国別・地域別情報

ホーム 国別・地域別情報 アジア 法令等 | 出願実務 | 審判・訴訟実務 | 制度動向 商標 ベトナムにおける商標制度のまとめ-手続編

アジア / 法令等 | 出願実務 | 審判・訴訟実務 | 制度動向


ベトナムにおける商標制度のまとめ-手続編

2025年05月01日

  • アジア
  • 法令等
  • 出願実務
  • 審判・訴訟実務
  • 制度動向
  • 商標

このコンテンツを印刷する

■概要
ベトナムにおける商標制度の手続面について、2022年改正の知的財産法 07/2022/QH15(以下「知的財産法」という。)およびその関連法令にもとづいて紹介する。ここでは、通常の手続を網羅するように典型的な出願手続について説明する。商標登録の適格性、商品・役務については、関連記事「ベトナムにおける商標制度のまとめ-実体編」https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/40963/を参照されたい。
■詳細及び留意点

1. 出願前の準備
(1) 先願の原則
 知的財産法第90条第2項には、「先願の原則」として、同一または類似の商品・役務に関して、同一もしくは相互に混同を生じる程に類似する商標が複数存在する場合、最先の出願が登録される旨が規定されている。
 また、登録商標、周知商標、団体商標、原産地表示、商号、意匠権、著作権等の先の権利と抵触する商標についても、識別力を欠くとして、保護を受けることはできないことが規定されている(知的財産法第74条第2項e~p)。
 ベトナムで使用する商標は、先の権利を調査して速やかに出願することが望ましい。

(2) 商標登録を受ける権利(知的財産法第87条)
 以下の要件を満たす組織または個人は、商標登録を受ける権利を有する。なお、当該権利は、契約、相続等により移転することができる(同条第6項)。
・商標登録を受ける商標が、自ら生産する商品若しくは自ら提供する役務について使用する商標であること(同条第1項)。または、
・商標登録を受ける権利を有する者が、他の者により生産された商品の取引に適法に従事する者であること(ただし、当該生産者は当該商標を使用せず、かつ、登録に異論を唱えないこと)(同上第2項)。

 このように、商標所有者または使用権者が、商標を使用することを前提としており、もし、正当な理由なく、審判請求前に、連続して5年間、所有者または使用権者により商標が使用されなかった場合、当該商標の登録は取り消される可能性があることから(知的財産法第95条第1項d)、出願人は、自らが商標登録を受ける権利を有することを確認して出願する。ただし、出願時に、ベトナムにおける使用の証拠または使用意思の宣誓を求められることはない(政令65/2023/ND-CP(以下「政令」という。)の付属書Iの様式第08号参照)。

(3) 出願書類
 知的財産法第105条および政令の付属書Iの様式第08号として公開されている商標登録申請書(以下「願書」という。)によれば、願書には、商標見本、商標の種類(団体商標、証明商標、音商標、立体商標に該当するか否か)、申請者(出願人)および代理人の情報、優先権の情報、手数料の情報、委任状を含む添付書類の情報、商品・役務の一覧および本願書が真正である旨の宣言等を記載し、必要な書類を添付する。
 また、出願書類は、ベトナム語で作成しなければならない。ただし、委任状、優先権書類等は、他の言語により作成することができるが、ベトナム国家知的財産庁(以下「IP VIETNAM」という。)から要求された場合、ベトナム語に翻訳しなければならない。(知的財産法第100条第2項)

関連記事:「ベトナム語または英語以外の言語を含む商標」(2022.03.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/22848/

(4) グレースピリオド
 なし。
 出願に先立ち博覧会等において商標を使用しても、当該商標の出願日が遡る旨の規定はない。

2. 出願から登録までのフローチャート
(1) 出願から登録までのフローチャート

(2) フローチャートに関する簡単な説明
 出願から登録に至るまでの、実務上、必要な手続を網羅する、最も一般的なルートをフローチャートとして上記に示した。フローチャートの( )番号は、以下の「3. 審査」における見出しの番号に対応する。

3. 審査
(1) 出願:受理・不受理の判断

 国内出願は、少なくとも、標章の見本、指定商品または役務の一覧および出願人を特定する十分な情報を含む願書ならびに必要な手数料等の納付証明証があれば、出願日が付与され、出願受理書が出願人に通知される。不受理の場合は、出願不受理書が通知される(知的財産法第108条第1項aおよびc、通達23/2023/TT-BKHCN(以下「通達」という。)第8条)。
 後述する国際出願は、この判断は行われず、国際出願日が出願日となる(知的財産法第108条第2項)。

