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日本と香港における特許出願書類の比較
2025年04月15日
■概要
香港にて特許を取得する際に必要となる出願書類についてまとめ、日本と香港における特許出願について、出願書類と手続言語についての規定および優先権主張に関する要件を比較した。香港における標準特許出願には、従来からある標準特許(R)出願と、2019年に導入された標準特許(O)出願があり、それぞれ手続や必要とされる出願書類等が異なる。■詳細及び留意点
1. 日本における特許出願の出願書類
(1) 出願書類
所定の様式により作成した以下の書面を提出する(特許法第36条第2項)。
・願書
・明細書
・特許請求の範囲
・必要な図面
・要約書
(i) 願書
願書には、特許出願人および発明者の氏名(出願人が法人の場合は名称)、住所または居所を記載する(特許法第36条第1項柱書)。
(ⅱ) 明細書
明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載する(特許法第36条第3項)。
発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない(特許法第36条第4項第1号)。
(ⅲ) 特許請求の範囲
特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない(特許法第36条第5項)。
(ⅳ) 要約書
要約書には、明細書、特許請求の範囲または図面に記載した発明の概要等を記載しなければならない(特許法第36条第7項)。
(2) 手続言語
書面は、日本語で記載する(特許法施行規則第2条1項)。
(3) 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
書面は日本語で作成するのが原則であるが、英語その他の外国語(その他の外国語に制限は設けられていない)により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる(特許法第36条の2第1項、特許法施行規則第25条の4)。この場合は、その特許出願の日(最先の優先日)から1年4か月以内(分割出願等の場合は出願日から2か月以内)に、外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第36条の2第2項)。ただし、特許法条約(PLT)に対応した救済規定がある(特許法第36条の2第6項)。
(4) 優先権主張手続
外国で最初に出願した日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴う日本特許出願をすることができる(パリ条約第4条C(1))。優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書類を、最先の優先日から1年4か月または優先権の主張を伴う特許出願の日から4か月の期間が満了する日のいずれか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第43条第1項、特許法施行規則第27条の4の2第3項第1号)。優先権主張書の提出は、特許出願の願書に所定の事項を記載することで、省略することができる(特許庁「出願の手続」第二章第十二節「優先権主張に関する手続」)。また、最先の優先日から1年4か月以内に、特許庁長官に優先権証明書類を提出しなければならない(特許法第43条第2項)。
ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている(特許法第43条第5項)。
<参考URL>
特許庁:優先権書類の提出省略について(優先権書類データの特許庁間における電子的交換について)
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/yusen/das/index.html
2. 香港における特許出願の出願書類
香港における標準特許出願には、標準特許(R)出願と標準特許(O)出願があり(香港特許条例(以下「条例」という。)第2条(1))、それぞれの出願について必要とされる出願書類等が異なる。
2-1. 標準特許(R)出願
香港における標準特許(R)出願は、香港特許庁に直接出願するものではなく、指定特許庁に出願手続きを行い(指定特許出願)、指定特許出願が公開された段階で、香港特許庁に対して「記録請求手続」を行うものである(条例第15条(1))。その後、指定特許出願が指定特許庁により特許付与された段階で、その指定特許に基づき香港特許庁に対して「登録および付与請求」の手続をすることで香港における標準特許が付与される(条例第23条(1)、第27条(1))。
指定特許庁として、以下の3つの特許庁が指定されている(条例第8条)※。
・中華人民共和国国家知識産権局
・欧州特許庁(英国を指定した特許に限る)
・英国特許庁
※香港特許庁ホームページ掲載サイト「Standard patent(R)」の「Designated patent application(指定特許出願)」参照 https://www.ipd.gov.hk/en/patents/faqs/standard-patent-r/index.html
したがって、香港において標準特許(R)の権利化を求める場合は、中国出願、英国出願あるいは欧州出願(英国指定を含む)を行う必要がある。
(1) 出願書類
香港特許庁に対する記録請求手続は、指定特許庁での出願公開日から6か月以内に下記の情報および書類の提出が求められる(条例第15条(1)および(2))。
(i) 指定特許出願と共に公開された説明、クレーム、図面、調査報告または要約を含む、公開された指定特許出願の写し
(ⅱ) 指定特許出願が発明者の名称を含まない場合は、出願人が発明者と信じる者を特定する陳述書
(ⅲ) 請求人の名称および住所
