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中国における実用新案制度の概要と活用

2013年03月26日

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■概要
実用新案は、特許と比べると登録期間が短く、権利の安定性も低いものの、実体審査が行われず登録までの期間が短い点、進歩性基準が特許より低い点等の特徴を有することから、中国では、技術開発能力が高くない企業に多く利用されている。また、中国には特許/実用新案同日出願制度があり、この制度を利用して実用新案出願を先に権利化し、後に特許出願が登録要件を満たす場合に実用新案権を放棄することにより特許出願の権利化を図ることもできる。
■詳細及び留意点

(1)中国における実用新案制度の概要

(i)実用新案(中国語「实用新型专利」)の定義

 実用新案とは、製品の形状、構造又はそれらの組合せについて提案された実用に適した新しい発明/考案(中国語「技術方案」)をいい(専利法第2条第2項)、中国の実用新案は製品のみを保護対象とする。

 ここでいう「製品」とは、産業的方法により製造されたもので、確定した形状、構造を有し、かつ一定の空間を占める実体をいう(審査指南第1部第2章6)。

 

(ii)実用新案登録を受けることができないもの

 以下は実用新案の保護対象に属さず、実用新案登録を受けることができないものである(審査指南第1部第2章6.1、6.2)。

(a) あらゆる方法的発明。

(b) 確定した形状がないもの。例えば、気体状態、液体状態、粉末状、粒状などの状態の物質や材料。具体的には、例えば化合物、化学組成物、結晶体。

(c) 製品の特徴が材料の改良にあるもの。例えば、製品の原材料の組成を記載した請求項。

(d) 製品の特徴がその製法の改良にあるもの。例えば、製造方法の工程を記載した請求項。

 ただし、実用新案の請求項の構成要素の一部に、例えば樹脂、ゴムなどのような既知の材料の名称を記載することは認められている。また、実用新案の請求項の構成要素の一部に、例えば溶接、リベット締めなどのような既知の方法の名称を記載することも認められている。

 

(iii)実用新案の方式審査(中国語「初步审查」)

 実用新案出願は方式審査を経て拒絶すべき理由がない場合、権利付与されることになる(専利法第40条)。条文上、実用新案出願に対しては実体審査が行われず、方式審査を経て登録されるが、実務においては、欠陥のある実用新案権が多いとされる問題を少しでも改善しようと、強化方式審査が行われている(実施細則第44条第1項第2号)。具体的には、形式上の不備だけではなく実質的な不備がないか、例えば、

(a)  実用新案の定義に合致しているか

(b)  クレームの記載要件を満たしているか

(c)  明細書の公開要件を満たしているか

(d)  補正制限に違反していないか

(e)  先願がないか

(f)  分割出願の要件を満たしているか

等も審査される。

 つまり、実用新案の強化方式審査は、新規性、進歩性、実用性の実体審査が行われないという点を除けば特許出願と同様の審査が行われており、実務上、実用新案出願に対して補正指令が出されることは珍しくない。

 

(iv)特許/実用新案同日出願制度

 中国には出願変更制度は存在しないが、出願人は同一の発明について特許と実用新案の両方を同日に出願することができる(専利法第9条、実施細則第41条第2項)。この同日出願制度を利用して特許と実用新案を同日に出願すれば、実用新案出願は実体審査がないため先に登録されることとなり、特許出願は、特許の登録要件を満たす場合に、出願人が実用新案権を放棄することにより、特許権を取得することができる。

 

(2)中国における実用新案権の活用

(i)中国実用新案権の権利行使のしやすさ

中国の専利法には、日本の実用新案法第29条の2のような「技術評価書を提示して警告をした後でなければ、侵害者等に対し、その権利を行使することができない」という旨の規定は存在しない。また、日本の実用新案法第29条の3で規定されるような「警告や権利行使を行い、その後、実用新案登録が無効となった場合、技術評価書の提示やその他の相当な注意をしないで警告や権利行使により相手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる」旨の規定もない。

 つまり、中国の実用新案権は日本の実用新案権に比べて、権利行使しやすい権利であると言える。

 

(ii)実用新案権評価報告

 中国では、侵害の紛争が実用新案権に係る場合、裁判所等は、権利者又は利害関係者に対し、中国特許庁が関連実用新案権について調査、分析と評価を行った上で作成した実用新案権評価報告の提出を要求することができる(専利法第61条第2項)。当該評価報告は、実用新案権の侵害紛争の審理において証拠とすることができる。

