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中国における実用新案権の権利行使

2013年08月13日

  • アジア
  • ライセンス・活用
  • 特許・実用新案

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■概要
中国においては、特許に比べて、審査スピードや権利化の容易さ等を理由に、実用新案制度は中小企業を中心に利用されている。特許と実用新案はいずれも専利法の保護対象であり、権利行使の場面においても、特許と実用新案はさほど区別を有さない。以下では、特に実用新案権を中心に、侵害者に対する権利行使の手段等について紹介する。

■詳細及び留意点

【詳細】

 実用新案権者は、自己の権利が侵害されていることを発見した場合、警告状・交渉、行政取締、訴訟の3つの措置を取ることができる。

 

(1)警告状・交渉

 実務上、専利権者は、行政摘発または訴訟を提起する前に被疑侵害者に警告状を発送することによって、侵害を停止し、損害を賠償するよう要求することが多い。警告状を発送した後、専利権者は、被疑侵害者と協議及び交渉を行い、協議と交渉によって被疑侵害者の対応などを把握した上で、戦略を調整する。

 

(2)行政取締の請求

 専利権侵害行為等を発見した場合、専利権者又は利害関係者は、実際の状況に応じて、侵害行為実施地、侵害結果発生地の地方の専利業務管理部門(以下、「地方知識産権局」という。)に取締を請求することができる。 なお、地方知識産権局は、紛争を解決する過程において、両当事者の意思に基づいて調停を行うことができる(専利行政法執行弁法第13条)。詳細は、本データベース内コンテンツ「中国における専利(特許・実用新案、意匠)に関する行政取締りの概要」ご参照。

 

(i)メリット

・ 時間と費用が訴訟ほどかからない。

・ 証拠に対する要求が訴訟ほど厳しくない。

・ 実地検証により、有力な証拠を入手できる。

(ii)デメリット

・ 侵害の成否に関する関係主管機関の判断が重要であるが、相手方企業が現地で一定の影響力を有する場合は、地方保護主義の影響を受ける可能性がある。

・ 通常、地方知識産権局は調停(専利行政法執行弁法第13条)での解決を図るが、長期間経っても結果が得られない場合もある。

 

(3)侵害訴訟の提起

(i)裁判所に訴訟を提起することは、専利権侵害紛争を解決する主たる方法である。実用新案権者が侵害訴訟を提起する場合、事前に十分な準備をしなければならず、主に次に挙げることから着手すべきである。

(a) 侵害証拠の收集

 実用新案権者は、侵害者に対する初歩的調査を行うことにより、侵害者が侵害製品を生産・販売していることを証明する証拠を収集することができる。たとえば、侵害製品の生産・販売を発見した後、侵害製品に対する公証付購入により実物証拠を入手する。インターネットでの侵害製品の販売を発見した場合も、公証機関にインターネット上のウェブサイトに対する公証を依頼することにより、証拠保全を行うことができる。

(b) 実用新案権評価報告の請求

 実用新案権者は、訴訟を提起する前に、中国特許庁(中国語「国家知识产权局」)に実用新案権評価報告の発行を請求することができる(専利法第61条第2項)。当該報告における分析と結論に基づき、行使しようとする実用新案権について評価を行い、実用新案権に無効理由がないかどうかを客観的に確認することによって、侵害訴訟の戦略をより確実に定めることができる。実用新案権評価報告は、訴訟を提起するために必要ではないものの、実務において、裁判所がこの評価報告の提出を要求することもある。実用新案権評価報告において、実用新案権者に不利な意見が提示されていない場合、「最高裁判所による特許紛争案件審理の法律適用問題に関する若干の規定」第9条に基づき、特許侵害紛争を審理する裁判所は裁判を停止しなくてもよい((5)(i)「無効審判請求の抗弁」参照)。

