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中国における商標に関する行政取締りの概要
2013年06月13日
■概要
中国では、商標権が他人に侵害された場合、権利者又は利害関係人は、管轄権を有する各地方の工商行政管理部門(以下、「地方工商行政管理局」という)に行政取締りの申立を提出することができる。■詳細及び留意点
【詳細】
中国では、商標権が他人に侵害された場合、権利者又は利害関係人は管轄権を有する各地方の工商行政管理部門(以下、地方工商行政管理局)に行政取締りの申立を提出することができ(商標法第53条)、その手続きは上記のような流れで進められる。
(1)行政取締りの申立
地方工商行政管理局へ取締り申立を行う場合、各地方の工商行政管理局ごとに必要となる申立書類等が異なる恐れがあり、また、申立書類の不備の有無のチェック等に時間を要するため、事前に電話で必要書類やスケジュールを確認し、いつ申立書類を提出するか、予約を入れておくことが望ましい。
申立を行う場合、実務上、次の条件を満たしていることが求められる。
(i)申立人は商標権者又は利害関係人(登録商標許諾契約のライセンシー、登録商標財産権利の合法相続人など)であること(最高裁判所による商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈第4条)
(ii)明確な被申立人がいること
(iii)明確な請求内容と具体的な事実、理由があること
(iv)当事者が当該商標権侵害紛争について、裁判所に提訴していないこと
実務において求められる、申立の提出に必要な書類及び証拠は以下のとおりである。
(i)授権委任状と有効な営業許可証(日本企業である場合、全部事項証明書)
(ii)商標登録証明書
(iii)申立書(被申立人の情報(会社名称、工商登録番号、住所、電話番号等)、侵害事実と事由、法的根拠及び申立事項等を明記する必要がある。)
(iv)侵害証拠(被申立人が権利者の許諾を得ずに、その商標を使用したことを証明できる書証、物証、侵害品の購入領収書、鑑定証明書等を提出する。)
なお、権利者が外国人、又は外国企業である場合、上記の(i)については、所在国で公証及び認証を受ける必要がある。
(2)取締り申立の受理、実地検証
地方工商行政管理局は、行政取締り申立が行われると、7業務日以内に申立人により提供された関連書類等を厳密に審査し、書類上の不備がないと判断した場合は受理、立件する。書類上の不備がある場合には、申立を受けた日から7業務日以内に、申立人に受理しない旨の通知とその理由を説明する(工商行政管理機関行政処罰手続規定第17条)。書類上の不備を理由に受理されなかった場合、申立人は書類を補充・修正した後、改めて再提出することができる。実務において、申立受取窓口において書類の不備が見つかった場合、申立書類は受理されず、修正・補充した後、再提出するよう要求される。
地方工商行政管理局へ取締りを請求する前に、事前に予約を入れておくことが望ましい。地方工商行政管理局ごとに対応の進め方も異なる。取締りを担当する担当官の都合によって、当日現場へ取締りに赴かせる場合もあるし、後日に取締りを手配することもある。取締り時に、侵害品を見つけた場合には、地方工商行政管理局はその侵害品等を差押える(工商行政管理機関行政処罰程序規定第35条)。
(3)調停
地方工商行政管理局は当事者の請求により、商標権侵害の賠償金額について調停することができる。実務においては、通常、賠償金額についての調停は、現地調査の後に行われる。調停が不調の場合、地方工商行政管理局は、侵害事実に基づき処理決定を発行するが、賠償金額に関する処理決定権を有しない。賠償金額に関して、当事者は中国民事訴訟法により裁判所に訴えを提起することができる(商標法第53条)。
(4)処理結果
一般的には、地方工商行政管理局は、仮処理決定書を作成した後、当事者に送付する。当事者は所定期間内に陳述・弁明を行うことができるが、所定期間内に、陳述・弁明権を行わなかった場合、又はいかなる表示もしなかった場合、当該陳述・弁明権をあきらめたものと見なされる(工商行政管理機関行政処罰程序規定第52条)。
地方工商行政管理局より、侵害行為及び関連証拠に基づき、被申立人の行為が侵害に該当するか否かについて判断し、処理決定書が作成・発行される。
被申立人に対する処理決定は、通常、立件日から90日以内に行われるが、複雑な案件である場合は、工商行政管理機関の責任者による承認を取得すれば30日間延長することができる(工商行政管理機関行政処罰手続規定第57条)。
被申立人は地方工商行政管理局の処理に対して不服がある場合、行政複議(中国語「行政复议」)*を提出することができる(工商行政管理機関行政処罰手続規定第56条)。
*「行政複議」:公民・法人又は他の組織が、行政主体が行った具体的行政行為(例えば、行政処罰など)に不服があり、当該具体的行政行為が自身の法的権益を侵害していると考える場合、法定行政複議機関に複議申請を提出することができる。複議申請が提出されると、行政複議機関は、法に従い当該行政行為の適法性・適当性を審査し、行政複議決定を行なう。当該行政主体が省級以下の地方工商行政管理局である場合、上級工商機関又は同級の人民政府に行政複議を提出でき、当該行政主体が省級以上(省級を含む)の工商行政管理局である場合は、工商行政管理総局又は当該工商行政管理局所在の省・自冶区・直轄市の人民政府に行政複議を提出できる(工商行政管理総局行政複議手続規則第3条)。
また、地方工商行政管理局の処理決定に不服がある場合、裁判所に行政訴訟を提起することもできる。この場合、処理通知を受けた日から15日以内に提出すべきである(商標法第53条)。
【留意事項】
現在、模倣業者の模倣技術が向上し、また、模倣品を製造・販売する場所を特定することも難しくなってきている。たとえ侵害証拠を入手したとしても、取締り時に空振りになることは商標行政機関にとっても好ましくないことであるため、正式な取締り手続きの前に十分に調査すべきである。
また、一部分の行政機関は、侵害証拠に対して要求が厳しくなっている。そのため、正式に取締りを請求する前に行政機関と連絡を取り、証拠に対する要求を事前に確認することが望ましい。
■ソース
・中国商標法・中国商標法実施条例
・工商行政管理機関行政処罰手続規定
・工商行政管理総局行政複議手続規則
・最高裁判所による商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所■協力
特許庁総務部企画調査課 山中隆幸一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻
■本文書の作成時期
2013.01.16