証するために、付与されるものであること。((b)以降省略)

 インド特許法第83条は、一般原則を規定しているにすぎず、本条文そのものが実施を強制するものではないものの、インドで特許発明を実施することの必要性(インドにおける特許発明の実施義務)を規定している。

 一方で、インド特許法第146条は、特許権者および実施権者に対して、特許発明のインドにおける商業的実施状況を報告することを求めている。特許権者および実施権者によって提出される特許発明の実施に関する情報は、インドにおいて(インド特許法が規定する)特許制度が機能しているか否かを示す有益な情報である。

第146条 特許権者からの情報を要求する長官権限
(1) 長官は、特許の存続期間中はいつでも、書面による告知をもって特許権者または排他的かもしくは非排他的かを問わずライセンシーに対して、当該告知の日から2か月以内または長官の許可する付加期間内に、インドにおける特許発明の商業的実施の程度について当該告知書に明示された情報または定期的陳述書を長官に提供すべき旨を要求することができる。
(2) (1)の規定を害することなく、各特許権者および(排他的かもしくは非排他的かを問わず)各ライセンシーは、所定の方法、様式および間隔(6か月以上)をもって、インドにおける当該特許発明の商業規模での実施の程度に関する陳述書を提出しなければならない。
(3) 長官は、(1)または(2)に基づいて受領した情報を所定の方法により公開することができる。

2. 国内実施報告制度
(1) 報告義務者
 現存する特許権の特許権者および実施権者は、特許発明の国内実施報告書を特許庁長官に提出しなければならない(インド特許法第146条(2))。特許審査中にある特許出願人、および消滅した特許の元特許権者には、国内実施報告書を提出する義務は無い。

(2) 報告対象
 すべての特許発明が国内実施報告義務の対象である(インド特許法第146条(2))。報告対象には、実施されていない特許発明も含まれる。ただし、消滅した特許発明および特許審査中の発明は報告対象ではない。国内実施報告の対象となる期間は、図1に示すように、特許が付与された会計年度の直後に始まる会計年度(4月1日~3月31日)から3年(3会計年度分)であり、1回の国内実施報告で特許権者および実施権者は当該期間(3年分)における特許発明の実施の有無および程度を報告しなければならない(特許規則131条(2))。以下、同様にして3会計年度ごとに1回の頻度で国内実施報告書を提出する。これは、2024年のインド特許規則の改正(2024年3月15日施行)により、実施報告書の提出頻度が、従来の「1会計年度ごとに1回」から「3会計年度ごとに1回」に変更されたものである。

図1:国内実施報告の対象となる期間

(3) 報告時期
 特許発明の国内実施報告書は、報告対象の期間である3会計年度の期間の終了後6か月以内(4月1日~9月30日)に提出しなければならない(特許規則131条(2))。ただし、規則131条(2)に基づく様式4による請求をすれば、3か月の期間までは、報告書の提出の遅滞または提出の延長が容認される。また、規則138に基づく様式4による請求により、さらに6か月の期間まで報告書の提出期限を延長することができる。

(4) 報告手続
 特許権者および実施権者は、様式27(FORM27)に従って特許発明の商業的実施の有無を記載し、管理官に提出しなければならない(インド特許法第146条(2)、特許規則131条(1)、様式27(2024年改正))。

 国内実施報告書に記載すべき事項は、次のとおりである。
(ⅰ) 特許番号毎に実施しているか否かを記載する。
(ⅱ) 実施していない場合、実施していない理由として該当するものにチェックする。
(ⅲ) ライセンス許諾が可能か否かを記載し、ライセンス可能な場合、連絡先を記載する。

様式27(改正特許規則2024年)の抜粋(仮訳)

3. 実施/不実施 この様式を提出している各特許が実施済みか不実施かを述べてください。特許番号実施[該当する場合はチェック(✔)]未実施[該当する場合はチェック(✔)]






4. 実施していない場合、該当する理由をチェックしてください。□特許発明は開発/商業試験中である。
□特許発明が規制当局の審査/承認中である。
□商業ライセンスの検討中
□その他:
5. 当該特許がライセンス可能かどうか□はい。
□いいえ。
「はい」の場合、ライセンス取得に興味のある者からの連絡を受けることに関心がありますか?関心がある場合、以下に連絡先をお知らせください。
Eメールアドレス:
連絡先番号:

 国内実施報告書には、特許権者、実施権者または代理人が署名する。権利者が同一で各特許発明から得られる収益/価値を区別できない場合、複数の関連する特許については一つの報告書にまとめて記載することができる。特許が共有に係る場合、共同で一つの実施報告書を提出することができる。
 なお、旧様式27で要求されていた記載、例えば、特許発明によって得られた収益または価値の概算、実施概要の記載は、2024年特許規則改正により不要になった。また、特許発明を実施していなかった場合の理由、実施に向けて行った措置の具体的な説明は不要となり、該当する項目をチェックするだけの簡素なものとなった。