(c) 裁判所の選択

 実用新案権に基づき権利侵害訴訟を提起する場合、侵害行為地又は被告住所地の裁判所が管轄する。侵害行為地として、被疑侵害製品の製造、使用、販売の申し出、販売、輸入などの行為の実施地、および上記の侵害行為の侵害結果発生地が挙げられる。専利紛争に係る第一審事件については、各省、自治区、直轄市政府所在地の中等裁判所と、最高裁判所の指定した中等裁判所とが管轄する。すなわち、第一審特許事件の裁判管轄は中等裁判所に限るとともに、一部の中等裁判所のみ専利事件に対する管轄権を有する。ただし、試験場所として、北京海淀、江蘇崑山及び浙江義烏という3ヶ所の基層裁判所は、一定金額範囲内の実用新案権と意匠権に関する訴訟を審理することができる。

(d) 訴訟の時効

 専利権侵害訴訟の提訴時効は2年である(専利法第68条)。その期間は、専利権者又は利害関係者が侵害行為を知った日又は知り得る日から起算する。したがって、訴訟時効の経過による敗訴を避けるために、専利権者は侵害行為を知った日又は知り得る日から2年以内に訴訟を提起すべきである。

 

(ii)メリット・デメリット

(a) メリット

・ 訴訟を提起することにより、先方企業に強いプレシャーをかけることができる。先方企業が自ら和解を求めたり、侵害行為を停止したりする場合もある。先方企業が侵害を認めない場合でも、裁判所に判決を求めることができる。

・  裁判所が先方企業の権利侵害行為を認めた場合、判決書が法的強制力を有するので、先方企業が判決書に要求される義務を履行しなければ、強制執行を申請することもできる。

(b)デメリット

時間と費用がかかる。

 

(4)権利行使中にあり得る抗弁

 権利行使において、通常、被疑侵害者は抗弁を行うが、抗弁の理由としては、提訴時効の抗弁(専利法第68条)、権利消尽の抗弁(専利法第69条第1項第1号)、自有権利の抗弁(専利法第11条反対解釈)、無効審判請求の抗弁(専利法第22条)、公知技術の抗弁(専利法第62条)、及び先使用権の抗弁(専利法第69条第1項第2号)などが挙げられるが、主に実務においてよく見られるのは、無効審判請求の抗弁、公知技術の抗弁及び先使用権の抗弁である。

 

(i)無効審判請求の抗弁

 被疑侵害者が最もよく利用する抗弁の理由は、無効審判請求の抗弁である。この抗弁は、特に方式審査のみで登録される実用新案権の場合によくみられる。しかし、無効審判の請求は、特許庁審判部(中国語「专利复审委员会」)にしか提起できず、裁判所又はその他の行政機関に請求することができない。これは、専利の有効性についての審理を行うのは特許庁審判部の専権事項だからである。裁判所が受理した実用新案権紛争事件について、被告が答弁期間内に実用新案権の無効審判を請求した場合、通常、裁判所は訴訟を停止する(最高裁判所による特許紛争事件の審理における適用法律の問題に関する若干の規定第9条)。なお、実務においては、実用新案権評価報告において、権利者に不利な意見が提示されていない場合、上記規定に基づき、特許侵害紛争を審理する裁判所は裁判を停止しなくてもよいとされている。

 しかし、被告が特許庁審判部に係争特許/実用新案について無効審判を提出した場合、権利者は、係争特許/実用新案のクレームに対して一定の訂正を行うことにより(実施細則第69条)、係争特許/実用新案の安定性を強化することができ、司法実務において、無効審判段階に権利者の訂正を経て実用新案権の一部のみ無効にされたケースが多数存在する。

 なお、行政取締おいて、被疑侵害者が特許庁審判部に無効審判を請求したことにより当該行政取締が停止されるか否かについては未だ明確な規定はないが、実務上、地方知識産権局により、実情に応じて取締手続きを停止するか否かが決定されている。

 

(ii)公知技術の抗弁

 2008年改正専利法において「公知技術の抗弁制度」が導入されて、被疑侵害者が自己の実施した技術が公知技術に該当することを証明する証拠を有する場合は、専利権の侵害にはならない(専利法第62条)。専利侵害紛争において、近年、専利侵害紛争において、公知技術の抗弁は被告に広く利用されている。

