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中国におけるIT分野の技術標準に係る諸問題と傾向

2013年10月01日

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■概要
中国政府の進めるIT分野の技術標準化戦略に関し、国家規格における必須特許とパテントプールの問題があり、先進国の企業による高額なライセンス料を求める行為を問題視する声もある。そこで、中国の国家規格の技術標準に自社の特許が必須特許として採用されたときのためにFRAND(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)条項等について十分に理解しておくことが重要である。
■詳細及び留意点

【詳細】

(1)国家主導によるIT技術標準化政策

(i)中国政府の技術開発戦略は、1986年3月に鄧小平氏の指示を受けてスタートした中国のハイテク国家計画「国家高技術研究発展計画(通称「863計画」)」がベースになって進められている。この863計画はその後も5ヶ年毎に更新され、最新の第12次5ヶ年計画(2011~2015年)の一部になっている。

 この第12次5ヶ年計画は、「科学的発展観」を指導原理として掲げた胡錦濤国家主席の時代に策定されたものであり、技術開発戦略(およびその一部としての知財戦略および標準化戦略)に力を入れている。2011年の全人代で採択された「科学技術発展 第12次5ヶ年計画要綱」によれば、「自主イノベーション力を向上させ、イノベーション型国家を建設するための堅塁攻略階段にある」として、労働集約型の産業構造を転換してイノベーション型の産業構造への移行を目標としている。具体的には、産業高度化を推進するため、「GDP総額に占めるR&D支出の割合」を2010年の1.8%から2015年までに2.2%に引き上げるという目標が設定され、新たに「1万人当たり発明特許所有数」を2010年の1.7件から2015年には3.3件にする目標が導入されている。また、今後重点的に発展させる「戦略的新興産業」として、(a)省エネ・環境産業、(b)次世代情報技術、(c)バイオテクノロジー、(d)先端レベルの設備製造、(e)新エネルギー、(f)新素材、(g)新エネルギー車の7つの分野を挙げている。また、これらの7分野のGDPに占める割合を2010年の3%から2015年までに8%に引き上げるとしている。

 そして、この「第12次5ヶ年計画」では、「知的所有権と技術標準戦略を徹底的に実施する」ことにより、科学技術の進歩とイノベーションに役立つ環境を作り出すことを提言している。

 中国国内では、技術標準規格を管理する主な標準化機関としては、国家標準化機関:国家標準化管理委員会(SAC)とIT分野:中国通信標準化協会(CCSA)がある。

 中国政府の全般的な技術標準化戦略は、国家標準化管理委員会(SAC)が2011年12月に第12次5ヶ年計画「標準化事業発展計画」を公表した。また、中国政府のIT分野の技術標準化戦略としては、中国工業・情報化部が2012年4月に「2012年標準化重点項目」を公表した。

 

(ii)中国における技術標準規格は、1988年に制定された「中華人民共和国標準化法」に基づいて規格の制定、実施及び監督・管理が行われている。標準化法の規定に基づき、中国における標準は以下の4種類に分類される。

(a)国家規格:全国規模で統一が必要な技術条件に対して制定。国務院標準化管理委員会(SAC)が計画、制定する。コード番号は「GB」と略称される。

(b)業界規格:全国範囲における政府部門での統一に必要な技術仕様について、国家規格の補充として国務院標準化管理委員会(SAC)が制定。国家規格が公布されると、同業界規格は廃止される。

(c)地方規格:国家及び業界規格がない場合、省、自治区、直轄市の範囲内で統一が必要な工業製品の安全・衛生基準について制定することができる。省、自治区、直轄市の標準化行政主管部門が制定。国家又は業界規格が公布されると、同地方規格は廃止される。

(d)企業規格:企業が生産した製品に国家及び業界規格がない場合、企業規格を制定し、生産における根拠としなければならない。また企業の製品規格は地元政府の標準化行政主管部門及び関連行政主管部門に届け出なければならない。

 

(2)強制性と推薦性

 標準化法の規定に基づいて、国家規格及び業界規格は強制性と推薦性に分けられる。人体の健康、人身、財産の安全に関する法律・行政法規における強制執行(強行法規)であり、そのためこれらに関する標準は強制規格とされる。その他は推薦規格となり、国及び企業自らが採用するよう奨励する。また、地方規格は所轄行政区域内では強制規格である。

 つまり、中国における技術標準を分類分けすると以下のようになる。

 

 中国における技術標準の種類:

 

強制標準

推薦標準

指導性技術文書

国家標準

GB

GB/T

GB/Z

業界標準

SJ,QC,SB…

SJ/T,QC/T,SB/T…

地方標準

DBxx/xxx-xx

DBXX/T   xxx-xx

企業標準

Q/xxx xxxx   xx

 

 ここで、TBT協定第2条第4項では、強制規格が必要な場合は国際規格を基礎として用いることが義務づけられているため、貿易の非関税障壁となるような規格制定は困難な仕組みになっている。

 

 すなわち、中国における国家標準の約85%はGB/T(推薦標準)、GB/Z(指導性技術文書)であり、GB(強制標準)は約15%にすぎない(例外的に、医療・衛生、食品などの人の健康・安全に関する分野においては強制標準の割合が高い)。また、国家標準よりも、業界標準、地方標準、企業標準の方が多く存在している。

 つまり、中国において「国家主導によるIT技術標準化政策」が行われていることは事実であるが、その内容は先進国におけるIT技術標準化政策とは大きく変わることはない。ただし、政府調達による標準化支援制度があり、中国発技術標準については政府調達で優遇されるという面での不公平は存在する。

 

(3)中国における必須特許とパテントプール(FRANDに基づくライセンス条項)

