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日本と香港における特許分割出願に関する時期的要件の比較
2025年04月15日
■概要
日本および香港においては、それぞれ所定の期間内に、特許出願について分割出願を行うことができる。香港における特許出願には、従来からある標準特許(R)出願と短期特許出願、および2019年に導入された標準特許(O)出願があり、それぞれの出願について分割出願することのできる時期的要件が異なる。■詳細及び留意点
1. 日本における特許出願の分割出願に係る時期的要件
日本国特許法第44条は、下記の(1)~(3)のいずれかの時または期間内であれば、2以上の発明を包含する特許出願の一部を1または2以上の新たな特許出願とすること(分割出願すること)ができることを規定している。
(1) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面について補正をすることができる時または期間内(第44条第1項第1号)
なお、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面について、補正をすることができる時または期間は、次の(i)~(iv)である。
(i) 出願から特許査定の謄本送達前(拒絶理由通知を最初に受けた後を除く)(第17条の2第1項本文)
(ii) 審査官(審判請求後は審判官も含む。)から拒絶理由通知を受けた場合の、指定応答期間内(第17条の2第1項第1号、第3号)
(iii) 拒絶理由通知を受けた後第48条の7の規定による通知を受けた場合の、指定応答期間内(第17条の2第1項第2号)
(iv) 拒絶査定不服審判請求と同時(第17条の2第1項第4号)
(2) 特許査定(次の(i)および(ii)の特許査定を除く)の謄本送達後30日以内(第44条第1項第2号)
(i) 前置審査における特許査定(第163条第3項において準用する第51条)
(ii) 審決により、さらに審査に付された場合(第160条第1項)における特許査定
なお、特許「審決」後は分割出願することはできない。また、上記特許査定の謄本送達後30日以内であっても、特許権の設定登録後は、分割出願することはできない。また、(2)に規定する30日の期間は、第4条または第108条第3項の規定により第108条第1項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間に限り、延長されたものとみなされる(第44条第5項)。
(3) 最初の拒絶査定の謄本送達後3月以内(第44条第1項第3号)
第44条第1項第3号に規定する3か月の期間は、第4条の規定により第121条第1項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間に限り、延長されたものとみなされる(第44条第6項)。
日本国特許法第44条(特許出願の分割) 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。 一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。 二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。 三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。 (第2項以下省略) |
2. 香港における特許出願の分割出願の時期的要件
香港における特許出願には、標準特許(R)出願、標準特許(O)出願、短期特許出願があり(香港特許条例(以下「条例」という。)第2条(1))、それぞれの出願について、分割出願することのできる時期的要件が異なる。
(1) 標準特許(R)について分割出願ができる時期
香港における標準特許(R)出願は、香港特許庁に直接出願するものではなく、指定特許庁※に出願された特許出願(指定特許出願)が公開された段階で、香港特許庁へ記録請求手続を行うものである(条例第15条(1))。その後、指定特許出願に対して指定特許庁で特許付与された段階で、その指定特許について香港特許庁へ登録付与請求手続を行うことで香港における標準特許(R)が付与される(条例第23条(1)、条例第27条(1))。
※ 指定特許庁として、以下の3つの特許庁が指定されている(条例第8条)※。
・中華人民共和国国家知識産権局
・欧州特許庁(英国を指定した特許に限る)
・英国特許庁
※香港特許庁ホームページ掲載サイト「Standard patent(R)」の「Designated patent application(指定特許出願)」参照 https://www.ipd.gov.hk/en/patents/faqs/standard-patent-r/index.html
標準特許(R)出願からの分割出願を香港特許庁へ直接行うことはできないが、標準特許(R)出願に対応する指定特許出願が指定特許庁で分割された場合に、その分割指定特許出願の公開日または記録請求公開日(当該標準特許(R)出願(親出願)の香港における公開日)のいずれか遅い方の後6か月以内に、その分割指定特許出願の記録請求(親出願の分割出願に相当)をすることができる(条例第22条(1))。
