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(中国)商号と商標との関係
2013年06月18日
■概要
(本記事は、2023/4/6に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/license/34139/
中国では商号と商標との衝突が頻繁に発生しており、主に「他人の登録商標に同一又は類似する文字を企業名称の商号として登録するもの」と「他人の商号を商標として登録するもの」の二種類が挙げられる。これらの衝突が発生する主因は、中国の商標登録制度と企業名称登記制度という異なる二制度の並存にある。以下では、中国の企業名称登記制度と商標登録制度の概要及びその衝突の解決策について紹介する。
■詳細及び留意点
【詳細】
(1)企業名称登記制度及び登記管理機関
「企業名称(中国語「企业名称」)」とは、商品の生産・経営者がその他の商事主体と異なる特徴を表明するために使用する専属の営業標識を指す(企業名称登記管理規定第7条、商標と企業名称における若干の問題を解決することに関する意見第3条)。「企業名称」は、「行政区画名+商号(又は字号)+業種の特徴+組織形式」、又は、「商号(又は字号)+(行政区画名)+業種の特徴+組織形式」により構成される(企業名称登記管理実施弁法第9条)。「商号」は、企業名称の一部として、重要な識別的な役割を果たしている。
(i)企業名称登記制度に関する規定
中国の企業名称登記制度は、民法通則(第26条、第33条)、会社法(第8条)、不正競争防止法(第5条、第21条)、企業名称登記管理規定、企業名称登記管理実施弁法及び会社登記管理条例を通じて調整されている。実務に影響する内容は、企業名称登記管理規定、企業名称登記管理実施弁法、及び会社登記管理条例に規定されている。
(ii)企業名称登記管理の管轄
国家工商行政管理機関は、企業名称に関して級別登記管理を行い、かつ企業の規模に基づき、国家工商行政管理総局(以下、「国家工商総局」という。)及び地方工商行政管理局(以下、「地方工商局」という。)が各地方の行政区画のクラスに応じて企業名称の登記管理業務を行う。国家工商総局が全国の企業名称登記管理業務を主管するが、国務院の許可を得た大型企業のみ国家工商総局にその登記を申請できる。(企業名称登記管理実施弁法第5条)。それ以外の殆どの企業名称については、いずれも地方工商局がその登記業務を管理する。
(iii)企業名称の事前審査確認登記手続き
中国では、会社を設立するときは、企業名称事前審査確認手続き(中国語「企业名称预先核准」)を申請しなければならない(企業名称登記管理実施弁法第22条)。
国家工商総局・地方工商局は、企業名称登記について所轄地域範囲内において同業種に存在している商号を検索し、同一又は類似の商号がないと認められる場合、「企業名称事前審査確認通達書」を発行する。そのため、地域別や業種別で同一又は類似の商号が並存することがある。また、この検索は、国家工商総局・地方工商局の内部で行われ、事前公示若しくは異議申立などの救済手段は存在しない。
(2)商標登録制度及び登記管理機関
自然人、法人又はその他の組織の商品を他人の商品と区別することができる視覚的標章(文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状及び色彩の組合せ、並びにこれらの要素の組合せを含む)は、商標として全て登録出願することができる(商標法第8条)。商標登録する場合、国家工商総局の傘下にある商標局(中国語「商标局」)に出願書類を提出しなければならない。商標局は、その出願を受理し、実体審査において登録しようとする商標が先願、先登録商標と同一または類似すると認められる場合には、その登録出願を拒絶する。商標登録は全国で統一的に受理、審査、異議申立及び権利付与体制を取っている。
(3)衝突の解決策
上述のとおり、中国における商標登録制度と商号登記制度とは別々の制度として並存し、商標局は商標の先願、先登録商標を検索し、国家工商総局・地方工商局は商号を検索するが、商標と商号との交叉的検索は行われない。したがって、商標と商号の衝突が生ずる場合があるが、その場合、以下の対応策を取ることができる。
(i)他人の登録商標を模倣して企業名称として登録する場合
・ 企業名称が登録商標に抵触する場合、登録商標の権利者は、企業名称の登録主管機関に変更若しくは抹消を請求することができる(商標法実施条例第53条、馳名商標の認定と保護に関する規定第13条)。また、裁判所に商標権侵害訴訟を提訴することができる(最高裁判所による司法解釈2008年3号「登録商標、企業名称と先行権利との抵触に係る民事紛争事件の審理における若干の問題に関する規定」第1条及び第2条、企業名称登録管理実施弁法第45条)。
ただ、実務上、企業名称の登記主管部門に企業名称が登録商標と抵触するとの理由で企業名称の抹消を請求しても、地元の登記主管部門に積極的に受理してもらえないのが現状である。通常、企業名称登記部門は、当事者との協議又は抵触関係を認める裁判所の判決に基づいて、企業名称を変更させる(最高裁判所による「当面の経済形式下での知的財産権審判サービス大局の若干問題に対する意見」第10条)。
