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台湾におけるロイヤルティ送金に関する法制度と実務運用の概要

2024年04月23日

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■概要
日本企業が台湾企業に授権する際に収受するロイヤルティについては、原則として、営利事業所得税を負担しなければならない。源泉徴収制度により、台湾企業は、源泉税率の20%に基づき、ロイヤルティを支払う際に支払額から営利事業所得税を控除し、日本企業に代わってその税金を台湾の国庫に納付しなければならない。しかし、台湾企業が、新たな生産技術または製品の導入のため、または製品の品質向上、生産コスト削減のため、日本企業の知的財産権等を使用した場合、その日本企業は、ロイヤルティの免税を申請することができる。また、日台間に「所得に対する租税に関する二重課税の回避および脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との間の取決め」が締結されているため、当該日本企業は、ロイヤルティの源泉税率を20%から10%に下げることができる。なお、ロイヤルティの送金については、新台湾ドルへの両替を伴わない外貨資金の出入りである場合、完全に自由である。新台湾ドルへの両替を伴う外貨資金の出入りの場合、毎回送金する金額の多寡により、申告の要否および申告方法が決定する。
■詳細及び留意点

 台湾においては、ロイヤルティ送金について、特別の規制はない。そこで、以下では、ロイヤルティに課される営利事業所得税を中心に紹介する。

1. 営利事業所得税
 台湾において業務上の活動を行っている営利事業者には、所得税法に従って営利事業所得税が課される(所得税法第3条第1項)。営利事業所得税は、日本では概ね法人税に相当する税金である。
 本社が台湾域外にある営利事業者については、台湾源泉所得がある場合、営利事業所得税が課税される(同条3項)。専利権、商標権、著作権、ノウハウ(中国語原文:秘密方法)および各種特権(中国語の原文は「特許」。なお、日本語の知的財産の「特許」とは意味が異なる。)を台湾域内において他人の使用に供することで取得するロイヤルティは、台湾源泉所得となる(同法第8条第6号)。そのため、日本企業が、台湾におけるこれらの権利の使用の対価として台湾企業からロイヤルティを受領した場合、営利事業所得税の対象となる。ロイヤルティは、源泉徴収の対象となっており、ロイヤルティを支払う台湾企業は、支払額から20%を控除し、日本企業に代わって国庫に納める必要がある(同法第88条第1項第2号及び各種所得にかかる源泉徴収税率基準第3条第1項第6号)。支払企業は、税金を控除の上、支払をした日から10日以内に、控除した税金を国庫に納付し、源泉徴収票を発行し、管轄税務当局に申告し審査を受けた後、納税義務者に交付しなければならない(同法第92条第2項)。
 以上が原則であるが、以下のような減免制度が活用できる可能性がある。

2. 免税制度
 営利事業者が新たな生産技術または製品の導入のため、または製品の品質向上、生産コスト削減のため、外国の営利事業者が有する専利権、商標権および各種特権を使用する場合において、主務官庁によりプロジェクトが承認された場合、その外国事業者に支払うロイヤルティに関する所得税の納付が免除される(所得税法第4条第1項第21号前段)。この免税の適用を受けるためには、主務官庁に申請し承認を得た後、税務当局に申請し審査を受けなければならない)(所得税法施行細則第8条の7)。
 よって、日本企業が収受するロイヤルティは、一定の要件が満たされる場合、免除を受けることができる可能性がある。免税申請の流れの概要は、以下のとおりである。

(1) 申請者(ロイヤルティを受領する企業)は、必要書類を揃え、経済部産業発展署に免税承認書の発行を申請する。
 経済部産業発展署は、「外国営利事業者が収受する製造業・技術サービス業および発電業のロイヤルティおよび技術サービス報酬に関する免税案件の審査原則」(中国語:外國營利事業收取製造業技術服務業與發電業之權利金及技術服務報酬免稅案件審查原則)に従い審査する。
 なお、必要書類および審査原則は、以下の経済部産業発展署の「0048外国営利事業に対する技術サービス報酬およびロイヤルティの免税証明申請」のページで詳しく説明されている。https://www.ida.gov.tw/ctlr?PRO=application.rwdApplicationView&id=50