(2) 方式審査
 方式審査の期間は出願から1か月と規定され、出願人にその結果が通知される。方式審査において瑕疵が認められた場合、出願人に対し2か月の応答期間が与えられ、補正書や意見書の提出が可能である(通達第9条第5項aおよび同条第7項a)。提出期間は、1回だけ延長が認められおり、通常、2か月である(政令第15条第2項)。
 方式審査の結果に不服があれば、後述する実体審査と同様に不服申立することができ、方式審査で瑕疵がなければ出願公開の後、実体審査に進む。

(3) 実体審査
 公開の日から9か月以内に実体審査を行うと規定されている(知的財産法第119条第2項b)。ただし、実務上は必ずしも上記の期限内に終わるわけではない。法の定める保護要件を満たしていない場合、または法の定める保護要件を満たしているが瑕疵がある場合には、実体審査報告を出願人に対して通知する。審査官は、拒絶理由とともに、補正の提案を示すこともできる。応答期間は、通知から3か月であり、請求により、通常、3か月の延長が1回のみ可能である(政令第15条第2項および通達第12条第4項c(ii))。

(4) 登録料納付
 登録許可通知から3か月の期間内に、登録証明書の交付料、登録料、公報発行手数料を納付すべき旨を、出願人に対して通知される(通達第26条第13項d)。

(5) 商標権の存続期間および更新
 商標権の存続期間は出願日から10年であり、以後、商標権者は、10年ごとに連続して何度でも更新することができる。存続期間満了の6か月前から満了日までの間に、存続期間の更新申請手続を行うことができる。上記期間経過後6か月以内であれば、追加申請料を納付することを条件に更新可能である(知的財産法第93条第6項、政令第31条第3項のベトナム語原文)。

4. 出願人による不服申立
 受理・不受理の判断、方式審査および実体審査における拒絶査定などのIP VIETNAMの決定・通知に不服があるとき、出願人は不服を申し立てることができる(知的財産法第119a条第1項)。
 不服は、行政訴訟により直接、裁判所に申立することもできるが、一般的には、決定を下した行政官庁であるIP VIETNAMに第1回目の不服を申し立てる。この際、拒絶査定から90日以内に申し立てを行わなければならない(不服申立法第9条)。不服申立には、決定または通知の謄本、申立の理由となる証拠(申立書提出日から1か月以内に追加可能)および委任状を申立書とともに提出する(通達第36条)。
 第1回目の不服申立に対するIP VIETNAMの決定に不服がある場合、第2回目の不服を、当該決定から30日以内に、IP VIETNAMを管轄する科学技術大臣に申し立てることができる(不服申立法第7条第1項、同第33条第1項)。
 さらに、上記大臣決定に不服の場合は、当該決定から30日以内に、裁判所に行政訴訟を提起することができる(行政訴訟法第30条第1項)。

5. 異議申立
 出願が公報に掲載された日から5か月以内に、如何なる第三者も、当該出願に関する登録許可または拒絶に関して、所要の手数料、資料および情報の出所とともに、IP VIETNAMに異議を申し立てることができる(知的財産法第112a条)。
 異議理由に明確な根拠がある場合、IP VIETNAMは審査において決定を下し、両当事者に通知する(通達第11条第2項)。それ以外の場合、出願人に異議申立を通知し、出願人は2か月以内に回答することができ(通達第11条第1項)、回答があり、かつIP VIETNAMが必要と認めた場合には、異議申立人に2か月を期限として意見を求めることができる(通達第11条第3項)。さらに、IP VIETNAMが必要と判断した場合、または両当事者の要請があった場合、両当事者による直接対話の場を設けることが規定されている(通達第11条第7項)。
 通達第11条第1項、第3項および第7項の結論は、IP VIETNAM により、異議申立に対する理由とともに異議申立人に通知される(通達第11条第4項)。
 異議申立の結論の通知が発出されてから2か月以内に、異議申立人が裁判所に提訴し、その受理通知を庁に提出しない場合、異議は唱えないものとして、出願手続が続行される。庁が当該通知を受け取った場合、裁判所の解決を待ち、当該解決の結論に従って処理される(通達第11条第6項)。