・ 他人が馳名商標を企業の名称として登録し、公衆を欺瞞し又は公衆に誤解を与え得る場合、馳名商標の権利者は、企業名称の登録機関に当該企業名称の抹消を請求することができる。企業名称の登録機関は、「企業名称管理規定」に基づき、処理しなければならず(馳名商標の認定と保護に関する規定第13条)、企業名称と登録商標との抵触事件において、先行登録商標が馳名商標である場合には企業名称登記機関へ企業名称の抹消を請求することができる。馳名商標ではない場合は、裁判所に商標権侵害訴訟を提起することにより、紛争解決を求めるルートとなる。
・ また、「他人の登録商標と同一または類似する文字を企業名称として、目立つように使用し、容易に関係公衆に誤認を生じさせるもの」は商標法第52条第5項に規定される「他人の商標専用権を侵害する行為」に属すると規定されているため(最高裁判所による「商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」第1条)、裁判所で商標権侵害を主張する際は、「目立つような使用」、「関係公衆に誤認を生じさせやすい」等の点を立証する証拠を提出することが非常に重要である。
・ なお、企業名称の登録が、商標権侵害または不正競争であると裁判所が認めた場合、裁判所は、原告の請求及び事件の具体的な事情に基づき、被告に使用停止、使用の規範化などの民事責任を命じることが出来る(最高裁判所による「登録商標、企業名称と先行権利との抵触に係る民事紛争事件の審理における若干の問題に関する規定」第4条)。しかし、裁判所は判決で企業名称の変更または抹消を命じることができない。
(ii)他人の企業名称を模倣して商標を出願・登録する場合
・ 出願・登録商標が企業名称に抵触する場合、企業名称の所有者は商標局に異議申立て(商標法第31条)、商標審判部(中国語「商标评审委员会」)に無効審判を提起することができる(商標法第41条)ほか、裁判所に民事訴訟を提起することもできる。裁判所は、登録商標における文字、図形等が他人の著作権、意匠権、企業名称権等の先行権利を侵害したとの理由で訴訟を提起した場合、その訴訟が民事訴訟法第108条の規定に合致していれば、裁判所はそれを受理しなければならない(裁判所による登録商標、企業名称と先行権利との抵触に係る民事紛争事件の審理における若干の問題に関する規定第1条)。
・ 商標法第31条では、「商標登録出願は、先に存在する他人の権利を侵害してはならず、他人が既に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で先登録してはならない。」と規定されており、ここでいう「先行権利」には、企業名称権、著作権、意匠特許権、氏名権、肖像権等が含まれる。この条項を適用するためには、先行の企業名称の登記日又は使用日が係争商標の登録出願日より前であること、先行の企業名称は関連公衆において一定の影響力を有すること、係争商標の登録及び使用は、関連公衆の誤認・誤解を生じさせる虞があることを証明できるか否かが最も重要である。
【留意事項】
・ 商標法では、商標登録の出願は他人の先行権利を侵害してはならないとされているが(商標法第31条)、「企業名称権」もこの「他人の先行権利」に含まれるため、商標登録出願の際は、同一業界内で有名な又は影響力のある企業名称と同一又は類似にならないよう注意する必要がある(商標法第31条)。
- 登記された企業名称と登録商標との衝突(抵触関係)が発生した場合、先行権利側が後発権利側の使用を禁止することで解決が図られる。
- 他人の企業名称を模倣して商標が出願・登録された場合、抵触関係の認定は、関連公衆に誤認が生ずる虞のあることが要件とされており、一般的に、例えば、商標同士の場合等に比べて、侵害認定を勝ち取るのは容易ではないとされている。日本の不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為的なケースが想定される。
■ソース
・中国民法通則・中国会社法
・企業名称登記管理規定
・企業名称登記管理実施弁法
・会社登記管理条例
・商標と企業名称における若干の問題を解決することに関する意見
・中国商標法
・中国商標法実施条例
・馳名商標の認定と保護に関する規定
・中国民事訴訟法
・中国不正競争防止法
・最高裁判所による商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈
・最高裁判所による「当面の経済形式下での知的財産権審判サービス大局の若干問題に対する意見」
・最高裁判所による「登録商標、企業名称と先行権利との抵触に係る民事紛争事件の審理における若干の問題に関する規定」
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所■協力
三協国際特許事務所 弁理士 川瀬幹夫中原信達知識産権代理有限責任公司
特許庁総務部企画調査課 山中隆幸
一般財団法人比較法研究センター
■本文書の作成時期
2013.02.05