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シンガポールにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明

2025年02月27日

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■概要
シンガポール特許法において、「発明」は定義されていない。シンガポール特許法第13条(1)では、特許を受けることができる発明は、(a)発明が新規である、(b)発明に進歩性がある、(c)発明が産業上利用できる、という条件を満たすものであると規定されている。シンガポール特許法では、ごく限られた特許性の具体的例外しか規定されていない。ある種の主題における特許適格性については、不明瞭なままである。その中で、本稿では、ソフトウェアに関連した発明と治療方法に関連した発明の特許適格性を中心に説明する。
■詳細及び留意点

1. ソフトウェア
1-1. 特許法改正の経緯
 1995年2月にシンガポール特許法が施行された際に、第13条(2)によって「コンピュータプログラム」は、以下のように「発明」ではないと規定されていた。

シンガポール特許法(1995年2月施行)第13条 特許性のある発明
(1) (2)および(3)に従うことを条件として、特許性のある発明とは、次の条件を満たすものである。
 (a) 発明が新規であること
 (b) 発明に進歩性があること
 (c) 発明が産業上利用できること
(2)次のものから成るものは、本法を目的として、発明ではないことをここに宣言する。
 (a) 発見、科学的理論、数学的方法
 (b) 言語、戯曲、音楽または芸術作品、もしくはその他あらゆる審美的創作物
 (c) 精神活動、ゲームまたはビジネスのためのスキーム、ルールまたは方法、もしくはコンピュータプログラム
 (d) 情報の提示
 ただし、前述の規定は、特許または特許出願に関する範囲内において、あらゆるものが本法における発明として取り扱われることを禁止するものである。
((3)以下省略)

 しかし、1996年1月1日に施行された改正により、シンガポール特許法第13条(2)は削除された。

1-2.ソフトウェア発明に関連する裁判例
 ソフトウェアクレームが特許を受けることができるかどうかを考察するために、First Currency Choice v Main-Line Corporate Holdings Ltd事件([2007] SGCA 50)を説明する。この事件において、クレジットカード取引を処理するために使用される希望通貨を、(データ処理方法を通じて)自動的に特定する通貨換算方法およびシステムに対して特許を付与することが、適切かどうかが争点となった。最高裁判所の高等法廷(High Court)は、この特許は新規性と進歩性を有さないと判示し、この判決は、最高裁判所の上訴法廷(Court of Appeal)によって支持された。

1-3. ソフトウェア発明の発明適格性
 シンガポール特許法第13条(2)の削除とFirst Currency Choice v Main-Line Corporate Holdings Ltd事件の判決に基づき、シンガポールにおいてソフトウェアのクレームは特許を受けることができるとの見解を持つ者がいるが、シンガポール知的財産庁は、この見解を認めていない。ソフトウェア発明には、新規性、進歩性、産業上の利用可能性の要件に加えて、技術的特徴も含まれていなければ、特許は付与されない。

 シンガポール知的財産庁の特許出願審査ガイドライン(以下「ガイドライン」という。)の8.6および8.7は、ソフトウェア発明の一種であるコンピュータ実装発明の発明適格性について、以下のように規定している。

特許出願審査ガイドライン
8.6 コンピュータ実装発明(computer-implemented inventions:CIIs)に関するクレームの実際の貢献を検討する場合、審査官は、クレームで定義された発明にコンピュータ(またはその他の技術的特徴)がどの程度貢献しているかを判断する必要がある。このようなCIIsの場合、コンピュータ(またはその他の技術的特徴)が実際に貢献するためには、クレームで定義されたコンピュータ(またはその他の技術的特徴)が発明に不可欠であることが証明されなければならない。
8.7 例えば、コンピュータが実装されたビジネス方法に関連するクレームは、さまざまな技術的特徴(サーバー、データベース、ユーザー・デバイスなど)がビジネス方法のステップと(i)重要な程度に、かつ(ii)特定の問題に対処するような方法で相互作用する場合、発明とみなされる。「重要な程度」が意味する例として、クレームは、ビジネス方法を実行するための既知のハードウェアコンポーネントを記載している場合があるが、ハードウェアの全体的な組み合わせが、取引を実行するためのより安全な環境を提供する場合、ハードウェアは特定の問題に対処するためにビジネス方法と重要な程度で相互作用しているとされる。この場合、実際の貢献は、ビジネス方法にそのハードウェアを組み合わせて使用することである可能性が高く、これは発明とみなされる。
 ただし、クレームに記載されている技術的特徴が、標準的なオペレーティングシステムの動作に過ぎない場合、特に、純粋なビジネス方法を実行するための汎用コンピュータ、またはコンピュータ・システムの使用である場合、そのような相互作用は重要な程度とはみなされず、特定の問題が解決されないことは明らかである。実際の貢献はビジネス方法である可能性が高く、クレームされた主題は、クレームに「コンピュータの実装」という用語または同様の一般的な用語を単に含めるだけでは「発明」とはみなされない。

2. 治療方法
2-1. 特許法の規定
 現行のシンガポール特許法(以下「特許法」という。)第16条(2)によって、治療方法は、以下のとおり、産業上利用可能であるとは認められないと規定されている。