 なお、専利権の保護範囲に属すると訴えられた全ての技術的特徴が、ある既存技術における相応した技術的特徴と同一、或いは実質的な相違がない場合、裁判所は、権利侵害で訴えられた者が実施した技術が、専利法62条に定められた既存技術に該当すると認定しなければならず(最高裁判所による特許権紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈第14条第1項)、公知技術の抗弁においては、被疑侵害技術と公知技術間の関係を考察することが重要である。

 

(iii)先使用権の抗弁

 専利法上、専利出願日前にすでに同一製品を製造し、同一方法を使用し、又はすでに製造・使用の必要準備を完成し、かつ従来範囲内でのみ引き続き製造・使用する場合は専利権侵害には該当しない旨規定されており(専利法第69条第1項2号)、本規定に基づくいわゆる「先使用権の抗弁」によって、権利者と同一内容の特許・実用新案等を実施した場合であっても、その出願日前にすでに独立して同一内容の発明を完成させた企業、または合法的に技術を知得した企業は引き続き当該技術を使用することができる。被疑侵害者は、侵害訴訟において先使用権の抗弁ができるものの、先使用権の成立の要件は比較的厳格である。

 司法実務上、先使用権の抗弁を主張する事例は多いが、多くの事例において、被告の先使用権の抗弁は裁判所に認められていない。その主な原因は、先使用を証明できる証拠が不十分で完全に立証することができなかったためである。したがって、先使用権の抗弁の難点は証拠の収集及びその真実性の確保にある。

 

【留意事項】

(1)以上の通り、実用新案権が侵害された場合にとり得る権利行使の手段としては、警告状、行政取締り、訴訟があり、特許と大きな区別を有さない。また、中国の実用新案制度は、小発明、小創造を奨励し、実体審査が行われないため審査・許可が簡単かつ迅速で、かかる費用も低い。そのため、特に中小企業の発明成果を保護する上で有効である。

 実用新案権の侵害に対する有効な措置はさまざまあるものの、実用新案権者が実用新案権を行使する際、又は侵害者に対する対抗措置を取る前に、先ず中国特許庁に実用新案権評価報告の発行を請求することが望ましい。そうすることで評価報告の分析と結論から、行使しようとする実用新案権を見直し、その実用新案権に無効理由がないことを客観的に確認することにより、権利行使の方策をより確実に定めることができる。

 

(2)特許権・実用新案権に基づく訴訟を提起した後に無効審決が確定し、権利者の悪意により他人に損害をもたらしたことが立証された場合、権利者はその損害について賠償しなければならないが、実務上、悪意に関する立証は難しく、かつ、裁判所も非常に慎重に判断を行うので、実用新案権に基づき訴訟を提起した後に権利が無効とされた場合でも、被疑侵害者に損害賠償金を支払うリスクは、さほど大きくない。

 現在、権利者の悪意の証明に関する明確な法的根拠はないものの、北京高等裁判所による「特許侵害判定意見募集稿」においては、国家標準、業界標準などの技術標準に記載されたものを特許出願し、かつその特許権に基づいて権利行使した場合と、ある地域で広範に製造又は使用されている製品を、その製造又は使用を知り得る権利者が特許出願し、かつその特許権に基づいて権利行使した場合等が挙げられている。この意見募集稿は司法解釈に該当せず、上記の内容も正式に施行されるものではなく募集稿にすぎないが、上記のような考え方は、現在の理論分野における主流の見解としてこれまでの司法実務上の判断と一致しており、参考にする価値はある。

■ソース
・中国専利法
・中国専利行政法執行弁法
・最高裁判所による特許紛争案件審理の法律適用問題に関する若干の規定
・最高裁判所による特許権侵害紛争事件の審理における法律応用の若干問題に関する解釈
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
特許庁総務部企画調査課 山中隆幸
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻
■本文書の作成時期
2013.02.06
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