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インドにおけるFRANDライセンス契約に関する重要判例

2016年03月18日

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■概要
インドのデリー高等裁判所は、携帯端末用通信規格に関する標準必須特許をめぐる侵害訴訟で、紛争が解決されるまでのロイヤルティを設定する暫定命令を下した。この事例は標準必須特許のライセンスに適用されるFRAND原則をインド裁判所が支持した初の事例である。今回、裁判所が侵害行為に対する迅速な救済措置の姿勢を示したことで、とりわけ携帯端末というインドの巨大市場において、権利行使の動きが活発になることが見込まれる。
■詳細及び留意点

【詳細】

 インドにおいて医薬品分野の特許侵害訴訟が増加していることはすでに知られているところだが、デリー高等裁判所の最新事例は、ここにきて特許戦争の波が電気通信やIT分野にまで及びつつあることを示唆している。

 この事件は、スウェーデンのTelefonaktiebolaget LM Ericsson (以下「エリクソン」)が、GSM、EDGE、GPRS、3Gなどの通信規格に関して保有する特許権を侵害されたと主張して、インドの携帯端末メーカー、MERCURY Electronuc Ind Co., Ltd.とMicromax Informatics Limited(以下あわせて「マイクロマックス等」)を相手取り提起した訴訟である。エリクソンは、マイクロマックス等と3年にわたるライセンス交渉を続けていたが決裂し、訴訟を提起したものである。

 2013年1月6日、デリー高等裁判所に提起された訴訟において、エリクソンは永久差止命令や逸失利益の支払い等の救済を求めた。ここでエリクソンが請求した約1900万ドルという損害賠償額は極めて高額で、低コストで利幅の小さい携帯端末を製造販売するインドの携帯電話やタブレット型端末製造業者には大きなインパクトを与えた。マイクロマックス等は、自社生産は行わず、基本的に中国製の端末を入手して、自社ブランドで販売しており、自らの経営資源の多くをブランド構築に費やしている。

 エリクソン側弁護士は、マイクロマックス等に対する差止命令を求める一方、マイクロマックス等が輸入した携帯端末にはエリクソンの特許技術が使用されているが、特許ライセンスの対象になっていないため、一切の支払いを受けたことがないと主張した。エリクソンはまた、携帯端末輸入業者を相手取って提起した先の訴訟に依拠する主張も展開している。この訴訟において裁判所は、知的財産権(輸入品)執行規則(2007年)に基づき、侵害被疑製品の通関を一時停止するよう税関に命じている。

デリー高等裁判所の暫定命令:

 2013年3月19日、デリー高等裁判所はエリクソンの主張を受け入れ、本件紛争が解決するまでの暫定命令として、以下の通り、マイクロマックス等にカテゴリー別のロイヤルティを預託するよう命じた。

  • GSM方式の携帯端末については、販売価格の25%
  • GPRS+ GSM方式の携帯端末については、販売価格の75%
  • WCDMA、HSPA、EDGE+GPRS+GSM方式の携帯端末については、販売価格の2%
  • ドングルとデータカードについては、両当事者がロイヤルティについて、最終な合意に達するまで一律50米ドル

 裁判所は、この暫定的ロイヤルティ率を決定するにあたり、原告側の主張を認めたものと思われる。また、マイクロマックス等の積荷がインド税関に到着したことが通知されてから24時間以内に、エリクソンによる積荷検査を認め、検査後は税関がかかる積荷の留め置き解除に異議を申し立てないことを認めた。裁判所はまた、侵害被疑製品の輸入数量および販売数量を判定するため、マイクロマックス等の過去3年間の関連記録について調べる裁判所検査官を任命した。

 暫定命令では、両当事者が2013年4月9日までにFRANDライセンス契約の交渉を行うことで同意し、FRAND条件に合意できない場合は調停を選択できる旨が定められている。また、この交渉プロセスの円滑化を図るため、裁判所は調停人を任命した。

 

 FRANDと標準必須特許

 本件は、国際的に認められているFRAND原則に基づくライセンス契約をインドの裁判所が認め、支持した初の事例であろう。FRAND原則に基づくライセンスとは、特定の規格標準を技術的に実現するうえで利用せざるを得ない特許について、公正(Fair)で、合理的(Reasonable)で、非差別的(Non-Discriminatory)な条件でライセンスを供与することをいう。

 

 業界への影響

 デリー高等裁判所の命令は、インドの携帯端末メーカーおよび販売業者に重大な影響を及ぼすことになろう。

これまで、インド国内の携帯端末業界は、中国のような低コストの生産地からの輸入に大きく依存しており、技術開発自体にはほとんど投資していない。そのうえでさらに、世界的な先進企業が開発した技術についてライセンス供与を受けることなく自社ブランドを構築してきた。2012年5月現在、インドの携帯端末利用者は世界第2位の推定9億2937万人であり、ここで侵害端末の占める割合は決して少なくない。

特許権者に対して迅速に救済を認めた本件裁判所命令により、今後、この巨大市場で特許権者が権利行使する訴訟が増えるであろう。

ここで紹介された2013年の暫定ロイヤルティについては高率すぎるとの不満がインドメーカー側に強く、翌2014年11月12日、デリー高裁はさらにロイヤルティ・レートを引き下げた新たな暫定ロイヤルティを設定している。(Ericsson v. Mercury Elec. & Ano., 12/11/2014 CS(OS)No.442-2013)

■本文書の作成者
Rouse & Co. International (India) Ltd
■協力
日本技術貿易株式会社
■本文書の作成時期
2015.01.05
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