3. 国内実施報告義務違反
(1) 国内実施報告書の提出を怠った場合
 国内実施報告書の提出を拒絶した者は、10万インドルピー以下の罰金に処され、拒否または不履行が継続した場合は、最初の拒否または不履行が継続した日以降、1日につき1,000ルピーの罰金に処される(インド特許法第122条(1))。

(2) 虚偽の国内実施報告を行った場合
 虚偽の国内実施状況を報告すると、監査済み会計帳簿に記載された事業売上高もしくは総収入の0.5%に相当する金額、または5000万ルピーのいずれか低い金額の罰金に処される(インド特許法第122条(2))。

4. 国内実施報告書の提出率および実施状況
 2021-2022年度について見てみると、有効に存在する特許権の約5割弱について国内実施報告書が提出されている。また、国内実施報告があった特許発明のうち、2割弱の特許発明(存続特許権全体の約1割弱)が実施されている(インド特許庁 年次報告 2021-2022)。

5. 国内実施報告書の公開
 国内実施報告書の内容は、インド特許庁のホームページに公開されている。図2のサイトのプルダウンメニュー「Complete available for Year」で報告年度を、「Location」のメニューで特許庁(デリー、チェンナイ、コルカタ、ムンバイ)を選択し、「Search」をクリックすると、当該報告年度に提出された国内実施報告の一覧が表示される。一覧にあるリンク「View Document」をクリックすると、国内実施報告書の内容を閲覧することができる。なお、システム上の問題でリンクをクリックしても国内実施報告書のファイルが開かないことがある。この場合、出願番号を入力、クリックして出願内容の詳細を表示させ、下方にある「E-Register」ボタンをクリックする。リーガルステータス情報が表示される。その下方に「Information u/s 146 (Working of Patents)」という項目があり、提出済みの国内実施報告書へのリンク「View Document」が表示される。このリンクをクリックすると国内実施報告書の内容を閲覧することができる。

図2:Dynamic Patent Utilities:Information u/s 146 (Working of Patents)

URL: https://iprsearch.ipindia.gov.in/DynamicUtility/WorkingOfPatents/Index
(最終アクセス日:2025年1月21日)

6. 改正規則の施行日前、またはその前後に登録になった特許の報告時期
 特許(改正)規則2024の施行日(2024年3月15日)前に登録になった特許、施行日直後の2024年3月15日~2024年3月31日に登録になった特許についての国内実施報告書の提出時期は、次のとおりである。

(1) 2022年3月31日以前に特許された場合
 2022年3月31日以前に特許された場合、2022年4月1日~2023年3月31日の特許実施状況については、2023年に提出されているため、次回の国内実施報告書の提出時期は2026年4月1日~9月30日である。

※赤色矢印は、特許(改正)規則2024の施行日を表している(以下、同じ)。

(2) 2022年4月1日~2023年3月31日に特許された場合
 2022年4月1日~2023年3月31日に特許された場合、国内実施報告書の提出時期は2026年4月1日~9月30日である。

(3) 2023年4月1日~2024年3月31日に特許された場合
 2023年4月1日~2024年3月31日に特許された場合、登録日が規則施行日の前か後にかかわらず、国内実施報告書の提出時期は2027年4月1日~9月30日である。

7. 留意事項
 国内実施報告を怠った特許権者に対して実際に罰金が科された事例はない。しかしながら、罰金の対象として条文に明記されていることから、特許権者は国内実施報告書を提出すべきと考えられている。なお、特許発明を実施していない旨の国内実施報告書を提出することについて、不実施に基づく強制実施権の設定を過度に懸念する必要はない。

■ソース
・インド特許法1970年(2024年8月1日施行)
(英語)https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOAct/1_113_1_The_Patents_Act__1970___incorporating_all_amendments_till_1-08-2024.pdf
・インド特許法(2021年8月13日施行)
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-tokkyo.pdf
・インド特許規則(2024年3月15日までのすべての改正を含む)
(英語)https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/rules-index.html
・インド特許規則(2021年9月21日改正)
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-tokkyo_kisoku.pdf
・インド特許規則2024年改正部分※1
(英語)https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPORule/1_83_1_Patent_Amendment_Rule_2024_Gazette_Copy.pdf
※1 22ページ以降が英語による記載となっている。
・国内実施報告のフォーマット(様式27)(2024年改正版)
(英語)https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_27.pdf
・インド特許庁 様式27に関するよくある質問(2024年8月26日)
https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/News/1001_1_Final_FAQs_Form-27_26thAugust2024.pdf
・期間延長または遅延容認の請求フォーマット(様式4)
(英語)https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOFormUpload/1_15_1/form-4.pdf
・インド特許庁 年次報告2021-2022※2
(英語)https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/Images/pdf/Final_Annual_Report_Eng_for_Net.pdf
※2 国内実施報告書の提出率および実施状況が28ページに記載されている。
■本文書の作成者
河野特許事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2025.01.21

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