(ⅳ) 請求人が指定特許出願に出願人として記載されている者とは別の場合、標準特許(R)出願の権利を説明する陳述書およびその陳述書を裏付ける所定の書類
(ⅴ) 優先権(条例第11B条)が主張されている場合は、次の詳細を示す陳述書
(a) 主張されている優先日
(b) 先の出願が提出された国
(ⅵ) 指定特許庁の法律の適用上新規性を害さない開示であった発明の先の開示について指定特許庁の法律に従って主張がなされていた場合は、当該先の開示についての所定の詳細を示す陳述書
(ⅶ) 書類送達のための香港における宛先
(2) 手続言語
特許出願は、公用語の一つで行わなければならない(条例第104条(1),(3))。香港の公用語は、中国語と英語である(香港基本法第9条)。
(3) 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
指定特許出願の、手続言語へのまたは公用語の一つへの翻訳文は、必要とされない(香港特許(一般)規則(以下「規則」という。)第56条(4))ので、仮に香港特許庁への「記録請求」時に提出される指定特許出願の公開明細書の写し(上記提出書類(i))が手続原語以外で記載されていたとしても、公用語への翻訳文の添付なしで出願日が確保されると解されるが、指定特許庁は、上記2-1.に記載したとおりであるから、指定特許出願は一般的に中国語または英語で指定特許庁に出願されているため、手続原語以外で記載された明細書(写し)をもって香港特許庁に「記録請求」するケースはないと考えられる。
(4) 優先権主張手続
記録請求時における優先権主張の陳述書の提出(条例第15条(2)(e))、および登録付与請求時における優先権主張の裏付け書類の複写の提出(条例第23条(3)(c))を条件として優先権が与えられる(条例第11B条)。指定特許出願が享受する優先日が標準特許(R)出願の優先日とみなされる(条例第11C条)。
2-2. 標準特許(O)出願
標準特許(O)出願とは、2019年に導入された制度であり、香港特許庁に直接行う特許出願をいい、香港特許庁の登録官によって実体審査が行われる(条例第2条(1)、第37A条、第37U条)。
(1) 出願書類
標準特許(O)出願は,次のものを含まなければならない(条例第37L条(2))。
(ⅰ) 標準特許(O)の付与を求める願書
(ⅱ) 次の事項を記載した明細書
・出願の主題である発明の説明
・少なくとも1のクレーム
・説明またはクレームにおいて言及される図面
(ⅲ) 要約
(ⅳ) 新規性を損なわない開示の主張を望む場合は、要求される陳述書および証拠
(ⅴ) 出願人が先の出願の優先権の利用を望む場合、優先権陳述書および先の出願の謄本
(ⅵ) 発明がその実施のために微生物の使用を必要とする場合は、当該微生物の試料を公衆が利用できる可能性に関する情報
(2) 手続言語
特許出願は、公用語の一つで行わなければならない(条例104条(1))。香港の公用語は、中国語と英語である(香港基本法第9条)。
(3) 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
特許出願は公用語で行わなければならず、提出する書類が公用語によらない場合は、公用語への翻訳文を含まなければならない(条例第104条(1)、規則第56条(1))。
(4) 優先権主張手続
先の出願の優先権の利用を希望する標準特許(O)出願人は、先の出願の出願日後12か月の期間中、優先権の主張を伴った出願をすることができ(条例第37C条(2)、規則第31C条(1)(b))、優先権陳述書は当該後の出願とともに提出しなければならない(条例第37E条(1)、規則第31C条(3))。ただし、所定の手数料を支払いかつ出願公開の請求が行われていない場合は、優先権陳述書は、主張される最先の優先日後16月以内に提出することができる(条例第37E条(1)、規則第31C条(4),(5))。また、先の出願の謄本は、主張される最先の優先日後16月以内に提出することができる(条例第37E条(1)、規則第31C条(7))。なお、標準特許(O)出願の優先日とは、優先権が主張される先の出願の出願日である(条例第37F条(1))。
■ソース
・日本国特許法https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=334AC0000000121
・特許法施行規則
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335M50000400010
・特許庁「出願の手続」第二章第十二節「優先権主張に関する手続」
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/document/syutugan_tetuzuki/02-12.pdf
・香港特許条例
(英語)https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap514
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/hong_kong-tokkyo_jourei.pdf
・香港特許(一般)規則
(英語)https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap514C
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/hong_kong-tokkyo_kisoku_gen.pdf
・香港基本法
(中国語)https://www.basiclaw.gov.hk/tc/basiclaw/chapter1.html
・パリ条約
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/paris/patent/chap1.html
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2025.01.16