シンガポール特許法 第16条 産業上の利用
(2)人もしくは動物の体の外科術若しくは治療術による処置方法または人若しくは動物の体について行う診断方法の発明は、産業上利用可能であるとは認められない。
(3) (2)は、物質または組成物から成る製品が当該方法において用いるために発明されたという理由のみの理由で、当該製品を産業上利用可能として取り扱うことを妨げるものではない。
((1)は省略)

 しかし、産業上の利用可能性による特許適格性の除外は、人または動物の体について行う外科術、治療術または診断の方法にのみ適用され、特許法第16条(3)は、このような方法で使用する目的で発明された物質または組成物からなる製品については、特許を受けることができると規定している。

 また、特許法第16条(3)は、さらに特許法第14条(10)によって補足されている。特許法第14条(10)は、第16条(2)により除外された治療方法において使用される既知の物質または組成物の場合、当該物質または組成物が技術水準の一部を構成するという事実は、当該物質または組成物の当該方法における使用が技術水準の一部を構成しないときは、発明を新規なものと認めることを妨げるものではないと規定している。

シンガポール特許法 第14条 新規性
(10) 人もしくは動物の体の外科術若しくは治療術による処置方法または人もしくは動物の体について行われる診断方法において用いる物質または組成物から成る発明の場合に、当該物質または組成物が技術水準の一部を構成するという事実は、当該物質または組成物の当該方法における使用が技術水準の一部を構成しないときは、発明を新規なものと認めることを妨げるものではない。
((10) 以外は省略)

2-2. ガイドラインの解釈による医療用途クレーム
 ガイドラインの8.118および8.138において、特許法第16条(2)および第16条(3)の解釈に基づき、次のように説明している。
 すなわち、ガイドライン8.118では「これまで医療目的で使用されたことのない既知の物質または組成物は、第一医療用途クレームとして請求項に記載することが可能である」とし、また8.138では「物質または組成物の第二以降の医療用途クレームは、スイスタイプクレームの形式でのみ請求項に記載することができる」としている。

2-2-1. 第一医療用途クレームの具体例
 ガイドラインの8.120と8.122において、認められる第一医療用途クレームについて、例が示されている。

(1) 治療において使用される化合物X
(2) 薬品として使用される化合物X
(3) 疾患Yの治療に使用される化合物X

 また、ガイドライン8.124には、認められない第一医療用途クレームの例が示されている。

(4) 治療時に使用される化合物X
(5) 疾患Yの治療のための化合物X

2-2-2. 第二医療用途クレームの具体例
 ガイドライン8.145には、認められる第二医療用途クレームについて例が示されている。

(1) 疾患Yの治療のための医薬品の製造における化合物Xの使用
(2) 疾患Yの治療のための医薬組成物の製造における化合物Xの使用

 ガイドライン8.146では、認められない第二医療用途クレームの例が示されている。

(3) 疾患Yの治療のための化合物Xの使用
(4) 病状Yの治療において使用する化合物X

3. 特許を受けることができないその他の主題
 前述のシンガポール特許法(1995年2月施行)第13条(2)は削除されたが、これに替わってガイドラインは8.9から8.34において、特許を受けることができない主題を列記している。例えば、以下のような記載がある。

(1) 発見
 多くの発明は発見に基づいているが、発明を構成するには「それ以上の何か」がなければならない。物質の特定の特性を発見すると、その物質に関する知識は蓄積されるがそれ自体は発明ではない。ただし、その特性によってその物質が新しい用途に応用される場合は、発明を構成する可能性がある(ガイドライン8.11)。

(2) 科学的理論および数学的方法
 科学的理論や数学的方法それ自体は発明ではないが、その原理を応用することで新しい材料やプロセスが生まれた場合、その結果得られた製品は、発明とみなされる可能性がある(ガイドライン8.17)。

(3) 審美的創作物(言語、戯曲、音楽または芸術作品)
 純粋に美的な創作物(文章、写真、絵画、彫刻、音楽、スピーチ、その他の芸術作品を含む)は発明ではない。これには、創作物のアイデアや精神的な側面だけでなく、作品の物理的な表現も含まれる(ガイドライン8.28)。

(4) 精神活動の遂行、ゲームの実行または事業の実施のための計画、規則または方法
 精神的な活動や計画とみなされる方法は、一般的には発明ではない。これには、教授法(言語や読書の学習法など)、暗算法、記憶法、製品の設計法などが含まれる(ガイドライン8.31)。

(5) 情報の提示
 情報の内容によってのみ特徴付けられる発明は、たとえ物理的な装置がその提示に関係していたとしても、発明ではない(ガイドライン8.33)。

■ソース
・シンガポール特許法1994(2020年改正)
(英語)https://sso.agc.gov.sg/Act/PA1994
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/singapore-tokkyo.pdf
・特許出願審査ガイドライン(2023年10月改訂)
(英語)https://www.ipos.gov.sg/docs/default-source/resources-library/patents/guidelines-and-useful-information/examination-guidelines-for-patent-applications.pdf?sfvrsn=47d67c59_15
・First Currency Choice v Main-Line Corporate Holdings Ltd [2007] SGCA 50
(英語)https://www.elitigation.sg/gd/s/2007_SGCA_50
■本文書の作成者
DREW & NAPIER
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2024.11.07

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