 免税期間の上限は、3年であるが、期間が満了する前に同様の手続で再申請することができる(同審査原則第11条の1)。

(2) 経済部産業発展署から免税承認書を取得した後、申請者は、国税局に免税を申請する。北部国税局が公告している「営利事業所得税の処理期間」によれば、当該免税申請の処理期間は60日である。
 なお、この申請については、以下の北部国税局の「ロイヤルティおよび技術サービス報酬の免税専区」のページで詳しく説明されている。

https://www.ntbna.gov.tw/multiplehtml/f43a4d51d79c4e9e9690b2748d6cb2e3#gsc.tab=0

3. 日台民間租税取り決め
 日台民間租税取決め(正式名称は「所得に対する租税に関する二重課税の回避および脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との間の取決め」である。)では、「一方の地域内において生じ、他方の地域の居住者に支払われる使用料」の限度税率が10%と規定されている(日台民間租税取決め第12条第1項、2項)。日台民間租税取決めについては、以下の日本国税庁「日台民間租税取決めに定める相互協議手続について」のページで詳しく説明されている。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/nichitai/01.htm

また、「所得税協定適用審査準則」第25条では以下の旨が規定されている。

(1) 他方締約国(即ち、日台民間租税取決めの日本)の居住者が台湾からロイヤルティを取得し、その者が台湾域内に常設の機構または固定の場所を有しない、またはその権利とその台湾域内に常設の機構または固定の場所が実際には関連がない場合、源泉徴収義務者は支払時に、所得税協定(即ち、日台民間租税取決め)に規定する限度税率に基づき税金を控除することができる(第1項)。

(2) 他方締約国の居住者が、前項の規定に基づき限度税率を適用する場合、適用法令に従い、他方締約国の税務機関が発行した居住者証明およびその居住者が当該所得の受益所有者であることの証明を、源泉徴収義務者が源泉徴収申告を行うための証明として提供しなければならない。税務当局に源泉徴収申告する際、適用する所得税協定の条文を記載し、前記の所得者に提供された証明書類および所得計算に関する証明書類を提出しなければならない(第2項)。

 以上のように、日本企業は、台湾企業からのロイヤルティを収受する場合において、源泉税率を20%から10%への軽減を受けるためには、支払者の協力が必要であり、かつ一定の書類の提出が要求される。したがって、契約締結の段階から、日台民間租税取り決めを考慮した上で双方の権利義務を規定しておくべきである。
 なお、申告に必要な書類は、以下の国税局の「租税取り決めの限度税率適用申請書(源泉徴収義務者が源泉徴収申告を行う場合専用)」のページでも説明されている。

https://www.ntbca.gov.tw/singlehtml/8a5b287db3924b6fabef0d80a55bf536?cntId=c69e7c19a29a44549c1e9dc2a98e326f#gsc.tab=0

4. 送金手続
 最後に、海外送金に関連する中央銀行の規制を紹介する。
 まず、新台湾ドル両替がない外貨資金の出入りは、特に規制の対象とはならない。一方、新台湾ドル両替を伴う外貨資金の出入りについては、以下のように、一定の場合「外国為替収支又は取引申告弁法」第2条第1項および第5条第1号に基づく申告が必要である(銀行を通じて中央銀行に提出。なお、以下の説明は、支払人が会社である場合を想定した内容である。)

(1) 毎回の為替決済金額が50万新台湾ドル相当未満の場合
 申告書を提出する必要はない。

(2) 毎回の為替決済金額が50万新台湾ドル相当以上の場合
申告書を提出する必要がある。この申告書については、以下の中央銀行の「外国為替収支または取引申告書(2021.6.29改正公布)」のページで詳しく説明されている。

https://www.cbc.gov.tw/tw/cp-378-50430-F7FFA-1.html

(3) 1回あたりの為替決済金額が100万USドル相当以上である場合
 申告の際に、当該回の外国為替収支または取引に関する契約書、承認書またはその他の証明書類を添付する必要がある。これらの添付書類は、銀行に提出して、申告書の記載事項と一致することについて確認を受ける必要がある。

