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インドにおけるロイヤリティ送金に関する法制度と実務運用の概要
2022年07月14日
■概要
2009年にインド政府はロイヤリティ送金に関する事前承認制度を廃止した。それ以降、政府の承認なしにロイヤリティを送金することができるようになった。現在のロイヤリティの送金に関する主な法的要件は、インド所得税法(以下、「税法」という。)に基づくものである。税法は、ロイヤリティの支払者に対し、所定の税率で所得税を源泉徴収することを義務付けている。このような源泉徴収を容易にするために、外国企業側に対してインドでPAN(Permanent Account Number)を取得することが奨励されている。インドと日本にある関連企業間の取引に関しては、移転価格の確実性を高め、紛争を回避するために事前価格合意書(APA)を取得することが可能である。■詳細及び留意点
1. ロイヤリティ送金に伴う為替債務
従前、技術使用等にかかるロイヤリティの支払いについては、輸出額の8%、国内販売額の5%、また契約に伴う初期の一括支払額は200万ドルまで自動認可されてきた。加えて、商標の使用に関するロイヤリティの支払いは、輸出額の2%、国内販売額の1%までが自動認可対象であった。しかしながら、2009年12月に発行されたPress Note第8号(「我が国企業の新興国への事業展開に伴う知的財産権のライセンス及び秘密管理等に関する調査研究」https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/6019334/www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2011_17.pdf p243参照)によって、上記制限が撤廃され、政府機関による事前承認制度は廃止された。ロイヤリティ料率等について、現在は、インド政府またはインド準備銀行(Reserve Bank of India (RBI))による特別な規定は設けられておらず、各企業の裁量判断に委ねられている。
ロイヤリティ送金は、インド準備銀行から認可を受けたAuthorized Bank(みずほ銀行・CITYBANK等)に、送金に必要なフォームおよび契約書のコピー、会計士の証明書(金額の妥当性について会計士が証明するもの)を提出することで行う。
2. 所得税の源泉徴収義務
税法は、日本企業へロイヤリティを送金するインド事業者に、源泉徴収義務を課している。現在、ロイヤリティ送金に対する源泉税の税率は、10%である。さらに、送金時に、送金明細を税法のForm 15CA(様式15CA)に記入し、源泉徴収を確認する会計士の証明書をForm 15CBに記入することが支払者に要求されている。
さらに、2010年4月1日以降の税法改正により、政府はPANの取得を義務づけている。これにより、インドからロイヤリティを受け取る外国企業は、インドでPANを取得する必要がある。PANを取得していない場合、20%の高い税率で源泉徴収される。ただし、外国企業が所定の情報(電子メールアドレス、電話番号、完全な住所、納税者証明書、納税者番号)を支払者に提供した場合は、10%のみ源泉徴収される。
PANの取得手続は以下のインド税務署のページで詳しく説明されている。
https://www.incometaxindia.gov.in/Pages/tax-services/apply-for-pan.aspx
PANの申請は、オンラインまたはインド税務署公認の登録代行業者に添付書類を添えて提出することにより行うことができる。申請書類に不備がない場合、一般的に2週間でPANカードが発送される。
3. 物品サービス税(Goods and Services Tax、以下「GST」という。)
ロイヤリティの送金には18%のGSTも課される。
このようなGSTは、通常、インドではリバースチャージ方式によりサービス受領者/ライセンシーが支払うことになる。また、サービス受領者/ライセンシーは、ロイヤリティ収入に対して支払われたGSTの前段階税額控除(input credit)を利用することができる。
※「通常であればサービスの提供者が納税義務者となるところ、サービスの受け手に納税義務を課す方式」のことを、「リバースチャージ方式」という。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/134.htm
項目 | 税率(*) |
法人所得税 | 15%~30%(国内企業) 40% (国内企業以外) |
個人所得税 | 0~30% |
物品サービス税 | 18% |
日本への配当金送金課税 | 10%~20% |
日本へのロイヤリティ送金課税 | 10% |
(*)サーチャージおよび/または目的税(ある場合)を除く。 |
5. 移転価格税制とAPA制度
日本企業がインドの関連企業からロイヤリティの送金を受ける場合、移転価格税制の適用を受けることになる。支払者が行う送金は、税法に基づく独立企業間価格(Arm’s Length Price:ALP)である必要がある。さらに、支払者は会計士から送金のALPを証明する報告書(Form 3CEB)を取得する必要がある。
インド政府は、2012年にALPの事前協議のためのAPA(Advance Pricing Agreement)制度を導入した。この仕組みでは、所得税委員会(Income-tax Board)が企業との間でAPAを締結し、5年間にわたりALPの決定またはALPの決定方法の特定を行う。さらに、2014年には、過去4年分の判定を行うロールバック規定(roll back provisions)も導入された。このため、外国企業は9年間、移転価格に関して拘束力のある確実性(binding certainty)を得ることができるようになった。
このようなAPA制度は、ある国の所得税当局と一方的に締結することも、協定を締結する両国の所得税当局と二国間協定を締結することも可能である。
外国企業は、クロスボーダー取引における移転価格に関する紛争を回避するために、このようなAPAを締結することが推奨されている。インドは2014年12月に最初のAPAを締結して以来、日本企業と多くのAPAを締結している。
6. 所得税申告義務
外国企業は、インドでの総所得を申告する所得税申告書を提出する必要がある。ただし、外国企業の総所得がロイヤリティ、利子、配当のみであり、インドの支払主体がその所得に対して法律に定められた税率で源泉徴収している場合は、この要件が免除される。
7. 留意事項
インドにおけるサービス受領者/ライセンシーとの今後の契約の見直しや新規締結を検討する際には、インドにおける源泉徴収税やGSTの負担が明確であることを確認する必要がある。
また、インドと日本の関連企業間の契約の場合、ALPの決定に適用される方法によって、移転価格が変わる可能性があることに留意する必要がある。関連会社が適用している方法は、法人税当局が適切と考える方法と異なる場合がある。したがって、紛争リスクを軽減し、移転価格の確実性を確保するために、所得税当局とAPAを締結することが推奨される。
■ソース
特許庁平成23年度産業財産権制度問題調査研究「我が国企業の新興国への事業展開に伴う知的財産権のライセンスおよび秘密管理等に関する調査研究」
※上記資料は特許庁ウェブサイトには掲載されていないが、「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)」により保存された、次のインターネットアーカイブから参照することができる。
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/6019334/www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2011_17.pdf
■本文書の作成者
Lakshmikumaran & Sridharan法律事務所株式会社サンガムIP
■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2022.03.01