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台湾専利権と専利出願権の共有制度の紹介
2013年05月07日
■概要
台湾専利法は共有に関する規定を整備し、共有者全員で出願する規定のほか、出願の取下げ、放棄、出願分割、出願変更などの手続は共有者全員の同意を要するなど明確化している。■詳細及び留意点
【詳細】
1.共同出願
(ⅰ)共同で行う手続
(a)特許を受ける権利
専利法第5条は特許を受ける権利(中国語「專利申請權」)について「本法により特許出願する権利を指す」と規定し、第12条第1項で「特許を受ける権利が共有の場合は、共有者全員で出願する」と規定している。
共同出願に関する手続のうち、出願の取下げ、放棄、分割、補正及び専利法で他に定めがある場合は共有者全員で行わなければならないが、その他の手続は、各共有者が単独で行うことができる(専利法第12条第2項)。
(b)実用新案登録を受ける権利
専利法第5条及び第12条は専利申請を対象としており、実用新案も専利に含まれることから、特許の場合と扱いは同じになる。
(c)意匠登録を受ける権利
専利法第5条及び第12条は専利申請を対象としており、意匠も専利に含まれることから、特許の場合と扱いは同じになる。
(ⅱ)共同出願違反
(a)特許出願
共同出願違反は無効理由に該当し、共有者は無効審判により、その特許権を無効にできる(専利法第71条第1項第3号)。無効理由に該当する特許権の公告日から2年以内に無効審判を請求し、無効審決確定後2ヶ月以内に共有者が同じ発明を出願すれば、その特許出願は無効にされた特許権の出願日を基準に、新規性及び進歩性などの特許要件の審査がなされる(専利法第35条第1項)。
(b)実用新案出願
実用新案も共同出願違反は無効理由に該当し(専利法第119法第1項第3号)、無効審決で無効になった考案と同じものを出願した場合も特許と同様に、無効にした実用新案権の出願日を基準に登録要件が判断される(専利法第120条で準用する第35条)。
(c)意匠出願
意匠も共同出願違反は無効理由に該当し(専利法第140法第1項第3号)、無効審決で無効となった意匠と同じものを出願した場合も、特許と同様に無効にした意匠権の出願日を基準に登録要件が判断される(専利法第142条で準用する第35条)。
2.共有の特許を受ける権利の移転等
共有の特許を受ける権利の移転等については、特許を受ける権利単位の場合と特許を受ける権利の共有持分単位の場合に分けて、規定されている。
(ⅰ)特許を受ける権利単位
特許を受ける権利の譲渡又は放棄は、共有者全員の同意に基づいて行う(専利法第13条第1項)。
(ⅱ)共有持分単位
特許を受ける権利の持分を譲渡する場合も、他の共有者の同意が必要である(専利法第13条第2項)。共有持分の放棄は、他の共有者の同意は不要で、放棄した持分は他の共有者に帰属する(専利法第13条第3項)。
(ⅲ)実用新案登録を受ける権利
専利法第13条は専利出願を対象とし、専利には実用新案も含まれるので、実用新案登録を受ける権利も、上記(ⅰ)(ⅱ)と同じ扱いになる。
(ⅳ)意匠登録を受ける権利
専利法第13条は専利出願を対象とし、専利には意匠も含まれるので、意匠登録を受ける権利も、上記(ⅰ)(ⅱ)と同じ扱いになる。
3.専利権の共有
(ⅰ)共有専利権の扱い
(a)特許権
各共有者は他の共有者の同意がなくても自己実施できる。しかし、譲渡、信託、実施権の設定、質権の設定又は放棄については、他の共有者の同意を得なければならない(専利法第64条)。
専利法第67条第1項の規定に従って訂正を行う場合は、請求項の削除(第1号)及び請求の範囲の減縮(第2号)に限り、共有者全員の同意が必要となる(専利法第69条第2項)。
(b)実用新案権
特許権の場合と同じである(専利法第120条で準用する第64条、第67条及び第69条)。
(c)意匠権
各共有者が他の共有者の同意がなくても自己実施でき、譲渡、信託、実施権の設定、質権の設定又は放棄については、他の共有者の同意を得なければならない点は特許権と同じである(専利法第142条で準用する第64条)。
訂正(専利法第139条)は誤記又は誤訳の訂正と不明瞭な記載の釈明に限って認められ、これらの訂正については、他の共有者の同意は不要である。
(ⅱ)共有持分の扱い
(a)特許権の共有持分
他の共有者の同意がなければ、譲渡、信託又は質権の設定をすることはできない(専利法第65条第1項)。放棄した場合、放棄された持分は他の共有者に帰属することになる(専利法第65条第2項)。
(b)実用新案権の共有持分
特許権と同じ扱いである(専利法第120条で準用する第65条)。
(c)意匠権の共有持分
特許権と同じ扱いである(専利法第142条で準用する第65条)。
(ⅲ)その他
(a)特許権
共有者全員の同意により実施権の設定や質権の設定を行い、その後、特許権の放棄、請求項の削除の訂正又は請求の範囲の減縮の訂正を行う場合、他の共有者全員の同意に加え、ライセンシーや質権者の同意も得なければならないので(専利法第69条第1項)、注意が必要である。
(b)実用新案権
実用新案権は特許権と同じである(専利法第120条で準用する第69条)。
(c)意匠権
意匠の場合は、共有者全員の同意により実施権許諾や質権設定を行った後に意匠権を放棄する場合は他の共有者の同意に加え、ライセンシーや質権者の同意も得る必要が出てくる点は、特許権と同じである(専利法第140条)。
【留意事項】
共同出願に関連した手続には、他の共有者の同意が必要な場合と不要な場合があるが、共有者間で情報の共有ができていないとトラブルの原因となりかねない。同意の要不要に関係なく、全ての手続について共有者間で情報を共有するよう、事前に取決めをしておくのがよい。
■ソース
・改正台湾専利法http://www.tipo.gov.tw/ch/MultiMedia_FileDownload.ashx?guid=490f4f9b-fa08-4d52-8587-6a8ec69989cf.doc ・台湾専利審査基準第1篇第17章 専利権の取得及び維持
http://www.tipo.gov.tw/ch/MultiMedia_FileDownload.ashx?guid=2bb25570-c8b2-4173-9965-4129c09d3147.pdf
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所(作成2013年1月9日)特許庁総務部企画調査課 根本雅成(改訂:2013年7月16日)
■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦■本文書の作成時期
2013.07.16