アジア / ライセンス・活用 | その他参考情報
インドにおける特許の実施報告制度(2020年特許規則改正)
2022年07月12日
■概要
特許権者および実施権者は、インドにおける特許発明の商業的実施状況を記載した報告書(国内実施報告書)を定期的に提出することが義務付けられている(インド特許法第146条)。提出された国内実施報告書は公開される。実施状況の報告を怠ると罰金の対象となり、実施状況の虚偽報告を行った者には罰金刑または禁固刑、またはこれらが併科される。■詳細及び留意点
1.特許発明の実施に適用される一般原則
インド特許法第83条は、特許発明の実施に適用される一般原則について規定している。とりわけ、第83条(a)項において、特許は発明を奨励し、インドで特許発明が確実に実施されることを保証するために付与されるものであることが規定されている。
第83条 特許発明の実施に適用される一般原則
(a)特許は発明を奨励するためおよび当該発明がインドにおいて不当な遅延なく、商業規模で、かつ合理的に実行可能な範囲で実施されることを保証するために付与されるものである。
特許法第83条は一般原則を規定しているにすぎず、本条文そのものが実施を強制するものではないものの、インドで特許発明を実施することの必要性(インドにおける特許発明の実施義務)を規定している。
一方で、インド特許法第146条は、特許権者および実施権者に対して、特許発明のインドにおける商業的実施状況を報告することを求めている。特許権者および実施権者によって提出される特許発明の実施に関する情報は、インドにおいて(インド特許法が規定する)特許制度が機能しているか否かを示す有益な情報である。
2.国内実施報告制度
(1)報告義務者
現存する特許権の特許権者および実施権者は特許発明の国内実施報告書を特許庁長官(Controller)に提出しなければならない(インド特許法第146条(2))。特許審査中にある特許出願人、消滅した特許の元特許権者には国内実施報告書を提出する義務は無い。
(2)報告対象
すべての特許発明が国内実施報告義務の対象である(インド特許法第146条(2))。報告対象には、実施されていない特許発明も含まれる。ただし、消滅した特許発明、特許審査中の発明は報告対象では無い。国内実施報告の対象となる期間は、図1に示すように、特許が付与された会計年度の直後に始まる各会計年度(4月1日~3月31日)であり、特許権者および実施権者は当該期間における特許発明の実施の有無および程度を報告しなければならない(特許規則131条(2))。
図1:国内実施報告の対象となる期間
(3)報告時期
特許発明の国内実施報告書は、報告対象の期間である各会計年度の終了後6か月以内(4月1日~9月30日)に提出しなければならない(特許規則131条(2)(2020改正))。なお、明文の規定は無いが、国内実施報告の対象期間中に存続していた特許権が、報告期間中に消滅するような場合(例えば、特許権を維持する意志が無く特許料を支払われていない場合)、国内実施報告は不要と考えられている。
(4)報告手続
特許権者および実施権者は、様式27(FORM27)に従って特許発明の商業的実施の程度を記載し、管理官に提出しなければならない(インド特許法第146条(2)、特許規則131条(1)、様式27(2020改正))。
国内実施報告書に記載すべき事項は次のとおりである。
(ⅰ)特許番号毎に実施しているか否かを記載する。
(ⅱ)実施している場合、インドで製造または輸入した特許発明によって得られた収益/価値の概算を記載する。また、実施の概要を記載する。
(ⅲ)実施していない場合、実施していない理由と、実施に向けて行った措置を記載する(500文字以内)。
3.実施/不実施 この様式を提出している各特許が実施済みか不実施かを述べてください。 | 特許番号 | 実施[該当する場合はチェック] | 未実施[該当する場合はチェック] | |
4.実施している場合 | (a)実施された特許番号の明細を提出した特許権者/ライセンシーにインドで発生したおおよその収益/価値 | |||
(1)インドでの製造….(INR) | (2)インドへの輸入………(INR) | |||
(b)上記(a)に関する概要 (500語以内) | ||||
5.実施していない場合 | 特許発明を実施していない理由と、実施のためにとっている措置。(500字以内) |
国内実施報告書には、特許権者、実施権者または代理人が署名する。権利者が同一で各特許発明から得られる収益/価値を区別できない場合、複数の関連する特許については一つの報告書にまとめて記載することができる。特許が共有に係る場合、共同で一つの実施報告書を提出することができる。
なお、旧様式27で要求されていた具体的記載、例えば、インドで生産されまたはインドに輸入された特許製品の数量および価格、ライセンス情報等の記載は、2020年特許規則改正により不要になった。また、適正価格で公衆の需要を満たしていることの陳述も同規則改正により不要になった。
3.国内実施報告義務違反
(1)国内実施報告書の提出を怠った場合
国内実施報告書の提出を拒絶した者は、1,000,000インドルピー以下の罰金に処される(インド特許法第122条(1))。
(2)虚偽の国内実施報告を行った場合
虚偽の国内実施状況を報告すると、その者は6か月以下の禁固もしくは罰金に処され、またはこれらが併科される(インド特許法第122条(2))。
4.国内実施報告書の提出率および実施状況
2018-2019年度について見てみると、有効に存在する特許権の約8割について国内実施報告書が提出されている。また、国内実施報告があった特許発明のうち、3割弱の特許発明が実施されている(Annual report 2017-2018、Annual report 2018-2019)。
5.国内実施報告書の公開
国内実施報告書の内容はインド特許庁のホームページに公開されている。図2のサイトのプルダウンメニュー「Complete available for Year」で報告年度を、「Location」のメニューで特許庁(デリー、チェンナイ、コルカタ、ムンバイ)を選択し、「Search」をクリックすると、当該報告年度に提出された国内実施報告の一覧が表示される。一覧にあるリンク「View Document」をクリックすると、国内実施報告書の内容を閲覧することができる。
図2:Dynamic Patent Utilities:Information u/s 146 (Working of Patents)
URL:https://ipindiaservices.gov.in/DynamicUtility/WorkingOfPatents/Index
(最終アクセス日:2022年3月1日)
6.国内実施報告書の記載例
国内実施報告書には収益概算、実施概要などを記載する必要があるが、その具体的な記載方法についてのガイドラインなどはない。記載の一例を紹介する。
(1)実施している場合の記載例
例1)収益概算…輸入250000000(INR)
実施概要…Imported from a joint venture in China
例2)収益概算…製造100000(INR)
実施概要…Over 1Lac INR (exact value cannot be ascertained)
※1Lac=10万
(2)実施していない場合の記載例
例1)The patentee is contemplating an opportunity to work the patent in India.
例2)No specific plan for working currently.
7.留意事項
国内実施報告を怠った特許権者に対して実際に罰金が科された事例はない。しかしながら、罰金の対象として条文に明記されていることから特許権者は国内実施報告書を提出すべきと考えられている。なお、特許発明を実施していない旨の国内実施報告書を提出することについて、不実施に基づく強制実施権の設定を過度に懸念する必要はない。
■ソース
・インド特許法・インド特許規則
・国内実施報告のフォーマット(様式27)(2020年改正版)
https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOFormUpload/1_39_1/form-27.pdf
・特許(改正)規則2020
https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/Images/pdf/patents_amendment_rules_2020.pdf
・Annual report 2018-2019(P31)
https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/Images/pdf/IP_India_Annual_Report_2019_Eng.pdf
・Annual report 2017-2018(P31)
https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOAnnualReport/1_110_1_Annual_Report_2017-18_English.pdf
■本文書の作成者
河野特許事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2022.03.01