(2) 標準特許(O)について分割出願ができる時期
標準特許(O)出願とは、2019年に導入された制度であり、香港特許庁に直接行う特許出願をいい、香港特許庁の登録官によって実体審査が行われる(条例第2条(1)、第37A条、第37U条)。
標準特許(O)出願からの分割出願については、香港特許庁に直接行うことができる(条例第37Z条)。標準特許(O)について分割出願できる時期は、標準特許(O)出願(親出願)が登録査定された場合は登録公告の準備が完了する前まで(条例第37Z条(3)(a)(iii))、また標準特許(O)出願(親出願)について拒絶理由通知を受領した場合は、通知の日後2か月以内である(条例第37Z条(3)(a)(iv)、香港特許(一般)規則第31ZS条(2))。なお、標準特許(O)出願(親出願)が取下げられたか、取下げられたとみなされた後は、分割出願をすることができない(条例第37Z条(3)(a)(i),(ii))。
(3) 短期特許出願について分割出願ができる時期
標準特許(R)出願または標準特許(O)出願とは別に、香港特許庁へ直接出願する短期特許出願(日本の実用新案に相当、権利期間は出願から8年)もある(条例第2条(1)、第126条(1))。短期特許出願の場合には、その公開準備が完了する前まで、分割短期特許出願を行うことができる(条例第116条)。
香港特許条例 第22条 分割指定特許出願の場合の記録請求の規定 (1) 標準特許(R)出願において、次に該当する場合は、出願人は、分割指定特許出願の公開日又は本条例に基づく記録請求公開日の何れか遅い方の後6月以内に、登録官に対し、その分割指定特許出願を登録簿に記入するよう請求することができる。 (以下省略) |
香港特許条例 第37Z条 分割標準特許(O)出願 (1) (2)は、次の場合に適用される。 (a) 標準特許(O)出願(先の出願)がなされている場合、および (b) 出願人又は出願人の権原承継人が、(3)に定める条件を満たす新たな標準特許(O)出願をする場合 (2) 第103条(1)に従うことを条件として、 (a) 先の出願の出願日は、新たな出願の出願日とみなされる。また (b) 新たな出願は、優先権の利益を享受する。 (3) 条件は、次の事項である。 (a) 新たな出願が、次の通りなされること (i) 先の出願が取り下げられる前に (ii) 先の出願が取り下げられたものとみなされる前に (iii) 標準特許(O)が先の出願のために付与されている場合は、特許明細書の第37X条 (2)(a)に基づく公開のための準備が完了する前に、または (iv) 先の出願が登録官により拒絶された後所定期間内に、ならびに (b) 新たな出願が、 (i) 先の出願に含まれる主題の何れかの部分に関してなされること、および (ii) 所定の要件を遵守していること |
香港特許条例 第116条 分割短期特許出願 短期特許出願がなされた後、特許明細書の公開の準備が完了する第122条に基づく日付の前に、短期特許の新規出願が、所定の規則に従い原出願人または当該人の権原承継人によりなされた場合であって、出願が次に該当する場合は、当該新規出願は、先の短期特許出願の出願日をその出願日として有するものとして取り扱い、如何なる優先権の利益をも有する。 (a) 先の短期特許出願に含まれる主題の何れかの部分に関するものである場合 (以下省略) |
(条例の他の条文、および香港特許(一般)規則第31ZS条は、【ソース】の規定を参照されたい。)
日本と香港における特許分割出願に関する時期的要件の比較
日本 | 香港 | ||
分割出願の時期的要件(注) | 補正ができる期間 | 標準特許(R)出願 | 分割指定特許出願の公開日または記録請求公開日の何れか遅い方から6か月以内 |
標準特許(O)出願 | ・親出願が、登録査定された場合は、登録公告の準備が完了する前まで ・親出願が、拒絶理由通知を受領した場合は、通知の日後2か月以内 | ||
短期特許出願 | 公開準備が完了する前まで |
■ソース
・日本国特許法https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=334AC0000000121
・香港特許条例
(英語)https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap514
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/hong_kong-tokkyo_jourei.pdf
・香港特許(一般)規則
(英語)https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap514C
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/hong_kong-tokkyo_kisoku_gen.pdf
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2025.01.14