アジア / ライセンス・活用
タイにおけるロイヤルティ送金及び営業秘密に関する法制度と実務運用の概要
2012年12月11日
■概要
ロイヤルティに関して、実施料の上限の規定はなく、レートを設定する機関もない。ロイヤルティ送金については、ライセンス契約の契約書の提出が必要であり、かつ、送金理由の証明も必要となる。監査条項をライセンス契約に入れることについては何ら問題ないとされている。■詳細及び留意点
(1)ロイヤルティ送金に関する法制度ついて
ロイヤルティ送金に関する法制度については、現在以下のようになっている。
(i) タイ中央銀行は実施料の上限を規定していない
(ii) 各種産業分野で実施料のレートを設定するような機関はない。
(iii)実施料の限度額を設けた規定もない。
(iv)一定額以上の送金には承認が必要
(v)送金目的を示す書類は常時提出が必要
ロイヤルティ送金時は、商業銀行で送金のための申請様式に記入するが、この際に契約書の提出が必要であり、送金理由の証明が必要となる(物品購入またはサービスの場合も同様)。ただし、実務上はインボイスと照合する程度であり、踏み込んだ説明を求められることはない。
(2)税制及び監査条項について
税制及び監査条項について、日-タイ租税条約により、源泉税率は配当金の場合は10%、利息の場合は15%、ロイヤルティの場合は15%である。ただし、金融機関への利息支払については10%に軽減されている。海外送金の場合は、納税番号から、歳入局支部によって付加価値税支払の有無を確認(2~3年に一度)される。また、当事者間の合意事項であれば、契約書に監査条項(ライセンサーがライセンシーに対して定期または不定期に実施状況に関する監査を行う旨の条項)を挿入することは、法的に何ら問題がない。
(3)ロイヤルティ送金及び税務監査について
送金及び税務監査について、以下の点に注意すべきとされる。
(i)輸入物品の支払いを送金する際に、販売後、後日支払う商標などのライセンス料にも課税される点に注意すべき(申告漏れの場合は罰金あり)。
(ii)歳入局の監査に備えて、送金額の正当性について説明できる資料を普段から準備しておくことが必要。
上記点に注意すべき理由は、海外送金に対する歳入局の監査の際に、いくつかの論点で歳入局と見解が異なりトラブルになりやすいからであり、その論点は(a)ロイヤルティ・サービスの解釈の問題、(b)送金額が合理的かどうかなどである。また、歳入局が送金の根拠及び妥当性について、詳細にわたってチェックすることも理由の1つである。例えば、利益と購入額が同業と比較して高い場合には、原価を下げるように指導されることもあり、当局が正当とみなした原価を適用し、利益があったとみなされて課税されることもある。
(4)共有特許のライセンス及び譲渡について
共有特許のライセンス及び譲渡は、全共有権者の合意が必要である(特許法第40条)。またアサインバック(ライセンシーが開発した改良技術について、ライセンサーに譲渡する義務を課すこと)と独占的グラントバック(ライセンシーが開発した改良技術について、ライセンサーに独占的ライセンスをする義務を課すこと)は禁止であることが規定されている。
(5)「営業秘密」の要件について
保護されるべき「営業秘密」の要件について、非公知性、有用性及び秘密管理性の三つの要件を定め(営業秘密法第3条)、営業秘密保有者の同意なく、誠実な慣行に反する方法で営業秘密を開示、持ち出し又は使用する行為を営業秘密の侵害行為としている(営業秘密法第6条)。
(6)競業避止義務及び退職後の秘密保持義務について
競業避止義務や退職後の秘密保持義務に関する制約について、中央知的財産国際取引裁判所(The Central Intellectual Property and International Trade Court )の見解として、法律上は秘密保持期間に関する制約はないため、基本的には合意次第であり、期限の妥当性についてはケースバイケースで判断されるとしている。一方タイの企業の見解としては、秘密保持期間は2年程度が目安で、競業避止義務は地域の限定があるほうが受け入れられやすいということである。一方地域を限定せず、タイ全土で競業避止義務を課すなどは受け入れられにくいとのことである。
■ソース
特許庁平成23年度産業財産権制度問題調査研究「我が国企業の新興国への事業展開に伴う知的財産権のライセンス及び秘密管理等に関する調査研究」
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/zaisanken.htm#5003 http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2011_17.pdf
■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 和田健秀■本文書の作成時期
2012.10.16