6. 無効審判制度
 登録商標の保護証書が、不正目的で商標出願された場合およびその他の無効理由がある場合、如何なる組織および個人もIP VIETNAMに無効審判を請求することができる。ただし、無効審判を請求できるのは、不正目的で商標出願された場合を除き、登録日から5年以内に限る(知的財産法第96条第1項、第2項および第4項)。

7. 保護証書の効力停止の申し立て
 商標権者がもはや事業に従事せず法定承継人もいない場合、登録商標の使用が当該商品もしくは役務の性質、品質もしくは原産地について需要者に誤認を生じさせる場合または登録商標が当該商品・役務の普通名称となった場合、如何なる組織または個人も保護証書の効力停止を手数料とともに申し立てることができ、IP VIETNAMの決定をもって、当該保護証書の効力の一部または全部が終了となる(知的財産法第95条第1項c、h、i、同条第4項および同条第5項)。

8. 商標の不使用取消制度
 登録商標が正当な理由なく継続して5年間使用されていなかったときは、如何なる組織または個人も、IP VIETNAMに当該登録商標の取消を請求することができる(知的財産法第95条第1項d)。
関連記事:「ベトナムにおける登録商標の不使用取消請求」(2014.07.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/6212/
(本稿作成後、2025.04.03付で上記記事は更新されています。https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/40800/

9. 鑑定制度
 産業財産権に関する鑑定は、知的財産に係る鑑定士資格証明書を取得した者を有する法律事務所・企業等(外国法律事務所を除く)が実施することができる。ただし、鑑定書は、事件を処理するための証拠の情報源とされるが最終結論とはされない(知的財産法第201条第1項、第1a項b、第2項、第2a項、第5項)。

10. マドリッド・プロトコルによる国際出願
 ベトナムは、マドリッド・プロトコルの加盟国であり、ベトナムを指定国とする国際出願が可能である。知的財産法第120条第2項で国際条約を遵守することが定められており、政令第11条第1項には、知的財産法に定める登録手続を行うことなく国際条約の規定に基づく範囲および期間で保護されることが規定されている。
 具体的には、国際事務局から当該出願に関する通知(指定通報)を受領したIP VIETNAMは、国内出願と同様に当該出願の実体審査を行い、当該通知の受領後12か月以内に保護認容または暫定拒絶通報を国際事務局に行う。暫定拒絶通報の日から3か月以内に出願人は不備を是正するか、IP VIETNAMに不服を申し立てることができる。不服申立の手続は、国内出願と同様である(政令第27条)。

■ソース
・知的財産法 07/2022/QH15(改正部分のみ:ベトナム語、英語)
https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/21740 ・改正前 知的財産法 50/2005/QH11(改正前:ベトナム語、英語)
https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/12011 ・改正後 知的財産法 07/2022/QH15(日本語)
https://www.jica.go.jp/Resource/project/vietnam/059/materials/lqgpft0000005lvu-att/intellectual_property_law_2022.pdf 注:ベトナム語と英語は改正前と改正部分とを合わせて読む必要がある。

・政令65/2023/ND-CP 本文および付属書(ベトナム語)
https://datafiles.chinhphu.vn/cpp/files/vbpq/2023/8/65-nd-cp.signed.pdf ・政令65/2023/ND-CP 本文(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/vn/ip/pdf/vietnam-chizaihou_seirei_20230823rev.pdf ・政令65/2023/ND-CP 付録書(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/vn/ip/pdf/vietnam-chizaihou_seirei-furoku_2023rev.pdf
・通達23/2023/TT-BKHCN(ベトナム語)
https://datafiles.chinhphu.vn/cpp/files/vbpq/2023/12/23-bkhcn.pdf ・通達23/2023/TT-BKHCN(日本語)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/vietnam-chizaihou_tsuutatsu.pdf
・不服申立法 02/2011/QH13(ベトナム語)
https://moj.gov.vn/vbpq/lists/vn%20bn%20php%20lut/view_detail.aspx?itemid=27506 ・不服申立法 02/2011/QH13(英語)
https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/21887
・行政訴訟法(英語)
https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/6688
・関連記事「ベトナムにおける商標制度のまとめ-実体編」
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/40963/
■本文書の作成者
阿部・井窪・片山法律事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2025.01.07

■関連キーワード