 また、裁判所が受理した実用新案権に関する侵害紛争案件において、被告が答弁期間(中国に経常住所がある場合15日、中国に経常住所がない場合30日)内に当該実用新案権に対して無効審判を請求した場合、裁判所はその訴訟を中止しなければならない。ただし、実用新案権評価報告に、実用新案権の新規性、進歩性を喪失させる技術文献が含まれていない場合、裁判所は訴訟を中止しなくてもよい(最高裁判所による特許紛争案件審理の法律適用問題に関する若干規定第9条、民事訴訟法第)。

 上記の通り、実用新案権を行使して侵害訴訟が提起された場合、裁判所は実用新案権評価報告の提出を要求することができる。しかし、この評価報告は裁判所が裁判を中止するか否かを判断する際の根拠として利用されるものに過ぎず、提訴時に必須のものではない。

 

(iii)実用新案の無効審判

 特許と同じく、実用新案も、登録公告された後、何人でも無効審判を請求することができ、無効理由及び証拠の使用については、特許と基本的に同様である。ただし、進歩性の判断に関しては、特許と実用新案との定義が異なるため、以下の相違点が存在する(審査指南第4部分第6章4)。

 特許の進歩性は、「既存の技術と比べて、その発明が突出した実質的特徴及び顕著な進歩を有する」ことと規定さている一方、実用新案の進歩性は、「既存の技術と比べて、その実用新案が実質的特徴及び進歩を有する」ことと規定されている(専利法第22条第3項)。従って、実用新案の進歩性基準は特許の進歩性基準よりも低いといえる。

 両者の進歩性基準における相違は、既存の技術に「技術的示唆」が存在するかを判断する際に、以下の二つの方面で表されている。

(a)既存の技術の技術分野

 特許の場合、発明の属する技術分野以外に、それに近いまたは関連する技術分野及び当該発明が解決しようとする課題が当業者に対し技術的手段を模索せしめるその他の技術分野も考慮されるべきである。

 一方、実用新案の場合、一般的には、当該実用新案が属する技術分野が優先的に考慮される。ただし、既存の技術に「明らかな示唆(例えば、明確な記載がある)」があり、当業者に対し技術的手段を模索せしめる近い又は関連する技術分野を考慮に入れてもよい。

(b)既存の技術の数

 特許の場合、1件又は複数の既存の技術の組合せで進歩性を評価することができる。一方、実用新案の場合、一般的には、1件又は2件の既存の技術の組合せで進歩性を評価することができる。ただし、従来技術の「簡単な寄せ集め」からなる実用新案に対しては、状況に応じて、複数件の従来技術の組合せで進歩性を評価することもできる(審査指南第4部第6章4)。

 

【留意事項】

  • 中国における実用新案権は、特許に比べて格別に権利行使しにくい権利であるという印象はない。また、実用新案権は方式審査のみで登録され、一度権利になると、それを無効にするためには時間と費用がかかる。さらに、実用新案権の進歩性基準は特許と比べて低く、実際に無効審判を請求する場合、2件以内の無効資料で無効とすることは容易ではない。
    上記の状況に鑑み、模倣されやすい構造的特徴があり、ライフサイクルが短い(実用新案の保護期間は出願日から10年)考案については、積極的に実用新案の出願を検討することが望ましいと思われる。
  • 中国における事業展開にあたり、抵触する実用新案権が存在すると判明した場合、権利行使される可能性があることに備えて事前に無効資料を調査し、準備すべきである。抵触する権利が重要な製品に係わるものである場合、無効審判を請求する方向で検討すると良い。相手に無効審判を請求した事実を知られたくない場合には、匿名で(無効審判は何人でも請求することができるため(専利法45条)、実際に請求する企業名等を出さずとも、実在する個人の名前等で)無効審判を請求することも可能である。
■ソース
・中国専利法
・中国専利法実施細則
・中国専利審査指南
  第1部分第2章 実用新案専利出願の方式審査
  第4部分第6章 無効宣告手続きにおける実用新案専利の審査の若干の規定
・最高裁判所による特許紛争案件審理の法律適用問題に関する若干規定(2001年21号)
・民事訴訟法
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所
■協力
三協国際特許事務所 中国専利代理人 梁熙艶
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻
■本文書の作成時期

2012.12.26

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