 

 中国では、先進国の企業による高額なライセンス料を求める行為を問題視する声もある。例えば、過去にDVD規格のパテントプールのライセンス料が高額過ぎたために、中 国のDVD機器メーカーの多くが倒産したために社会問題になったことがある。

 このような問題に関連して、中国政府は2009年11月2日に「特許に関わる国家標準 管理規定 (暫時施行)」を公開しており、2009年11月30日まで意見を募集した。最近になって、2012年12月19日に再びこの管理規程について意見募集が行われ、前回の意見募集で寄せられた意見を反映して修正した管理規程について2013年1月20日まで意見を募集した。

 この管理規定には以下の様な規定(一部抜粋)が存在する。

 

・第九条 国家標準の制定及び改訂過程において特許に係る場合、専業標準化技術委員会または標準の管理を担当する団体は、速やかに特許権者の行った撤回不可能な書面による特許実施許諾声明を取得しなければならない。

この声明には以下の内容が含まれていなければならず、特許権者は以下のいずれか一項目を選択しなければならない。

(一)特許権者は合理的かつ無差別な条件に基づいて、当該国家標準を実施するすべての組織及び個人が無料でその特許を実施することを許諾することに同意する。

(二)特許権者は合理的かつ無差別な条件に基づいて、当該国家標準を実施するすべての組織及び個人がその特許を実施することを許諾することに同意する。

(三)特許権者は上記二種類の方法に基づいて特許許諾を行うことに同意しない

特許権者が(三)を選択した場合、標準には当該特許に基づく条項を含めてはならない

 

 この規定によれば、中国において国家規格に関してパテントプールを構築する場合には、特許権者はいわゆるFRAND(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)条項に従わなければならない。そして、もしも特許権者がこのFRAND条項を拒否した場合には、その特許権は国家規格から排除される仕組みになっている。

 

 また、この管理規定には以下の様な規定(一部抜粋)も存在する。

 

・第十二条 強制国家標準は原則として特許を含まない。

・第十三条 強制国家標準が確実に特許を含む必要がある場合、国家標準化行政主管部門が関連部門と特許権者に対して共同で特許の処置について協議するよう要請を行わなければならない。関連部門と特許権者が特許の処置について合意に達しなかった場合、対応する国家標準については暫時公布を許可しない。

 

 この規定によれば、中国において強制標準である国家規格に関してパテントプールを構築する場合には、中国政府との協議を行わなければならない(協議に従わない場合にはその特許権は国家規格から外される)ことになる。

 

 すなわち、中国国内においては、特許権者は国家規格に必須特許を潜り込ませた上で高額なライセンス料を求める行為が行えなくなっている。

 

 なお、国家規格以外の規格については、上記の管理規程は適用されない。国家規格以外にも適用可能なガイドラインについては、現在のところは中国国家工商行政総局が「知的財産権に関する独占禁止法執行に係るガイドライン」の検討を進めており、その中に標準化に関する言及が行われる予定である。

 

【留意事項】

 中国では、先進国の企業による高額なライセンス料を求める行為を問題視する声がある。そのため、中国の国内における国家規格の技術標準の策定のワーキンググループに提携企業などを通じて間接的に関与する場合には、十分に留意する必要がある。

 具体的には、中国の国家規格の技術標準に自社の特許が必須特許として採用されそうな場合には、事前に自社の必須特許の存在を中国政府に通知した上で、必須特許として採用されればFRAND(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)条項に従う意思があるという声明を行うことが推奨されている。また、国家規格の場合のみならず、企業規格などのデファクトスタンダードを中国国内で策定する場合にもライセンス契約を結ぶときにはFRAND条項を盛り込むことも検討に値する。

■ソース
・人民中国インターネット版 科学的発展観とその成果
http://www.peoplechina.com.cn/zhuanti/node_66621.htm ・中国政府 国家高技術研究発展計画(863計画)
http://www.863.gov.cn/ ・JST 科学技術発展 第十二次五ヶ年計画要綱(日本語訳)
http://www.spc.jst.go.jp/policy/national_policy/plan125_science/index_125.html ・日本工業標準調査会 TBT協定について
http://www.jisc.go.jp/cooperation/wto-tbt-guide.html ・国立国会図書館 アジアの規格情報
http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-asia-46.php ・中国政府 国家標準化管理委員会(SAC)
http://www.sac.gov.cn/ ・中国政府 中国通信標準化協会(CCSA)
http://www.ccsa.org.cn/ ・中国通信標準化協会(CCSA) 2012年標準化重点項目
http://www.ccsa.org.cn/worknews/content.php3?id=2937 ・中国標準化法(日本語訳)
・中国国家標準(GB規格)検索データベース(中英併記))
http://new.sac.gov.cn/SACSearch/outlinetemplet/gjbzcx.jsp ・「特許に関わる国家標準 管理規定(暫時施行)」(2009年11月2日意見募集稿)
http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/pdf/opinion/20091102.pdf(日本語訳) http://www.sac.gov.cn/upload/091104/0911040916193480.PDF(中国語) ・「特許に関わる国家標準 管理規定(暫時施行)」(2012年12月19日意見募集稿)
http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/pdf/opinion/20121217.pdf(日本語訳) http://www.sac.gov.cn/gybzheb/zxtz_850/201212/t20121219_130448.htm(中国語) ・Draft of the Guidelines for IP-related Antimonopoly Enforcement(英語)
http://documents.eu-japan.eu/seminars/japan/symposium/handout_wang.pdf
■本文書の作成者
SK特許業務法人 代表弁理士 奥野彰彦
■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦
■本文書の作成時期

2013.01.25

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