5. 注意事項
(1) 以上はロイヤルティについての説明であるが、支払が、ロイヤルティであるか、技術サービス報酬であるか、あるいは知的財産権の購入代金に該当するか、すなわち給付の性質によって扱いが異なる。また、給付の性質の認定は、主に双方が締結した契約の実質的な提供サービスの内容および提供方法により決まる。どれに該当するか疑義がある場合には、予め専門家に相談した上で、契約における文言を決定することが望ましい。

(2) 免税の申請、日台民間租税取り決めの適用を受けるためには、双方の協力が必要となる。したがって、契約締結の段階で、十分に協議をしておくことが望ましい。

(3) ライセンス契約書において、ロイヤルティに関する税を「支払者」が負担する旨既定する場合、契約書に規定されたロイヤルティの金額が、源泉徴収後の金額であるか否かを明確に定めておくことが望ましい。また、この場合源泉徴収税を含めた支払総額を計算の上、合意しておくことが望ましい。

(4) 税務については、しばしば変更があることが一般的であり、また、以上の説明は概要の説明に過ぎない。実際の作業は、税務、法務の専門家と相談の上進めることを推奨する。また、以上の説明は、台湾法の観点からの主にロイヤルティに特有の規制を説明したものであり、日本法の観点からの説明は含まない。

■ソース
1. 全般
・台湾所得税法(中国語)
https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=G0340003 ・台湾所得税法施行細則(中国語)
https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=G0340004 2. 台湾における源泉徴収
・各種所得にかかる源泉徴収税率基準(中国語)
https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=G0340028 3. 台湾における免税制度
・「外国営利事業者が収受する製造業・技術サービス業及び発電業のロイヤルティ及び技術サービス報酬に関する免税案件の審査原則」(中国語)
https://law-out.mof.gov.tw/LawContent.aspx?id=FL006035 ・経済部産業発展署「0048外国営利事業に対する技術サービス報酬およびロイヤルティの免税証明申請」(中国語)
https://www.ida.gov.tw/ctlr?PRO=application.rwdApplicationView&id=50 ・財政部北部国税局「ロイヤルティおよび技術サービス報酬の免税専区」(中国語)
https://www.ntbna.gov.tw/multiplehtml/f43a4d51d79c4e9e9690b2748d6cb2e3#gsc.tab=0 ・財政部北部国税局「営利事業所得税の処理期間」(中国語)
https://www.ntbna.gov.tw/singlehtml/e99e8361c28f44179ff26d50e62b2849?cntId=c3ee359f9c304debab8a125b85a3e700#gsc.tab=0 4. 日台民間租税取り決め
・財政部中区国税局「租税取り決めの限度税率適用申請書(源泉徴収義務者が源泉徴収申告を行う場合専用)」(中国語)
https://www.ntbca.gov.tw/singlehtml/8a5b287db3924b6fabef0d80a55bf536?cntId=c69e7c19a29a44549c1e9dc2a98e326f#gsc.tab=0 ・所得税協定適用審査準則(中国語)
https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=G0340125 ・日本国税庁「日台民間租税取決めに定める相互協議手続について」(日本語)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/nichitai/01.htm 5. 台湾における送金手続
・台湾外国為替収支又は取引申告弁法(中国語)
https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=G0450009 ・台湾中央銀行「外国為替収支または取引申告書(2021.6.29改正公布)」(中国語)
https://www.cbc.gov.tw/tw/cp-378-50430-F7FFA-1.html
■本文書の作成者
理律法律事務所(Lee and Li, Attorneys-at-Law)
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2023.12.28

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