アジア / ライセンス・活用
韓国における権利行使のための事前準備及び侵害者の類型による対応例
2013年01月22日
■概要
知的財産権を獲得した後、他人による自己の権利の侵害情報を入手することは重要である。侵害情報入手後には、警告状の送付や訴訟等の法的処置をとる前に、侵害事実調査等の事前準備をしっかり行うことが必要である。また、効果的に権利行使をするため、また、大きな紛争になることを避けるためには、侵害者の類型(個人か法人か等)により対応を変えるのが望ましい。■詳細及び留意点
権利行使を確実に行うために必要な事前準備を段階的に紹介した後、侵害者の類型に応じた事例を紹介する。
(1) 事前準備:情報収集段階
- 権利侵害の情報は、権利者自身の販売網を通して収集される場合が多いため、韓国における侵害状況の把握には、韓国内の販売網を通して随時、情報を得るよう努めることが肝要である。
- 特に販売量が急激に減少した場合には、模倣品等が流通している可能性もあるので、調査すべきである。
- また、韓国以外の国で製造し、韓国に流入するケースもあるので、韓国のみならず所外国の販売網を通じた侵害関連情報の収集にも努めるのが望ましい。
- 侵害者の属性によって異なる対応をするのが効果的であるので、侵害者が個人か法人か、法人の場合は企業規模(中小企業か大企業)、当該侵害者の特許に対する認識の有無、侵害者の特許権等の保有の有無及び持っている場合にはどのような権利かの把握、当該侵害者の過去の知財紛争経験の有無等を調査しておく必要がある。
- 侵害者が個人で、複数人である場合には、侵害者全員を調査することは大変難しく、また調査中に一時的に行方が把握できなくなり、数日後に再度現れる等調査を混乱させる事態も起こりうるため、調査は困難であることが多い。このような場合は、侵害者の中で調査が可能な何名かのみをサンプルとして調査し、最も健全な侵害者にライセンスを提供しながら、その侵害者に他の侵害者の情報を提供してもらうという方法もある。一般に同業種の侵害者の情報をよく知っていることが多い。
(2)事前準備:証拠資料収集段階
- 侵害に関する情報を得た場合は、証拠資料収集をすることが必須である。これらの資料は後の訴訟等で侵害事実の立証に使用される。
- 証拠としては、まず、実際に当該侵害物品を購入し、且つ領収書を得ておく。そして、その販売先から侵害物品の提供者の情報を得るようにする。販売者が侵害品提供者の情報を提供しない場合は、販売者を告発するのも一手である。
- その他の証拠資料として、当該侵害物品が掲載されている販売広告パンフレットやインターネットによる広告事実等を確保することが望ましい。
(3)事前準備:侵害の有無に関する技術分析過程
- 特許権及び実用新案権の場合は、侵害物品を購入するだけでなく、購入した上で、自身の特許権等の侵害の有無を徹底的に分析しなければならない。
- 分析は、まず自身の会社で行った後、特許事務所に「技術比較検討」を依頼すれば費用面で節減できる。「鑑定書作成」として依頼した場合は、高額の費用がかかるので、一般的には「技術比較検討」の形態が望ましい。
(4)対応
以上のような情報収集が出来れば、その基礎資料を持って特許事務所及び法律事務所と対応方法について協議することが望ましい。特別の場合を除き、いきなり法的措置を求めることも選択肢としてあり得るが、一般的には、まず相手方と協議して解決することを原則とすることが望ましい。
(i)侵害者が逃亡する憂慮がある場合
逃亡する憂慮がある侵害者に対しては、極めて慎重に情報が漏れないように調査し、警察とともに侵害物品製造現場等に立ち入り、その場で逮捕するのも一方法である。
(ii)侵害者が中小企業である場合
- 中小企業であれば、協議を行うことで解決を図り得る。特に、相手がある程度の知財関連知識をもった中小企業である場合、警告状又は通告文を送付して、協議を始める。
- 協議前に、侵害者のホームページ等を通して、当該企業の権利保有状況および知的財産権の認識水準等を予め把握し、侵害者の水準に合わせた適切な対応をすることが望ましい。
- また、侵害者が過去に侵害による紛争の経験があるのかどうか、紛争に対する対応をどのようにしてきたのかについても調査して、協議の方向を決める。
- 協議が困難であると思われる場合、民事訴訟を提起するよりは刑事告訴をし、相手方に萎縮感を感じさせることで和解へと進める方法も望ましい。
(iii)侵害者が大企業である場合
- 侵害者が大企業である場合には、一般的に、権利に関する十分な知識があると推測できるので、警告状ではなく、侵害事実に対する通告文を送ればよい。
- 一般的に、大企業は通告文を受けとれば協議を提案する。特許侵害の場合、特許権者及び侵害者の両方の技術者が何回かにわたり協議を行い、当該特許権を比較・検討しながら問題点を整理し、最終的に、全体製品に占める比率とその他の色々な事情を考慮してロイヤルティーを決定することになる。
- 数ヶ所の大企業が侵害している場合には、先に協議してライセンス契約する会社にメリットを与えることが良い。どの会社も、先に契約すれば不利益を被るのではと憂慮するためである。
【留意事項】
(1) 侵害調査は可能な限り、秘密裏に行わなければならない。侵害者が逃亡するおそれがある時には特に調査を行っていることが明らかにならないよう注意しなければならない。
韓国では、一般的に、侵害調査は、特許事務所及び法律事務所に依頼して実施することが多い。ただ、最初から法律事務所に依頼すれば、タイムチャージとなるため費用が高くなるので、まず韓国支社や営業所等を通してある程度自社で行い、その情報を特許事務所又は法律事務所に提供し、調査を依頼するのが望ましい。韓国では、正式な侵害調査専門会社というものはない(いわゆる興信所のようなものは存在はするが、公に認められるものではない。また、社名に「調査」と入った会社も存在はするが、商業登記簿等公式な情報の収集を行う会社であり、侵害調査は表立っては行わない。)ので、利用する場合には注意が必要である。
(2) 特許権や実用新案権のように、侵害が技術的な事項である場合、侵害情報を得た場合には、侵害物品を分析して、侵害の有無を明確に調査しなければならない。
(3) 侵害に対する対応の最終目的がロイヤルティーである場合は、可能な限り協議で解決するのが望ましい。しかし、目的が生産中止等である場合は、情報収集の段階から法的措置を念頭において行動することが必要である。
■本文書の作成者
崔達龍国際特許法律事務所■協力
一般財団法人比較法研究センター 菊本千秋特許庁総務部企画調査課 山中隆幸
■本文書の作成時期
2012.10.25